二世帯住宅の相続はトラブルになりやすい? 注意点や対処法を解説
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仙台市が公表している仙台市住宅白書(平成29年版)によると、単身世帯が増加する一方で、三世代世帯の割合は減少傾向にあります。過去には、三世代、四世代で同居している世帯もめずらしくありませんでしたが、家族のあり方も大きく変わってきていると言えるでしょう。
複数の世帯が共に生活をする場合、同居だけではなく、二世帯住宅という選択肢も考えられます。二世帯住宅はプライベートを守りつつ、お互いをサポートできるという面においては、親にとっても子どもにとっても、メリットが大きいのではないでしょうか。しかし、相続の場面においては、二世帯住宅がトラブルの原因になってしまう可能性もあるため、注意が必要です。
本コラムでは、相続の場面でトラブルになりやすい「二世帯住宅の相続」について、注意点や対処法をベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、二世帯住宅の相続における注意点とメリット
二世帯住宅は、同居する親族の関係性が良好であれば、親世代にとっても子ども世代にとってもメリットの多い暮らし方と言えます。しかし二世帯住宅の所有者が亡くなり相続が開始すれば、相続人間でトラブルが生じることも少なくありません。
まずは二世代住宅の相続について、確認していきましょう。
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(1)二世帯住宅の相続
二世帯住宅の相続では、「土地や建物について誰が登記名義人になっているのか」が重要なポイントになります。
二世帯住宅の土地や建物の登記に親の名義が含まれている場合、親が亡くなれば、親名義の土地や建物は相続財産として基本的に相続人で分け合うことになります。 -
(2)二世帯住宅は相続税を軽減できる可能性がある
相続税が課税されるのは、基本的に基礎控除額「3000万円+(600万円×法定相続人の人数)」を超えたときです。
しかし、基礎控除額を超えていても、同居する相続人が二世帯住宅を相続するときは、「小規模宅地等の特例」によって相続税の負担を軽減できる可能性があります。
「小規模宅地等の特例」は、一定の条件を満たしている場合、亡くなった方が住んでいた宅地などについて固定資産税の評価額を最大80%減額することができる特例です。
ただし、区分建物として区分所有登記をしているときは、特例が適用されないので注意が必要です。
特例が適用されるための詳しい要件については、税理士などの専門家に確認すると良いでしょう。
2、二世帯住宅の相続で生じやすいトラブルとは
二世帯住宅の相続では、不動産の取得をめぐって相続人同士でトラブルが生じやすい傾向にありますが、その背景には、相続人同士の「認識の違い」があると考えられます。
たとえば、長男夫婦と同居する父が亡くなったケースで考えてみましょう。
母はすでに亡くなっており、相続人は、長男のほかに遠方に住む長女がいたとします。
このようなケースでは、亡き父の相続財産として二世帯住宅のほかに十分な資産があれば、長男が住宅や土地を取得し、長女が預貯金などを取得することで、スムーズに遺産分割を進められるでしょう。
しかし、二世帯住宅が主な相続財産であったような場合では、長男と長女でトラブルになる可能性が高くなります。
これは、長男は「ずっと父の面倒をみてきたのだから自分がもらうのが当然だ」と認識しているのに対し、長女は「これまで父が建てた家に住まわせてもらって恩恵を受けているのに、兄が取得するのは不平等だ」などと認識しているケースも少なくないためです。
相続するまでは「家族だからもめることはないだろう」と思っていても、実際に相続が開始すると深刻なトラブルに発展してしまうこともあります。したがってトラブルを予防するための対策や、トラブルが発生してしまった場合に円滑に解決するための対処法を知っておくことが重要です。
3、二世代住宅の相続トラブルの予防策と対処法
二世帯住宅におけるトラブルを防止するためには、被相続人になる方が生前に遺言書を作成しておくことが最大の予防策とも言えます。しかし、遺言書を作成しないまま相続が開始してしまった場合は、相続人で遺産分割を成立させる必要が生じます。
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(1)遺言書を作成する
二世帯住宅の相続トラブルを予防するためには、被相続人が生前に「二世帯住宅に同居する相続人に土地などを相続させる」旨の遺言書を作成しておくこともあります。
ただし、遺言書の内容は、「遺留分」について考慮したものにした方が良いこともあります。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保証されている、相続の取り分です。つまり、相続人が複数人いる場合は、一人の相続人だけにすべての財産を勝手に相続させることは難しいのです。
たとえば「長男に二世帯住宅を取得させ、次男には遺留分に相当する金額以上の預貯金を取得させる」といった内容にしておくと、スムーズな相続が実現できるかもしれません。
しかし、遺留分を考慮せずに「二世帯住宅に同居する長男に土地や預金などをすべて相続させる」旨の遺言書を作成した場合、遺留分を侵害された次男は、長男に対して「遺留分侵害額請求」を行うことが認められています。「遺留分侵害額請求」が認められると、長男は次男に対して侵害額相当の金銭を支払わなければならなくなります。
長男の支払えるだけの財力がなければ、結果として二世帯住宅を売却して現金化するなどといったことにもなりかねません。
このような争いにならないようにするためには、遺留分を考慮した遺言書の内容にしておく、相続人間で話し合いの機会を持つ、遺留分や相続を放棄してもらう、といったこともありえます。 -
(2)不平等感を解消して遺産分割する
遺言書がなく相続開始後に二世帯住宅をめぐるトラブルが生じたときは、二世帯住宅を取得する相続人が他の相続人に対して、遺産分割で不平等感を解消する内容の提案をするなどの対処法が考えられます。
たとえば「二世帯住宅は相続する代わりに、土地代に相当する額を支払う」、「二世帯住宅以外の相続財産はすべて譲る」といった提案です。
相続人全員で行う遺産分割協議で話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てることができます。調停では調停委員を交えて相続人間の話し合いが進められますが、あくまで話し合いによる解決を目指す場のため、調停がうまく成立しないときは審判で遺産分割の内容が決定されます。 -
(3)弁護士に相談する
弁護士は、遺言書の作成や遺留分などについてアドバイスができます。そのため法的にも有効で、かつトラブルにならないような遺言書を作成することが可能になります。
またトラブルが生じてしまったときは、弁護士は状況を整理し、ご相談者の方にとって最善の策を提案できるほか、代理人として他の相続人と交渉することが期待できます。家庭裁判所の調停や審判においても、弁護士のサポートを受けることで、自身の主張をしっかりと行うことができるので、トラブル解決まで非常に心強い存在になるでしょう。
4、不動産の共有は注意が必要
遺言書がない場合は、法定相続分で共有すればトラブルが生じないと思われるかもしれません。しかし相続人間で二世帯住宅を共有することは、できるだけ避けるべきと言えます。
不動産を共有すると、他の共有者の同意が必要となるケースが出てくるため、共有者の同意なしでは重大な意思決定をすることができなくなります。
たとえば住宅を売却して現金化しようと思っても、共有者全員が同意してくれなければ、売却することはできません。また、大規模な修繕や改築が必要になっても、共有者全員の同意を得なければ、後々トラブルになりかねません。
このように、共有している状態では、不動産を自由に活用することは難しくなると言えます。
また、共有不動産は、共有者に相続があれば、共有者が増えて複雑な権利関係になる可能性があるというリスクもあります。
たとえば、長男と次男で不動産を共有している時点では、トラブルは生じないかもしれません。しかし、長男が亡くなり、長男の子どもたちが共有不動産を相続すると、おいやめいと叔父で不動産を共有しなければならないのです。異なる世代や関係性が薄い親族間で共有することになれば、トラブルが深刻化するおそれもあるでしょう。
現状では「相続人同士の仲が良いから、二世帯住宅を共有登記のままにしておいても問題ない」と思っていても、後から意見が食い違ったりトラブルが生じたりすることもめずらしいことではありません。
したがって、二世帯住宅といった分割することが難しい不動産を相続した場合は、共有にしないことをおすすめします。
5、まとめ
本コラムでは「二世帯住宅の相続」について、注意点や対処法も含めて解説しました。
二世帯住宅の相続はトラブルになりやすいため、親世代は、同居する子どもが自身の死後も住宅を取得できるように、あらかじめ遺言書を作成しておくなどの対策が必要です。
しかし、相続は突然問題化することも少なくありません。
遺言書がなく、相続人間でトラブルが生じてしまったときは、弁護士に依頼すると良いでしょう。弁護士は、代理人として交渉を進めることができるため、当事者間だけで話し合うよりも感情的になりにくく、冷静に話し合いが進むことが期待できます。また、家庭裁判所の調停や審判を利用することもできますが、その際も弁護士のサポートがあると、ご自身の主張をしっかりと伝えやすくなるでしょう。
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