相続人がいないときの相続財産の取り扱いと生前に行っておくべき対策

2022年12月12日
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相続人がいないときの相続財産の取り扱いと生前に行っておくべき対策

令和2年に行われた国勢調査における人口等基本集計結果によると、仙台市の一般世帯の世帯数は、52万4651世帯でした。そのうち世帯人員が1人という世帯は、23万6238世帯あり、一般世帯全体の45%を占めています。平成22年、27年に行われた国勢調査の結果をみると、仙台市では世帯人員が1人という世帯が、年々増えてきていることもわかります。

単身で生活をしている場合、自分が亡くなったときに相続人になる人が誰もいないという方もいるでしょう。そのような方の場合、法定相続人という考え方を正しく理解し、相続人該当する人が本当にいないのかを確認しておくのはもちろんのこと、財産をどのように整理するのか、生前にしっかりと考えておくことが大切です。

今回は、相続人がいないときの相続財産の取り扱いと、生前に行っておくべき対策について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、相続人がいないケース

相続人が誰もいない、というのはどのようなケースが該当するのでしょうか。相続の基本とあわせて確認していきましょう。

  1. (1)法定相続人に該当する人がいない

    典型となるのは、法定相続人に該当する人がいないというケースです。

    民法では、相続が発生した場合の法定相続人の範囲および相続順位を、次のように規定しています。

    • 配偶者(必ず相続人となる)

    配偶者以外は、次の順位で相続人となります。
    • 子ども(第1順位)
    • 両親(第2順位)
    • 兄弟姉妹(第3順位)


    第一優先となるのは、配偶者と子どもですそれ以外の相続人は、先順位の相続人がいない場合に限って相続人になることができます
    なお、子どもが被相続人(遺産を残す方)よりも先に亡くなっており、亡くなった子どもに子ども(被相続人からみると孫)がいる場合には、被相続人の孫が代襲相続人として、本来の相続人の相続権を引き継ぐことになります。

    同様に、兄弟姉妹が被相続人よりも先に亡くなっており、その兄弟姉妹に子ども(被相続人からみると、おい・めい)がいる場合には、被相続人のおい・めいが代襲相続人として、法定相続人になることができます。

    相続が開始した場合には、上記のような相続人の範囲と順位に従って、法定相続人を決めることになりますが、該当する相続人がいないという場合には、相続人がいない状態となります。

  2. (2)相続人全員が相続放棄をした

    相続放棄とは、遺産を相続する一切の権利を放棄する手続きのことをいいます。被相続人に法定相続人がいたとしても、すべての相続人が相続放棄をした場合には、相続人がいない状態となります。

    先順位の相続人が相続放棄をした場合には、後順位の相続人に相続権が移ることになるので、相続人がいない状態になるには、第1順位から第3順位までのすべての相続人が相続放棄をした場合です。

  3. (3)相続人全員が相続廃除

    相続人が被相続人に対して虐待や重大な侮辱をしていた場合には、被相続人は、家庭裁判所に申し立てをすることによって、その相続人の相続権をはく奪することができます。これを「相続廃除」といいます。

    相続廃除をした場合には、遺産を相続することはできません。相続廃除をした結果、遺産を相続することができる人がいなくなった場合には、相続人がいない状態となります。

    なお、相続廃除が認められたとしても、その相続人に子どもがいた場合、子どもには相続廃除の効力は及びません。つまり、代襲相続によって子どもに相続権が移るため注意が必要です。

  4. (4)相続欠格

    被相続人を強迫するなどして遺言書を書かせた場合や、遺言書の偽造をしたなどの事情がある場合には、当該相続人の相続権が失われます。これを「相続欠格」といいます。

    相続欠格は、相続廃除とは異なり、家庭裁判所への申し立てを要することなく、一定の相続欠格事由に該当する事情がある場合には、当然に相続権が失われる制度です。
    相続人が相続欠格事由に該当した結果、遺産を相続することができる人がいなくなった場合には、相続人がいない状態となります。

2、相続人がいないときの財産の行方

遺産を相続することができる法定相続人がいない場合、相続財産はどのように取り扱われるのでしょうか。法定相続人以外に、遺産を取得することができる人はいるのでしょうか。

  1. (1)受遺者

    受遺者とは、遺言によって被相続人の相続財産を譲り受けた人のことをいいます。

    被相続人の遺産は、法定相続人が相続によって取得するのが基本となりますが、生前に被相続人が遺言書を作成していた場合には、遺言書によって指定した人に遺産を取得させることができます。
    遺言書を作成することによって、法定相続人以外の第三者であっても被相続人の遺産を取得することが可能です。

  2. (2)被相続人の債権者

    被相続人に借金があった場合には、被相続人の債権者が相続財産を取得することがあります。
    ただし、被相続人の債権者が相続財産から債務の返済を受けるためには、相続財産管理人の選任を行い、相続財産管理人による清算手続きを経ることになります。

  3. (3)特別縁故者

    特別縁故者とは、以下の要件のいずれかに該当しうる人のことです。

    • 被相続人と生計を同じくしていた人
    • 被相続人の療養看護を行っていた人
    • 被相続人と特別な縁故があった人


    このように被相続人と一定の関係にあった人は、特別縁故者として、相続人でなくても遺産を取得することができる場合があります。特別縁故者が被相続人の相続財産を取得するためには、家庭裁判所に「特別縁故者への財産分与の申立」を行う必要があります。
    裁判所では、申立人が上記の要件に該当するか判断を行い、該当する場合には、相続財産の全部または一部の分与を認めます。

  4. (4)国(国庫)

    被相続人に受遺者、債権者、特別縁故者がいない場合、またはいたとして財産に余りが生じる場合には、最終的に国庫に帰属し、国のものになります。

3、希望する形で財産を譲り渡すための方法

法定相続人はいないものの、生前に関係のあった第三者や、団体に財産を譲り渡したい場合は、いくつかの手段があります。

  1. (1)生前贈与

    生前に第三者に財産を譲り渡す方法としては、生前贈与という方法があります。
    生前に財産の帰属を見届けることができる方法なので、財産を渡す側としても安心でしょう。
    しかし、ご自身が生活するための資産は手元に残しておく必要があるため、すべての財産を贈与することは難しく、生前贈与をしたとしても亡くなった時点で誰にも帰属しない相続財産が発生することは避けられません。
    また、生前贈与には、贈与税が課税されるので、贈与税への配慮も必要となります。

  2. (2)死因贈与

    死因贈与とは、贈与者の死亡により効力が生じる贈与契約です。
    負担付死因贈与契約という形式も可能なので、生前に介護をすることなどを条件として、亡くなった後に財産を譲るという内容を定めることもできます。

    また、死因贈与は、贈与者と受贈者との契約のため、贈与者が亡くなった後に受贈者から一方的に契約を破棄される心配はありません。そのため、確実に財産を譲り渡したいという場合には、死因贈与がおすすめです。

  3. (3)遺言書

    遺言書を作成することによって、相続人以外の第三者に対しても財産を渡すことができます。被相続人と特別な関係にあった人は、特別縁故者として裁判所に申し立てをすることによって、相続財産をもらうことができる場合もありますが、特別縁故者自らが申し立てをしなければならないという負担があり、財産をもらうことができるかどうかも不確実であるといえます。
    そのため、財産を渡したい人が明確にいる場合は、生前に遺言書を作成しておくのがよいでしょう。

4、相続人がおらず、生前対策もとっていない場合に相続手続きはどのように進むのか

ご自身(被相続人)に法定相続人がおらず、遺言書を残すなどの対応をしなかった場合は、相続財産の管理・清算を行うために、相続財産管理人の選任申立が行われます。
財産を譲り渡したい人がいたとしても、前述したような生前対策を講じておかなければ、受け取る方は煩雑な手続きを経る必要が生じてしまいます。具体的に、どのような手続きが必要になるのかを知っておきましょう。

  1. (1)相続財産管理人の選任申立

    被相続人に相続人がいない場合は、利害関係人または検察官が家庭裁判所に対し、相続財産管理人の選任申立を行います。利害関係人としては、被相続人の債権者、受遺者、特別縁故者などが挙げられます。

  2. (2)相続財産管理人の選任公告

    相続財産管理人が選任されると、裁判所ではその旨の公告を行います。この公告には、相続人を捜索するという意味合いがあります。相続財産管理人選任の公告期間は、2か月です。

  3. (3)相続債権者、受遺者に対する請求申出の公告

    相続財産管理人の選任公告期間経過後も相続人が現れないときは、相続債権者・受遺者に対して、請求申出の公告を行います。被相続人の債権者および受遺者から請求申出があった場合には、相続財産管理人は、相続財産から債権者および受遺者に対して支払いを行います。

  4. (4)相続人捜索の公告

    家庭裁判所は、相続財産管理人の請求により、6か月以上の期間を定めて、相続人捜索の公告を行います。この期間内に相続人からの申出がなければ、相続人の不存在が確定します。

  5. (5)特別縁故者への財産分与の申立

    相続人の不存在が確定した場合、特別縁故者は裁判所に対して特別縁故者への財産分与の申し立てを行うことができます。申し立てを受けた裁判所では、申立人との関係性や縁故の程度などの一切の事情を考慮した上で、財産分与を認めるかどうかを判断します。

    なお、特別縁故者への財産分与の申立は、相続人捜索の公告期間満了の翌日から3か月以内に行わなければなりません。

  6. (6)国庫に帰属

    債権者、受遺者への支払いおよび特別縁故者への財産分与をしても相続財産に残余がある場合や、それらに該当する人がいなかった場合には、相続財産管理人によって、国庫に帰属させる手続きがとられます。

5、まとめ

相続人がいない状態になることが予想される方は、生前に相続対策を行っておかなければ、相続財産は最終的に国庫に帰属してしまいます。相続人はいないものの財産を渡したい人がいるという場合には、遺言書の作成など早めに対策を講じることをおすすめします。

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