【後編】裁量労働制に残業代はある? 制度のポイントから残業代の請求まで
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仙台市内においても、裁量労働制で働いている方は少なくないでしょう。しかし、裁量労働制について十分に理解していないと、どれだけ長時間勤務しても残業代が出ないと誤解したまま働いてしまうおそれがあります。そこで前編では、裁量労働制の概要を中心に解説しました。
後半は、いよいよ裁量労働制で残業代は発生するのか、そしてどのように請求すればよいのかについて、仙台オフィスの弁護士が解説します。
3、裁量労働制で残業代は発生するのか
裁量労働制は、実労働時間がみなし労働時間より長くても短くても賃金が変わらないという点では、「残業」という概念がないように思えます。
しかし、以下のようなケースでは、裁量労働制が採用されていても残業代が発生します。
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(1)制度の適用が無効であるケース
そもそも裁量労働制が採用できないケースが該当します。
具体的には、以下のような例です。- 労使協定がないか、適切な方法で締結されていない
- 企画業務型なのに労使委員会がない
- 裁量労働制の適用対象外の業種である(例:プログラマー、販売員など)
このような場合などは、裁量労働制そのものを見直す必要があるでしょう。社内で声を上げることが難しければ、どう対処すればよいか、労働基準監督署や弁護士に相談してみるのも一案です。
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(2)法定労働時間を超えたみなし労働時間が設定されているケース
労働時間には、労働基準法で定められている法定労働時間があります。これは1日8時間、週40時間で、簡単にいえば労働時間の限度です。裁量労働制を適用し、みなし労働時間を8時間以下とした場合には、法定労働時間内ですので時間外手当は発生しません。
しかし、労使協定または労使委員会の決議で、裁量労働制のみなし労働時間を8時間超に設定した場合には、休憩時間を除く労働時間が8時間を超える分につき、時間外手当(通常の賃金に25%以上の割増賃金を上乗せ)が発生します。 -
(3)深夜や休日に働くケース
裁量労働制を適用しているかどうかにかかわらず、労働者が深夜勤務(夜10時~翌朝5時)をした場合には、労働時間数に応じて割増賃金を支払わなければなりません。この場合、深夜時間帯の合計労働時間に、対象労働者の1時間あたりの賃金に深夜業の割増賃金率(25%以上)を乗じたものを割増賃金として支払います。
また、日曜日など法定休日に勤務した場合は同様に、労働時間数に応じて35%以上の割増賃金の支払いが必要です。
4、残業代請求のための証拠集め
裁量労働制の残業代請求における重要なポイントは、「証拠集め」です。上司から具体的な業務指示を受けているなど、裁量労働制が無効である証拠や、残業をした証拠を集めておきましょう。
証拠にできるものは、給与明細、就業規則、雇用契約書、タイムカード、携帯電話の通話記録、SNSやLINEなどによる業務連絡履歴、メール、パソコンの操作ログなども含まれます。
5、裁量労働制の残業代請求
先ほど挙げたケースに当てはまるのに残業代が支払われていない場合は、請求して支払いを受けられる可能性があります。残業代の請求方法は、主に以下の4つです。
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(1)会社に直接請求する
まずは、労使協定を確認しましょう。そこに、苦情の申立先が決められているはずです。集めた証拠とともに、企画業務型であれば労使委員会に残業代の支払いについて相談してみましょう。それでも会社が動かない場合は、会社に請求書を送付して、残業代の支払いを求めることも検討すべきでしょう。
残業代の時効は2年間で、2年前のものまでしか請求できません。しかし内容証明郵便で請求書を送ることで、残業代の時効の進行を一時的に止めることができます。そのため、内容証明郵便を送ることは重要です。
弁護士に依頼し、弁護士名で内容証明を送ることで、会社の態度が変わることもあります。 -
(2)労働基準監督署に相談・申し立てをする
労働基準監督署は、雇用側の法令遵守を監督する機関です。仙台労働基準監督署は、厚生労働省宮城労働局内にあります。ここに相談や申し立てを行って、会社に対して指導をしてもらうことも一案です。
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(3)労働審判や裁判をする
会社がそれでも支払いに応じない場合は、地方裁判所に対して労働審判を起こすこともできます。労働審判とは、職業裁判官である労働審判官と民間出身の労働審判員とで構成される労働審判委員会が、労働者と使用者との間の民事紛争の解決を図る手続きを指します。(労働審判法第1条)
民事訴訟に比べて早期解決が期待できる手続きで、半年以内に終了することが多いです。確定すれば判決と同一の効力があり、会社の財産を差し押さえることも可能になります。もし労働審判を行っても解決が難しいときは訴訟となります。
これらの法的手続きは自分でも行えますが、非常に手間や時間がかかるものです。また、代理人としてあなたの代わりに対応できる者は、原則として弁護士に限られます。仕事を続けながら労働審判を行うには、弁護士に依頼するとよいでしょう。
6、まとめ
裁量労働制は会社が一方的に適用できるものではありません。また、要件を満たさない場合などには無効となり、残業代が発生します。従業員自身が制度について理解をしていれば、支払われるべき残業代が支払われていないときに、すぐ気づいて行動を起こせるでしょう。
残業代の請求は自身でも行えますが、会社が素直に取り合ってくれないケースもあるかもしれません。裁量労働制の残業代請求についてお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスで相談してください。労使問題の知識と経験を重ねた弁護士があなたの力になります。
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