養育費に学費は含まれるのか。私立校や大学進学費用も支払う義務はある?

2023年07月04日
  • 養育費
  • 養育費
  • 学費
養育費に学費は含まれるのか。私立校や大学進学費用も支払う義務はある?

宮城県教育委員会が公表している『令和2会計年度 地方教育費調査報告書』によると、中学校に通う生徒1人あたりの教育費は125万8742円でした。決して少なくない金額といえます。

子どもを養育するにあたっては、一定の学費が必要です。では、離婚する場合、子どもの学費はどのような取り扱いになるのでしょうか。また、私立に進学したケースや、塾、習い事、大学・大学院への進学費用などは、どのように考えれば良いのでしょうか。

養育費を支払う側としては、養育費とは別に学費も請求されているが支払う必要があるのか、教育方針が異なる場合はどこまで負担する必要があるのか、など疑問に思われることがあるかもしれません。そこで今回は、養育費と学費の考え方や、私立高や塾、大学の学費負担などについて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、養育費と学費の考え方

養育費とは、子どもが自分自身で働いて収入を得ながら生活できるようになるまでの期間に必要な費用のことです。

離婚が成立すると、父母のどちらか一方が親権者となりますが、親権者にならなかった側は、子どもとの親子関係が切れるわけではありません。離婚後は養育費という形で、子どもの成長を支える義務を負います。

養育費の金額は、基本的には夫婦間の話し合いによって決めます。そのため、双方が合意した金額であれば、いくらに設定したとしても問題にはなりません。
しかし、一定の目安がなければ、金額を決めるのは難しいでしょう。この点、家庭裁判所が公開している『養育費算定表』が参考になります。養育費算定表では、夫婦の収入、子どもの人数などから目安となる金額を算出することができます。

養育費算定表で算出された養育費には、基本的な衣食住、医療費などのほか、公立学校に進学した際の授業料や諸経費といった最低限の学費が含まれています。

たとえば、以下の条件で、算定表に当てはめてみます。

  • 15歳以上の子どもが1人
  • 支払う側(支払い義務者)の年収:1000万円(給与所得)
  • 受け取る側(権利者)の年収:250万円(給与所得)


このケースでは、養育費の基準額は月額12〜14万円です。
算定した金額には、公立高校に進学した場合の学費と、その他の諸経費が含まれることになります。

ベリーベスト法律事務所では、養育費を簡単に計算することができるツールをご用意しています。氏名等の登録は必要なく、ご利用は無料です。ぜひご活用ください。

2、私立学校に進学した場合の学費負担はどうなるのか

家庭の教育方針によっては、子どもを小学校や中学校から、私立学校に通わせる場合も考えられます。また、高校からは私立学校に進学させるなど、さまざまなパターンが想定されるでしょう。

前述したように、基本的な養育費は公立校に通わせる前提で算出されています。そのため、私立に通わせるといった最低限以上の学費は、「特別出費」として扱われるのが一般的です。
では、どのようなケースであれば、特別出費と認められる可能性があるのかを確認していきましょう。

  1. (1)双方が合意している場合

    養育費を決める前提として、支払い義務者と支払いを受ける権利者の双方が、話し合いによって定めた基準に納得できていれば、自由に金額を決めることができます。
    つまり、お互いに私立進学を望んでいるなど、養育方針に合意している場合は、私立への進学にかかる費用などを含めた金額で、養育費を取り決めることが可能です。

    なお、離婚時点で、子どもを私立学校に通わせていた場合は、支払い義務者がその進学をすでに承諾していると捉えられるため、必要な学費として認められる可能性が高いでしょう。

  2. (2)家庭環境からみて妥当と考えられる場合

    両親が私立に通っていたなどの背景があり、それ相応の地位や収入を得ていた場合は、子どもも同等レベルの教育を受けることが保障されるべきとして、不合理ではない範囲での学費が認められる可能性があります。

    特に、支払い義務者側が、高いレベルの教育を受けていた場合は、同レベルの教育を受けることが認められる可能性が高いでしょう。

3、塾や習い事、大学などの学費の考え方

私立進学以外にも、塾や習い事など、学校外での教育に関する費用、大学や大学院に進学した場合の諸費用なども、養育費算定表の金額には含まれていません。
そのため、離婚時にこれらの費用をどうするのかも決めたうえで、公正証書に記載しておくと良いでしょう。

  1. (1)大学の学費請求が認められ得るケース

    特に、費用負担が大きい大学進学については、その支払いについて、もめることも少なくありません。
    前述した私立校への進学同様に、下記のようなケースでは費用請求が認められる可能性が高くなります。

    • 双方が大学進学等に同意していた場合
    • 家庭環境からみて大学進学が妥当と考えられる場合
    • 離婚時点で進学が決まっていた場合


    また、養育費を支払う側に経済的な余裕があり、進学費用を支払う能力がある場合は、費用分担が認められる可能性があるでしょう。

    なお、大学や大学院の学費に関しては、一方が全額を支払うのではなく、分担割合を決めるのが一般的です。養育費算定表で算出された費用には、公立高校の学費相当分が含まれているので、実際に発生する大学の学費から、その金額を差し引いた額について支払い案分を決めることになります。

    負担割合については、半分ずつ負担するケースもあれば、資力のあるほうが多く支払うなど、家庭状況やそれぞれの事情も加味して判断されます。また、大学の学費については、親だけではなく、子ども自身も奨学金やアルバイトなどを通じて、学費の一部負担を求められることもあるでしょう。

  2. (2)入学金などの一時的な費用

    養育費には、最低限かかる学費が含まれていると考えられるのは、前述のとおりです。そのため、学校生活に付随する入学金といった一時費用も、基本的には養育費の中に含まれているとされます。
    ただ、入学時には支出が増えるのが一般的です。入学金のように、発生する可能性が高い支出分については、事前にその支払いについて取り決めをしておくことをおすすめします。

    なお、子どもが小さい、進学は数年先など、未来の入学金や学費として妥当な金額を算出するのは難しい場合は、実際に必要な状況になった際に取り決めをする旨を定めた「協議条項」を、公正証書を作成する際に入れておくと良いでしょう。

    協議条項とは、想定外のことが起きた際に当事者で協議することを定めた条項のことです。たとえば、『入学金の負担については、当事者間で別途協議する』といった内容で公正証書に含めておきます。

4、話し合い(協議)がまとまらない場合の対処法

養育費の目安は、養育費算定表を元にすることで算出することができます。しかし、増額、減額する費用については、まずは話し合いによる取り決めが必要です。

支払う側にとっても、請求する側にとっても、養育費は離婚後の生活に直結する事柄です。一方で、お互いの立場は異なるため、話し合いが平行線をたどることも少なくありません。特に、子どもの教育に対して価値観の相違があった場合は、教育にかかる費用がネックになることもあるでしょう。

当事者同士の話し合いでは結論がでない場合は、弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士であれば、離婚の背景、それぞれの資力、希望する方針を加味したうえで、裁判例などを元にした、納得性の高い落としどころを提案することが可能です。また、弁護士は代理人として相手と交渉することができるので、直接話す必要がなくなるというメリットもあります。
初回は、無料で相談できる事務所も増えているので、まずはそういったサービスを利用してみるのも一案です。

なお、話し合い(協議)では、結論がでなかった場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。ただし、調停もあくまでも話し合いによって合意を目指す手続きです。調停でもまとまらず、調停不成立となった場合は、一切の事情を考慮したうえで、裁判官が審判をすることになります。

5、まとめ

子どもが自分の力のみで生活できるようになるには、学校の教育を受けさせることは欠かせませんが、どのような教育を受けさせたいか、そして子どもが何を学びたいと考えるかで、かかる学費は大きく変わっていきます。

養育費算定表が示す養育費には、私立に進学した場合や、大学、大学院の費用は加味されていません。養育費算定表の金額は、あくまでも目安となるため、最終的な金額は当事者同士の話し合いによって決めることができますが、教育方針が異なる場合などは、話し合いがまとまらないケースもあるでしょう。

離婚に際し、養育費を請求されているが金額に納得できない、養育費はどのくらい支払うことになるのか知りたい、相手との交渉を任せたいなど、離婚、養育費の問題にお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでお気軽にご相談ください。

仙台オフィスの経験豊富な弁護士が、しっかりとお話に耳を傾けたうえで、最善の結果が得られるようサポートします。ぜひ、ご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています