婿養子が離婚するときに気をつけるべきこととは? 必要な手続きを解説

2021年01月19日
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婿養子が離婚するときに気をつけるべきこととは? 必要な手続きを解説

厚生労働省が公表している人口動態統計によると、令和元年における離婚件数は20万8496組で、前年より163組増加しています。一方、仙台市だけでみると、離婚件数は平成27年から緩やかな減少傾向にあるとされていますが、平成30年には1697組の夫婦が別々の人生を歩くことを選択しています。

離婚の際は、ケースに応じた特別な手続きが必要になることもあります。
たとえば代々続いてきた妻側の家を存続させるためなどに「婿養子」になっていた夫が離婚をするときは、離婚しただけでは妻の実家との縁を切ることはできません。

本コラムでは、婿養子が離婚するときに必要な手続きや注意点などをベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、婿養子とは

「婿養子」というと、一般的には結婚のときに妻の姓を選択した夫のことをいうイメージがあるかもしれません。しかしそれは誤解です。
まず「婿養子」について正確に理解しておきましょう。

  1. (1)養子縁組が必要

    婿養子制度は、明治民法のもとで家を継続させるために、親が自分の娘と結婚する男性(婿)を養子として迎える制度として機能していました。婿養子制度は法改正とともに廃止されていますが、女性と婚姻した男性が女性側の親の養子となることで実質的に同様の効果を生じさせることができます。

    つまり婿養子とは、妻となる女性と婚姻をして、妻の親と養子縁組を行った男性のことをいいます
    結婚時に夫が妻側の名字を選択して妻の親と同居している場合などには、婿養子というイメージで捉えられがちですが、夫が妻の親と養子縁組を行っていない限りは、婿養子とはいえません。

  2. (2)婿養子は養親の財産を相続できる

    婿養子と妻の親は、養子と養親の関係になります。
    そのため妻の親が亡くなった場合には、婿養子は妻と同様の立場で養親の財産を相続できます。
    なお婿養子になった場合でも、実の親との親子関係がなくなるわけではありません。そのため婿養子である夫は、自分の親と妻の親の双方について相続できる権利を有します。

2、婿養子が離婚するときに必要な手続き

婿養子が離婚するときは、通常の離婚手続きに加えて養親と離縁する手続きも行う必要があります。離縁の手続きをしなければ、たとえ離婚が成立したとしても女性の親との養子縁組は解消されません。

  1. (1)養子縁組を解消する離縁の手続き

    妻の親との養子縁組を解消するための離縁の手続きを行います。
    具体的には、市区町村の戸籍住民課などに「養子離縁届」を本人確認書類などの必要書類とともに提出することで、離縁が成立します。

    養子縁組の解消について当事者間での話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に離縁調停を申し立てることもできます

  2. (2)婚姻関係を解消する離婚の手続き

    夫婦双方が離婚に同意できている場合は、市区町村の戸籍住民課などに「離婚届」を提出するだけで、離婚は成立します。
    離婚について当事者間での話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、解決を図ることになります。離婚の具体的な流れについては「5章」で解説します。

3、婿養子が離婚の際に注意するべきこと

婿養子が離婚する際には、次のような点に気をつけると良いでしょう。

  1. (1)離婚よりも離縁の手続きを先にする

    婿養子の離婚では「離縁」と「離婚」の2つの手続きが必要になりますが、先に「離縁」の手続きを行う方が良いケースがあります。

    離縁は、離婚同様に当事者間で納得できていれば問題はありません。
    しかし、話し合いでは解決できず、裁判所の判断に委ねることになった場合は、法律で定める次の離縁事由に該当しなければ、離縁できません

    【民法 第814条】
    1. ①他の一方から悪意で遺棄されたとき
    2. ②他の一方の生死が3年以上明らかでないとき
    3. ③その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき


    離婚に伴う離縁であれば、③の理由が認められる可能性が高いでしょう。

    しかし、離婚が成立した後に、養子の状態を継続した場合は、上記の事由が認められないことがあるのです。実際に、離婚後に養子縁組を継続して一定期間良好な関係があったような特殊な事情があったケースで、離縁を認めなかった裁判例があります(神戸地裁 昭和25年11月6日)。

