投資家が離婚するときは財産分与に要注意! 投資財産はどう分ける?

2021年11月08日
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投資家が離婚するときは財産分与に要注意! 投資財産はどう分ける?

投資家というと自分には縁のないことと思う方もいるかもしれません。しかし、近年、若年層を中心に「FIRE」という考え方が注目されてきています。

「FIRE」とは、「Financial Independence, Retire Early」の略であり、経済的自立と早期引退を意味する言葉です。厳密な定義のある言葉ではありませんが、仕事にとらわれず、投資などによって生計を立てながら生活をしていく生き方を指します。

このような「FIRE」を実現した人が増えてくれば、離婚にあたっても一般的な会社員とは異なる配慮が必要になってきます。今回は、投資家が離婚する場合のお金の問題について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、投資家は離婚でもめやすい?

投資家が離婚をする場合には、一般的な会社員の離婚に比べてさまざまなトラブルが生じることがあります。その背景としては、投資家は会社員とは異なり、次のような特徴があるからです。

  1. (1)収入が不安定

    会社員の方は、会社で労働をして、労働の対価として給料を得て生活をしています。毎月、一定額の給料をもらうことができますので、安定した生活を送ることができるといえます。
    これに対して投資家の方は、資産を運用することによって得た利益によって生活をしています。資産運用は、その時々の相場に左右されますので、常に利益が得られるというわけではありません。資産運用がうまくいっているときには多くの利益を得られるため、会社員の方よりも裕福な生活を送ることができる反面、資産運用がうまくいかず赤字が続くと資産を切り崩しながら生活をしていくことになります。

    離婚にあたっては、養育費や婚姻費用など、お互いの収入をベースにして金額を決めるものがありますが、投資家の場合には、どの時点の収入を基準として養育費などの金額を決めるのかでもめることがあります。

  2. (2)資産が多種多様

    会社員の方は、預貯金や不動産(自宅)といった資産が中心となります。しかし、投資家の方は、投資用不動産、株式・債券などの有価証券、投資信託など多種多様な資産を保有していることが一般的です。
    保有する資産の種類および額が増えると、財産分与の対象財産、評価および方法をめぐって当事者間で争いが生じることがあります。特に、投資家の方は、ご自身の特殊な能力や才能によって多額の資産を形成することができたという側面もありますので、財産形成に対する貢献度は、一般的な会社員の夫婦と同様に考えることができないという考え方もあるでしょう。そのため、財産分与の割合をめぐっても争いになることがあります。

2、離婚とお金の問題

離婚をする場合に、お金の問題が生じることは少なくありません。金銭にまつわる事項を取り決めるにあたって、投資家の方の場合は一般的な会社員とは異なる配慮が必要になってくることもありえます。

  1. (1)養育費・婚姻費用

    養育費とは、離婚後に子どもが独立して生活することができるまで非監護親が支払う、子どものための生活費などのことをいいます。
    婚姻費用とは、婚姻中の夫婦が負担するべき生活するための費用のことをいいます。

    養育費や婚姻費用の金額をいくらにするかについては、裁判所が目安となる算定表を公開はしていますが、法律上の決まりはありません。つまり、当事者同士の話し合いによって自由に決めることができます。しかし、投資家の方の場合には、会社員のように安定した収入があるわけではありません。そのため、たまたま利益が出ていた年度の収入を基準に高額な養育費や婚姻費用の金額を決めてしまうと、その後の資産運用の状況によっては、支払いが困難になるということもあります。過去の投資実績も踏まえて、慎重に決めるようにしましょう。

    なお、ベリーベスト法律事務所では、無料で養育費婚姻費用の目安金額を算出できる計算ツールをご用意しています。ぜひ、ご利用ください。

  2. (2)財産分与

    財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して維持・形成した財産を、離婚をする際に清算する制度のことをいいます。投資家の離婚の場合には、財産分与でもめることが多いため、詳しい内容については、後述します。

  3. (3)慰謝料

    離婚に至る経緯に関して、夫婦のどちらかに有責な原因がある場合には、有責配偶者に対して慰謝料を請求することができます。
    有責な事情としては、不貞行為(不倫・浮気)、暴力などが挙げられます。たとえば、単なる性格の不一致が離婚理由の場合には、どちらか一方に非があるというわけではありませんので基本的には慰謝料は発生しません。

    多額の資産を有している側に有責な原因があった場合には、高額な慰謝料を請求されると考える方もいるかもしれません。しかし、慰謝料は、あくまでも精神的苦痛に対する賠償なため、支払能力という面で収入や資産が考慮されることはありえますが、どの程度の苦痛を被ったかが慰謝料算定の基本的な要素となります。

  4. (4)年金分割

    年金分割とは、夫婦が婚姻期間中に支払いをした厚生年金保険料納付記録を分割する制度のことをいいます。公的年金制度は、国民年金と厚生年金の2階建て構造となっていますが、年金分割の対象となるのは、厚生年金部分に限られます。

    投資家の方の場合には、会社員とは異なり厚生年金には基本的には加入していないことが多いので、年金分割の対象となる納付記録が存在していないことが多いです。ただし、長年会社勤めをしていた方については、会社員時代の納付記録が存在している可能性があるでしょう。

3、特に注意するべきは『財産分与』

投資家の方が離婚する場合には、多種多様な財産を保有していることが多いため、特に財産分与に関して注意が必要になります。

  1. (1)財産分与の対象となる財産とは

    財産分与の対象となる財産は、夫婦の協力によって維持・形成された財産です。これを「共有財産」といいます。
    共有財産にあたるかどうかは、当該財産の名義という形式面ではなく、夫婦の協力関係によって維持・形成されたかどうかという実質面で判断することになります。そのため、婚姻期間中に取得した株式や投資不動産などは、原則として財産分与の対象となる共有財産に含まれます。

    これに対して、婚姻前に取得した財産、親からの相続によって得た財産、別居後に取得した財産などは、夫婦の協力とは無関係に取得した財産ですので、固有の財産として、財産分与の対象には含まれません。

  2. (2)財産分与の割合

    財産分与は、財産の維持・形成に対する夫婦の貢献度に応じて共有財産を分ける制度ですが、一般的には、夫婦の貢献度は等しいものと考えられています。そのため、財産分与の割合は「2分の1」となるのが一般的です。

    しかし、投資家の方は、ご自身の特殊な能力や才能によって多額の資産を形成してきたという面がありますので、原則どおりの財産分与割合が妥当しないことが一応ありえます。
    このような場合には、財産分与の際に、財産形成の要因にご自身の特殊な能力や才能が寄与していること、相手の財産形成への貢献度が低いことなどを個別具体的に主張していくことによって、2分の1ルールを修正することができる可能性も一応ありえます。

4、財産の分割方法|有価証券と不動産

財産分与の方法としては、主に現物分割・代償分割・換価分割がありますが、有価証券と不動産については、どの方法を選ぶと良いのでしょうか。

  1. (1)有価証券の分割方法

    投資家の方は、株式、債券、投資信託などの有価証券の配当や売却益などによって運用を行っています。財産分与をする時点が最適な売却時期であるとは限らないため、保有している有価証券は、引き続き保有していたいと考えるのが一般的です。

    そのため、有価証券が財産分与の対象に含まれる場合には、代償分割という方法が選択されることが多いといえます。代償分割とは、対象となる財産を取得する代わりに、相手に対して金銭を支払い、公平な分割を実現する方法をいいます。

    なお、代償分割をする場合には、どの時点の価格を基準にするかを明確にしておかなければトラブルになる可能性があります。特に、有価証券は値動きが激しいものもありますので、夫婦の話し合いでは、評価の基準時も明確に決めておくようにしましょう。

  2. (2)不動産の分割方法

    投資用不動産を保有している場合には、当該不動産取得にあたって金融機関のローンを利用していることがあります。投資用不動産の財産分与にあたっては、そのようなローンを考慮した上で行う必要があります。
    投資用不動産の資産価値がローンの残額を上回る場合には財産分与として分割対象になりますが、ローンの残額を下回る場合には、分与できるプラスの財産がないことになります。

    投資用不動産は、家賃収入などを得る手段として利用することが考えられますので、有価証券と同様に代償分割という方法を選択するのが一般的です。代償分割をする場合、投資用不動産の資産価値からローンの残額を控除したものが、財産分与における投資不動産の評価額になります

    たとえば、1億円の投資用不動産に6000万円のローンがあった場合には、当該不動産の評価額は4000万円になります。つまり、4000万円が財産分与の対象となります。財産分与の割合を2分の1とした場合には、相手に対し代償金として2000万円を支払うことになります。

5、まとめ

投資家の方は、多種多様な財産を保有しているため、配偶者が知らない財産を保有していることがあるかもしれません。しかし、配偶者が知らないからといって財産を隠すなどの行為は、決して得策とはいえないことがあります。
弁護士会照会や調査嘱託といった手続きをとることによって、財産の内容は明らかにされる可能性があり、隠匿が明らかになると不信感を抱かれ、スムーズな話し合いが困難になってしまうこともありえます。

投資家の方の財産は、隠匿という方法ではなく、弁護士による法的なサポートによって守ることができる場合があります。ご自身の資産を少しでも多く残したいという場合には、離婚問題の対応実績が豊富な、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています