配偶者居住権を設定するには遺言が必要? 知っておきたい基礎知識
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宮城県が公表している『データからみたみやぎの健康・令和2年度版』によると、平成27年の仙台市の平均寿命は、男性が81.7歳、女性が87.6歳でした。また、仙台市の65歳以上の高齢者の割合は、令和2年においては24.1%でしたが、令和7年には28.3%まで増加するものと予想されています。
上記のデータからもわかるように、仙台市においても、今後高齢化が進んでいくと考えられます。そして、男女の平均寿命に大きな差があることから、夫が死亡した後に妻が1人で生活するということも珍しくはないでしょう。そのようなケースでは、残された妻のために、生活の拠点である住居を確保することが大切になります。
相続法改正によって、新たに「配偶者居住権」という制度が導入されることになりました。この制度を上手に活用していくことによって、残された配偶者が安心して生活を送ることができるようになります。今回は、配偶者居住権と遺言との関係について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、配偶者居住権の基本
配偶者居住権は、民法改正によって令和2年4月1日から施行された新しい制度です。まずは配偶者居住権に関する基本的な内容について説明します。
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(1)配偶者居住権の概要
配偶者居住権とは、被相続人が死亡した後も、被相続人と同居をしていた配偶者は引き続き夫婦で生活していた建物に、無償で居住することができる権利のことをいいます。
一般的に、夫婦の一方が亡くなった場合、その配偶者は住み慣れた建物での居住を継続したいと考えるでしょう。
もちろん、相続によって自宅を引き継ぐことは可能ですが、従来の制度では自宅を相続できないケースや、自宅を相続した結果、老後の資金となる預金等を相続できないといった問題が起こり得ていました。
たとえば、次のようなケースです。● 相続財産
評価額が3000万円の自宅と、1000万円の預貯金
● 相続人
配偶者と子どもひとり
この場合、自宅と預貯金を含めた相続財産は4000万円です。通常の法定相続分でわけると、次のようになります。
配偶者|2000万円(2分の1)
子ども|2000万円(2分の1)
配偶者が評価額3000万円自宅を相続した場合、子どもの相続分が1000万円不足することになるため、最悪のケースでは自宅を売却せざるを得ないということが起こり得ます。また、たとえ子どもと合意でき自宅を相続できたとしても、預貯金が相続できなければ今後の生活に不安を抱えることになるでしょう。
このような問題点を解決して、残された配偶者が自宅に住み続ける権利を保障したものが配偶者居住権です。
なお、配偶者居住権で取得できるのは「住み続ける権利」であり、自宅の所有権自体は他の相続人が取得することになります。
先述の例にあてはめて考えてみると、配偶者居住権を活用した場合は、次のように財産を分けることも可能になります。● 自宅
配偶者|配偶者居住権(1500万円分)
子ども|配偶者居住権の負担のついた自宅の所有権(1500万円分)
● 預貯金
配偶者|500万円
子ども|500万円
自宅に関する権利を子どもと分けることで、預貯金も相続することができるので、生活の不安は解消されるでしょう。
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(2)配偶者居住権の種類
配偶者居住権には、終身または一定の長期間、建物に居住することができる「配偶者居住権」と、短期間建物に居住することができる「配偶者短期居住権」の2種類があります。
① 配偶者短期居住権
配偶者短期居住権は、配偶者が建物に無償で居住できる期間に定めがあります。居住できる期間は、次のいずれか遅い日です。- 遺産分割によって居住建物の帰属が確定した日
- 相続開始のときから6か月を経過する日
なお、配偶者が相続を放棄した場合や、居住建物が第三者に遺贈されたようなケースでは、建物の所有者になった人から、配偶者短期居住権を消滅させるように申し入れを受けた後、6か月を経過する日までは居住することが認められます。
建物を売却せざるを得ない場合や、他の相続人が建物を相続したような場合でも、配偶者短期居住権によって、最低でも6か月間は無償での居住が認められます。落ち着いて転居先を探し、引っ越しの準備をすることができるでしょう。
② 配偶者居住権
配偶者居住権は、配偶者が終身または一定期間という比較的長期間、無償で居住することができる権利です。
配偶者居住権は、配偶者短期居住権と異なり登記をすることができるので、配偶者居住権を取得した場合には、必ず登記を行うようにしましょう。
たとえば、自宅の所有権を相続した相続人が、自宅を第三者に売却してしまった場合、登記をしていなければ建物の購入者(第三者)に対して、居住する権利を主張することはできません。建物の購入者に対して、居住する権利を主張するためには登記をしていることが必要です。
2、遺言がなければ配偶者居住権は取得できない?
配偶者居住権を取得する方法としては、遺言によって取得する方法のほかに、遺産分割によって取得する方法があります。
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(1)遺言によって取得させる方法
配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の内容を遺言書に記載することによって、権利を取得させることができます。
遺言書を作成するにあたっての注意点としては、「配偶者居住権を相続させる」ではなく、「配偶者居住権を遺贈する」とする必要があることです(民法1028条1項2号)。
遺贈とすることで、もし配偶者が配偶者居住権の取得を希望しない場合には、財産の一切を相続しない相続放棄ではなく、遺贈を放棄すれば事足りることになります。 -
(2)遺産分割によって取得する方法
被相続人が遺言書を作成していない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分割方法などを決めていくことになります。
配偶者居住権も遺産分割の対象になるため、相続人全員が配偶者居住権を取得することに合意すれば、配偶者は配偶者居住権を取得することができます。
なお、話し合いによって解決することができなければ、遺産分割調停や審判を申し立てることによって、配偶者居住権を取得できる場合があります。
3、遺言で遺贈しても配偶者居住権を取得できないケース
配偶者居住権は、遺言によってその権利を取得できるのは前述のとおりですが、遺言によっても配偶者居住権を取得することができないケースがあるため、注意が必要です。
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(1)内縁の妻の場合
配偶者居住権は、被相続人の配偶者に対して認められる権利です。ここでいう「配偶者」とは、被相続人と法律上の婚姻関係にある人のことを指すため、婚姻関係のない内縁の配偶者の場合、配偶者居住権は認められません。
内縁の配偶者に対して、建物を残したいと考える場合には、生前贈与か遺言書での遺贈などによって、自宅そのものを相続させる必要があります。 -
(2)被相続人の死亡時に配偶者が居住していない場合
配偶者居住権は、当該建物に「相続開始の時に居住していた」ことが取得の要件です。そのため、相続開始時に建物に居住していなかった場合には、配偶者居住権を取得することはできません。
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(3)建物が共有であった場合
配偶者居住権を遺贈する予定の建物が、配偶者以外の第三者との共有している場合は、配偶者居住権を遺贈することはできません。
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(4)遺言書の作成日が令和2年3月31日以前であった場合
配偶者居住権の制度は、民法改正によって新たに導入された制度であり、同制度は、令和2年4月1日から施行されました。
配偶者居住権の制度が適用されるかどうかは、遺言書の作成日が施行日後である必要があります。そのため、遺言書の作成日が令和2年3月31日以前であった場合には、遺言書において配偶者居住権を遺贈したとしても無効となります。
4、建物の管理や固定資産税との関係
配偶者居住権を取得した後、建物の管理や固定資産税は、どのように取り扱われるのでしょうか。
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(1)居住建物の使用など
配偶者が建物を使用するにあたっては、建物を借りて居住している場合と同様に注意を払わなければいけません。
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(2)建物の修繕
修繕の必要が生じた場合は、配偶者が費用を負担することで修繕することができます。
なお、建物の所有者は、居住する配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしない場合は、自らで修繕をすることができます。 -
(3)建物の増改築
配偶者居住権は、あくまでも「居住権」ですので、建物の所有者の承諾を得なければ、増改築をすることはできません。
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(4)第三者への譲渡や賃貸
配偶者居住権者は、配偶者という立場で特別に認められた権利のため、配偶者居住権を第三者に譲渡することはできません。
なお、建物を第三者に賃貸することはできますが、所有者の承諾が必要になります。 -
(5)建物の固定資産税について
建物の固定資産税は、建物の所有者に対して課税されるので、配偶者居住権が設定されていたとしても、原則として建物の所有者に納税義務があります。
ただし、配偶者居住権を得た配偶者は建物の通常の必要費を負担する必要があるとされています(民法1034条1項)。そのため、建物の所有者は配偶者に対して、納付した固定資産税分の費用を請求することができます。
5、まとめ
配偶者居住権の制度は、民法改正によって令和2年4月1日から新たに施行された制度です。配偶者が被相続人の死後も引き続き建物に居住することを可能にするなど画期的な制度といえます。
財産の大部分が自宅不動産であるという方は、将来、配偶者が困ることがないように、あらかじめ遺言で配偶者居住権を遺贈するなどの対策を講じておくことが重要です。
遺言書の作成や配偶者居住権のことでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでお気軽にご相談ください。相続問題の対応実績が豊富な弁護士が、しっかりとお話を伺い、最善の対応策をアドバイスします。
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