【後編】遺言書には必須? 弁護士が解説する財産目録の必要性

2019年04月02日
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【後編】遺言書には必須? 弁護士が解説する財産目録の必要性

多くの前編では、遺言書作成前に財産目録を作ったほうがよい理由から、記載すべき事項について解説しました。

財産目録の作成が終わったら、いよいよ遺言書の作成を行いましょう。

遺言書には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言などがあります。後編ではもっとも利用する方が多いと考えられる、自筆証書遺言について法改正の点を含め説明します。

4、自筆証書遺言に関する法改正施行についての解説

  1. (1)法改正前の自筆証書遺言とは?

    改正前の民法第968条によりますと、自筆証書遺言とは遺言者が遺言本文・財産目録・氏名および日付を自署で作成することが要件でした。パソコンが苦手な人でも作成しやすく費用が発生しないというメリットがありました。

    しかし、法改正前の自筆証書遺言は以下のような問題点が指摘されていたのです。

    • 財産目録を含む遺言の全文を自署で作成する必要があるため、大きな負担となる
    • 自宅で保管している場合が多いことから常に改ざん・紛失・盗難の危険性がある
    • 相続発生後に家庭裁判所で「検認」の手続きを要する
    • 法的な形式不備のために被相続人の自筆証書遺言書そのものが無効となるリスクがある
  2. (2)法改正による変更点

    上記の諸問題を踏まえ、平成30年7月6日に民法第968条の改正および「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、自筆証書遺言について制度の見直しがなされました。

    第1の改正点は、平成31年1月13日以降に作成される自筆証書遺言の財産目録についてが挙げられます。パソコンによる作成や遺言者以外の第三者による代筆、さらには預金通帳や不動産登記事項証明書のコピーなどを添付して作成する方式が認められるようになりました。

    つまり、財産目録については自筆以外の作成が認められるようになったのです。ただし、財産目録の全ページにわたって遺言者の自筆による署名・押印を行うことが必要ですが、この改正により自筆証書遺言を作成する人の負担が大きく減るものと考えられます。

    第2の改正点は、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立した点が挙げられます。自筆証書遺言については2020年7月10日から法務局が保管する制度が創設されました。作成された自筆証書遺言を法務局が保管するわけですから、自筆証書遺言に紛失や改ざんなどが生じる危険性が大きく軽減されることになります。また、自筆証書遺言を保管する際に法務局が遺言書保管官が自筆証書遺言の外形的な形式を審査するため、形式不備を理由に自筆証書遺言が無効とされてしまう危険性も軽減されます。

    さらに、法務局で保管されていた自筆証書遺言については、家庭裁判所による検認が公正証書遺言と同様に不要となりました。これにより、時間を大きく短縮できることが期待されます。

5、自筆証書遺言作成の注意点

このように自筆証書遺言には大きな改正がなされました。しかし、自筆証書遺言を作成する方はあなた自身であることに変わりはありません。せっかく遺言書を作成しても、その内容が原因で相続人間のトラブルが生じてしまう可能性は少しでも避けたいものでしょう。

トラブルの一例をもとに、自筆証書遺言を作成する際の注意点を紹介します。

  1. (1)遺留分を侵害しない

    民法では、遺言書の内容やその他の状況に関係なく、たとえば配偶者であれば法定相続人に対して最低限の取り分を保証しています。これが遺留分です。遺言により遺留分を侵害された、兄弟姉妹以外の法定相続人は、侵害した他の相続人に対し遺留分相当の支払いを請求する遺留分減殺請求権を有するのです。遺留分がきっかけとなり争いごとに陥ってしまうことがあり得ます。

    遺言を作成する際は、個々の遺留分も配慮して分配内容を決めることをおすすめします。

  2. (2)「その他の財産」について記載する

    遺言書を作成する際にすべての財産を調査したうえで財産目録を作成したつもりでも、財産価値が高いのにもかかわらず記載が漏れてしまったという事態が生じ得ます。また、衣類や食器などのように財産としての価値が相対的に低く、特定して遺言書に記載することが難しい財産もあると考えられるでしょう。

    このような財産は、総称して「その他の財産」として記載することがあります。そして誰が「その他の財産」を相続するか特定しておくことで、先述した遺留分侵害にならない限り遺言書に記載されなかった財産をめぐって相続人間で争う事態を避けることができます。遺言書には、必ず「その他の財産」の取り扱いについて明記しておきましょう。

  3. (3)遺言書や財産目録の見直しをする

    遺言書を作成してから亡くなるまで、財産の状況が変化することはあり得ると考えられます。

    もし、遺言書を作成したあとに金融資産や不動産を処分するなどして財産額に大きな変化があった場合、あるいは相続人が死亡した場合は、遺言書や財産目録を書き換えることをおすすめします。このような変化が相続人間における遺留分侵害につながっていることなども想定できるためです。

6、まとめ

財産目録の作成は単なる一覧表の作成と思われがちですが、特に不動産などを多く所有する人にとっては相当に手間がかかります。

また、自筆証書遺言の作成に際して法務局の遺言書保管官が審査するようになりましたが、これはあくまで外形的な要件を審査になります。正確な財産目録を作成し、複雑な民法や相続法の要件をクリアして、なおかつ相続人が争わないような遺言書を作成することが必要になります。

そのような遺言書を作成するときは、弁護士があなたの心強いアドバイザーとなります。遺言書や財産目録の作成など相続全般について豊富な実績と経験がある弁護士であれば、トラブルを未然に防ぐ内容を提案するだけでなく、財産目録作成に際しての財産調査や作成の代行を請け負うことが可能です。まずはベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士にご相談ください。

ご注意ください

「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています