復氏とは? 離婚後も氏(姓・名字)を変えないことは可能?

2021年02月02日
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復氏とは? 離婚後も氏(姓・名字)を変えないことは可能?

仙台市はホームページ上で、「離婚する方へ」として離婚に際しての各種手続きや相談窓口についての情報を公開しています。
離婚するにあたっては、対応するべき手続きや決定しておくべき事柄は多数にわたりますが、「離婚後の名字」に関する問題も、そのなかのひとつと言えるでしょう。

周囲に離婚を知られたくないなどの理由から、「婚姻中に使用していた名字を離婚後も使用したい」と希望する方も少なくありません。名字に関する問題を解決する際におさえておきたいのが「復氏(ふくうじ・ふくし)」です。
では、「復氏」とは、どのようなことを言うのでしょうか。

本コラムでは、離婚の際の「復氏」について解説しながら、婚姻中に使用していた名字を離婚後も使用する方法について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、復氏とは?

「復氏(ふくうじ・ふくし)」とは、結婚などで氏を改めた方が、以前の氏に戻ることを言います。
復氏が問題になるのは、離婚・離縁・婚姻や養子縁組の取り消しの場面です。

  1. (1)離婚と復氏の原則

    日本においては、婚姻した場合は夫婦のいずれかの氏を称する「夫婦同姓制度」が採用されています。そのため結婚によって氏(姓)を改めた方は、離婚後にどうなるのかという問題に直面することになります。

    この点については、民法第767条第1項に「婚姻によって氏を改めた夫または妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する」と規定があります。

    つまり、結婚で氏を改めた方は、原則として離婚により旧姓に戻ることになります

  2. (2)離婚と死別の復氏の違い

    復氏は、離婚以外では、配偶者との死別という場面においても問題になることがあります。

    離婚の場合は、何もしなければ「復氏」することが原則になります。しかし配偶者と死別したときには、生存配偶者は、当然には「復氏」しません。復氏するためには、「復氏届」を提出する必要があります。

    なお、死別により「復氏届」を提出したとしても、配偶者の家族との姻族関係が解消されるわけではありません。配偶者の家族との姻族関係を終了させるためには、「姻族関係終了届」の提出が必要になります。

2、離婚後も結婚していたときの名字を使用できる?

  1. (1)離婚における復氏の問題点

    離婚においては復氏の原則があったとしても、便宜上、離婚後も結婚していたときの名字のままでいたいと考える方は少なくありません。

    たとえば「旧姓に戻ることで離婚の事実を周囲に知られるのは避けたい」といったケースや、「契約などの旧姓への変更手続きなどが生じる負担を避けたい」といったケースがあります。特に婚姻期間が長いケースや子どもがいるケースでは、復氏することが不利益になると感じる方も多い傾向にあると言えるでしょう。

  2. (2)結婚していたときの名字を使用する方法

    一定の手続きを行うことで、離婚後も結婚していたときの姓を使用すること(婚氏続称)はできます。

    一定の手続きとは、「離婚の日から3か月以内」に、「離婚の際に称していた氏を称する届」(婚氏続称届とも呼ばれます)を提出する手続きです。
    手続きには期限が定められているので、「離婚届」とともに「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出することが理想的でしょう。

    ただし、届け出を提出してしまえば、後日変更することは容易ではありません
    例外的に、家庭裁判所で「やむを得ない事由がある」と許可されたときにのみ、変更することが可能ですが、裁判所の許可が必要ということは、希望通りに変更ができない可能性もあるということです。
    したがって離婚する前から慎重に考えた上で、判断する必要があるでしょう。

3、婚氏続称の手続きと戸籍との関係

  1. (1)婚氏続称の手続き

    離婚後、結婚していたときの姓を選択するときには「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出する必要があることは、前述したとおりです。

    具体的には、届出人の本籍地または所在地の市区町村役場に「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出して行います。届け出の用紙は全国共通のため、最寄りの市区町村役場で入手すると良いでしょう。自治体によっては、ホームページからダウンロードできるようにしているケースもあるので、それらを利用するのも一案です。
    なお、本籍地以外の役所に提出するときには、「戸籍謄本」が必要になります。

    繰り返しになりますが、提出期限は「離婚の日から3か月以内」と限定されているので、期限を超過しないように注意しなければいけません。

  2. (2)婚氏続称と戸籍の関係

    日本における戸籍制度では、親子2代までの家族でなければ、同じ戸籍に入ることはできません。したがって離婚すれば、相手の氏に改めた側は婚姻中の戸籍から除かれて、婚姻前の戸籍に入籍します。その結果、旧姓に戻ることになるというわけです。

    また、離婚によって「復氏」するケースでも、すでに婚姻前の戸籍が除籍されているケースや、本人の希望がある場合は、新しい戸籍を編製することもできます。

    一方、婚氏続称の手続きをした場合は、婚姻中の氏で新たに戸籍が編製されます。

    たとえば、結婚時に「A」から「B」に氏を改めた妻が、離婚届と「離婚の際に称していた氏を称する届」を同時に提出したとします。
    この場合、妻は婚姻中の「B」という氏の戸籍から出て、自らを筆頭者として新たに作成された「B」という氏の戸籍に入ることになります。この2つの戸籍は、同じ「B」という氏ですが、別の戸籍です

    ただし、離婚届が提出され、後日改めて「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出した場合は、基本的に妻はいったん「A」の戸籍に戻った後に、新たに作成された「B」の戸籍に入ることになります。

    なお、新たに作成した戸籍に子どもを入籍させるためには、家庭裁判所で「子の氏の変更許可」を得た上で、市区町村役場に届け出をする必要があります。

4、離婚する前に取り決めておきたい5つの事柄とは

離婚前には、離婚後の氏だけでなく、相手と取り決めておきたい事柄がありますが、主におさえておきたいのは次の5つです。
これらの取り決めは、話し合いによって離婚が成立した場合(協議離婚)は、執行認諾文言付きの公正証書にしておくことが大切です。

  1. (1)財産分与

    離婚の際には、結婚期間中の財産を清算してそれぞれに分配する「財産分与」について取り決めておくことが大切です。

    財産分与請求権は、離婚から2年で時効によって消滅します。また離婚後は、相手と連絡が取りにくくなったり、相手の再婚などの事情によっては取り決めに消極的になったりするリスクがありますので、離婚前に取り決めておくと良いと言えます。

  2. (2)慰謝料

    離婚原因が相手の不貞行為(不倫・浮気)や、DV(ドメスティックバイオレンス)といった不法行為の場合は、受けた精神的苦痛の損害賠償として慰謝料を請求することができます。

  3. (3)親権

    離婚する夫婦の間に未成年の子どもがいるときは、離婚届に親権者を記載する必要があります。離婚までに、父母のどちらが子どもの親権者になるかを取り決めておく必要があります。

  4. (4)養育費

    子どもと生活する側の収入が少ない場合、収入の多い側は養育費を支払う必要があります。

    離婚までに養育費の取り決め自体がなされていないケースも多い傾向にあり、ひとり親家庭の貧困につながっているとされます。また養育費の取り決めがあっても、相手が支払いを滞納したり連絡が取れなくなったりするケースもあります。

    養育費は離婚前に取り決めておき、不払いがあればすぐに強制執行の申し立てができるように、取り決めた内容を「執行認諾文言付き公正証書」にしておくことがポイントです。

  5. (5)面会交流

    離婚すれば、父母の一方は子どもと離れて暮らすことになります。
    しかし離れて暮らす一方も、子どもの親であることに変わりはありません。そのため、特別な事情がない限り、離婚後も定期的に面会交流を図ることがのぞましいと言えます。

    面会交流については離婚前に取り決めておき、後日トラブルにならないようにする必要があるでしょう。

5、まとめ

結婚によって氏を変えた方は、原則として離婚すれば「復氏」するため、結婚前の氏に戻ることになりますが、届け出を提出することで、結婚していたときの氏を引き続き使用することができます。ただし「離婚の日から3か月以内」という提出期限が設けられていることもあり、離婚までには、どちらの氏を名乗るのかを選択しておくことがのぞましいと言えます。

離婚の際には、名字など自分で決められることだけでなく、財産分与や養育費など相手と取り決めておくべき事項もあるので、専門家に相談することがおすすめです。

ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスでは、離婚前に決めておくべき事項などをアドバイスし後悔の少ない離婚にできるよう弁護士がサポートします。ぜひ、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています