【後編】遺言で子どもを認知するとは? 方法について弁護士が解説

2020年01月07日
  • 遺産を残す方
  • 遺言認知
【後編】遺言で子どもを認知するとは? 方法について弁護士が解説

前編では、遺言認知の概要と遺言認知することのメリットとデメリットをご紹介しました。
遺言認知をすることで、生前に発生しうるトラブルを抑制しつつ、婚外子に相続権を与えることができます。

後編では、遺言認知をする手続きの流れについてと、遺言認知をする際の注意点について、仙台オフィスの弁護士が解説します。

3、遺言認知の手続きの流れ

  1. (1)自筆証書遺言または公正証書遺言で作成

    相続開始時点で遺言を作成した人(遺言者)はすでに亡くなっていますから、遺言の内容が曖昧であったり不可解なものであったりしても、もはや本人に確認することができません。
    そのため、遺言については法律で厳格な様式が定められており、それを満たさない場合は無効としています。

    遺言にはいくつか種類がありますが、通常よく利用されるのは「自筆証書遺言」または「公正証書遺言」です。遺族間で大きなもめ事が予想される場合には、検認不要の「公正証書遺言」が好ましいと言われています(なお、2020年7月以降は自筆証書遺言でも法務局に預ければ検認不要となります)。

    まず自筆証書遺言ですが、これは遺言者が全文を自筆で作成する遺言です。添付する相続財産の目録については、2019年1月13日以降自筆である必要がなくなりました。パソコンで財産目録を作成する、通帳コピーや登記簿謄本を添付して済ませることが可能です(ただし財産目録はすべてのページに署名押印が必要)。

    自筆証書遺言は自宅で思いついたときにすぐに作成できるうえ、費用もかかりません。しかし紛失・改ざん・隠匿のリスクがある点には注意が必要です。
    また法律で定められる様式に沿って正しく作成しないと、無効になってしまうおそれもあります。法的に有効な自筆証書遺言を作成したいときは、弁護士に相談されることをおすすめします。

    次の公正証書遺言は、全国にある公証役場で、公証人と証人2名以上立ち会いのもと作成されます。
    自筆証書遺言より手間も費用もかかりますが、法的に不備がないかどうか公証人(法律の専門家)が遺言内容をチェックしてくれるので、無効になるリスクが低いです。
    原本も公証役場で厳重保管してもらえるので紛失・改ざんなどの心配がなく、死後に検認不要であることも大きなメリットです。

  2. (2)遺言認知で必ず記載すべきこと

    遺言認知では、以下の事項を必ず記載しましょう

    • 子どもを認知する旨
    • 子どもの母親の氏名・生年月日
    • 子どもの氏名・住所・生年月日・本籍・戸籍筆頭者
    • 遺言執行者の指定


    「遺言執行者」とは、遺言に定められた内容を実現する役目の人を指します。たとえば、認知届の提出、遺産の名義変更、相続登記などの手続きを行います。
    通常の相続手続きにおいて「遺言執行者」は任意ですが、「遺言認知」をする際は必ず指定しなければなりませんので、注意しましょう。

  3. (3)遺言の保管について

    自筆証書遺言を作成した場合は、自宅で厳重に保管しましょう。公正証書遺言については、原本が役場に保管されているので紛失の心配はありません。
    「自分がもし亡くなったら、遺書を確認してほしい」旨を同居の相続人などに伝えておきましょう。

    なお、2020年7月10日からは、自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる新制度がスタートします。自筆証書遺言が有効になるための様式を満たしているかどうか法務局でチェックしてもらえます公正証書遺言と同様に改ざん・隠ぺい・紛失のおそれが低く、面倒な検認の手続きも不要となります。

  4. (4)相続開始(死亡)後

    被相続人の死後、遺言執行者は、就任から10日以内に認知届を「遺言者または子どもの本籍地」「遺言者の住所地」のいずれかの市区町村役場に提出しなければならないとされています(戸籍法64条)。
    なお婚外子がすでに成人している場合は、本人の承諾がなければ認知はできません。

    また認知届の手続きと並行して、遺言執行者は全ての相続人に遅滞なく遺言の内容を通知しなければならないとされています(民法第1007条2項)。

  5. (5)認知された婚外子も遺産分割協議に参加、遺産の名義変更(相続登記)

    次に遺言執行者が行うのは、相続財産目録の作成・交付です。不動産・預貯金・有価証券・美術品などプラスの遺産だけでなく、借金などマイナスの遺産も目録に含めます。

    相続人に財産目録を交付した後は、遺言の内容に沿って遺産分配を行うか、相続人全員で遺産分割協議を行います。この手続きの中には、もちろん認知された婚外子も参加します。

    遺言または遺産分割協議書の内容にしたがって不動産の相続登記、不動産の売却、預貯金・有価証券の名義換えなどを行い、最後に相続税を申告・納付(相続開始から10か月以内)して一連の手続きは完了となります。

4、遺言認知の注意点

  1. (1)遺言執行者は必ず指定しておくこと

    亡くなった遺言者に代わって遺言の内容を執行する人のことを「遺言執行者」と言います。前述したように、通常の相続手続きでは遺言執行者の指定は任意ですが、今回のように「遺言認知」がある場合には必須となります。

    もし遺言の中で遺言執行者を指定しておかないと、死後に相続人が家庭裁判所で「遺言執行者選任申し立て」を行う必要がでてきます。
    相続手続きには、さまざまなタイムリミットがありますので、「遺言執行者選任申し立て」によって手続きが遅れると、相続人に迷惑をかけてしまうことになりかねません。

    残された家族がスムーズに相続手続きを進められるように、必ず遺言の中で遺言執行者を指定しておきましょう。
    遺言執行者は未成年者・破産者など以外であれば指定できますが、その任務には複雑な手続きも多く含まれるため、弁護士に事前依頼することを強くおすすめします。

  2. (2)相続争いを避けるため、公平な相続方法を明記

    遺言の書き方に不公平・あいまいな部分があると、相続争いの原因になるおそれがあります。遺族の関係性にも配慮しながら、なるべく公平な遺産配分を明記しておくことがよいでしょう。
    特に注意すべき点としては、「遺留分」が挙げられます。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人が必ずもらえる最低限の相続分のことを指します。

    もしあなたが、遺言の中で遺留分を無視した遺産配分を指定すると、遺留分を侵害された相続人は「遺留分減殺請求」(第1031条)という手続きによって遺留分を取り戻す可能性があります。

    遺言を作成する段階できちんと遺留分に配慮しておかないと、相続争いを引き起こして残された遺族に迷惑をかけてしまうかもしれないのです。
    また遺産の記載漏れも、相続争いのもとになる傾向があります。「その他の財産は○○に相続させる」などの記載方法でも結構ですので、全ての遺産について網羅するようにしましょう。

  3. (3)遺言は早めに作成すること

    認知症や重い精神障害を抱えている方は、遺言をするための判断能力が不十分であると考えられています。
    認知症になると法的に有効な遺言を作成できなくなる恐れがありますので、思い立ったらなるべく早いうちに取り掛かるようにしましょう。

5、まとめ

遺言認知の手続きでは、法律で定められた様式に沿って正しく遺言を作成することが非常に大切です。
遺言の内容が曖昧・不平等なものですと相続争いのもととなり、残された家族に迷惑をかけてしまうおそれがあります。
残されたご家族の方がなるべくスムーズに相続手続きを進められるようにするためにも、遺言の作成から遺言執行者の任務までを包括的に弁護士に依頼することをおすすめします。

遺言の作成などについてお考えの場合は、ぜひベリーベスト法律事務所 仙台オフィスへご相談ください。>前編はこちら

ご注意ください

「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。

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