養育費の不払いを自治体が立て替え・回収してくれる? 制度の概要とは
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離婚に際して取り決めをしたにもかかわらず養育費を支払わない親が多いという問題は、すでにさまざまなメディアで紹介されてきました。平成28年度の全国ひとり親世帯等調査では、離婚後に養育費を受け取っている母親の割合がわずか24.3%という驚くべき数字が明らかとなり、養育費のあり方について見直しが強化されています。そこで仙台市では、養育費補償契約保証料補助制度を設け、保証会社による養育費保証契約の利用を支援しています。
養育費の不払いは、子どもを養育していく監護親にとって切実な問題です。離婚に向けて話し合いを進める中で養育費について合意がとれたとしても、離婚成立後に養育費の不払いが起きるのではと不安を感じている方は少なくありません。
そこで本コラムでは、養育費の立て替えや保証会社を利用した際の補助、養育費の不払いトラブルを未然に防ぐための対策について、仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、「養育費」とは?
まずは「養育費」がどのようなものなのかについて正しく理解しておきましょう。
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(1)「子どもの養育に必要な費用」という性格をもつ
未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、必ずどちらか一方が親権をもつことになります。基本的に親権をもって子どもを育てる親を監護親、親権をもたず子どもの養育から離れた親を非監護親といいます。そして、監護親は子どもを一定の年齢まで養育するための費用を非監護親に請求できます。これが「養育費」です。
養育費は「子どもの養育に必要な費用」という性格をもつものですが、最低限の生活ができる程度では足りません。非監護親の生活水準と同等の生活が送られるように支払う義務があります。したがって、そもそも「生活費が足りないので支払えない」「別れた元配偶者にお金を払いたくない」「子どもと会えないから払いたくない」といった理屈は通常通用しないものです。 -
(2)養育費は子どもの権利で親の義務
「養育費を請求する」といった会話がごく一般的に存在しているため、養育費のことを「監護親が受け取る生活費」のように考えている方も少なくありませんが、これは間違いです。養育費を受け取る権利は、養育を受ける子どもにあります。
夫婦は離婚してしまえば他人です。一方が配偶者を扶養していた場合、離婚によって扶養の義務もなくなります。しかし、血縁関係がある子どもを養育する義務は消えません。
たとえ離婚して別々に生活することになったとしても、非監護親は親が子どもに果たす責任として、養育費の支払い義務を免れないのです。これは、たとえ両親の間で「養育費は不要」という取り決めがあったとしても、子どもが養育費を請求できるという点からも理解できるでしょう。 -
(3)養育費を決める基準や方法
養育費は、監護親と非監護親の基礎収入、子どもの人数、最低生活費、負担能力を基準に決めます。また、子どもが何歳になるまで支払うのかも明確に定めることになります。
一般的には18~20歳までの間を期限にしますが、大学卒業を基準に22歳までとすることも可能です。子どもに何らかの障害がある場合は、さらに長期間支払う必要があることも考えられるでしょう。
養育費の金額については、前述のとおり監護親と非監護親の年収や子どもの年齢によって異なります。裁判を通じて決定する場合は、これまでの統計数値を活用して標準的な金額を算出する「養育費算定表」が用いられ、金額を決定することが一般的です。
具体的な相場をあらかじめ確認したいときは、ベリーベスト法律事務所が提供している「養育費算定ツール」をご活用ください。
▼養育費計算ツール
2、養育費の立て替え制度を導入した自治体
養育費の不払いが大きな問題として取りあげられるなか、仙台市では、保証会社が提供する立て替え制度を利用する際、支払う必要がある保証料を援助する取り組みを行っています。また、全国的にみると、養育費の立て替え制度の導入を行っている自治体もあります。
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(1)自治体による立て替え・回収は明石市が全国初
明石市は、平成30年から「明石市養育費立替パイロット事業」を展開していました。明石市が業務を委託した保証会社とひとり親家庭が保証契約を結び、養育費の不払いがあった場合は保証会社が立て替えて、別居している親から回収するという内容です。
明石市による不払い養育費の立て替え・回収のほか、支払い能力があるのに市からの督促や命令に従わなかった場合には氏名の公表も行うことも検討されています。条例案の提出は令和2年12月とされており、将来は全国的な広がりを見せる可能性があります。 -
(2)保証会社への保証料を補助する自治体
明石市のパイロット事業と同様に、保証会社に支払う保証料を補助する自治体も登場しています。東京都や大阪府でも実施される予定ですが、ここ仙台ではすでに導入されています。
本制度は、債務名義化されている養育費に限り、保証会社と1年以上の養育費保証契約を取り交わす際に必要な保証料を補助してくれるというものです。
そもそも、養育費保証契約とは、養育費の支払いが滞ったとき、契約した保証会社が養育費を立て替えてくれる契約を指します。保証会社によって一定の条件があるため利用する際に確認しておく必要があるでしょう。
3、養育費の立て替え制度を利用するために必要な書類
仙台市が公表する、養育費保証契約保証料補助制度を利用する際には、複数の要件をすべて満たす必要があります。
必ず必要な書類としては、仙台市が提供する申請書のほか、戸籍、住民票、児童扶養低宛て証書、債務名義化されている養育費であることがわかる書類、および保証契約の内容や額が確認できる書類です。
仙台市による養育費保証契約立て替え制度の利用を検討しているのであれば、協議離婚の場合であっても養育費をはじめとしたとり決め内容を、強制執行認諾条項を付けた公正証書にしておく必要があります。
債務名義化された書類とは、強制執行によって実現されることが予想される請求権の存在・範囲・債権者・債務者を明らかにしたものを指します。具体的には確定判決・強制執行認諾約款付公正証書・調停調書などが該当するでしょう。
協議離婚において双方が納得のうえで交わしたにすぎない離婚協議書や覚書・念書などでは強制執行の根拠になり得ないため注意が必要です。
なお、実際に制度を利用するにあたっては、仙台市のホームページや問い合わせ窓口で、最新の情報を確認するようにしてください。
4、養育費の不払い対策は弁護士に相談を
確実に制度を利用したい、養育費の未払いを避けたいとお考えであれば、弁護士に相談することをおすすめします。
なぜなら前述のとおり、仙台市において立て替え・回収制度が導入されたとしても、申請に必要な書類として債務名義化された文書が必要となります。
また、他地域にお住まいの方で、制度そのものがなかったとしても、改正民事訴訟法が令和2年4月に執行されました。万が一、養育費の不払いが起きたうえ、相手が勤務する会社や通帳が特定できないときでも、強制執行認諾条項を入れた公正証書を作成しておけば、よりスムーズに強制執行を行える可能性が高くなったのです。
つまり、最低でも離婚協議書に強制執行認諾条項を盛り込んだうえで公正証書化する必要があるということです。
協議離婚であっても、離婚協議書の作成や公正証書化に向けた弁護士のアドバイスやサポートがあった方が、より適切な文書を作成することができるでしょう。
公正証書の作成を拒まれたときは、離婚調停を行うことで、話し合いを通じて約束した内容を盛り込んだ調停調書を作成してもらえます。調停調書も、法で定められた「債務名義化された文書」の一種となりますし、最終的に裁判離婚となった場合に発行される判決書も「債務名義化された文書」です。
どのようなケースにおいても、離婚・養育費に関するトラブルの知見を豊富にもつ弁護士のサポートがあれば、代理人として裁判所の手続きを一任できます。また、離婚に際して弁護士のサポートがあれば、養育費の算定においても有利な条件を引き出せる可能性も高めることができます。
5、まとめ
養育費の不払いが大きな問題となっているなかで、ついに全国初となる自治体による立て替え・回収制度が導入されています。
ただし、養育費の立て替え・回収制度を利用する場合は、離婚の際の取り決めが債務名義を有している必要があります。双方が合意のうえ作成した離婚協議書だけでは、制度を利用することはできません。必ず、強制執行認諾条項を盛り込んだ公正証書にした文書や調停調書、訴訟による確定判決など、債務名義化をしておく必要があるでしょう。適切な書類を作成したいとお考えであれば、弁護士に依頼してサポートを受けることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスでは、離婚トラブルや養育費の支払いトラブル対応の知見が豊富な弁護士が、養育費の不払いにお悩みの方を全力でバックアップします。
養育費の立て替え・回収制度の利用に向けた具体的なアドバイスや、必要な書類・資料を集めるなどの手続き、離婚に際しての養育費の取り決めや離婚協議書の公正証書化、代理人として配偶者との交渉を進めるなどのサポートが可能です。
おひとりで悩まず、お気軽にご相談ください。
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