令和3年(2021年)成立|改正ストーカー規制法ではGPS悪用も規制対象

2021年09月13日
  • 性・風俗事件
  • 改正ストーカー規制法
令和3年(2021年)成立|改正ストーカー規制法ではGPS悪用も規制対象

宮城県警察が公表している「ストーカー対策推進状況」によると、令和2年中に受理した相談件数は733件で、ストーカー規制法やその他の法令によって検挙された件数は合計で67件にのぼります。ストーカー被害の相談件数は、平成24年から高水準で推移しており、若干の増減はあるものの全国で年間2万件を超えているのが現状です。

ストーカー行為に対する法規制は、重大事件の発生や生活に密接するツールの変化を受けて平成25年(2013年)・平成28年(2016年)の二度にわたって改正されてきましたが、令和3年(2021年)には三度目となる改正が成立し、規制行為が拡大されました。令和3年6月15日に一部が施行、同年8月26日に全面的に施行されています。

本コラムでは、最新となる令和3年(2021年)に成立した、改正ストーカー規制法の概要について、仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、ストーカー規制法とは?

悪質なストーカー行為は「ストーカー行為等の規制等に関する法律(通称:ストーカー規制法)」によって規制されます。
ストーカー規制法は、悪質なストーカー行為を処罰するために必要な規制を明確化するとともに、被害者に対する援助措置などを定めることで、個人の身体・自由・名誉に対する危害を防止し、国民の生活の安全と平穏に資することを目的としています。

どのような行為を規制・処罰するのか、という刑罰法令の性格をもっているとともに、被害者をどのように援助するのか、という保護対策の性格もあわせもつ法律です。

2、令和3年(2021年)|改正ストーカー規制法の概要

ストーカー規制法は、これまでにも二度の改正が実施されています。
これらの改正の背景には、従前の規制内容では新たに登場した電子メール・SNSなどによるつきまといなどに対応できなくなったという事情がありました。

令和3年には三度目となる改正が施行され、新たに次の3つの行為が規制対象に加えられています。

  1. (1)実際にいる場所における見張りなど

    従来は、自宅・勤務先・学校といった対象者が『通常いる場所』における見張りなどの行為が規制対象でしたが、新たに対象者が『実際にいる場所』における見張りなどの行為も規制の対象に追加されました。外出先で偶然立ち寄った店舗、旅行先のホテルといった場所における見張りなどの行為もつきまとい等として規制を受けます。

    この改正によって、インターネット・SNSなどの情報を頼りに、対象者が訪れる予定の場所へと加害者が先回りして押しかけるといったケースにも、ストーカー規制法が適用されることになりました。

    同改正は、令和3年6月15日に先行して施行されており、同年6月30日には、駅で女性を見張った男が兵庫県警に逮捕されています。

  2. (2)拒まれたにもかかわらず連続して文書を送る行為

    電話・FAX・電子メール・SNSやブログなどでメッセージを伝える行為に加えて、拒まれたにもかかわらず連続して『文書を送る行為』も規制対象に追加されました。

    『文書を送る行為』は、ストーカー事案における典型的な行為でありながらも、これまでは「つきまとい等」として規制されていなかったため、一方的に好意を伝える手紙や対象の個人情報を記載した文書の送付・投函(とうかん)を処罰できませんでした。

    文書とは、文字・記号で人の思想を表示したものを指すと解釈するのが一般的です。ただし、白紙・写真などでも相手を不安に陥れるおそれがあるほか、転送を前提として空の封筒にGPS機器を入れて送付し住所を調べる、宅配便を送り受領通知を受けることで行動を把握するといったケースも想定されているため、非常に広い範囲で適用されると考えられます。

    同改正も、令和3年6月15日付けで、先行して施行されています。

  3. (3)GPS機器などを用いた位置情報の無承諾取得など

    対象者の承諾なしに、GPS機器などの『位置情報記録・送信装置の位置情報を取得する行為』や、『これらの装置を取り付ける行為』が規制対象に追加されました。

    これにより、対象者の自動車にひそかにGPS機器を取り付けて、取り付けたGPS機器から位置情報を取得するといった行為は処罰の対象となります。

    今回の改正では、主にGPS機器を想定しながらも、あえて『位置情報記録・送信装置』と表現しています。これは、新たな技術の開発などによって規制対象外となる行為が登場する事態を回避するためです。

