婿養子と婿の相続権の違いとは? 婿養子がしっておくべき相続ガイド
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「仙台市統計書(令和2年版)」によると、令和元年における仙台市内の婚姻件数は5676件でした。婚姻にともなって、妻の姓を選択することに決めたご夫婦もいらっしゃることでしょう。また「妻の両親と同居して暮らし始めた」「妻の親が経営する会社で働き始めた」などというケースもあるかもしれません。
このような場合、一般的に夫は「婿」、「婿養子」などと呼ばれます。しかし、婿なのか、婿養子なのかは、相続権において大きな違いをもたらします。
本コラムでは、婿養子の相続権について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、相続のポイントは「養子縁組」
婿や婿養子という表現は、何気なく使用している方も多いのではないでしょうか。しかし、婿なのか婿養子なのかによって、妻の親などが死亡した場合の相続権に大きな違いが生じます。
「婿養子」とは、そもそもは昭和22年の改正以前の旧民法に定められていた制度で、「養子縁組」と「養親の娘との婚姻」とが同時に行われることを意味します。
現在の民法には、このような制度はありませんが、婚姻制度と養子縁組制度のそれぞれは依然として存在するので、婚姻と同時に妻の親と養子縁組することによって、実質的に婿養子の制度と同じ関係をつくりだすことが可能です。
他方、「婿」は、「婿養子」よりも広い意味で使われることの多い言葉です。
「婿」は、単に娘の夫を示す意味で使われたり、同居する娘の夫を示す意味で使われたりすることもあります。
婿や婿養子という表現は日常的に多用されていますが、婿養子といいつつ養子縁組がなされていないケースも少なくありません。法律的には、相続権の有無を判断するにあたって、妻の親と養子縁組しているかどうかということが重要となってくるので、その点をしっかりと押さえておく必要があります。
2、婿養子の相続権と相続割合
では、妻の親と養子縁組をしている場合、相続権はどのようになるのでしょうか。
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(1)婿養子の相続権
まず、相続権と相続順の基本を押さえておきましょう。
【相続権と相続順】- 配偶者|常に相続人となる
- 子ども|第1順位
- 親|第2順位
- 兄弟姉妹|第3順位
ここでいう順位というのは、相続における優先度のようなもので、配偶者ともっとも順位が高い者が相続権を有することになります。高い順位の者がいない場合には、次の順位の者が相続権を有することになります。
たとえば、被相続人(亡くなった方)に配偶者と子どもがいた場合は、配偶者と子どもが、相続人となります。被相続人に配偶者はいるが子どもがおらず、親が存命している場合は、配偶者と親が相続人となります。配偶者も子どももいない場合で、親が存命している場合は、相続人は親のみとなります。
養子縁組をすることにより、婿養子には、養親(妻の親)との法律上の親子関係が発生します。法律上の親子関係があれば、お互いに扶養や相続の権利・義務を負うことになります。
そのため妻の親が亡くなったときには、婿養子も妻とともに、法定相続人として相続権を持つことになり、上記の順番では「子ども」と同様に第1順位の相続権を得ることになります。
ただし、上に示した相続順はあくまで民法上定められている内容であり(民法887条~890条)、被相続人の遺言書があるなどの場合にはその内容が優先されることとなります。
ちなみに、相続税の計算をする場合に法定相続人の数に含める養子の数は一定数に制限されています。しかし、制限された人数以外の養子について相続権が認められないわけではありません。養子であれば、相続権は認められます。 -
(2)婿養子の相続割合
婿養子は、実の子どもと同様の相続割合になります。
民法上、子どもの相続割合は次のとおりですが、兄弟姉妹がいる場合は、人数で相続分を割ることになります(民法900条4号)。【相続割合】- 配偶者がいる場合|2分の1
- 配偶者が他界している場合|すべてを相続
では、具体例をみていきましょう。
【例】- X(夫)とY(妻)が結婚
- Xは妻Yの父と養子縁組をした
- 妻Yの母は他界
- 妻Yには妹が1人いる
このケースで、妻Yの父が亡くなった場合、実子である妻と妻の妹、そして養子である夫Xが法定相続人になります。
実子であっても養子であっても法定相続分は変わりません。よって、夫Xと妻Y、そして妻の妹の3人が均等に3分の1ずつの割合で相続することになります。 -
(3)婿養子は相続税の2割加算対象?
相続財産が基礎控除額を超える場合には、基本的に課税対象となり、相続税を支払う必要が生じます。
基礎控除額は『3000万+(600万×法定相続人の数)』で算出することができ、婿養子は加算する人数に一定の制限があるものの、基本的には基礎控除額の計算における法定相続人の数に含むことができます。
なお、相続税は、配偶者・親・子ども以外は、原則として2割加算して納めなければならないとされています。しかし養子縁組をしている婿養子であれば、子どもと同様に扱われるため、たとえ相続をしたとしても2割加算をする必要はありません。 -
(4)婿養子は相続放棄できる?
法定相続人であっても、相続するかどうかを選択することはできます。たとえば、被相続人に多額の借金があるような場合には、相続人は「相続放棄」をして一切の権利義務を放棄することが可能です。これは、婿養子であっても同様です。婿養子として家を継ぐようなことを期待されていたとしても、相続放棄することは認められています。
ただし、相続放棄をする場合には、相続開始(被相続人が死亡したとき)から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄を申述する手続きをとる必要があるので、注意が必要です。 -
(5)実親の相続はどうなる?
養子縁組の制度は、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類に分けることができます。
「普通養子縁組」は、実親との親子関係を維持しながら養親との親子関係を構築するものであるのに対して、「特別養子縁組」は実親との親子関係を絶ち、養親とのみ親子関係を構築することになります。
結婚によって婿養子となる場合、男性が結婚することができるのは18歳からですので、「普通養子縁組」を結ぶことになります。つまり婿養子は、実親と養親の双方と二重に親子関係があることになります。
そのため、実親の相続に際しても、相続人から外れることはなく、法定相続人として、財産を相続することが可能です。
3、養子縁組を解消した場合の相続
婿養子になったものの後に養子縁組を解消したとき(法律上「離縁」といいます)、相続権はどうなるのでしょうか。
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(1)養子縁組の解消
婿養子になったとしても、養親や親族との関係がうまくいかなくなり、養子縁組を解消することもあります。また、妻と離婚することになれば、妻の親との養親子関係だけが残るのは不自然であるため、養子縁組を解消することが自然ともいえます。
ここで注意すべきは、離婚と養子縁組の解消は別の手続きであるという点です。離婚によって自動的に養子縁組が解消されるわけではありませんし、養子縁組の解消によって離婚するわけではないということです。
なお養子縁組の解消は、縁組をするときと同様に、養子と養親の双方が合意して行う必要があり、一方の意思のみで解消できるわけではありません。 -
(2)養子縁組解消後の相続はどうなる?
結論から述べると、養子縁組を解消した場合、相続権はなくなります。妻と離婚しているかどうかによって、結論が変わることはありません。
先の例でいえば、妻の父が亡くなったときに婿養子Xとの養子縁組が解消されていれば、Xには相続権がないということです。妻Yと離婚をしていない場合でも同様です。この場合には、実子である妻YとYの妹の2人が相続権を有することになります。
4、婿養子は遺留分を請求できるのか?
養子縁組をして婿養子になったものの、養親が婿養子には財産を残さない旨の遺言書を残して亡くなった場合、どうなるのでしょうか。
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(1)相続させない旨の遺言が残されるケース
婿養子に相続をさせたくない場合は、養子縁組を解消すれば事足ります。ただし、前述したように縁組の解消には当事者双方の合意が必要であり、合意がなければ養子縁組を解消することは難しいでしょう。また、養子縁組を解消することで関係が悪化することをおそれて言い出せないというケースも考えられます。
このような場合、婿養子には相続させない、または婿養子以外の相続人や第三者に財産を譲り渡す旨の遺言書が残される可能性があります。 -
(2)養子縁組をしていれば遺留分を主張できる
養親が、婿養子に相続させない旨の遺言書を残していたとしても、養子縁組が解消されていない限り婿養子は法律上被相続人の子どもということになるので、婿養子は「遺留分」を主張する権利があります。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障される最低限の相続分です。
婿養子にも遺留分は認められているので、遺言書に一切の相続をさせない旨が書かれていても、侵害している遺留分に相当する金銭の支払いを、他の相続人に対して請求することが可能です。これを「遺留分侵害額の請求」(民法1046条)といいます。
婿養子には、本来認められる法定相続分に2分の1を乗じた金額分の遺留分が認められているので(民法1042条1項2号、同条2項)、遺言書等によってこれを下回る金額が定められている場合には、遺留分侵害額の請求をすることができます。
ただし、遺留分侵害額請求権には、時効があるので注意が必要です。
遺留分侵害額請求権の時効は、遺留分権利者が相続の開始と遺留分を侵害する遺贈・贈与があったことを知ったときから1年間とされています。つまり、基本的には相続から1年が経過すれば、遺留分を主張できなくなってしまう可能性があります。
また、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈等があったことを知らなくても、相続開始から10年が経過すれば、遺留分侵害額請求権は消滅します。
5、まとめ
妻の姓を名乗っていたとしても、妻の両親と養子縁組をしていなければ、相続権はありません。一方で、養子縁組をして婿養子となっていれば、養親の相続について、実の子どもと同じ立場で相続する権利があります。
相続は、家族関係や遺言書の有無などによって、対応策が異なり、状況によっては複雑化するおそれもあります。相続権があるのかないのかわからない、相続について揉めているというケースでは、早い段階で弁護士へ相談し、助言を得ることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスでは、相続に関する問題やご相談を広く受け付けております。仙台市内や宮城県だけではなく、福島県、岩手県、山形県、青森県、秋田県にお住まいの方からのご相談もお受けしております。
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相続問題は、こじれてしまうとトラブルが大きくなってしまうことも想定されます。
お悩みを抱えている場合は、ぜひ仙台オフィスの弁護士にご相談ください。相続問題が解決するよう、しっかりとサポートします。
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