残業時間の上限は? 36協定があると無制限? 法律での規制について解説
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宮城労働局が公表している労働時間の統計資料によると、宮城県内の事業規模が5人以上の事業所における令和元年度の総労働時間は1736時間であり、全国平均の総労働時間である1669時間を上回る数字となっています。
長時間労働が常態化している場合や、企業風土として残業をすることが当たり前という環境にいると、残業することに疑問をもたなくなってしまうかもしれません。しかし、長時間労働は、過労死につながるリスクもあります。労働者としては、会社にすべてを任せるのではなく、残業時間の考え方や上限規制を理解しておくことが重要です。
本コラムでは、働き方改革関連法施行によって導入された残業時間の上限規制について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、時間外労働は36協定の締結が必要
そもそも労働時間について、法律上はどのような定めがあるのでしょうか。まずは、法定労働時間と時間外労働との関係について説明します。
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(1)労働基準法による労働時間の原則
労働基準法では、労働者の基本となる労働時間を「法定労働時間」として一定の決まりを設けています。法定労働時間は、1日8時間、1週40時間と定められており、原則としてこれを超えて労働をさせることはできません。
日常的に時間外労働を命じられている労働者からすると意外に思われるかもしれませんが、労働基準法の原則としては、1日8時間、1週40時間までしか労働者を働かせることはできないのです。
使用者がこれに違反して、法定労働時間を超える労働を労働者に命じた場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになります(労働基準法 第119条1号)。 -
(2)時間外労働を命じるためには36協定の締結と届け出が必要
では、時間外労働がすべて違法かというと、そうではありません。法定労働時間の定めはあくまでも原則であり、一定の要件を満たした場合、使用者は労働者に対して法定労働時間を超える労働(時間外労働)を命じることができます。
その要件としては、使用者と労働者代表者との間で時間外労働に関する協定(36協定)を締結することおよび、所轄の労働基準監督署長への届け出です。
2、残業時間の上限規制
36協定を締結し届け出ることによって時間外労働は可能になりますが、使用者が命じることができる時間外労働について、上限はあるのでしょうか。次に、残業時間の上限規制について説明します。
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(1)36協定による残業時間の上限規制
36協定を締結しさえすれば、上限なく時間外労働を命じることができるというわけではありません。時間外労働については、月45時間、年360時間という上限が決められています(労働基準法第36条4項)。
以前は、厚生労働大臣の告示(労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準)によって時間外労働の上限が定められており、その時間以下でなければならないとされていました。しかし、告示による規制は罰則を伴う規制ではなく、あくまでも行政指導の対象にすぎなかったことから強制力に乏しいものでした。
労働基準法の改正によって、36協定による残業時間の上限規制が法律上の義務と規定され、義務違反に対しては罰則が適用されることになりました。 -
(2)例外的に上限規制を超えて労働させることができるケース
36協定による残業時間の上限規制に対しては例外が規定されており、一定の要件を満たす場合には、上限規制を超えて時間外労働を命じることが可能とされています。
その要件としては、通常予見することのできない業務量の増加などに伴い、臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合です(労働基準法第36条5項)。このような場合には、特別条項付きの36協定を締結することによって、月45時間、年360時間という上限を超えて労働させることが可能になります。
ただし、「臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」とは、一時的・突発的に時間外労働の必要がある場合をさします。単なる業務上の都合や、業務上やむを得ないときといった恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものは、臨時的なものには該当しないとされています。
3、特別条項付きの36協定にも残業時間に上限がある
特別条項付きの36協定を締結していた場合には、時間外労働の上限である月45時間、年360時間という規制は及びません。しかし、特別条項付きの36協定を締結していたとしても、最低限守らなければならない基準は定められています。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均がすべて1月あたり80時間以内
- 時間外労働が45時間を超えることができるのは年6か月が限度
以前は、特別条項付きの36協定を締結しさえすれば、上限なく時間外労働を行わせることが可能でした。しかし法改正によって、特別条項付きの36協定を締結した場合でも、最低限守らなければならない基準が設定されています。
4、残業時間が上限を超えていた場合
長時間労働が常態化している会社では、法律上の上限を超えて時間外労働が命じられている可能性があります。
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(1)会社に対しては罰則が適用される
36協定の締結と届け出をすることなく時間外労働を命じた場合や、時間外労働の上限規制に違反した場合には、労働基準法違反として会社に対しては、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになります(労働基準法119条1号)。
長時間労働が常態化している会社での勤務に限界を感じた場合には、会社を辞めるという選択肢もありますが、経済的な事情によって容易に辞めることができないという場合も少なくないでしょう。そのような場合には、労働基準監督署に相談し是正勧告などの措置をとってもらうということも、長時間労働の解消にとっては有効な手段となるでしょう。 -
(2)未払いの残業代がある可能性がある
会社が労働者に対して時間外労働を命じる場合には、それに応じた割増賃金を支払う必要がります。割増賃金については、時間外労働、深夜労働、休日労働などに応じて法定の割増率が規定されている点にも注意が必要です。正確に残業代を計算してみると、相当な金額が未払いとなっているということも少なくありません。
しかし、長時間労働が常態化している企業では、労働時間管理が適当になっていたり、違法なサービス残業を命じていたりする場合もあります。給与明細をみて、働いた時間に比べて残業代が少ないと感じた場合には、未払いの残業代があることを疑ってもよいかもしれません。 -
(3)長時間の残業をしている場合には弁護士に相談を
未払いの残業代がある場合には、会社に対して支払いを請求していくことになります。しかし、労働者が個人で会社に対して請求したとしても、適当にはぐらかされてしまって、まともに話し合いに応じてくれないということもあります。
また、未払いの残業代を請求するためには、それを根拠づける証拠が必要になりますが、どのような証拠が必要になるかについては、ケース・バイ・ケースですので、労働者個人では正確に判断することは難しいでしょう。
そのため、会社に対して未払いの残業代を請求する場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談をすることをおすすめします。弁護士に相談をすることによって、未払い残業代の有無および請求できる残業代の確認、必要になる証拠や収集方法について助言を得ることができます。
また、未払いの残業代があることが分かった場合、弁護士は労働者の代理人として会社側と交渉をすることができるほか、労働審判や訴訟の提起までサポートすることが可能です。
未払いの残業代には時効がありますので、会社に対して請求を考えている労働者の方は、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
5、まとめ
長時間労働が常態化すると、健康にも重大な影響を及ぼすおそれがあります。会社に対して適切な措置を講じることを求めるとともに、未払いの残業代がある場合には請求することを検討しましょう。
違法な長時間労働や未払い残業代にお悩みを抱えている労働者の方は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでお気軽にお問い合わせください。労働問題は、日々の生活にも直結する重要な問題です。仙台オフィスの弁護士が、最善の方法をアドバイスすると共に、問題解決にむけて全力でサポートします。
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