DVで離婚する場合に慰謝料請求はできる? 相場や請求時のポイント
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夫婦仲の亀裂の理由が単なる不仲ではなく、配偶者からのDVならば、すぐに解決することは難しく、離婚が頭をよぎるかもしれません。子どもがいる場合は、子どもへの影響も心配でしょう。一方で、DVの被害にあっている方のなかには、自分が悪いと思い込むケースも少なくありません。
仙台市は、同市のホームページの中で「DVチェック 関係を見つめ直してみませんか?」と題して、DVにあたる可能性が高い、さまざまな言動を掲載しています。DVかも……とお悩みの場合は、ぜひ一度思い当たることがないか、チェックすることをおすすめします。
DVの加害者と冷静な話し合いをすることは難しい場合が多く、離婚協議もトラブルになりがちです。また、離婚にあたっては、これまで受けたDVに対して慰謝料を請求したいところですが、相手がすんなりと応じるとは限りません。
本コラムでは、そもそもDVを理由に慰謝料を請求できるのか、DVを原因とする離婚について弁護士に依頼するメリットなどについて、仙台オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、DV(ドメスティック・バイオレンス)による離婚と慰謝料の関係
DVとは、英語のDomestic Violenceの頭文字をとった略語です。配偶者や事実婚の相手など、親しい関係にある人(元配偶者といった過去に親しい関係にあった人も含む)から振るわれる暴力のことを指します。
家庭内におけるDVの典型としては、身体的暴力が挙げられます。殴る、蹴る、髪の毛をつかんで引きずり回す、首を絞めるなどの暴行が行われ、ひどい場合は命に危険が及ぶこともあります。これらの行為は、刑法の暴行罪、傷害罪、傷害致死罪などに該当する可能性もあります。家庭内だからといって、暴力が許される理由にはなり得ません。
しかし、DVは家庭という閉鎖的空間で行われるため、表ざたになりにくい傾向があります。また、DVの被害を受けると、被害者の判断力が衰えてしまい、逃げられない、通報できないといった心理状況に陥ってしまうことも少なくありません。しかし、自分と子どもを守ることは何よりも大事なことです。DV被害にあっている場合は、できるだけ速やかに自分と子どもを守るための行動をとってください。
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(1)DVによる離婚が認められる場合
DVを繰り返す配偶者に離婚を求めても、離婚に応じてもらえない場合があります。むしろ、離婚を言い出したことで、暴力が激化するおそれも考えられます。しかし、暴力をおそれて離婚を引き延ばしても、事態は改善しません。
相手が離婚を拒んでいる場合でも、婚姻を継続し難い重大な事由があれば、裁判上の離婚が認められることとなります。そのため、DVを原因として離婚を認めてもらうためには、DVにより、婚姻関係が客観的に見て修復困難な状態にあることを具体的に主張し、婚姻を継続し難い重大な事由があることを証明する必要があります。
なお、加害者による暴行は、配偶者に対するものだけではなく、子どもに対するものや、虐待の場合も含み、それらの暴行により、婚姻を継続し難い重大な事由があると認められれば、裁判上の離婚が認められます。 -
(2)DVによる慰謝料請求
DVは、相手の身体に対する加害行為であり、民法上の不法行為(民法第709条)に該当します。したがって、DVを受けた場合は、加害者に対する慰謝料請求権を有することになります。相手に慰謝料を請求するためには、DVを受けていたことを客観的に示す証拠が必要になります。
2、DVによる慰謝料の相場とは?
DV被害による慰謝料額は、怪我や後遺症などの重さの影響を受けます。
慰謝料額の相場は一般に50万円~300万円ともいわれており、具体的事情によって、大きな幅があります。
では具体的にどのような事情によって、慰謝料額が左右されるのでしょうか。
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(1)DVの程度や期間
具体的なDVの内容や被害を受けていた期間は、金額を決める上で重要な要素になります。
DVと一言でいっても、顔を殴られたのか、妊娠中におなかを殴られたのか、また、手のひらでたたかれたのか握りこぶしで殴られたのか、あるいは、瓶などの物を使って殴られたのかなど、その態様には違いがあります。基本的には、受けた暴力の内容が重く、期間が長いほど、慰謝料額は増える傾向にあります。 -
(2)後遺症がある場合
単に暴行を受けただけでなく、暴行により次に挙げるような後遺症がある場合は、慰謝料額に影響します。
- 顔に消えない傷跡が残った
- 手首を骨折して、手首の可動域に制限が残った
- 手足にやけどの跡が残った
- PTSDを発症した
こうした症状の程度が大きければ大きいほど、その後の生活に及ぼす影響も大きくなります。したがって、慰謝料額が増額される原因になります。
骨折等によって重大な後遺症が生じたときは、交通事故における損害算定の基準と同様の基準が用いられることによって損害額が追加される場合があるため、上記慰謝料額の相場の上限額である300万円を超える金額も見込めます。 -
(3)加害者の暴力が原因で婚姻が破綻し、離婚に至った場合
婚姻関係が破綻に至った直接的な原因が加害者によるDVにある場合には、暴行を原因とする慰謝料に追加して、暴行が原因となって離婚に至ったことについて、離婚自体の慰謝料が認められる場合があります。
その場合、上記慰謝料額の相場の上限額である300万円を超えて400万円を認めた裁判例もあります。
3、慰謝料請求には証拠が重要
前述したように、DV被害者は慰謝料を請求する権利があります。しかし、実際に慰謝料を請求するには、証拠が不可欠です。暴行と怪我、そして、後遺症がある場合は暴行と後遺症との因果関係まで、ひとつひとつについて証明する必要があります。では、具体的にどのような物が証拠になり得るのかを確認していきましょう。
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(1)診断書や医療機関の領収書
暴力の証拠として、診断書は重要な決め手です。周囲にDVがバレることをおそれて、治療に行くことをためらうかもしれませんが、暴行によって怪我をしたり精神疾患に陥ったりしている場合には我慢せずに、できるだけ早く病院に行って診察を受け、診断書をもらいましょう。病院では、自分で転んで怪我をしたなどと申告してしまうケースもありますが、正直に話すことが大切です。配偶者から暴力を受けたことを具体的に説明して、カルテや診断書に記録してもらうことで、後々、重要な証拠となります。
DVにより怪我をした場合の診断書には、主訴として、暴力を振るわれたことが原因であることを書いてもらえる場合もあるので、医師に確認してみましょう。
その他に、うつ病などの精神疾患の場合の診断書で、かつ、子どもがいる場合には、後の親権者指定の争いに備えて、精神疾患はあるが、家事や育児には支障がないことを書いてほしいと、医師に依頼しましょう。 -
(2)DVを記録した日記やメモ
仮に加害者が暴力を振るったことを認めたとしても、被害者が先に手を出したから、防御のために行ったとか、被害者とされている方が、DVの被害者を装うために、わざと加害者に手を出させるような挑発行動をしたからであるといった反論がなされることがあります。
そのため、暴力を受けたら、できるだけその状況をメモなどに残しておいてください。手書きの日記やメモでもいいですし、アプリ日記などでも構いません。
日記やメモは、後からでも作成できるので、写真や診断書に比べると証拠価値が低くなりがちです。日記やメモの証拠価値を高めるポイントは、できるだけ毎日続けて記録することです。特に何もなかった日でも記録に残すことで、DVを受けた日の記録も信頼性が高まります。できるだけ継続してみてください。 -
(3)怪我の写真
DVを受けた後の身体の状態を、写真に撮っておきましょう。すぐに消えてしまうような皮膚の赤みでも、写真であれば残すことができます。また、しばらくたってから悪化するような内出血や腫れなどは、経過がわかるように、時間をおいて何枚も写真を撮ってください。
