食い逃げ(無銭飲食)の罪とは? 詐欺罪の成立要件

2023年07月10日
  • 財産事件
  • 食い逃げ
食い逃げ(無銭飲食)の罪とは? 詐欺罪の成立要件

宮城県といえば、牛タン料理やはらこ飯、牡蠣料理など、さまざまな名物が外食で楽しめます。

食券を購入するかたちの店を除けば、多くの店舗で代金後払いのシステムをとっていますが、うっかりお金を持ってくるのを忘れていたり、所持金が足りなかったりすることもあるかもしれません。こうなった場合でも、「食い逃げ」として罪を問われてしまうのでしょうか。

本コラムでは、食い逃げと呼ばれる行為に適用される罪や判断基準について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、食い逃げ(無銭飲食)で問われる罪とは

まずは「食い逃げ」と呼ばれる一般的な行為と、法的な角度から見る行為をそれぞれ確認しておきましょう。

  1. (1)食い逃げとはどんな行為なのか

    「食い逃げ」とは、飲食店において飲食物の提供を受けたのに、その代金を支払わずに逃げる行為を指します。別の言い方をすれば「無銭飲食」とも呼ばれる行為です。

    典型的には「代金を支払うだけのお金がないので逃げる」といった状況を指しますが、飲食店側の立場からみると、たとえば言いがかりのようなクレームをされて代金を支払ってもらえない状況も食い逃げと呼ぶことがあります。

  2. (2)刑法の詐欺罪が適用される

    食い逃げと呼ばれる状況にはいくつかの犯罪パターンがありますが、まずは刑法第246条の「詐欺罪」が考えられます。

    詐欺罪といえば「うそをついてお金などをだまし取る」というイメージが強い犯罪ですが、これは刑法第246条1項の規定に従った、いわゆる「1項詐欺」の考え方です。

    食い逃げにあたる行為には、「1項詐欺」に該当する場合と、同条2項の「詐欺利得罪」、通称「2項詐欺」と呼ばれる規定が適用される場合があります。

    「2項詐欺」は欺罔行為に基づいて利益を得る場合に適用され、タクシーなどを利用したうえで代金を支払わない「無賃乗車」や、切符を不正に利用して鉄道運賃を安く済ませる、いわゆる「キセル乗車」と呼ばれる行為も、同様に詐欺利得罪・2項詐欺にあたる行為です。

    食い逃げにあたる行為のうち、

    • ① 当初からお金を支払う気も所持金もなく、料理を注文して提供を受けた場合は1項詐欺罪
    • ② 注文後に代金を支払う意思をなくして、会計時に「あとで必ず支払いに戻ってくる」などといって、店側の了承を取り、代金の支払いを免れてそのまま立ち去る場合は2項詐欺罪

    に該当すると考えられます。

2、詐欺罪とは? 食い逃げで犯罪が成立する要件と刑罰

なぜ食い逃げが詐欺罪に問われるのかをさらに理解するために、詐欺罪が成立する要件を分解しながら確認していきます。

  1. (1)詐欺罪が成立する要件

    詐欺罪が成立する要件は3点です。

    • 欺罔(ぎもう)
      相手にうそをついてだます行為
    • 錯誤
      相手がうそを信じ込んでしまった状態
    • 交付または処分行為
      うそによって錯誤に陥った相手が、財産を自ら差し出したり、利益を移転させたりする行為


    これらの3点をすべて満たす場合に限って、詐欺罪が成立します。
    この要件を食い逃げに当てはめると、以下のケースが該当します。

    • 欺罔
      ① 1項詐欺罪の場合:代金を支払う意思も所持金もないのに正規の客を装って注文する行為
      ② 2項詐欺罪の場合:代金を支払う意思がないのに、後ほど支払うといって立ち去る行為
    • 錯誤
      ① 1項詐欺罪の場合:店側が飲食後は代金を支払ってくれるものと信じ込んだ状態
      ② 2項詐欺罪の場合:店側が後から代金を支払ってくれるものと信じ込んだ状態
    • 交付・処分行為
      ① 1項詐欺罪の場合:店側が飲食物を提供する行為
      ② 2項詐欺罪の場合:店側が代金の支払いを猶予して退店を許す行為


    このように食い逃げ行為に詐欺罪が成立するケースには1項詐欺罪の要件を満たすケースと2項詐欺罪の要件を満たすケースの2パターンがあることがわかります。

  2. (2)詐欺罪の刑罰

    詐欺罪を犯すと、10年以下の懲役が科せられます。

    罰金の規定はないので、有罪になれば選択されるのは必ず懲役です。執行猶予が付されない限り、確実に刑務所に収容されてしまう重罪だと理解しておきましょう。

3、うっかりお金がなかった場合でも詐欺罪になる?

食い逃げで詐欺罪が適用される要件に照らすと、欺罔にあたるのは「代金を支払う意思も所持金もないのに正規の客を装って注文した」場合です。

すると、正規の代金を支払う意思はあったものの、財布を忘れていたり、所持金が足りなかったりするケースではどのような判断になるのでしょうか?

  1. (1)支払いの意思があったが支払えなかった場合

    注文した時点では飲食後に支払いをする意思があったものの、支払いの段階になって財布を忘れていたり、所持金が足りないことに気づいたりした場合は、支払う意思がないにもかかわらずあるように偽っているわけではないことから、詐欺罪の実行行為である欺罔、つまり「うそをついてだます」という要件を欠いています。
    また、所持金が足りないことについても、注文時にその認識がないことから、欺罔行為を所持金が足りないことを偽っているものと捉えたとしても、詐欺の故意がないといえるでしょう。

    この場合は、たとえ支払いの段階で支払いができなかったとしても詐欺罪は成立しません。

    たとえ店側が「無銭飲食だ」と指摘しても、支払いの意思をもっており、単なるミスで支払いができなかっただけなので、罪には問われないと考えるのが通説です。

    もちろん、飲食代金を支払う民事上の義務は存在するので、支払い方法について店側と協議することになるでしょう。

  2. (2)支払いができず、うそをついて店から立ち去ったり逃げたりした場合

    これに対して、財布を忘れたり所持金が足りなかったりして単に支払いができない状態でも、店員に「自宅に帰って財布を取ってくる」などとうそを伝えてそのまま逃げた場合は2項詐欺罪が成立します。

    これは「帰って財布を取ってくる」という欺罔によって、店側を「後から支払いを受けられる」と錯誤させたうえで、退店を許させると、代金の支払いを猶予して退店を許すという処分行為があり、代金の支払いを免れるという経済上の利益を得ているためです。

    一方で、支払いができないことに気づき、従業員が見ていないタイミングを見計らって黙って退店したり、トイレの窓などから逃げたりした場合は、詐欺罪が成立しません。

    これは、飲食物の提供を受けるためや、退店を許されるための欺罔行為が存在しないからです。
    また、このようなケースでは、財物の交付がないことから、窃盗罪も成立せず(いわゆる利益窃盗)、刑法上の犯罪は成立しないこととなります。

    ただし、いずれのパターンでも飲食代金を支払う民事上の義務が消えるわけではないので、犯罪の成立・不成立にかかわらず支払いをしなくてはなりません。

4、食い逃げ・無銭飲食の疑いをかけられたら弁護士に相談を

所持金不足で思いがけず飲食代金を支払えなかっただけでも、店側の意向として「念のため警察に通報する」といった対応を取ることがあります。

怖くなってその場から逃げてしまったり、うそをついて代金を支払わないまま放置していたりすると深刻なトラブルに発展してしまいます。弁護士に相談して解決に向けたサポートを受けましょう。

  1. (1)素早い示談交渉による解決が期待できる

    飲食店にとって、食い逃げを許すことは死活問題につながるので、場合によってはやむを得ない事情を説明しても強い姿勢で対応してくるかもしれません。

    その場でトラブルになってしまったり、支払いの約束もせずに、あるいはうそをついて逃げてしまったりした場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

    弁護士を通じて真摯に謝罪したうえで飲食代金を支払うことで、詐欺の疑いを払拭できたり、警察への通報や届け出を控えてもらえたりする可能性が高まります。

    詐欺の疑いをもっている店側や警察に対して、容疑をかけられている本人が釈明しても認めてもらえる期待は低いので、法的な角度から客観的に事情を説明できる弁護士の存在は心強いサポートになるでしょう。

  2. (2)早期釈放を目指した弁護活動が期待できる

    店側の通報を受けて警察が駆けつけると、実際にその場で支払うお金をもちあわせていなければ詐欺の容疑で現行犯逮捕されてしまうおそれがあります。

    警察に逮捕されてしまうと、逮捕・勾留をあわせて最長23日間にわたる身柄拘束を受けてしまいます。この期間は会社や学校に行けないだけでなく、自宅に帰ることさえも許されないので、社会生活における悪影響は甚大なものになるでしょう。

    弁護士に相談してサポートを依頼することで、弁護活動による早期釈放を目指すことができます。

    店側との素早い示談交渉による解決だけでなく、容疑を向けられてしまった方にとって有利な証拠を集めて捜査機関に示すなどのはたらきかけがあれば、早期釈放の可能性が高まるでしょう。

5、まとめ

飲食店における「食い逃げ」は、法律に照らすと刑法の詐欺罪にあたります。

所持金不足などの事情を正直に話せば罪には問われませんが、うそをついて店から逃げたり、事情を説明せず従業員のすきを見て逃げたりするなど、状況によってさまざまなパターンがあるので、罪になるかの判断を正確にするのは難しいでしょう。

また、本来は罪には問われない状況でも、その場で飲食代金の支払いができなければ警察沙汰になってしまい、容疑を晴らせなければ逮捕されてしまうおそれもあります。

個人による対応では解決できないかもしれないので、早い段階で弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。

食い逃げなど詐欺の容疑をかけられてしまってお困りの際などは、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスにご相談ください。刑事事件の解決実績をもつ弁護士が、穏便な解決を目指してサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています