調停調書の法的な効力とは? 公正証書との違いや作成するメリット
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宮城県がホームページ上で公開している令和元年(2019年)人口動態統計によると、同年中の宮城県内での離婚件数は3780組でした。人口1000人当たりの離婚率は1.66で、全国20位の水準です。
離婚調停が成立すると、「調停調書」という法的拘束力のある文書が裁判所によって作成されます。一方、話し合いによる離婚、すなわち協議離婚のケースでは、離婚に関する条件を「公正証書」の形でまとめておくことが一般的となっています。調停調書と公正証書は似て非なるものですが、具体的にはどのような点が異なるのでしょうか。
この記事では、主に離婚のケースを念頭に置いて、公正証書との違いと調停調書の効力について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、調停調書とは?
まずは、調停調書がどのような書面であるのかについて、基本的な事項を押さえておきましょう。
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(1)調停成立時に裁判所書記官が作成する調書
調停調書は、裁判所において「調停」が成立した場合に、裁判所書記官が作成する法的な書面です。
調停とは、「裁判官らを仲介人として行われる話し合い」ともいうべき手続きです。
離婚のケースでは、夫婦同士での話し合いがこじれてしまった場合に、第三者の仲介を得て冷静な話し合いを行うことを目的として申し立てられることが多いでしょう。
離婚に関する調停は、「離婚調停」または「夫婦関係調整調停(離婚)」と呼ばれます。
離婚調停における話し合いの末、裁判官が作成した調停案に夫婦双方が同意すると、その旨が裁判所書記官の作成する調書(家事事件手続法 第253条)に記載されます。
これが「調停調書」です。 -
(2)離婚調停の流れとは?
調停調書が作成されるに至るまでの、離婚調停の流れは次のとおりです。
① 離婚調停の申し立て
離婚調停は、夫婦のいずれか一方が申立人となり、家庭裁判所に対して申し立てることにより開始されます。
② 調停期日における話し合い
家庭裁判所が離婚調停の申し立てを受理すると、第1回の調停期日を指定し、夫婦双方に対して通知します。
調停期日が来ると、夫婦双方が家庭裁判所へ出頭して手続きを行います。
調停期日においては、「調停委員」と呼ばれる者が個別に話を聞き、離婚の条件などについてのすり合わせを行います。
調停期日の中で話し合いがまとまらない場合は、原則として次回の調停期日が指定されます。
なお、調停期日の回数に制限は設けられていません。
③ 調停案に対する夫婦双方の同意
夫婦間で離婚条件についての和解がまとまりそうであると裁判官が判断した場合、裁判官は調停案を作成して、夫婦双方に提示します。
調停案に夫婦双方が同意すると、離婚調停は成立となります。
④ 調停調書の作成
調停案に夫婦双方が同意した場合、合意内容が裁判所書記官の作成する調書に記載されます。調停調書は、当事者間に対して法的拘束力を持つ書面となります。
2、調停調書と似ているようで違う「公正証書」
「公正証書」も、調停調書と並んで、離婚の際の合意内容を記載する書面のひとつです(離婚協議公正証書)。
しかし、公正証書は調停調書とは似て非なる書面といえます。
公正証書は、調停調書とは異なり、夫婦が当事者だけの話し合いをしたうえで離婚届を提出する「協議離婚」のケースで作成されます。
公正証書を作成するのは、公証役場に勤務する公証人です。
夫婦は公証人に対して、夫婦間での合意内容を申述し、それに基づいて公証人が公正証書を作成します。
公正証書は調停調書と同様に、当事者間において法的拘束力を有する書面です。しかし、調停調書には公正証書と比べて、いくつかの点で強力な法的効力を与えられています。
次の章で詳しく見ていきましょう。
3、調停調書の効力とは? 公正証書との違いも解説
調停調書の効力を理解するには、公正証書と比較するのがわかりやすいので、調停調書と公正証書の効力の違いにも触れながら解説します。
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(1)確定判決と同一の効力を有する
家事事件手続法第268条第1項において、調停調書は、「確定判決と同一の効力を有する」と定められています。
「確定判決と同一の効力」が意味するところとして、もっとも主要なものは「執行力」です。調停調書には、債務名義(民事執行法 第22条)として用いることによって、強制執行の手続きを取ることができるという効力が与えられています。
つまり、別途訴訟などを提起することなく、直接強制執行手続きへ移行することができるのです。 -
(2)強制執行認諾文言は不要
なお、公正証書についても、「債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの」については、調停調書と同様に、債務名義として用いることで強制執行の手続きを取ることができます(民事執行法 第22条第5号)。
このような公正証書を「執行証書」と呼び、また上記内容の陳述の記載は「強制執行認諾文言」と呼ばれます。
このように、公正証書が執行力を有するためには、強制執行認諾文言の記載が必要であることに対し、調停調書の場合は「強制執行認諾文言は不要」です。
調停調書は、もともと強制執行の債務名義として用いられることが当然に予定されているので、わざわざ強制執行認諾文言を記載しなくても、当然に執行力が認められるものとされています。 -
(3)すべての債務について強制執行が可能
調停調書には、金銭的な履行義務に限らず、さまざまな行為に関する義務を記載することが可能であり、そのすべてについて強制執行の手続きを取ることが可能です。
離婚のケースであれば、財産分与・養育費・婚姻費用・慰謝料の支払いなどのほか、子どもの面会交流に関する義務などについても、間接強制の方法により強制執行が可能となります。
これに対して公正証書の場合は、強制執行が可能なのは金銭的な履行義務のみです。
したがって、金銭的な履行義務以外にも離婚条件を取り決めておく必要がある場合は、調停調書の方がより実効性の高い書面であるといえるでしょう。 -
(4)時効期間は10年
調停調書は公正証書に比べて、時効期間(または除斥期間)の面でも債権者に有利に働きます。
調停調書に記載された債務については、原則として時効期間が10年とされています(民法第169条 第1項)。ただし、調停調書が作成された時点で弁済期(債務を履行するべき時期)が到来していない債権については、適用されません。
これに対して、公正証書で離婚の条件を取り決めた場合には、請求権の種類によって時効期間(または除斥期間)が異なるので注意が必要です。
調停調書は、債権の時効期間が長く続くため、債権者にとって有利であるといえます。
4、調停調書が自宅に届くまでの流れ
調停成立後、調停調書が自宅に届くまでの流れと注意点を見ていきましょう。
調停調書が届くまでの流れは、次のとおりです。
● 内容の確認
調停が成立すると、裁判所の書記官が調停調書を作成し、当事者と裁判官と書記官の4者が立ち会いのもと、内容の確認が行われます。調停調書を読み合わせる際は、取り決めた内容がすべて反映されていること、全員の理解に間違いがないかを念入りに確認しておきましょう。一度作成して内容に合意すると、簡単に修正することはできないため、この時点でしっかりと確認することが大切です。
なお、調停調書と似た言葉に「和解調書」というものがあります。同じ書類と混同しているケースも見受けられますが、調停成立時に作成されるものが調停調書で、審判などにおける和解成立時に作成されるものが和解調書であり、両者は異なる書類です。ただし、原則として中身やその効力に違いはありません。
● 正本を取り寄せる
調停調書の作成までは自動的に行われますが、正本は裁判所に申請をしなければ基本的には手元に届きません。調停調書は離婚届の提出や、相手が約束を履行しなかった場合の強制執行の申し立ての際にも必要です。
調停が成立し調停調書が完成したら、家庭裁判所から調停調書の正本を取り寄せておきましょう。
なお、離婚届の提出にあたっては、謄本(写し)でも問題ありません。ただし、強制執行の手続きは謄本では行えないため、手元に保管する分は正本を取り寄せるようにしてください。
調停調書を請求するために必要な書類は、次のとおりです。
- 申請書
- 手数料を支払うための収入印紙
- 郵送のための切手と返信用封筒
申請書に記載するのは、事件番号と事件名、申立人の情報などです。
収入印紙は調停調書のページ1枚につき、150円が必要で、正本を請求する場合は、認証用紙分を1枚加算した枚数分必要になるでしょう。たとえば、調停調書が全部で5枚だった場合は、(5枚+1枚(認証用紙))×150円分の収入印紙が必要になるでしょう。
返信用の封筒にはご自身の住所と氏名と記載しておくようにしましょう。
裁判所に確認してみることが確実です。
● 調停調書が届かない場合
請求した調停調書は、申請書が裁判所に届いてから早ければ2日から3日、遅くとも1週間程度で自宅に送付されるのが一般的です。もし1週間を超えても自宅に届かなければ、念のため裁判所に連絡をして、申請書が届いているか、また不備がないかを確認しましょう。
5、相手が決定事項を守らなかった場合
調停調書が作成され、手元に正本が届けば、ひと息つくことができるでしょう。しかし、分割払いになった慰謝料や、毎月払いの養育費について支払いの約束が履行されないケースは少なくありません。
そのような場合の対処法について事前に理解を深めておくことで、実際にトラブルが発生したときもスムーズに対応することができます。
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(1)督促・履行勧告・強制執行
● 相手方への連絡と督促
慰謝料や養育費が支払われない場合は、禁止されていない限り、電話やメール、メッセージアプリ等から連絡を取り、支払われていない旨を伝えて支払いの目安を確認することも考えられます。何らかの事情があり遅れている場合や、単に忘れている場合であればこれだけで支払いがなされることもあります。連絡が取れない場合、支払うつもりはないと明言している場合などには次のステップに進むと良いでしょう。
● 裁判所に履行勧告を依頼する
調停調書の記載内容を守ってもらえない場合は、家庭裁判所に申し出ることで履行を確保してもらう手続きを行ってもらいます。家庭裁判所は、取り決めを守らない相手方に対して、約束を守るようにと勧告を行います。
また、養育費等の金銭の支払いに関する約束が守られなかった場合には、「履行命令」を申し立てることが可能です。履行命令については、正当な理由なくこれに応じなければ、過料が科せられることがあります。
これらの手続きに支払いを強制する効力はありませんが、心理的プレッシャーにはなり得るので、結果として支払いに応じることが期待できるでしょう。
● 強制執行の申し立て
金銭の支払いの取り決めが守られなかった場合は、「強制執行」を検討することができます。強制執行を申し立てると、相手の財産や給与を差し押さえることが可能です。ただし口座情報といった財産の存在や、勤務先がわかっていなければ強制執行が功を奏しないので注意が必要です。 -
(2)調停調書の内容を変更したい場合
相手が決定事項を守らないようなケースでは、何らかの事情があることも少なくありません。その場合、決定事項の変更を要望される可能性もあります。
調停調書に記載された慰謝料の金額や面会交流の頻度などの内容は、原則として変更することはできません。ただし、リストラや病気などで養育費の見直しが必要になるようなことは誰にでもあり得るでしょう。また、子どもの要望に応じて面会交流の頻度を増減させるケースもあるかもしれません。
この点、双方が納得すれば話し合いのでも変更可能ですが、調停を申し立てることが良いでしょう。
6、調停調書に関して確認すべきポイントとは?
離婚調停の調停調書に記載された離婚の条件は、夫婦間で改めて合意しない限り、後から覆すことはできません。
そのため、調停案を確認する際には十分に留意する必要があります。
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(1)離婚に関して合意すべき事項が漏れていないか
離婚に関して合意すべき事項の一部が、調停調書に記載されずに漏れてしまうと、後から夫婦間で争いが再燃してしまうおそれがあるだけではなく、予想外の損失を被ってしまうおそれがあります。
そのため、離婚時に合意する条件一つ一つが正しく記載されているかを確認したうえで、調停案に同意することが大切です。 -
(2)弁護士に調停への同席を依頼するのがおすすめ
離婚の条件に漏れがないか、正しく記載されているかなどについては、法的な文書の扱いなれている弁護士に確認を依頼するのが良いでしょう。
また、調停手続きに弁護士が同席することによって、調停委員に対して、自らの主張を整理された形で効果的に伝えることができます。
離婚調停に臨む際には、ぜひ事前にベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。
7、まとめ
調停調書は、離婚などにおいて調停が成立した際に、裁判所書記官が作成する法的書面であり、さまざまな面で公正証書よりも強力な法的効力が与えられています。
ただし、調停調書の内容を後から覆すことは基本的にはできません。後々のトラブルや不利益を被らないためにも、離婚調停の手続きに臨む際には、弁護士に依頼をすることをおすすめします。
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