    裁判離縁になった場合は、望む結果が得られない可能性もあるため、離婚と同時に離縁も成立させておくことも検討しましょう。

  2. (2)離縁により養親の財産は相続できなくなる

    婿養子は養子縁組により妻の親(養親)の財産を相続する権利を有しますが、離縁することにより相続権を失うことになります。

  3. (3)離縁しても養親から財産分与は受けられない

    離婚の際には、婚姻期間中に夫婦で築きあげた財産を貢献度に応じてそれぞれに分配する財産分与が行われます。

    しかし、養子縁組を解消する離縁をしても、財産分与は行われません。
    たとえ、多くの財産を所有する養親と長期間にわたり養子縁組をしていたとしても、離縁の際に財産分与を受けることはできません。

4、離婚後の名字や戸籍はどうなる?

婿養子の離婚では、離婚後の名字や戸籍がどうなるのかも、気になるところでしょう。

  1. (1)婿養子の離婚後の名字は?

    妻側の名字を名乗っていた場合、離婚後は基本的に旧姓に戻ることになります。

    しかし、日常的に使用していた名字を、離婚後も使用したいというケースも少なくありません。そういった場合には、離婚日から3か月以内に、各市区町村に「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出すれば、そのまま妻側の名字を使用することが認められます。

  2. (2)婿養子の離婚後の戸籍は?

    婿養子が離婚すると、戸籍は婚姻(養子縁組)前の旧姓を称していた戸籍に戻ります。
    なお、離婚後に新しい戸籍を編製することも可能です。

  3. (3)子どもの名字や戸籍は?

    婿養子は離婚によって基本的に旧姓を称していた戸籍に戻ることになりますが、子どもの名字や戸籍は夫婦のどちらが親権を持つことになっても離婚前と変わりません

    そのため夫側が親権者となった場合は、通常旧姓に戻る父親と妻側の姓を称する子どもと名字が異なることになります。子どもをご自身と同じ名字にするためには、「子の氏の変更許可」を裁判所に申し立てて変更する必要があります。

5、離婚成立までの流れ

離婚を成立させるためには、主に次のような流れで進めていく必要があります。

  1. (1)当事者の話し合い(協議離婚)

    まずは妻の親と養子縁組の解消について話し合い、平行して妻とは離婚について話し合う必要があります。
    離婚にあたっては、財産分与や慰謝料などのお金に関することや養育費や親権などの子どもに関することなど、さまざまな事柄を決めなければなりません。
    当事者間の話し合いで合意ができれば、離婚届けを提出することで手続きは終了します。

    なお、協議離婚の場合は、強制執行に備えて、離婚に際し決めた事柄を記載した「強制執行認諾文言のある公正証書」を作成しておくと良い場合もあります。

  2. (2)家庭裁判所の調停(調停離婚)

    当事者間での話し合いがまとまらないときや、相手が話し合いに応じない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
    調停は、調停委員を交えた話し合いによって解決を目指す手続きです。調停で話し合いがまとまれば、調停調書が作成され離婚が成立します。

  3. (3)裁判(離婚裁判)

    調停が不成立となった場合には、裁判所に訴訟を提起することになります。
    裁判所では、裁判官が法律で定められた離婚理由にあたるかを判断し、判決で離婚の可否やその他の条件を言い渡します。

6、まとめ

本コラムでは、婿養子が離婚するときに必要な手続きや注意点などを解説しました。

婿養子が離婚する場合は、養子縁組を解消する手続きも必要です。夫婦間だけではなく、養親も納得できるように、話し合いを進めなければいけません。関係者が増えると、話し合いがこじれることもあるでしょう。また、婿養子という立場上、ご自身の主張をうまく伝えられないということもあるかもしれません。

そのため、婿養子が離婚をする場合は、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、ご相談者の方の代理人となり、相手側と離婚や離縁について、交渉を行うことができます。
弁護士に依頼することで、ご自身の主張を伝えやすくなるだけではなく、双方が感情的にならずに話し合いが進むことも期待できるでしょう。

ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士は、ご相談者のお話をじっくりと伺った上で、解決に向けて全力を尽くします。
ぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています