業務上横領とは|初犯でも実刑になる可能性はある?
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令和5年6月、宮城県名取市内にある学校法人の運用資金3億5000万を横領したとして、仙台地裁は元常務理事に対し、懲役7年の実刑判決を下しました。罪名は「業務上横領罪」です。
業務のうえで管理を任されている金銭を着服すると業務上横領罪に問われますが、具体的にはどのような刑罰が科せられるのでしょうか。これまでに事件を起こしたことのない初犯の人でも、実刑となって刑務所に収監されてしまうのか、気になっている方もいるでしょう。
本コラムでは、業務上横領罪が成立する要件、法律が定めている刑罰の内容や実刑になる可能性について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、「業務上横領罪」とは?
新聞やニュースのさまざまな報道から「会社のお金を自分のものにすると『業務上横領罪』になる」という理解をもっている方は多いでしょう。
その理解はおおむね間違いではありませんが、ここではもう少し詳しく「業務上横領罪」が刑法上どのような犯罪なのか、どのような要件で成立するかを確認していきます。
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(1)業務上横領罪の根拠と法定刑
業務上横領罪は刑法第253条に定められています。
条文によると「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」が処罰の対象で、10年以下の懲役刑が定められています。
「業務上」ではない横領、いわゆる「単純横領罪(刑法第252条)」の法定刑は5年以下の懲役なので、より強い信頼を裏切る行為として厳しく罰するという考え方にもとづいて定められている犯罪です。
また、業務上横領罪には、罰金刑がありません。したがって、刑事裁判で有罪になった場合、執行猶予が付かなければ、実刑となり刑務所で服役することになります。判決が3年以下の懲役刑・禁固刑でなければ、執行猶予を付けられない点にも注意が必要です。
執行猶予とは、その刑をただちに執行せず、一定期間に限って刑の執行を猶予する制度です。
罪を犯すことなく執行猶予の期間を満了すると刑の効力が消滅するので、新たに事件を起こさなければ刑務所に収監されずに済みます。 -
(2)業務上横領罪が成立する要件とケース
業務上横領罪の構成要件は次の4点です。
・業務性があること
「業務」というと、一般的には「仕事として」という解釈になりますが、本罪における業務とは「社会生活上の地位にもとづき、反復継続しておこなわれる事務」と定義されています。営利・非営利を問わないため、たとえばサークルや学校のPTAなど任意団体の会計事務も業務性が認められると考えるのが通説です。
・委託信任関係にもとづいて占有していること
業務上の信任関係にもとづいて所有者から財物の管理を委託されている立場でなければ、本罪は成立しません。たとえば、会社の経理担当者などは「委託信任関係がある」といえますが、コンビニのレジ係のように機械的な作業として金銭を扱うだけだと委託信任関係は認められません。コンビニのレジ係がレジのお金を自らのものにした場合には、窃盗罪が成立します。
・他人の財物であること
本罪で保護される財物は、他人の所有物です。たとえば、個人事業主が事業用の資金をほかの用途に流用しても本人の財物であるため本罪は成立しません。
・横領行為があること
単純にいうと「無断で自分のものにすること」という解釈になりますが、法的には「不法領得の意思を実現する一切の行為」と定義されています。横領罪における「不当領得の意思」とは、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意志」であるとされています。
無断で自分のものにする「着服」は横領行為の代表例ですが、ほかにも勝手に売り払う「売却」や、在処をわからないようにする「隠匿(いんとく)」、預けられたものを持ち逃げする「拐帯(かいたい)」などもすべて横領行為の一種です。
これら4点のすべてが存在しなければ業務上横領罪は成立せず、単純横領罪や窃盗罪などの成立を考えることになります。
2、初犯でも実刑判決になる可能性はあるのか?
初犯でも実刑判決になり、刑務所に入ることになるのか解説します。
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(1)実刑になる可能性が高いケース
業務上横領罪の法定刑は10年以下の懲役ですが、かならず刑務所に収監されるわけではありません。
裁判官がさまざまな事情を考慮したうえで判決を言い渡すため、被告人にとって有利な事情があれば執行猶予つきの判決を得られる可能性が高まります。
ただし、以下のような事情がある場合には、実刑になる可能性が高くなります。- 以前にも業務上横領などの事件を起こした経歴がある
- 被害額が多額である
- 犯行期間が長く、何度も横領行為を繰り返していた
- 要職を任されており、信任に対する強い裏切りが認められる
- 書類を偽造する、裏帳簿を用意するなど、犯行の手口が悪質である
- 示談交渉がまとまらず、被害者への謝罪や被害弁償が尽くされていない
もっとも、これらの不利な事情がなかったからといって、かならず執行猶予がついて実刑を避けられるわけではありません。
たとえ少額の横領であっても、厳しい刑罰が科せられる可能性があることを念頭に対策を考える必要があります。 -
(2)実際に科せられている刑罰の状況
令和5年の司法統計によると、全国の地方裁判所で開かれた横領に関する罪の第一審の刑事裁判において有罪判決を受けて懲役が言い渡された人の数は455人でした。
内訳は次のとおりです。横領に関する罪の第一審【実刑:156人】- 10年以下:2人
- 7年以下:3人
- 5年以下:27人
- 3年:7人
- 2年以上:39人
- 1年以上:28人
- 6か月以上:42人
- 6か月未満:8人
横領に関する罪の第一審【執行猶予:299人】- 3年:32人
- 2年以上:76人
- 1年以上:147人
- 6か月以上:43人
- 6か月未満:1人
業務上横領罪で有罪判決を受けた人の割合をみると、実刑156人・執行猶予299人で、執行猶予つきの判決を受けた人のほうが多数です。
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3、逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ
業務上横領の容疑で警察に逮捕されると、その後は法律が定める刑事手続きを受けます。
刑事手続きの流れについて、順を追ってみていきましょう。
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(1)逮捕・勾留による身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、警察署内の留置場に収容されて48時間を限度とした身柄拘束を受けます。さまざまな自由が制限されるため、自宅へ帰ることも、家族などに連絡を取ることも許されません。
逮捕から48時間以内に、逮捕された被疑者の身柄と捜査書類は検察官へと引き継がれます。
この手続きが、ニュースなどでは「送検」と呼ばれている「送致」という手続きです。
送致されると、検察官のもとでもさらに取り調べがおこなわれ、24時間以内に「勾留」の要否が判断されます。
検察官が「さらに身柄を拘束する必要がある」と判断した場合は裁判官に勾留が請求され、裁判官がこれを認めると10日間、さらに延長が認められると最大20日間にわたる勾留による身柄拘束が続きます。
逮捕・勾留による身柄拘束の期間は、最大で23日間です。社会生活から隔離される時間が長引くと日常を取り戻すことが難しくなるため、早期釈放を目指した弁護活動をおこなうことをおすすめします。 -
(2)検察官が起訴・不起訴を判断する
勾留が満期を迎える日までに、検察官が起訴・不起訴を判断します。
起訴とは刑事裁判を提起すること、不起訴とは刑事裁判の提起を見送ることです。検察官に起訴されると被疑者の立場は「被告人」となり、さらに刑事裁判が終わるまで勾留が続きます。
一方で、不起訴になると刑事裁判が開かれず身柄拘束の必要もなくなり、ただちに釈放されます。 -
(3)刑事裁判が開かれ刑罰が科せられる
検察官による起訴からおよそ1~2か月後に初回の公判が開かれます。以後、おおむね1か月に一度のペースで公判が開かれ、数回の審理を経て判決が言い渡されますが、検察官が起訴に踏み切った事件の有罪率は99%以上です。
起訴されれば、有罪を免れるのは大変困難であるといえるでしょう。
4、逮捕に不安を感じているなら弁護士に相談を
業務上横領罪にあたる行為があり、逮捕や厳しい刑罰に不安を感じているなら、ただちに弁護士に相談しましょう。
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(1)被害者との示談交渉による穏便な解決が期待できる
業務上横領事件をもっとも穏便に解決できる方法が、被害者との示談です。真摯に謝罪したうえで、横領額に相当する金銭を賠償することで許しを得られれば、被害届や刑事告訴の取り下げを実現できる可能性は高まるでしょう。被害届や刑事告訴の取り下げがあれば、刑事裁判を回避できる可能性が高まります。
とはいえ、業務上横領事件の多くは、勤務している会社や所属している組織などを相手に示談交渉を進めることになります。会社の風紀を粛正するため、組織としてのけじめとして、示談には応じず厳しく処罰を求める姿勢を堅持する被害者も少なくありません。
横領を犯した本人やその関係者による示談交渉では受け入れてもらえない可能性があるため、公平中立な立場である弁護士に対応を一任するのが賢明な選択です。 -
(2)刑罰を軽くするための弁護活動が期待できる
業務上横領罪には、最大で10年という厳しい懲役が規定されています。罰金の規定はないため、有罪判決が下されれば選択されるのは懲役のみです。
執行猶予がつかず実刑になれば刑務所に収監される重罪なので、刑事裁判では刑罰を軽くするための弁護活動が欠かせません。
業務上横領事件で刑罰を軽くするためには、被害者との示談交渉を進めるのはもちろん、初犯で深く反省している、一括では無理でも真面目に再就職して分割で返済する約束を交わしているなど、被告人にとって有利な材料を集める必要があります。
有効な対策はケースごとに異なるため、数多くの業務上横領事件を解決してきた経験豊富な弁護士に対応を任せましょう。
5、まとめ
業務上横領罪は、最大で10年の懲役が科せられる重罪です。
初犯である、被害額が小さく弁済が尽くされているなどの有利な条件が整っていれば、不起訴や執行猶予などの有利な処分を得られる可能性が高まりますが、状況次第では初犯でも実刑判決が下される可能性があることを忘れてはいけません。
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