遺言執行者にはどのような権限がある? 選び方や注意点を弁護士が解説
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裁判所の司法統計によると、令和元年度には仙台家庭裁判所の管轄内で239件の遺産分割事件が取り扱われています。
相続では、相続人同士や受遺者(相続財産を与えられた人)の間で、深刻な相続争いが起きることも少なくありません。ご自身が亡くなった後に争いが生じないようにするためには、遺言書を作成することが方法のひとつです。その際、あわせて「遺言執行者」を選任しておけば、遺言内容をスムーズに実現でき、争いを防げる可能性が高くなります。
本コラムでは、遺言執行者を選任すると、どのようなメリットがあるのかと、遺言執行者の選び方や注意点について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、遺言執行者の役割と選任の方法
遺言執行者とは、どのような人のことをいうのでしょうか。まず遺言執行者についての基礎知識をご説明します。
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(1)遺言執行者とは
「遺言執行者」とは、遺言書に記載された内容を実現するために、遺言の執行に必要な手続きを行う人のことをいいます。
たとえば、相続人以外の第三者に不動産を遺贈する内容の遺言書を作成した場合、相続人が不満を持ち協力しなければ、第三者が不動産をスムーズに取得できない可能性があります。しかし、遺言執行者を選任していれば、相続人の協力が得られなくても、遺言執行者が手続きを行えるので遺贈がスムーズに実現できるといったメリットがあります。 -
(2)役割
遺言執行者は、遺言内容を実現するための手続きを行う役割を担います。具体的には、不動産登記の名義人を、遺言者の指定した受遺者に変更する登記の申請や、金融機関の預金口座を解約し、遺言の内容通りに分配するなどです。
なお、遺言執行者が選任されているときは、相続人であっても、遺言の執行を妨げる行為はできないものとされています。
たとえば、相続人が遺言執行者に無断で相続財産を第三者に譲渡したとしても、相続人が遺言の執行を妨げる行為をしたとして、その行為は無効になります。裏を返せば、相続人が遺言執行者の遺言の執行を妨げない行為をしても無効にはならないでしょう。例を挙げると、遺言者から不動産を単独で取得するよう遺言された相続人が、単独で当該不動産について遺言者から自己名義への登記の申請をしても、遺言の内容を妨げず、遺言執行者の執行を妨げたとはいえないからです。 -
(3)選任の方法
民法には、遺言執行者は未成年者・破産者以外でなければならないことが明記されています(民法 第1009条)。逆にいえば、それ以外に特に制限はないため、相続人や受遺者(遺贈によって相続財産を与えられた人)、法人なども遺言執行者になることが可能です。また複数人を指定することもできます。
選任は、次のいずれかの方法によって行います。
① 遺言書で遺言執行者を選任する
遺言者が、だれを遺言執行者にするか選び、遺言書に記載する方法です。
② 遺言書で遺言執行者を指定する人を選んでおく
遺言者は、直接遺言執行者を選ぶのではなく、自分の代わりに遺言執行者を指定する人を選び、その人を遺言書に記載する方法も選択できます。遺言書に記載された人が、遺言執行者に適任と思う人を遺言執行者として選任することになります。
③ 家庭裁判所に申し立てて遺言執行者を選任してもらう
遺言執行者が選任されていない場合や、選任された遺言執行者がすでに死亡していたり就任を拒否したりした場合などには、家庭裁判所に申し立てて選任してもらうことができます。
2、遺言執行者の任務の流れ
遺言執行者は、就任後どのように任務を進めていくのかを確認しておきましょう。
まず、遺言執行者は、遺言者が亡くなり相続が開始すると、相続人全員に遺言執行者であることを通知して知らせなければいけません。その後、被相続人の相続財産の調査や、戸籍を収集して相続人を調査するなどして、遺産や相続人を確定させていきます。そして財産目録を作成して、遺言書の写しとともに相続人に送付します。
並行して、遺言執行者は遺言内容に添って相続登記や金融機関での預金名義変更などの遺言を執行する任務を進めていきます。
すべての相続手続きが完了すると、遺言執行者は相続人にその旨の報告をして任務は完了します。
3、相続法改正で変わった点は? 遺言執行者の権限
遺言執行者は、相続財産の管理と、その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。
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(1)遺言の執行権限が遺言執行者に専属していること
民法が改正されたことによって、遺言執行者がいる場合は、「遺贈の履行」について遺言執行者のみ行うことができることが明記されました。
したがって、遺言執行者が指定されていれば、相続人に遺贈を執行する権限はなくなります。
また、相続法改正によって、「〇〇〇の土地は長男に相続させる」など、特定の財産を一人の相続人に相続させるような「特定財産承継遺言」があった場合、遺言執行者が単独で相続登記を申請できることになりました。
これらの定めにより、遺言執行者により早期に不動産の登記を遺言の内容通りに変更することができるようになっています。
なお、遺言執行者がいても、遺贈する不動産を相続人が勝手に売却してしまうなど、受遺者と相続人のトラブルが生じることも少なくありません。しかし、このような行為は、相続人の不動産の売却は遺言の執行を妨げるべき行為に該当するため無効になるでしょう。
