農家を営む夫婦が離婚するなら要注意! 財産分与のポイントとは
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宮城県は、全国でも有数の米どころであるほか、パプリカやセリ、大豆といった農作物の生産も盛んです。農家数は、年々減少傾向にあるとされていますが、令和2年時点での総農家数は約4万戸におよぶそうです。
農業は、家族や親族で切り盛りをしていることも多く、農地などの資産も保有しています。それゆえに離婚を考える際は、一般的な家庭と比べて問題が複雑化することも少なくありません。農家を営む夫婦が離婚する際は、注意するべき点を事前に把握しておくことで、希望した条件での離婚が実現できる可能性が高まります。
今回は、農家の夫婦が離婚する際に特に押さえておきたい財産分与のポイントについて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、そもそも財産分与とは
そもそも、財産分与とはどのような制度のことでしょうか。本章では、財産分与についての基本的な事項について説明します。
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(1)財産分与とは
財産分与とは、夫婦が離婚したときに、夫婦の一方が他方に対し、夫婦で築いた財産の分与を求める制度のことをいいます(民法768条1項)。
従来の日本では、主に夫の収入をもとに夫婦の財産形成を行っている家庭が多数をしめていました。そのため、離婚に伴いそれぞれの名義の財産を取得して離婚したとしても、専業主婦で収入がなかった妻は非常に不利な状況となってしまいます。しかし、専業主婦であっても、家事労働をし、夫の仕事を支えていたのですから、その貢献に対する金銭的評価はあってしかるべきです。
このような不都合性を解消するために、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産は夫婦の共有財産として、離婚時に一定額の分与を認めているのです。
財産分与には、以下の三つの要素があります。
①清算的財産分与
清算的財産分与とは、夫婦の協力によって築いた財産を、夫婦双方の貢献度に応じて分与するというものです。財産分与の中では、この清算的財産分与が中心的な要素となります。
②扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、離婚後に夫婦の一方が困窮することがないように、扶養することを目的として、一定の財産的給付を行うものです。
扶養的財産分与は、請求される側に扶養の能力があり、請求する側に扶養の必要性があることが必要になります。そのため、扶養的財産分与は、清算的財産分与とは異なり必ず認められるものではなく、他の二つの財産分与と比べて補充的な要素であると考えられています。
③慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与とは、離婚について有責な行為がある配偶者から慰謝料の意味で支払われるものをいいます。たとえば、相手の不貞行為(不倫)が原因で離婚に至ったようなケースが該当します。
慰謝料的財産分与として、一定の金銭給付がなされたとしても、その金額が離婚にあたっての精神的苦痛を慰謝するのに足りないときには、別途、慰謝料を請求することが可能です。もっとも、実務上は財産分与と一緒に慰謝料請求も提起することが一般的ですので、慰謝料的財産分与が問題となる事案は少ないです。 -
(2)財産分与の対象となる財産とは
財産分与の対象となる財産は、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた共有財産の部分です。預貯金や不動産などは夫婦どちらかの名義となっていることが多いですが、財産分与においては夫婦どちらの名義の財産であるかということは特に問題にはならず、あくまでも、婚姻期間中に築いた財産かどうかというのがポイントです。財産分与の対象となる代表的な財産としては、次のようなものがあります。
- 現金、預貯金
- 株式や投資信託などの有価証券
- 不動産
- 保険の解約返戻金
- 退職金 など
他方、財産分与の対象とならない財産としては、特有財産があります。特有財産の代表的なものとしては、以下のものがあります。
- 結婚前にためた現金や預貯金
- 親から相続した財産
- 住宅購入時に親から受けた援助金
- 別居後に取得した財産
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(3)財産分与の割合
財産分与をする際には、財産分与の割合をどうするかを決めなければなりません。
財産分与の割合は、財産形成・維持への貢献度で決めることになりますが、一般的にはその割合は2分の1ずつsとされています。これは、一方が会社員で、一方が専業主婦(主夫)の家庭であっても変わりません。 -
(4)財産分与の進め方
財産分与をするためには、まずは財産分与の対象となる財産を調査し、リストアップをします。生命保険や住宅ローン、年金がある場合は、それらについても調べる必要があるでしょう。
財産分与の総額がわかったら、話し合いによって財産分与の金額を算出することになります。
話し合いでは合意できない場合は、調停で解決を図ることも可能です。調停でも合意に至らない場合は、審判により財産分与の割合を決定します。
2、財産分与を考えるにあたっては、農業経営に対する貢献度が重要
共働きや、一方が一般的な会社員という家庭の場合、婚姻期間中にお互いが築いた財産を財産分与で分ければよいので、そこまで複雑ではありません。しかし農家の場合は、たとえば夫の実家の農業を妻が手伝ってきたというようなケースが多くなります。このような家庭が離婚を選択した場合、農業を手伝っていたという貢献をどのように評価すればよいのでしょうか。
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(1)第三者からの財産分与
財産分与の制度は、あくまでも夫婦の財産を分ける制度ですので、原則として第三者の財産は対象外です。そのため、たとえば嫁いだ妻が夫の実家の農業を手伝っていたとしても、原則として夫の実家の財産は、財産分与の対象にはなりません。
もっとも、多大な貢献をした一方に何らの対価も与えないということが不公平な結果となるときには、例外的に第三者の財産から財産分与を受けることが可能なケースがあります。
過去の裁判でも、以下のとおり判示し、第三者からの財産分与を認めたものがあります。【熊本地判八代支部 昭和52年7月5日】
法律上は第三者に属する財産であっても右財産が婚姻後の夫婦の労働によって形成もしくは取得されたものであって、かつ、将来夫婦の双方もしくは一方の財産となる見込みの十分な財産も含まれると解するのが相当である。 -
(2)財産分与の割合を修正
財産分与をするにあたっては、夫婦の貢献度に応じた財産分与の割合を決めなければなりません。一般的な会社員の家庭とは異なり、農家の夫婦の場合には特別な配慮が必要になります。
基本の財産分与割合は2分の1ですが、財産分与の割合は、あくまでも夫婦の貢献度に応じて決めることになりますので、事案によっては割合を修正することもあります。一方が他方の実家の農業を手伝い財産形成に貢献したという事情があるのであれば、貢献度は高いと考えられます。このようなケースでは、分与の割合を高く設定するというのも、ひとつの方法として検討できるでしょう。
3、農地は自由に譲渡することができない
財産分与の対象に農地が含まれる場合には、注意が必要です。
通常の土地や建物であれば、当事者の合意だけで名義を移転することができます。しかし、農地の場合には、農地法という法律が適用され、農地の名義変更をするには、農業委員会の許可が必要になるのです(農地法3条1項本文)。
農業委員会の許可を受けるためには、農地を譲り受ける方が農業に従事している、一定の面積の農地を有しているなどの要件を満たす必要があります。そのため、たとえ夫と妻の間で財産分与の合意をしたとしても、その事実だけでは農地の名義変更は認められません。
もっとも、裁判や調停で財産分与が決まった場合には、例外的に農業委員会の許可なく名義変更が可能になります(農地法3条1項12号)。意外と知られていないですので、農地が財産分与に含まれているときには、裁判や調停などで財産分与を決めるのも一案です。
4、財産分与以外にもある離婚のための準備
離婚にあたっては、財産分与以外にも決めなければならないことや準備しなければならないことがあります。
具体的には、次のような事柄を決める必要が生じるでしょう。
- 親権
- 養育費
- 面会交流
- 慰謝料
- 年金分割 など
上記にあげた以外にも、離婚後の住まいの確保や、専業主婦(主夫)の場合は、離婚後の生活のために仕事を探さなければなりません。
また、代々農業を営んできた家庭であれば、跡取りとして親権を強く望むというケースも想定されます。親権の折り合いがつかなければ、離婚成立にも時間を要することになるでしょう。
このように、離婚するにあたっては準備をしっかりと整えて、事前にトラブルになりそうな事柄も把握し対策を講じておくことが重要といえます。
また、離婚にあたっては、法律的な知識がなければ対応が難しいことがあります。弁護士に依頼すれば、そうした法律的な知識についてもサポートを受けることができます。
5、まとめ
農業を営む夫婦が離婚するときには、一般的な夫婦とは異なる問題が発生する可能性が高くなります。特に財産分与では、一方の貢献度をどのように評価するかで最終的にもらえる金額が大きく変わります。財産分与で適切な金額をもらうことが、離婚後の再出発のためにも重要となりますので、弁護士のサポートを受けて解決を目指すのがよいでしょう。
離婚についてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでお気軽にご相談ください。
農業を営む家庭では、親族の結束が固いことも多く、離婚を申し出た側が苦しい立場に置かれることもあるかもしれません。そのようなときも、仙台オフィスの弁護士が力強い味方として、全面的にサポートします。
おひとりで抱え込まず、ぜひご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています