みなし相続財産とは? 非課税枠についても仙台オフィスの弁護士が解説します
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「仙台市統計書」によりますと、仙台市では平成30年に9001人の方が亡くなっています。つまり、遺産の有無、質や量にかかわらず、この数値に近い件数の相続が発生しているといえるでしょう。
相続が発生すると、相続税のことも考慮しなければなりません。そして相続財産は、その種類によって相続税の課税内容が異なることはもちろん、非課税枠(控除枠)が設けられているものなど、極めて多種多様です。
ここでは、特殊な相続財産の類型である「みなし相続財産」について、相続問題を取り扱っているベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が税制上のメリットや注意点なども交えながらご説明します。
1、みなし相続財産とは
みなし相続財産とは税法上の呼称で、「被相続人(亡くなった人のこと)の財産ではないが、被相続人が死亡したことで相続人のものになった財産」の財産のことをいいます。 みなし相続財産とされる財産は、以下のとおり実に多種多様です。
- 生命保険の死亡保険金
- 生命保険契約に関する権利
- 被相続人の死亡退職金
- 死亡弔慰金
- 契約に基づかない定期金に関する権利
- 特別縁故者に対する財産分与
- 信託受益権
- 低額譲受
- 死亡前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産
- 相続人の債務免除
みなし相続財産は民法上の相続財産ではありません。しかし、みなし相続財産という名のとおり、相続税法上は相続財産とみなされます。したがって、一定限度の非課税枠はあるものの、基本的に相続税の課税対象となります。
2、代表的なみなし相続財産の種類と特徴
ここでは、実際の相続において代表的なみなし相続財産と考えられる「生命保険の死亡保険金」、「死亡退職金」、「死亡弔慰金」について、その特徴をご紹介します。
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(1)生命保険の死亡保険金
被相続人を契約者・被保険者、相続人を受取人とする生命保険の死亡保険金は、みなし相続財産となります。
被相続人が加入していた生命保険の死亡保険金は「相続財産」ではなく、「遺族など受取人固有の財産」と位置付けられています。このことから、生命保険の死亡保険金は被相続人の財産を「誰が」「何を」「どのくらい」相続するのかについて相続人間で話し合って決める「遺産分割協議」の対象外です。
したがって、被相続人が特定の相続人に対して現金を多く残したいと考えていた場合は、その特定の相続人を死亡保険金の受取人とした生命保険を契約しておくことで、遺産分割協議を経ることなく実質的に現金を相続させることができるのです。 -
(2)死亡退職金
死亡退職金とは、退職金規定のある企業や役所等に勤務している役職員が在職中に死亡した場合に、被相続人の生前の勤続年数や役職等に応じて勤務先から遺族に支給されるものです。
死亡退職金は、法定相続人としての第一順位にある配偶者に支給されるものなど就業規則や退職金規定などにおいて定められているケースが多いようです。そして役職員の死亡を理由として支給されるものであれば、金銭に限らず現物で支給されたものも死亡退職金と同様の扱いとなります。
死亡退職金は、被相続人の勤務先が被相続人の生前の功労に対して支払うという報酬の性質、または被相続人に対して支払われるべきであった未払い賃金の後払いという性質を含むという考え方もあります。しかし、基本的に被相続人の勤務先が死亡退職金を支払う目的は、遺族の生活を保障する福利厚生の一環であるという解釈が一般的です。
したがって、死亡退職金についても「相続財産」ではなく、基本的に、「遺族など受取人固有の財産」と位置づけられており、みなし相続財産として遺産分割協議の対象外となるのです。 -
(3)死亡弔慰金
被相続人の勤務先から死亡退職金とは別に支払われることが多い死亡弔慰金についても、死亡退職金と同様にみなし相続財産として相続税の課税対象となります。
なお、死亡弔慰金に類似するものとして勤務先から支給される香典が議論の対象になることがあります。香典については、金額が社会通念上妥当と考えられる範囲のものであれば死亡退職金等と同様には扱われません。したがって、その範囲内のものであれば、みなし相続財産としては扱われないことから相続税は課税されないと考えてよいでしょう。
3、知っておきたいみなし相続財産の非課税限度枠
遺産を相続するすべての人には、相続基礎控除額「3000万円+600万円×法定相続人の数」が適用されます。この基礎控除額を超える場合に、相続税は累進課税方式により発生するのです。また、被相続人の配偶者であれば、相続財産額1億6000万円または法定相続分相当額を超えないかぎり、相続税が課税されることはありません。
このほかにも、みなし相続財産には特有の非課税枠が設けられています。
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(1)生命保険の死亡保険金
相続税法第12条の規定により、相続人が受け取る被相続人の死亡保険金および死亡退職金には、非課税枠として「法定相続人の数×500万円」の適用が設けられています。
法定相続人には、相続を放棄した人、養子について被相続人に実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人まで含めて計算することが認められています。なお、受取人が法定相続人以外の人である場合は、この非課税枠の適用はありません。
