前妻の子に遺産を相続させない方法とは? 遺産分割・遺留分の注意点
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仙台市役所が公表する「保健統計年報令和4年版(令和3年統計資料)」のデータによると、令和3年(2021年)中の仙台市における出生数は7310人、死亡数は9753人で、2443人の自然減少となりました。また、婚姻数も離婚数も前年比で減少しています。
日々発生している遺産相続のなかでも、亡くなった方(被相続人)が再婚しており、前妻との間に子どもがいた場合、相続関係が複雑になるケースがあります。
離婚から時間が経過していたり、前妻との関係性が極めて悪かったりすると、亡くなった方と前妻との間に生まれた子どもと疎遠になっているということもあるでしょう。
日常生活においては問題になりませんが、相続の場面では、前妻の子どもの相続権に注意しなければなりません。たとえば、再婚後の家族に遺産をすべて譲り渡したいと考えていても、前妻の子どもが相続権を主張することは十分に考えられます。
本コラムでは、前妻の子どもに遺産を相続させない方法について、遺産分割や遺留分に関する注意点とともに、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、相続権の基本的な考え方
被相続人(財産を残す人)が亡くなった場合、誰が相続権を有するかについては、民法上のルールに従い決定されます。
まずは、相続権の基本的なルールについて解説します。
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(1)相続権の順位・決定方法
民法のルールに従うと、被相続人の親族構成に応じて、次の者に「相続権」が認められます。
● 常に相続人となる
配偶者
● 配偶者以外の相続順位
① 子どもがいる場合……子ども
② 子どもがおらず、直系尊属がいる場合……直系尊属(父母・祖父母など)
③ 子ども・直系尊属がおらず、兄弟姉妹がいる場合……兄弟姉妹
各相続人の「法定相続分」も、民法の規定に基づき決定されます(民法第900条)。
● 配偶者および子どもが相続人
配偶者:2分の1
子ども:2分の1
● 配偶者および直系尊属が相続人
配偶者:3分の2
直系尊属:3分の1
● 配偶者および兄弟姉妹が相続人
配偶者:4分の3
直系尊属:4分の1
※同一資格の者が複数いる場合は、その者の間で相続分を案分します。
※相続開始時点で胎児であった者にも、生きた状態で生まれることを条件として、上記に基づき相続権が認められます。 -
(2)前妻の子どもにも相続権は認められる
前述のとおり、被相続人に子どもがいる場合、その子どもは相続人となります。
配偶者は常に相続人となりますが、前妻とはすでに離婚しているので、前妻自身には配偶者としての相続権は認められません。
これに対して、たとえ離婚をしても、被相続人と前妻の子どもとの間に存在する親子関係が消滅するわけではありません。よって、前妻の子どもには、被相続人の子どもとしての相続権が認められます。
つまり、前妻の子どもには、遺産分割協議に参加して、遺産の分割を請求する権利があるということになります。そのため、もし前妻の子どもに遺産を渡したくないと考える場合には、何らかの対策を打っておくことが必要です。
2、前妻の子どもに遺産を相続させない方法|遺言書の作成
被相続人となる方が、前妻の子どもに遺産を相続させたくないと考える場合、遺言書を作成して遺産の配分を指定することが有効な対策となります。
被相続人は、各相続人が有する法定相続分にかかわらず、遺言によって自ら所有する財産を処分することが認められています(民法第964条)。
これを「遺贈」といいます。
遺贈には、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。
遺産を割合的に指定して行われる遺贈です。
(例)遺産の3分の1を長男Aに遺贈する
【特定遺贈】
対象となる遺産を特定して行われる遺贈です。
(例)○○所在の不動産Xを長男Aに遺贈する
このように、生前の元気なうちに、どのように遺産を分けたいかを熟考したうえで、遺言書を作成しておくとよいでしょう。
3、前妻の子どもの相続における注意点
遺言書で、前妻の子どもの相続分をゼロと指定したとしても、遺留分対策は別途行う必要があります。
遺留分対策を十分に行わないと、相続人が前妻の子どもから「遺留分侵害額請求」(民法第1046条第1項)を受けた場合、結果的に前妻の子どもへ遺産が渡ってしまうことになります。
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(1)遺留分と相続の関係
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた、相続できる遺産の最低保証額を意味します(民法第1042条第1項)。
相続人に認められる遺留分の割合は、次のとおりです。
● 直系尊属のみが相続人である場合
法定相続分の3分の1
● 上記以外の場合
法定相続分の2分の1
相続人が複数いる場合には、この遺留分の割合に法定相続分割合を掛けたものが、各相続人が具体的に得ることができる遺留分額になります(民法第1042条第2項)。
前述のとおり、被相続人は遺言により、自ら所有する財産を自由に処分することができます。しかし、遺言によって偏った遺産配分が行われた場合、相続人間の公平を欠く結果となるうえ、法定相続人が有する相続への合理的期待が害されてしまいます。
そこで、各法定相続人に「遺留分」を認めることで、『被相続人の意思』と『相続人の利益』の間で調整が図られているのです。
遺留分未満の遺産しか受け取ることができなかった相続人は、他の相続人・受遺者・受贈者に対して「遺留分侵害額請求」を行うことができます。遺留分侵害額請求を行うと、被相続人から財産を多く受け取った相続人・受遺者・受贈者から、遺留分額に相当する金銭の支払いを受けられます。
たとえば、遺言により前妻の子どもの相続分をゼロとしたとします。しかし、前妻の子どもが遺留分侵害を主張し、ほかの相続人などに対して遺留分侵害額請求を行った場合は、前妻の子どもが有する遺留分の額だけは支払わなければならない、ということになります。 -
(2)遺留分の対策
前妻の子どもからの遺留分侵害額請求に対して対策を講じることは可能ですが、どの方法にも一長一短があるため、慎重に検討することが大切です。
● 前妻の子どもに遺留分を放棄してもらう
遺留分は、権利者の選択によって放棄することが認められています。
前妻の子どもが遺留分を放棄すれば、財産を渡す必要がなくなるため問題は解決するでしょう。ただし、遺留分の放棄を強制することはできないので、前妻の子どもの理解を得る必要があります。
なお、被相続人の生前に遺留分を放棄する場合は、家庭裁判所の許可が必要となる点に注意が必要です(民法第1049条第1項)。
● 前妻の子どもに相続放棄をしてもらう
前妻の子どもが相続放棄をすると、当初から相続人にならなかったものとみなされるため、遺留分についても消滅します。
ただし遺留分の放棄と同様、相続放棄についても前妻の子どもが任意に判断する事項ですので、強制はできません。
● 生命保険を活用する
生命保険の保険金は、原則として遺留分侵害額請求の対象外です。
そのため、生前に生命保険に加入し、遺産を多めに与えたい相続人などを受取人に指定しておけば、再婚した家族にしっかりと財産を残すことができます。
ただし、生命保険金があまりにも高額な場合、遺留分侵害額請求の対象となってしまう可能性がある点に注意が必要です(最高裁 平成16年10月29日)。
● 生前贈与をして相続財産を減らす
遺留分の算定は、相続財産の金額を基礎として行われるため、生前贈与によって相続財産を減らすことで、結果として遺留分を減らすことにつながります。
ただし、法定相続人に対する生前贈与は相続開始前10年間、それ以外の者に対する生前贈与は相続開始前1年間に行われた場合、遺留分算定の基礎とされてしまいます(民法第1044条第1項、第3項)。
そのため、生前贈与による遺留分対策は、できる限り早い段階で着手することが大切です。
4、生前の相続対策は弁護士に相談
前妻の子どもに財産を残さないようにするためには、単に遺言書を作成して相続分をゼロにするだけでなく、適切な遺留分対策を講ずる必要があります。
遺留分対策は、相続に関する具体的な事情を踏まえて、法的な検討を十分に行うことが大切です。そのため、弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、ご家族のご事情や財産状況、被相続人の方のご希望を丁寧に伺ったうえで、適切な相続対策をご提案します。また、実際の相続発生時に遺留分侵害額請求が問題となった場合、相続人であるご家族が困らないよう、紛争解決のために交渉・訴訟手続きなどを代行することが可能です。
生前対策と相続手続きを一括してサポートしてもらいたい方は、ぜひベリーベスト法律事務所までご相談ください。
5、まとめ
前妻の子どもは相続権を有するため、財産を相続させたくない場合には、遺言書によって相続分を指定したうえで、状況に応じた遺留分対策を講ずることが必要です。
ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスでは、生前の相続対策から実際の相続手続きまで、トータルでサポートしております。また、ベリーベストグループには税理士も在籍しているので、相続税についてご相談いただくことも可能です。
相続に関するお悩みやご不安を抱えている場合は、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスにご相談ください。
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