ただし例外として、相続人が遺言執行者を選任されていることを知らない第三者に不動産を売却したケースでは、相続人の第三者への不動産の処分行為が有効となることがあります。遺言執行者が選任されている遺言の内容を知らない、第三者を保護するためです。もっとも、当該第三者が、遺言執行者が選任されていることを知らなければ、直ちに当該不動産の取得を主張(対抗)することができる、というわけではありません。
たとえば、相続人がA、B(法定相続分は2分の1)で、被相続人Pがその遺産に属する甲土地をAに相続させる旨の遺言をし、Cを遺言執行者に指定していたにもかかわらず、Bが相続開始後にDに対して甲土地の2分の1の共有持ち分を譲渡したという事案を想定します。
この事案において、Dが、Cを遺言執行者と指定する遺言の内容を知らなければ、BからDへの甲土地の2分の1の持ち分譲渡は有効となります。もっとも、被相続人Pから甲土地をAへ相続させる旨の遺言も有効です。
この場合、Dが先に不動産の自己名義への変更登記を具備すればDが甲土地の取得を主張(対抗)でき、Aは甲土地の所有権の取得をDに対して主張(対抗)できないこととなります。
反対に、Aが先に不動産の自己名義への変更登記を具備すれば、Aが甲土地の取得を主張(対抗)でき、Dは、甲土地の所有権の取得をAに対して主張(対抗)できないこととなります。
したがって、遺言執行者Cとしては、第三者であるDに先んじて、早期に被相続人Pから相続人Aへの不動産登記名義変更手続きを行う必要があるといえます。 -
(2)さまざまな相続手続き
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要になる、さまざまな手続きを行うことができます。
たとえば、金融機関における被相続人名義の預貯金債権の払い戻しや口座名義の変更、貸金庫の開扉、法務局に申請する不動産の名義人を被相続人から受遺者へ変更する所有権移転登記、などが挙げられます。 -
(3)子どもの認知
被相続人は、婚姻関係にない相手との子どもを遺言書で認知することができます(遺言認知)。認知すれば、法律上の親子関係が生じることになり、認知された子どもは相続する権利を持つことになります。
役所に認知届を提出する認知の手続きは、遺言執行者のみに権限があります。なぜなら、認知がなされると、相続人がさらに一人増えることとなり、他の相続人の相続分が減ることから、他の相続人との間で利益相反関係となり、他の相続人に認知届を提出することを任せることは望ましくないからです。 -
(4)相続人の廃除や廃除の取り消し
相続人の廃除とは、被相続人に対する虐待などを行った者の相続権をなくす手続きです。一方、廃除の取り消しは、廃除された者の相続権を復活させる手続きになります。
相続人の廃除や廃除の取り消しは、他の相続人の相続分が廃除であれば増加し、廃除の取り消しであれば減少することから、廃除の対象となっている相続人と他の相続人との利害が衝突する手続きになります。
そのため、認知と同様に遺言執行者のみに権限がある手続きとされています。 -
(5)その他
遺言執行者は、相続財産の管理と、遺言の執行に必要な一切の行為について権限があります。したがって上記に挙げた権限以外にも、遺産の分配や寄付行為などの遺言の実現に必要な行為をする権利があります。
ただし、相続税の申告については、遺言執行者には権限はなく、相続人が行わなければならないとされています。
なお、遺言執行者には復任権が認められています。
これは、遺言執行者になったとしても必ずしも遺言執行者自身ですべての任務を行う必要はなく、他の第三者に仕事をしてもらうことができる、ということです。
ただし、当該第三者に遺言の内容通りの仕事をしなかった、相続財産を毀損した等の不手際があれば、たとえ遺言執行者自らは仕事をしていなかったとしても、相続人または受遺者から損害賠償請求がなされる可能性がある点に注意が必要です。
4、遺言執行者の選び方と注意点
遺言執行者は、財産目録や相続手続きに関する書類作成のほか、金融機関の窓口などで手続きを行うなど、対応は多岐にわたります。そのため、平日の昼間に活動することができ、かつ書類作成などにも抵抗がない方が望ましいと考えられます。
また、相続にあたっては、思わぬトラブルに発展することも少なくありません。そのため、相続人と意見が対立するようなことがあったとしても、遺言の内容を滞りなく実現できるよう、適切に対応できる力も必要になるでしょう。
遺言執行者として適任な方がいないとき、どんな人が遺言執行者として適任か分からない、または、相続人とのトラブルが予想されるようなときには、弁護士などの専門家を遺言執行者に選任することがおすすめです。
弁護士は、遺言執行者として遺言内容を確実に実現するために、有効な遺言書を作成するためのアドバイスを行うことができます。また、相続トラブルが発生してしまったとしても、ご依頼者(被相続人)の方の思いをくみつつ、遺言の内容を確実に実現できるよう、法的な解決方法を視野に入れながら、適切な対応をとることが可能です。
5、まとめ
遺贈をする場合は、遺言執行者を選任することにより、確実でスムーズな相続を実現することが可能です。また、遺言書で認知や相続人の廃除・廃除の取り消しを行う場合にも、遺言執行者を選任する必要があります。
遺言書の作成を考えている方は、ご自身のケースに合わせて遺言執行者の選任についても検討されるとよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスでは、ご希望に添った相続が実現できるように、弁護士がしっかりとサポートします。相続は、遺産や相続人の人数、家族の関係性など、さまざまなことを考慮する必要があります。仙台オフィスの弁護士は、しっかりとお話を伺った上で、お一人お一人にあった最適な対応策をアドバイスします。
ぜひ、お気軽にご相談ください。
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