妻の収入の方が多い場合でも、婚姻費用を支払う必要はある?
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仙台市が公表している「仙台市統計書(令和3年版)」によると、令和2年に仙台市で結婚した件数は5025件、離婚の件数は1642件でした。
夫婦が離婚成立前に別居する場合、婚姻費用の精算が発生します。婚姻費用は原則として、夫婦のうち収入の多い側が、少ない側に対して支払います。夫より妻の収入が多い場合も同様です。ただし、収入の多い側が子どもと同居する場合、上記の結論にならないケースもあるので注意しなければなりません。
今回は、離婚時の婚姻費用の精算に関する考え方や、夫より妻の収入が多い場合における婚姻費用の取り扱いなどについて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、妻の収入の方が多い場合、婚姻費用はどのように精算するべきか
専業主婦文化の名残や妊娠・出産の影響などにより、日本社会全体をみれば、夫の方が妻より多くの収入を得ている夫婦が多いものと思われます。その一方で、女性の社会進出が年々進んだ結果、近年では夫より妻の収入が多い夫婦も珍しくありません。
夫より妻の収入が多い夫婦が離婚する場合、婚姻費用はどのように精算するべきなのでしょうか? 婚姻費用に関する基本的なルール・考え方に沿って検討してみましょう。
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(1)婚姻費用とは
婚姻した夫婦は資産・収入等の事情に応じて、婚姻費用を互いに分担する義務を負います(民法第760条)。ここで言う「婚姻費用」とは、夫婦の生活費など、婚姻から生ずる費用全般を意味します。
夫婦が同居している間は、共同生活を送る中で適宜婚姻費用を分担するため、特に大きな問題は生じません。
これに対して、夫婦が別居するに至った場合、生活の拠点が別になるので、各自で生活費を支出することになります。しかし、夫婦である限り、別居中でも婚姻費用の分担義務は存続します。
そのため、同居していた時の生活水準を基準として、夫婦それぞれが負担する生活費を、互いの資産・収入等の事情に応じたバランスとなるように調整する必要が生じるのです。 -
(2)婚姻費用を算定する際の基本的な考え方
別居している夫婦が精算すべき婚姻費用を算定する際には、裁判所が公表している「婚姻費用算定表」を用いるのが一般的です。
婚姻費用算定表に従うと、次の要素などに応じて精算すべき婚姻費用の金額が決まります。
- 夫婦の職業と収入のバランス
- 子どもの有無
- 子どもの人数と年齢(14歳以下または15歳以上か)
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(3)妻の収入が夫より多い場合における婚姻費用の取り扱い
夫より妻の収入が多い場合、子どもの有無や子どもと同居する親がどちらになるのかによって、婚姻費用の取り扱いが変わります。
まず、夫婦2人の生活に関する婚姻費用は、資産・収入に応じて公平に分担するというのが基本的な考え方です。
したがって、仮に子どもがいないとすれば、収入の多い側が少ない側に対して婚姻費用を支払います。夫より妻の収入が多ければ、妻が夫に婚姻費用を支払わなければなりません。
その一方で、子どもがいる場合は、未成年の子どもを引き取って育てている方が支払いを受ける側になりえます。そのため、妻よりも収入が少ない夫の側が、妻に婚姻費用を支払う義務を負うケースもあるので注意が必要です。
では、具体例を次の章でみていきましょう。
2、妻の収入の方が多い場合における婚姻費用の計算例
婚姻費用算定表に沿って、夫より妻の収入が多い場合における婚姻費用の金額を、子どもがいない場合・いる場合に分けて計算してみましょう。
なお、婚姻費用を受け取る側を『権利者』、婚姻費用を支払う側を『義務者』と言います。
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(1)子どもがいない場合の計算例
婚姻費用算定表は、縦軸に義務者の年収、横軸に権利者の年収をあてはめ、交差する部分の金額を目安とします。
婚姻費用算定表に従うと、例①のケースでは、毎月の婚姻費用は「2~4万円」となります。例①の場合、レンジの上側の部分に該当しますので、毎月「4万円」に近い金額が適正と言えるでしょう。
つまり、妻は夫に対して毎月4万円弱の婚姻費用を支払う必要があります。 -
(2)子どもがいる場合の計算例
例②のケースで、まずは夫が子どもと同居した場合をみていきましょう。
この場合、婚姻費用は、「6~8万円」です。算定表をみると、レンジの中断に該当するため、妻が夫に毎月7万円弱程度を支払うことになります。
次に、妻が子どもと同居した場合です。この場合は、妻が権利者、夫が義務者となりますが、夫が妻に支払うべき婚姻費用は「0円」です。
子どもがいない例①では、妻が夫に対して毎月4万円弱の婚姻費用を支払うべきという結果でした。
これに対して、子どもがいる例②では、夫が子どもと同居すると、妻が夫に支払うべき婚姻費用の金額が増額されました。反対に、妻が子どもと同居した場合は、婚姻費用の精算が不要という結果になりました。
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3、婚姻費用を決定する手続き
婚姻費用は、原則として夫婦間の話し合い(協議)により決めますが、協議がまとまらない場合には、調停・審判(・訴訟)の法的手続きにより決定します。
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(1)夫婦間の協議により決定する
婚姻費用算定表は一定の目安になるものの、実際の婚姻費用の金額は、夫婦双方の合意によって自由に決めることができます。したがって、まずは夫婦の間で話し合い、婚姻費用についての合意を目指すことになります。
婚姻費用に関する取り決めは、他の離婚条件(財産分与・慰謝料・親権・養育費など)と併せて行うケースが多いでしょう。ただし、収入の少ない側が生活に困窮しており、早めに婚姻費用の精算を希望する場合などには、先行して婚姻費用を取り決めることもあります。 -
(2)協議がまとまらない場合は調停・審判(・訴訟)で決める
婚姻費用について夫婦間で合意を得られない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てます。
調停手続きは案件により分けられており、婚姻費用の精算のみを請求する場合は「婚姻費用分担請求調停」、他の離婚条件と併せて精算を行いたい場合は「離婚調停」という要領で、手続きを選択します。
各調停は、調停委員を仲介者として、夫婦間で婚姻費用の精算等に関する話し合いを継続し、合意成立を目指す手続きです。最終的に、裁判官が提示する調停案に夫婦双方が同意すれば、調停成立となります。
婚姻費用分担請求調停が不成立となった場合には、審判手続きへ移行し、家庭裁判所が審判によって結論を示します。
一方、離婚調停が不成立となった場合には、審判手続きへの移行は行われません。離婚原因が、法律に定められた離婚事由(法定離婚事由)に該当する場合は、家庭裁判所に離婚訴訟を提起することができます。
4、婚姻費用の支払期間は?
婚姻費用の精算の対象となる期間は、別居開始後に婚姻費用を請求した時から離婚成立時までです。起算点は請求時であるため、婚姻費用の支払いを受ける権利者は、早めに請求を行うことが大切です。
なお、離婚時に婚姻費用の支払いを取り決める場合には、上記の期間に対応する婚姻費用をまとめて精算することになります。
離婚後は、夫婦の婚姻費用分担義務は消滅します。その一方で、子どもがいる場合には養育費が発生するため、養育費算定表に従い、毎月支払う養育費の金額を取り決めておく必要があります。
養育費の算定は、裁判所が公表している「養育費算定表」に従って行うのが一般的です。
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5、まとめ
夫婦が別居している期間は、婚姻費用の精算対象となります。
基本的には収入の多い側から少ない側に対して婚姻費用が支払われますが、子どもがいる場合には、養育費に相当する金額に応じた調整が行われる点に注意が必要です。
離婚を検討している配偶者から、婚姻費用の精算に関する要求を受けた場合には、民法や離婚実務に照らして、その要求が正当なものであるかどうかを検証するべきでしょう。そのため、弁護士へ相談されることを、おすすめします。
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