このほか、生命保険の契約上みなし相続財産の扱いにならなくても、生命保険の死亡保険金には特有の非課税枠があります。
たとえば、被相続人が契約者かつ死亡保険金受取人、その配偶者などが被保険者の契約内容で被相続人が死亡した場合、死亡保険金に対する課税区分は所得税(一時所得)となり、課税対象額は「(死亡保険金-既払込保険料-特別控除50万円)×50%」に減額されます。
さらに契約者・被保険者・死亡保険金受取人がそれぞれ別人物の場合、死亡保険金に対する課税区分は贈与税となります。このため、課税対象額は死亡保険金から基礎控除110万円を差し引くことができます。 -
(2)死亡退職金
死亡退職金についても、生命保険金の死亡保険金と同様に「法定相続人の数×500万円」の適用が設けられています。相続人の範囲についても、同様の扱いとなります。
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(3)死亡弔慰金
支給額が一定の額に満たない死亡弔慰金に対して、相続税は課税されません。ここで指す「一定の額」とは、以下のように被相続人が死亡した原因により異なります。
- 業務中に死亡した場合:被相続人の死亡当時の普通給与の3年分に相当する金額
- 業務外で死亡した場合:被相続人の普通給与の半年分に相当する金額
4、みなし相続財産の注意点
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(1)相続放棄できない?
みなし相続財産は民法上の相続財産ではありませんから、相続放棄ができません。別の言い方をすると、相続放棄したつもりでも何らかの事情により生命保険の死亡保険金や死亡退職金を取得してしまうと、相続税が課税されてしまう可能性があるのです。
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(2)特別受益に注意!
特別受益とは、生前の被相続人から特定の相続人になされていた高額の贈与や遺贈(遺言により財産を贈与すること)を指します。たとえば起業のための資金、留学費用、結婚時の祝い金や住宅の贈与などが該当する可能性があるでしょう。
ほかにも相続人がいるのにもかかわらず、特定の相続人のみにこのような贈与や遺贈がなされているケースが、特別受益とみなされることがあります。なぜなら、生前の特別受益を受けていた相続人と受けていなかった相続人の間で不公平が生じることになるためです。
したがって、相続人間の公平を図るために生前の贈与や遺贈については特別受益として考慮し、相続人全員の相続割合を決めるという考えがあります。具体的には、特別受益分を相続財産の実質的な前受け分と考え、特別受益を受けた相続人の遺産分割割合は特別受益相当分について減らすというものです。
みなし相続財産についても、特に被相続人の収入により複数の遺族が生計を立てていた場合には、基本的に特別受益が準用されるという考え方があります。生前贈与や遺贈などと同じ考え方に基づいて、受取人固有の権利として何らかのみなし相続財産を受け取ったとして、その金額があまりにも高額であるため結果として相続人間で不公平が生じる場合は、不公平分相当が特別受益に準じるものと考えるわけです。そして、遺産分割協議などにより相続人間で特別受益相当分の遺産分割割合を調整することになります。
何よりも注意していただきたい点は、みなし相続財産を特別受益として考慮するか否かについては、相続人間のトラブルの原因になりやすいということです。 -
(3)死亡退職金が遺産分割協議の対象になることも?
先述のとおり、被相続人の勤務先の退職金規定に定めた受取人として死亡退職金を受け取った場合は、受取人固有の財産として扱われ遺産分割協議の対象とはなりません。しかし、勤務先に死亡退職金の受取人に関する規定がないのにもかかわらず、勤務先から死亡退職金が支払われた場合は、遺産分割協議の対象にすべきという考え方もあります。
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(4)死亡退職金が所得税の課税対象になることも?
被相続人の相続発生後3年を経過してから死亡退職金の支給額が確定した場合、当該支給額は相続税ではなく所得税の課税対象となります。この場合、「法定相続人の数×500万円」の非課税枠の適用を受けることはできません。
5、まとめ
みなし相続財産は、税制面でのメリットがある一方で、特別受益の考え方から相続人間でトラブルの原因ともなりやすいタイプの相続財産でもあります。もし、みなし相続財産の取り扱いについて不明点がある場合、あるいはみなし相続財産をめぐって他の相続人とトラブルになりそうな場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。
相続問題の解決について経験と実績が豊富な弁護士であれば、複雑な相続関連の法制度を踏まえながら適切な法的アドバイスを提供することができます。また、トラブルに発展した場合にあなたの代理人として他の相続人と協議や交渉、家庭裁判所におけるやり取りを依頼することも可能です。
ぜひお気軽に、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士にご相談ください。必要に応じて税理士などその他士業とも連携しながら、ワンストップで相続問題を解決に導けるよう力を尽くします。
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