駅員とのトラブルで暴力をふるったら暴行罪? 傷害罪? 弁護士が解説
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東北地方最大の都市である仙台市は、仙台駅を中心としてJR東日本の東北本線・常磐線・仙台空港アクセス線・仙山線・仙石線・仙石東北ライン、仙台市地下鉄の南北線・東西線による鉄道網が敷かれています。
1日の乗車数が9万人を超える仙台駅では、盗難、痴漢など、さまざまなトラブルが発生しますが、暴行事件に発展するトラブルも少なからず存在しています。
駅の構内では、駅員は鉄道の運行だけでなく駅構内の保安業務も任務としているため、不審者の発見時やトラブル発生時には、ある程度の実力行使に出ることがあります。駅員ともみ合いになり、駅員に対して暴力をふるってしまう事態に発展することも考えられるでしょう。
もし、駅員に対して暴力をふるってしまった場合、どのような罪に問われるのでしょうか?
逮捕された場合、どのような流れで刑事手続きを受けることになるのでしょう?
ここでは「駅員に対する暴力」を軸に、どのような刑事責任が発生するのか、解決方法はあるのかなどについて、仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、駅員への暴力はどのような犯罪になるのか?
まずは、駅員に対して暴力をふるってしまった場合、どのような犯罪が成立するのかを確認しておきましょう。
ここでいう「駅員」とは、鉄道の運行などに関する業務に従事している人を指します。
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(1)暴行罪にあたるケース
駅員に対して殴る・蹴るなどの暴力をふるえば、刑法第208条の「暴行罪」が成立しえます。
暴行罪は「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立します。
暴行罪における「暴行」とは、「人の身体に対し不法に有形力を行使すること」と定義されていますが、その範囲は非常に広く、例えば次のような行為も暴行にあたりえます。- 髪の毛を引っ張る
- 衣服の襟首をつかむ
- 背中を突いて押し倒す
- 物を投げつける
暴行罪が成立した場合、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料の刑罰が科せられます。
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(2)傷害罪にあたるケース
駅員に対して暴力をふるった結果、相手がケガをしてしまった場合は、刑法第204条の「傷害罪」に問われることがあります。
傷害罪は故意に、つまり「わざと」暴力をふるった結果として相手にケガを負わせた場合に成立するため、故意のない行為によってケガを生じさせても傷害罪は成立しません。
また、単に暴行の故意しかなく、相手にケガを負わせるつもりがなかったとしても、暴行によって現に相手方がケガをしてしまった場合には、傷害罪が成立しえます。
傷害罪の規定においては「人の身体を傷害した者」とされるのみで、ケガの程度までは触れられていませんが、ここにいう「傷害」とは、「他人の身体の生理機能を毀損する」ことをいい、すり傷や打撲程度のごく軽いケガでも傷害罪が成立する可能性があります。
傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
暴行罪と比べると、非常に重たい刑罰に処されるという点に留意するべきでしょう。 -
(3)強盗罪にあたるケース
駅員に暴力をふるった状況によっては、刑法第236条の「強盗罪」が成立することがあります。
強盗罪といえば、銀行やコンビニエンスストアに押し入って金銭を要求する手口のものを想像する方が多いでしょう。ところが、刑法第236条2項では「(暴行または脅迫を用いて)財産上不法の利益を得た者」も強盗罪となることが規定されています。
たとえば、鉄道の無賃乗車が発覚して、支払いを免れるために駅員に暴行を加えた場合は、強盗罪に問われることがあります。
強盗罪には、5年以上の有期懲役という非常に重たい刑罰が科せられます。
ですから有罪判決が下されると、法律上刑を軽減すべき事由がない限り、執行猶予はつかないことになります。 -
(4)公務執行妨害罪にあたるケース
駅員に対する暴力が、刑法第95条1項の「公務執行妨害罪」にあたるケースがあります。
公務執行妨害罪といえば、警察官に抵抗して暴力をふるった場合などを想像するので、意外に感じる方も多いかもしれません。
鉄道には、JR・私鉄各線をはじめとした民営の鉄道会社と、自治体が運営している公営鉄道とがあります。公営鉄道の駅員は自治体に雇用された公務員なので、業務中の公営鉄道の駅員に対して暴力を加えると「公務を妨害した」とみなされて、公務執行妨害罪が成立することがあるのです。
仙台市内でみると、仙台市が運営している仙台市地下鉄などです。仙台市地下鉄の駅員に対して暴力を加えた場合などは、公務執行妨害罪が成立するおそれがあります。
公務執行妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。
2、暴言を吐くだけでも犯罪になる?
駅員とトラブルになりつつも「暴力をふるってしまえば犯罪になる」と思い、口頭で文句を言うだけにとどめることもあるでしょう。
ところが、度が過ぎた乱暴な言動をすると、たとえ直接的な暴力をふるっていない場合でも犯罪になってしまうことがあります。
まず考えられるのが「軽犯罪法」の違反です。
軽犯罪法第1条5号では、公共の場所において著しく粗野または乱暴な言動で迷惑をかけた者を処罰の対象としています。駅員やほかの利用客に対して、大声でわめき散らすなどの行為があれば、軽犯罪法に問われることがあります。
軽犯罪法第1条の違反には、刑罰としては軽い「拘留または科料」が科せられます。しかし、たとえ刑罰としては軽いといっても、軽視するべきではないでしょう。
駅員に対してしつこくからみ、暴言を吐くなどの行為を繰り返していると、刑法第234条に規定されている「威力業務妨害罪」などに問われるおそれもあります。
駅員の業務を妨害するに足りる程度の暴言を吐き続けると、実際に業務に支障がなかったとしても、同罪が成立しえます。
このように考えると、単純に「暴力をふるった」という事実がない場合でも、駅構内などで乱暴な言動をしていれば何らかの犯罪が成立してしまうおそれがあるといえます。
駅員の身体や安全を保護することを重視しているのではなく、鉄道の運営・運行や鉄道利用者の安全が重視されていると考えれば、当然に理解できるでしょう。
3、駅員への暴力で逮捕された場合の刑事手続きの流れ
駅員に暴力をふるってしまい逮捕された場合は、どのような刑事手続きを受けるのでしょうか?
駅員に対する暴行などの事件は、逮捕状を必要としない現行犯逮捕によって身柄が確保されることも多いでしょう。現行犯逮捕は、警察官ではない私人でも可能です。私人とは、公的な地位や立場を離れた一個人、すなわち一般の人を指します。暴力をふるい、周囲の駅員や乗客によって取り押さえられた場合は、私人による現行犯逮捕を受けたことになります。
また、通報を受けた警察官が現場に到着した際も、事件発生から時間が経っていなければ現行犯逮捕されるケースがあるでしょう。
逮捕されると、警察署での取り調べを受けたのち、逮捕から48時間以内に検察官へ送致されます。送致を受けた検察官は、さらに取り調べをおこない、24時間以内に勾留請求するか否かを判断します。
捜査が不十分で起訴・釈放の判断をしかねる場合など多くの場合、検察官は裁判官に対して勾留請求をおこない身柄拘束の延長を申請します。これが認められると、原則10日間、最長で20日間の身柄拘束が続きます。この間、身柄は警察署に戻されてさらに詳しい取り調べを受けることになります。
検察官は、勾留期間が満期を迎える日までに基本的に起訴・不起訴を判断します。
刑事裁判で責任を問う必要があると判断されれば起訴され、被告人として刑事裁判を受けることになり、不起訴処分となれば釈放されます。
暴行・傷害事件では、疑われた事実が争われない場合に、略式起訴によって処分が下されることがあります。正式な刑事裁判では判決までに数か月の時間がかかりますが、略式起訴を受けた場合は、罰金を支払い、釈放されます。
4、逮捕されたらまずは弁護士に相談を
駅員に暴力をふるって逮捕された、あるいは家族が駅員に対する暴行などの事件を起こして逮捕されてしまったという場合、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
暴行・傷害などの事件で早期の身柄釈放や刑罰の軽減を実現するためにもっとも有効なのは「示談」の成立です。
被害者と加害者側による話し合いの場を設けて、被害について誠実に謝罪し、慰謝料を含めた示談金を支払うことで、被害届を取り下げてもらいます。
示談が成立して被害届が取り下げられれば、釈放や不起訴処分が期待できます。
被害者との示談は、加害者自身やその家族だけで進めるのは困難でしょう。
駅員に対する暴行・傷害事件になった場合、鉄道会社の方針も加わるため、示談は難航することが予想されます。刑事事件の解決実績が豊富な弁護士に依頼して、示談成立を目指すのが賢明です。
しかし、下記のケースにおいては、示談による解決が難しくなります。
- 鉄道会社の規則で被害届の提出が定められている場合
- 強盗・公務執行妨害事件にあたる場合
- 駅員が公務員だった場合
まず、鉄道会社の規則で被害届の提出が定められている場合、これが会社の方針であるため、示談交渉に応じてもらえる可能性は低くなります。また、交渉に応じてもらえるとしても、その交渉期間は長くなりがちです。
強盗・公務執行妨害にあたる場合も、前述のとおり、示談交渉は難航します。示談交渉自体応じてもらえない可能性が非常に高いですし、公務執行妨害は、特定の被害者というものが観念されていない罪なのです。
駅員が公務員である場合には、示談交渉に応じてもらえない可能性が非常に高いといえます。
このようなケースでは、弁護士が検察官と話をして、何とか不起訴処分の獲得を目指しますが、難しいことが多いでしょう。
5、まとめ
ついカッとなってしまい、駅員とトラブルになって暴力をふるってしまった場合、暴行罪や傷害罪に問われるだけでなく、場合によってはさらに刑罰が重たい強盗罪や、公務執行妨害罪に問われるおそれがあります。
逮捕されて有罪判決を受けてしまえば、前科がついてしまうだけでなく、社会生活への復帰も難しくなることは明白です。弁護士に相談して、早急に被害者との示談交渉などを進めましょう。
公務執行妨害罪のように示談が難しいケースでも、弁護士の活動があれば、不起訴処分や刑罰の軽減が期待できることもあります。
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