撮影のポイントは、自分の顔や身体全体の写真も合わせて撮ることです。第三者が見ても、誰がどこに怪我をしているのか客観的に特定できるように撮影しましょう。
なお、写真だけではどこで怪我をしたのか不明であるため、完全な証拠とはいい切れませんが、その日に病院に行って診断書をもらい、暴行を受けた経緯についても日記につけておけば、全体として一貫性のある証拠になり得ます。 -
(4)DVを記録した録音や録画
DVを受けている現場を録音、録画できれば大きな証拠になります。スマートフォンなどを利用する、小さなICレコーダーで録音するなどの方法が有効です。
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(5)暴言や暴力についてやりとりしたメールやメッセージ
配偶者とのメールやLINEなどのやりとりをつなげると、暴行を受けたことの間接証拠になる可能性もあります。ただし、相手から暴行に関する内容の連絡をしてきたり謝罪してきたりすることは少ないはずです。この場合は、あえて被害者側から暴力についてたずねるなどして、やりとりが残るようにすると証拠価値が高くなる可能性があります。
たとえば、妻から「もう殴らないでほしい」とメッセージをし、これに対して夫が「お前が部屋を片付けないからだ」などと返信すれば、夫が暴力を認めていることが客観的にわかります。
なお、LINEなどのメッセージは消されてしまうこともあるので、スマートフォンの画面をスクリーンショットで残しておくようにしましょう。 -
(6)暴力で荒れた家の中を撮影した写真
DVの際に、暴行によって家の中が荒れることがあります。たとえば、物を投げつけたときにその物が散乱している状況、壁を殴った際に壁に穴が開いた状況などです。こうした状況は暴力を示す証拠となり得るので、片付ける前に、その都度写真を撮っておくようにしましょう。
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(7)相談した第三者へのメールや証言
DVについて、知人や家族に相談していた場合、その相談の記録が証拠になる可能性があります。メールなどであれば日付も残るので、偽造できないという意味で有力な証拠となり得ます。また、訴訟になった場合は、事情を知っている知人などに証言をしてもらうことも検討しましょう。
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(8)保護命令事件の記録
配偶者からの暴力により、生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認められる場合には、被害者の申し立てによって、地方裁判所から保護命令が発令されます。
被害者がこうした保護命令事件の記録を証拠として提出すれば、裁判所の認定判断が示されているだけに、暴力の有力な証拠となります。
4、離婚と慰謝料請求の進め方
DVの被害者が慰謝料を請求する場合、どのような流れで進めていけばよいのでしょうか。DVによる慰謝料請求の流れをご説明します。
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(1)証拠を集める
前章で解説したとおり、DVによる被害で慰謝料を請求するためには、何よりもDVの証拠を集めることがポイントです。DVは、第三者の目が届きにくい家庭内でひそかに行われる点に特徴があります。そのため、客観的な証拠がなければDVを立証することは極めて困難です。DVの加害者が自らDVを認めることは期待できませんので、つらい作業ですが、被害者自身で証拠を集める必要があるのです。
DVの立証は慰謝料請求のためにも重要ですが、離婚を認めてもらうためにも重要です。DVの加害者は離婚を拒否することも多いため、当事者のみでの話し合いでは離婚が成立せず、調停や訴訟に発展する可能性が高くなりますが、DVの証拠があれば、離婚を認めてもらえる可能性が高まります。
そのため、証拠はできるだけ多く集めておくことが大切です。 -
(2)保護命令の申し立てをする
DV事案では、別居をしたとしても、配偶者が相手の家を探し出して暴力を振るうなどのおそれもあります。身の危険を感じる場合には、「保護命令」を申し立てましょう。