    GPS機器などを用いた、位置情報の無承諾取得などの行為に関する改正は、令和3年8月26日に施行されました。

3、ストーカー規制法で規制される行為

ストーカー規制法によって処罰されるのは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれらが満たされなかったことに対する怨恨(えんこん)の感情を充足する目的で、「つきまとい等」にあたる8類型の行為と新たに規制対象となった「位置情報無承諾取得等」をについて、特定の者に対して反復しておこない「ストーカー行為」となった場合です。

「位置情報無承諾取得等」で規制されるのは、前述したとおり、位置情報記録・送信装置の位置情報を取得する行為や、これらの装置を取り付ける行為などです。

ここでは、「つきまとい等」で規制される8種型の具体的な行為について解説します。
なお、次にあげる8類型のうち(1)から(5)については、身体の安全・住居等の平穏もしくは名誉が害され、または行動の自由が著しく制限される不安を覚えさせるような方法によって反復しておこなわれた場合に限り、ストーカー行為となります。

  1. (1)つきまとい・待ち伏せなど

    自宅を出発したところから尾行する、会社の通用口近くで待ち伏せする、自宅や勤務先などに押しかけるといった行為です。令和3年の改正によって、さらに対象者が『実際にいる場所』におけるつきまとい・待ち伏せなども規制対象に追加されています。

  2. (2)監視している(監視していると思わせる)ことを告げるなど

    帰宅にあわせて電話をかけて「帰ってきたね」などと伝える、特定の日の服装や訪問先などをメールで告げるなどの行為で、常時監視しているように感じさせる行為が該当します。

  3. (3)面会・交際のほか、義務のないことをおこなうように要求する

    「会ってほしい」「復縁したい」など、拒絶されたにもかかわらず面会や交際を要求し続ける行為が該当します。

  4. (4)著しく粗野または乱暴な言動

    対象者の自宅付近で大声を出して怒鳴る、車のクラクションを鳴らし続けるといった行為が該当します。

  5. (5)電話・メール・SNS・文書などによる連続した連絡

    何度も無言電話をかける、明確に拒絶されたにもかかわらず何度も電話・メール・SNSのメッセージ機能などを使って連絡する行為を指します。
    今回の改正では、新たに文書の送付も規制対象に含まれました。

  6. (6)汚物などを送りつける

    動物の死骸などの汚物を宅配便で送付する、自宅の玄関先に置き去りにするといった行為です。

  7. (7)名誉を傷つける

    対象者の社会的名誉を傷つける内容のビラを作成して、自宅・会社の近辺に掲示する、SNSで誹謗中傷にあたる投稿を繰り返すといった行為が該当します。

  8. (8)性的しゅう恥心を害する

    わいせつな写真や画像を送りつける、電話やメールなどで卑わいな言葉を投げかけるといった行為が該当します。

4、ストーカー行為に対する罰則

「つきまとい等」を繰り返して「ストーカー行為」をはたらいた場合は、ストーカー規制法に基づいて処罰されます。

  1. (1)ストーカー行為への罰則

    ストーカー行為をした者には、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科せられます(ストーカー規制法第18条)。

  2. (2)禁止命令違反に対する罰則

    場合によっては、直ちに罰せられるのではなく、警察本部長等による「警告」や都道府県公安委員会による「禁止命令」が出されることがあります(ストーカー規制法第4条・第5条)。「警告」や「禁止命令」は、すでに特定されている「つきまとい等」の行為をさらに反復してはならないという内容が中心です。

    禁止命令に違反してストーカー行為をしたり、禁止命令に違反してつきまといなどをすることによりストーカー行為をしたりした場合は、「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」が科せられます(ストーカー規制法第19条)。
    また、それ以外の態様で禁止命令に違反した場合は「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます(ストーカー規制法第20条)。

5、まとめ

三度目となる令和3年の改正では、つきまとい等が適用される場所や方法が拡大されたほか、GPS機器などによる位置情報の無承諾取得が規制対象に追加されました。今後は、改正に対応した摘発が積極的に推し進められるものと考えられます。

ストーカー行為を受けた被害者の多くは強い処罰感情を抱きやすく、捜査機関の対応も厳しくなるため、逮捕・刑罰を受ける危険は高いでしょう。また、法改正に伴って取り締まりが一層強化されるため、思いがけずストーカー行為の加害者として容疑をかけられてしまうトラブルも予想されます。

ストーカーとして逮捕されたり刑罰を受けたりするかもしれないと感じている場合や、自身の行為がストーカー規制法に違反するのではないかと不安になっている場合は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスにご相談ください。
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  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています