面会交流を拒否されたときに「間接強制」は認められる?

2021年06月08日
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面会交流を拒否されたときに「間接強制」は認められる?

仙台市が公表している「仙台市ひとり親家庭生活実態調査」(平成30年実施)から、面会交流の傾向をうかがい知ることができます。
調査報告によると、調査対象のひとり親家庭のうち「面会交流の取り決めをしていない」と回答した家庭は約6割にのぼっています。そして、約半数が「面会交流を行ったことがない」と回答するなど、面会交流の取り決めや実施が必ずしも行われていないことが分かります。

一方で、たとえ面会交流について取り決めをしていたとしても、あるときを境に監護親に面会交流を拒否され、子どもに会えなくなってしまうことも起こり得ます。このような場合には、「間接強制」という方法によって、面会交流の実現をはかれる可能性があります。

本コラムでは、面会交流における「間接強制」について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、面会交流における「間接強制」とは?

面会交流における間接強制とは、どのような手続きなのでしょうか。

  1. (1)間接強制は強制執行の方法のひとつ

    間接強制とは、裁判所が関与する「強制執行」の場面で使われます。

    「強制執行」とは、簡単に言えば、裁判所などで決められた内容を守らない人に対して、法律で強制的に守るようにさせる手続きです。たとえば『お金を債権者に支払え』と裁判で命じられた債務者(義務者)が支払いをしなければ、強制執行によって直接的に債務者の財産を差し押さえて金銭に換えるといったことができます。このような方法を、直接強制と言います。

    しかし性質上、直接強制がなじまない事柄もあります。そのような場合に利用されるのが「間接強制」です。間接強制とは、債務を履行しない債務者に対し、債務の履行を確保するために相当と認められる一定の金銭を債権者に支払うべきことを命じ、債務者に心理的な強制を加えて、債務者自身の手により請求権の内容を実現させる方法です。

  2. (2)面会交流における間接強制

    面会交流は、離れて暮らす親とも交流することによって、子どもが健全に成長することを目的としてなされるものです。しかし、子どもと一緒に暮らす監護親が、「子どもを離婚相手に会わせたくない」と面会交流を拒否することも少なくありません。

    そのような場合に、裁判所が関与して取り決めた文書があれば、裁判所に強制執行を申し立てることができます。ただし、直接的に親権者から子どもを連れ去り、離れて暮らす親と会うことを強制的に行うこと(直接強制)は問題があり、制度の趣旨にも合いません。そのため面会交流における強制執行は、間接強制の方法がとられます。

    たとえば「定められた面会交流をさせない場合、都度5万円の支払い義務を課す」といった内容を裁判所が命じて、間接的に面会交流が実現されるようにうながします。

2、面会交流の間接執行が認められないケースもある

調停や審判で面会交流の取り決めがなされている場合であっても、間接強制が認められないケースもあります。たとえば、次のようなケースでは、間接強制が認められない可能性があります。

  1. (1)取り決めた内容が明確ではないケース

    面会交流の取り決めが明確でなければ、その取り決めの実現に向けて監護親にどのような義務を課すべきかを判断することができません。

    最高裁判所第一小法廷平成24年(許)第48号平成25年3月28日決定(決定Ⅰ)をみると、面会交流の間接執行をする場合は、あらかじめ調停調書や審判書などに、次のような事柄が特定されている必要があるとしています。

    • 面会交流の日時や頻度
    • 面会交流時間の長さ
    • 子どもの引き渡しの方法 など


    したがって面会交流の取り決めを行っていても、これらの事項について明確に特定していないものであれば、その取り決めをもとにした間接強制は認められない可能性があります。

    決定Ⅰは、下記の内容について、間接強制決定することができる(=特定に欠けるところはない)と判断しました。

    1. ①面会交流の日程等について、月1回、毎月第2土曜日の午前10時から午後4時までとし、場所は、子の福祉を考慮して相手方自宅以外の相手方が定めた場所とすること
    2. ②面会交流の方法として、子の受け渡し場所は、監護親自宅以外の場所とし、当事者間で協議して定めるが、協議が調わないときは、☆駅東口改札付近とすること、監護親は、面会交流開始時に、受け渡し場所において子を非監護親に引き渡し、被監護親は、面会交流終了時に、受け渡し場所において子を監護親に引き渡すこと、監護親は、子を引き渡す場面のほかは、非監護親と子の面会交流には立ち会わないこと
    3. ③子の病気などやむを得ない事情により上記①の日程で面会交流を実施できない場合は、監護親と被監護親は、子の福祉を考慮して代替日を決めること
    4. ④監護親は、非監護親が子の入学式、卒業式、運動会等の学校行事に参列することを妨げてはならない


    他方、最高裁判所第一小法廷平成24年(許)第47号平成25年3月28日決定(決定Ⅱ)では、下記の内容については、間接強制決定をすることはできないと判断しました。

    1. ①監護親は、非監護親に対し、子と、2か月に1回程度、原則として第3土曜日の翌日に、半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)面接をすることを認める。ただし、最初は1時間程度から始めることとし、子の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。
    2. ②監護親は、前項に定める面接の開始時に☆喫茶店の前で子を非監護親に会わせ、非監護親は終了時間に同場所において子を監護親に引き渡すことを当面の原則とする。ただし、面接交渉の具体的な日時、場所、方法等は、子の福祉に慎重に配慮して、監護親と非監護親間で協議して定める。
  2. (2)一定年齢に達した子どもが拒否しているケース

    未成年の子どもは、一緒に暮らす親の気持ちを敏感に察知して、本心ではないものの面会交流を拒否する可能性もあります。また、年齢があがるにつれ会うことを拒否することもあるでしょう。一律に年齢で判断することはできず、未成年者の意思をどのように判断するかは難しい問題ですが、「本心でない」「監護親の影響を受けている」などと軽視することはできません。

    決定Ⅰは、「監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判がされた場合、子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは、これをもって、(中略)上記審判に基づく間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない」と判断しており、子どもが面会を拒否していても間接強制の決定をする余地があるとしています

    ただし、仮に間接強制の決定がされたとしても、子どもが面会を拒否している場合、それが監護親の債務不履行と判断されるかは別問題です。つまり、子どもが面会を拒否して面会交流が実現できない場合、監護親に対して制裁金を課すことができないことがあり得ます。

    その場合は、改めて面会交流の調停を起こし、どのような条件であれば子どもが快く面会交流に応じるかの協議が必要となります。

3、面会交流の取り決めの方法とは

そもそも面会交流の取り決めがなされていなければ、間接強制を実行することはできません。そのため、離婚時には面会交流の取り決めを行うことが大切です。

  1. (1)話し合い(協議)で決める

    お互いに話し合える余地がある場合は、話し合いの上で面会交流の取り決めを行います。
    会う頻度だけを取り決めるといった漠然とした内容では、万が一のときに間接強制ができない可能性もあるため、具体的な内容も取り決めておくことが大切です。取り決めに際しては注意点も多いので、弁護士に相談した方が良いでしょう。

    なお、話し合いで合意ができたときでも、口頭のみでの取り交わしはおすすめできません。後々、言った言わないといった水掛け論になる可能性も高いため、必ず書面に残すようにしましょう。また、取り決めた内容は、強制執行認諾文言付き公正証書にしておくと安心です。

  2. (2)調停・審判で決める

    父母間で話し合いができなかったり、話し合いがまとまらなかったりする場合には、家庭裁判所の面会交流に関する調停手続を利用することができます。

    調停は、調停委員を介して話し合いをすすめ、合意を目指す手続きです。調停手続きにおいては、家庭裁判所の調査官が当事者からのヒアリングや、場合によっては子どもとの面談も行い、どのような面会が望ましいかを探っていきます。父母双方が合意できれば調停は成立し、調停調書が作成されます。

    しかし合意できなければ、調停は不成立となり、審判手続に自動的に移行することになります。審判では、調停の結果や資料をもとにして、裁判官が面接交流の実施の有無や実施方法について判断します。

4、離婚問題を弁護士に相談するべき理由

離婚については、相手と揉めた際や裁判になったときに弁護士に相談すれば良いと思われる方も少なくないようです。しかし、離婚を決め、話し合いを進める段階から弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)適切なアドバイスを受けられる

    夫婦が離婚すること自体に合意している場合でも、財産分与や慰謝料などのお金の問題、そして親権や面会交流などの子どもの問題についても取り決める必要があります。しかし、当事者同士では感情的になりやすく、話し合いが進まないことも往々にしてあります。また、法的な知識や正しい情報がなければ、不利な条件で離婚が成立してしまうおそれもあるでしょう。

    弁護士は、法的知識だけではなく過去の判例や知見から、最善の内容で離婚条件を取りまとめられるようアドバイスすることが可能です。

  2. (2)後悔の少ない離婚を実現できる可能性が高まる

    「早く離婚したい」、「相手と話もしたくない」と気持ちが焦り、離婚条件をよく考えずに離婚に合意してしまえば、後悔が残る結果になりかねません。離婚する際は、しっかりと話し合い、適切な条件で合意を得ることが重要です。

    弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人となり、相手と交渉することが可能です。顔をあわせることも、言い合いになることもなく、離婚を進めることができます。また、条件面についてもアドバイスを受けられるので、相手の言いなりになってしまった……など不本意な結果になることを回避できるでしょう。

  3. (3)紛争を事前に予防できる

    面会交流や養育費などの取り決めをしても、内容に漏れや不備があれば、後日紛争になるおそれもあります。弁護士は、将来のトラブルも見越して対策を講じることが可能です。離婚成立後に、新たなトラブルや心配を抱えることがないよう、事前にしっかりと対応します。

5、まとめ

面会交流について取り決めたものの、面会交流を拒否された場合は、間接強制を申し立てることで、面会交流を実現できる可能性があります。ただし、面会交流を取り決めていたからと言って、必ず間接強制ができるわけではないため注意が必要です。
そのため、親権や面会交流を取り決める場合は、弁護士に相談の上、適切なアドバイスを受けることが最善と言えます。

ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスには、離婚問題の解決実績が豊富な弁護士が在籍しています。女性弁護士も在籍しているので、さまざまな視点からアドバイスを行うことが可能です。面会交流をはじめとする離婚問題を解決し、新たな生活が一日でも早くスタートできるよう、弁護士が全力でサポートします。また、すでに離婚は成立したものの、面会交流でトラブルを抱えているという場合も、ぜひご相談ください。

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