保護命令とは、DVの加害者が被害者に対して接近することを禁止したり、面会の要求、無言電話、連続してのメールや電話などの行為を禁止したりする命令などをいいます。相手が保護命令に違反した場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金刑という刑事罰が科されます。
保護命令が認められるためには、まずは事前に警察や配偶者暴力相談支援センターに相談をしておくことが必要です。また、申し立ては家庭裁判所ではなく、地方裁判所に申立書を提出し、裁判官の面接も受けなければなりません。自分ですべての対応をすることに不安がある方は、弁護士に相談するとよいでしょう。
身の安全をしっかりと確保した上で、落ち着いて離婚と慰謝料請求を進めることが得策です。 -
(3)交渉を行う
別居や保護命令などによって身の安全を確保したら、慰謝料の請求と合わせて、離婚を求める書面を送りましょう。裁判所のホームページに調停申立書の書式があるので、その書式に従って記載します。
避難先を加害者に隠している場合、申立書の当事者欄の住所には、住民票を移動していなければ住民票の住所、加害者と同居していた住所等、加害者に知らせても問題のない住所を記載しましょう。
とはいえ、請求だけでスムーズに話が進むことはなかなか期待できません。自分で交渉するのは大変難しいケースですので、弁護士に依頼して、代理人として交渉を進めてもらう方が安心です。弁護士が代理人となれば、連絡先等の届出書に弁護士事務所の住所を記載すればよく、窓口はすべて弁護士になります。したがって、暴力を振るう配偶者とは一切連絡をとらずに話し合いを進めることができます。
この時点で、相手と合意ができれば「協議離婚書」を作成し、離婚届を提出することで離婚は成立します。慰謝料や養育費などの支払いについては、強制執行認諾文言付きの公正証書で残しておくことが重要です。 -
(4)離婚調停を申し立てる
DV案件では、加害者側が離婚を強く拒むだけではなく、慰謝料請求に納得しないために、協議が止まるケースも少なくありません。その場合は、離婚調停を申し立てて、話し合いの舞台を家庭裁判所に移すことになります。
離婚調停では、主として家庭裁判所の裁判官と調停委員から組織される調停委員会が間に入って話し合いを進めます。離婚や慰謝料の条件で双方の合意ができた場合は調停成立となり、裁判所によって「調停調書」が作成され、離婚が成立します。
なお、調停では妻と夫が顔を合わせることは基本的にはありません。特にDV事案の場合は、家庭裁判所により妻と夫が顔を合わせないように呼び出し時間をずらす等の配慮がなされるので、安心して調停に臨むことができるでしょう。 -
(5)離婚裁判を提起する
調停でも、離婚、離婚条件、慰謝料額で合意できない場合には、離婚裁判によって離婚を認めてもらう必要があります。裁判は法的な手続きですので、提出する書面や証拠の形式も、すべて決まりがあります。表現の仕方や証拠の出し方ひとつで有利にも不利にもなり得るため、弁護士に依頼して進めていく方がよいでしょう。
裁判で勝訴すれば、離婚が成立するだけではなく、慰謝料請求も認められます。DVを原因として離婚と慰謝料が両方とも認められれば、慰謝料額の増額が見込めるでしょう。協議離婚や調停離婚とは異なり、最終的な判断は裁判官によって行われます。そのため、有利な結果を得るためには、主張立証は全力を尽くすべきといえます。
5、まとめ
DV被害から逃れることができれば、暴力のない生活にほっとしながらも、今後のことや離婚問題に頭を悩ませることになるでしょう。DVの加害者は、自らの行為を認めないことが多く、離婚、慰謝料の請求となると、とても難航することが予想されます。しかし、DVのない新しい人生を送るためにも、離婚を成立させ、これまで苦しんできた分の慰謝料をしっかりと請求したいところです。
有利な証拠を集め、法的な手続きを進めるためには、ぜひ弁護士にご相談ください。ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスでは、離婚問題の対応実績が豊富な弁護士が、しっかりとお話を伺った上で離婚成立まで徹底的にサポートします。女性弁護士も在籍しておりますので、女性視点でのアドバイスやサポートも可能です。
DV被害にあっている方は、心身ともに非常に困難な状況に置かれています。おひとりで悩まず、まずはご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています