婚姻費用は同居していたら請求できない? 婚姻費用分担請求の基礎知識
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宮城県内の家庭裁判所は、本庁である仙台のほか、大河原、古川、石巻、登米、気仙沼の5つの支部から構成されています。家庭裁判所では、離婚や相続といった家庭の問題や、結婚生活における生活費(婚姻費用)の分担に関する問題についても解決をはかることができます。
婚姻費用とは、婚姻生活を送るうえでかかる費用のことをいい、夫婦は2人で分担する義務があります。主に、別居を検討するときに重要な問題になり得ますが、婚姻費用が請求できるのは、別居時に限られた話なのでしょうか。
本コラムでは、婚姻費用の基礎知識とともに、同居している場合でも婚姻費用を請求できるかについて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、婚姻費用の基礎知識
まず、婚姻費用の基礎知識を確認していきましょう。
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(1)婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦間で分担する家族の生活費の総称です。
婚姻によって法律上の夫婦になったときには、双方が婚姻費用を分担する義務を負い、夫婦は同程度の生活レベルになるよう保障する義務も負うことになります。これらの義務は、法律上の夫婦である限り負うものであり、たとえ別居していたとしても変わりません。
つまり、夫婦である以上、「相手が経済的に困っていても自分には関係ない」というわけにはいかないのです。 -
(2)婚姻費用の請求期間
婚姻費用は、夫婦の婚姻関係が継続している間は請求することができます。そのため、離婚成立後は婚姻費用の請求はできません。
婚姻費用は、家庭裁判所の婚姻費用分担請求の調停の申立時だけでなく、その前の裁判外の交渉で内容証明郵便をもって請求をした時からでも請求できます。
このように調停前の交渉段階から請求ができるものの、裁判所に婚姻費用の交渉をしていたことを理解してもらうためには、内容証明郵便等の方法により書面に残しておく必要があります。もっとも、この書面において、裁判所の基準よりも低額な婚姻費用を請求してしまったとなっては後の祭りです。
弁護士が交渉段階から婚姻費用分担請求についての書面を作成することにより、裁判所基準での適正妥当な婚姻費用を回収することができます。
2、同居していたら婚姻費用は請求できない?
婚姻費用は、どのようなケースでも請求することができるのでしょうか。また、同居しているものの、生活費をもらえないといった場合はどうなるのでしょうか。
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(1)婚姻費用を請求できるケース・できないケース
別居にあたり婚姻費用を請求する場合、一般的には収入の少ない側から多い側に請求することができます。このとき、どちらの意思で出ていったのかということは問題にはなりません。たとえば、収入の少ない側が家を出て別居を始めたとしても、配偶者に婚姻費用の支払いを請求できます。
ただし、身勝手な行動で別居原因を作り出した側が婚姻費用を請求した場合は、認められない可能性があるほか、たとえ認められても大幅に減額される可能性があります。たとえば、不倫(不貞行為)をして勝手に家を出ていった側が、婚姻費用を請求するようなケースが該当します。
なお、婚姻費用を請求する側に不貞行為などの有責性がある場合であっても、請求者が未成熟しを監護しているときは、その未成熟子の生活費については婚姻費用として認められる可能性が高いといえます。 -
(2)同居している場合の婚姻費用
同居していても、夫婦関係の悪化にともない配偶者が入れる生活費が少なく一方のみ困窮している場合や、家庭内で別居している状態となり生活費をまったく入れてもらえないというケースもあるでしょう。
このようなケースでは、法律上の夫婦であれば負うべき「婚姻費用分担義務」が果たされていないことになります。したがって婚姻費用の分担を相手に求めることができます。
3、婚姻費用の金額はどう算出する?
別居にともなう婚姻費用と、同居中の婚姻費用では算出方法に違いはあるのでしょうか。一般的な婚姻費用の算出方法とあわせて解説します。
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(1)婚姻費用は算定表が目安になる
婚姻費用の金額は、法律で決められているわけではありません。そのため当事者が合意できれば、いくらに決めても問題はありません。
しかし、話し合いをするうえで婚姻費用の目安になる基準がなければ、話が前に進まないことがほとんどでしょう。そのため、家庭裁判所の調停や審判で参考にされている「婚姻費用算定表」が目安として用いられることが多い傾向にあります。算定表は、裁判所のホームページなどで公開されており、誰でもみることができます。 -
(2)算定表の見方
算定表は、子どもの有無や子どもの年齢ごとに分かれています。子どもがいれば養育費や教育費などもかかり、子どもの年齢によってかかる金額も違ってくるためです。まずは、ご自身の状況にマッチした算定表を確認しましょう。
算定表は、婚姻費用を請求する側(権利者)の収入を横軸とし、支払う側(義務者)の収入を縦軸として作成されており、縦軸と横軸が交差する点に記載されている金額が、婚姻費用の目安とされます。この金額をベースに、夫婦で話し合いをして金額を決定させます。
なお、ベリーベスト法律事務所では、婚姻費用を簡単にチェックできる計算ツールをご用意しています。裁判所が公表している算定表を参考にしており、必要項目を入力するだけで、目安となる婚姻費用が確認できますので、ぜひご利用ください。 -
(3)同居している場合は算定が複雑になるケースも
同居している場合は、婚姻費用の算出時に注意するべき点があります。
別居する場合は、それぞれに家賃や光熱費などがかかりますが、同居していれば、かかる費用は当然少なくなります。たとえば、婚姻費用を支払う側が家賃や光熱費などの負担をすでに行っているのであれば、その分を考慮して婚姻費用を算出することが必要になります。
同居している場合の婚姻費用の算出については、別居のケースよりも複雑になる可能性があるため、弁護士などに相談することをおすすめします。
4、婚姻費用が決まらないときはどうすればよい?
婚姻費用は、当事者同士の話し合いで決まれば問題はありません。
ただし、話し合いでは決まらないことも少なくありません。夫婦の話し合いで婚姻費用が決まらないときの対処法について、見ていきましょう。
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(1)調停・審判で解決をはかる
婚姻費用が決まらないときには、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を申し立てて解決をはかることができます。
調停では、調停委員が夫婦双方から事情を聞いたり、資料等の提出を求めたりすることで事情を把握します。そして、解決案の提示や必要な助言を行い、合意できるよう働きかけが行われます。
調停で合意ができなかったときは、調停不成立となり、自動的に審判手続きに移行します。審判では、必要な審理を行ったうえで、裁判官が婚姻費用の金額を決定することになります。 -
(2)弁護士に相談する
夫婦の話し合いでは婚姻費用が決まらないときは、まずは弁護士に相談して解決をはかるという選択肢もあります。弁護士は、これまでの裁判例や知見を元に、妥当な婚姻費用を算出するなど、適切なアドバイスを行うことができます。弁護士という第三者が介入することで、冷静な話し合いも期待できるでしょう。
また、弁護士は代理人として相手側と交渉することも可能です。夫婦関係がこじれている状況での話し合いは、顔をあわせると言い合いになってしまう、言いたいことをうまくつたえられない、といったことも少なくありません。
弁護士は、婚姻費用だけではなく離婚時に生じる、さまざまな問題の解決をサポートできるので、心強い存在になることでしょう。
5、まとめ
婚姻費用は、法律上夫婦である期間は、双方が分担する義務を負うものです。
生活費が適切に分担されていなければ、別居時に限らず、同居時でも請求することはできます。ただし、婚姻費用の金額は法的には決められておらず、裁判所などが公表している算定表を用いて目安を算出することになります。話し合いがこじれてしまった場合や、相手がそもそも支払いに応じないような場合は、早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が、婚姻費用や離婚問題をスムーズに解決できるように全力でサポートします。
お悩みの際には、ぜひお気軽にご相談ください。
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