死後離縁とは? 相続権に及ぼす影響と生前の離縁との違い
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相続は、誰もが経験しうる身近な出来事です。仙台市でも、令和2年の1年間に約9000人の方が亡くなっており、その分だけさまざまな形の相続が発生していると考えられます。
相続は、親と子ども間だけではなく、養子縁組の当事者が被相続人や相続人になるケースもあります。養子縁組は、血縁関係にある実の親子関係とは異なり、離縁によって解消することができます。そのため、たとえば養親が多大な借金を背負っているような場合、養子は生前に縁組を解消することによって相続人にならずに済む可能性もあります。
では、死後に借金の存在などに気づき離縁をした場合も相続人から外れることはできるのでしょうか。
本コラムでは、死後離縁が相続に及ぼす影響や注意点について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、死後離縁とは
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(1)相続発生後に行う養子縁組解消
死後離縁とは、普通養子縁組をした当事者の一方が亡くなった後に、生存している他方が相手との血族関係を終了させる手続きです。
死後離縁は、家庭裁判所の許可を得る必要があります。具体的には、申立人の住所地の家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所の許可審判を得て、申立人の本籍地または住所地の役場に養子離縁の届け出を提出します。
死後離縁の申し立てができるのは、生存している養子縁組の当事者のみです。したがって、親族などが、勝手に死後離縁を申し立てることはできません。 -
(2)死後離縁と死後離婚の違い
「死後離縁」と混同しやすい言葉として、「死後離婚」があります。
一般的に「死後離婚」は、配偶者と死別した後に生存配偶者が「姻族関係終了届」を役所に提出する手続きをいいます。たとえば夫が亡くなった場合に、残された妻が、夫との血族関係を終了させる際に行います。
死後離縁と死後離婚は、亡くなった当事者との関係を終了させるものであるという点は共通しています。しかし、死後離縁は養子縁組から生じた親族関係を終了させるものであるのに対し、死後離婚は夫婦の婚姻から生じた親族関係を終了させるものであるという違いがあります。
2、死後離縁が相続に及ぼす影響
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(1)離縁の効果
養子縁組をすることによって、養親と養子の間には法律上の親子関係が発生します。そのため、通常の親子関係と同様に、扶養義務や相続権が生じることになります。
離縁は、養子縁組によって生じた権利義務などを将来に向かって消滅させるものです。養親と養子であった当事者には、離縁の時点から法律上の親子関係はなくなり、お互いの扶養義務や相続権も消滅します。 -
(2)死後離縁は当事者の相続には影響しない
離縁は、養子縁組を解消するものですが、過去にさかのぼって解消することはできません。つまり、離縁をしたタイミングによって、相続権に及ぼす影響が変わることになります。
養子Aと養子縁組関係にある養親Bが、4月1日に亡くなったという例に当てはめて考えてみましょう。
養親Bと生前に協議などで「離縁」していた場合には、相続開始の4月1日時点でAB間には養親子関係がなくなっているため、養子Aには相続権がありません。
一方、養親Bが亡くなった後に、家庭裁判所の許可を得て「死後離縁」したのであれば、相続開始の4月1日時点では養親子関係があったことになります。そのため、たとえ死後離縁が認められたとしても、養子A相続権が消滅することはありません。
つまり、死後離縁をしたとしても、当事者間の相続については影響を及ぼすことはありません。 -
(3)死後離縁後に生じる親族の相続には影響が及ぶ
前述したように、死後離縁をしたとしても、他方の相続権が失われることはありません。しかし死後離縁の後に、親族の相続が生じた場合については、影響が及ぶことはあります。
再び、同様の例に当てはめて考えてみます。
養子Aの養親Bが亡くなった後で、Bの父Cが亡くなったとします。
養子縁組をしている状況であれば、養子Aは亡くなった養親Bを代襲して父Cの遺産を相続することができます。
しかし、養子Aが家庭裁判所の許可を得て「死後離縁」した後に父Cが亡くなれば、養子Aは父Cの遺産を代襲して相続することはできません。なぜなら、死後離縁によって、養子Aは養親Bの親族との関係も終了させることになります。そのため、死後離縁をした後に発生した、養親Bの親族の相続については相続権を持たないのです。
3、死後離縁しても相続放棄ができるわけではない
死後離縁を選ぶケースとして、養親が亡くなった後に多額の借金があることが分かったといった事情があることも少なくありません。
このようなケースでは、死後離縁をすれば相続しなくても済むと誤解されることがありますが、前述したように、死後離縁は相続が開始された後に養子縁組を解消する手続きです。
相続開始時には養親子関係はあったものとされるため、死後離縁をしても相続人から外れることはできません。
相続をしないためには、通常の相続人と同様に「相続放棄」の手続きをする必要があります。
相続放棄は、相続開始を知ったときからから3か月以内に家庭裁判所に申述しなければならないとされています。したがって相続開始後、できるだけ早い段階で相続するかどうかを決めて、相続放棄を決めた際は家庭裁判所で手続きをする必要があります。
4、養子縁組の離縁や相続問題は弁護士に相談を
養子縁組の離縁や相続問題は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)裁判所の手続きをサポートできる
死後離縁では、家庭裁判所の許可を得る必要があります。弁護士は、遺産や手続きに関するアドバイスができるだけではなく、実際の手続きを任せることも可能です。慣れない手続きや書類の収集などに煩わされることなく、死後離縁をすすめることができるでしょう。
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(2)裁判所に適切な主張や立証ができる
裁判官は、申立人があきらかに不純な動機で死後離縁をしようとしていなかなどを審理して死後離縁を許可するかを判断します。個人で裁判官を納得させる理由を申述するのは簡単ではありません。その点弁護士であれば、死後離縁が認められるように裁判所に適切な主張や立証をすることができます。
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(3)遺産分割協議に代理人として参加できる
被相続人が遺言書を残さずに亡くなったときなどは、遺産の分割方法を決める(遺産分割協議)際に相続人同士でトラブルになることも少なくありません。さらに、そこに離縁問題が絡むと、問題が大きくなるおそれもあるでしょう。
弁護士は、代理人として遺産分割協議に参加することができます。養子縁組をして家族になっているとはいえ、立場上、主張がしにくいといった状況もあるかもしれません。弁護士が代理人となることで、適切な主張ができるのはもちろんのこと、精神的な負担も軽減できるというメリットがあります。
5、まとめ
死後離縁は、すでに発生した相続には影響を及ぼしません。そのため、相続人から外れたいという理由で死後離縁を選択するのは、得策とはいえません。相続人から外れるためには、相続放棄を検討するのが最善です。ただし、相続放棄は、相続開始から3か月以内におこなわなければいけないので注意が必要です。
死後離縁を行うときには、どのような理由で離縁をしたいのか、相続をしたいのか、したくないのか、といった点について、しっかりと考えた上で対応をすすめることが大切です。
ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスでは、相続問題に関するお問い合わせを広く受け付けております。また、相続問題だけではなく、死後離縁や養子縁組の解消に関するトラブルなどもお任せください。しっかりとお話を伺ったうえで、最善の結果が得られるようアドバイスします。
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