【前編】遺言で子どもを認知するとは? 方法について弁護士が解説

2020年01月07日
  • 遺産を残す方
  • 遺言認知
【前編】遺言で子どもを認知するとは? 方法について弁護士が解説

妻と子どもにはずっと婚外子の存在を秘密にしてきたけど、婚外子にも申し訳なく思っている。遺言で認知することによって、婚外子に相続権を与えることはできないだろうか?

そんな風に人知れず思い悩んでいる男性は、意外と多いようです。元気なうちに、ぜひ「遺言認知」の方法を押さえておきましょう。

ちなみに「認知」とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子どものことを父親が自分の子どもとして正式に認める法的手続きのことを言います。認知されると、婚外子は相続権を得ることができます。

生前に認知すると家族間のもめ事に発展するおそれがあることから、遺言の中で認知の意思表示をする方も多く、そのような手続きは「遺言認知」と呼ばれています。

遺言や認知については、他人に相談するのがはばかられるという理由から、ひとり孤独に悩んでしまいがちです。しかし仙台地方裁判所でも、認知や遺言に関する手続きは常に発生しています。司法統計によると、平成29年度中に仙台地方裁判所で取り扱われた「遺言書の検認」は297件、「合意に相当する審判事項」のうち認知に関するものは30件でした。

この記事では、「遺言認知」の手続きの流れや注意点について、べリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、遺言認知とは

「認知」とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子どものことを父親が自分の子どもとして正式に認める法的手続きのことです。認知は生前だけでなく、遺言によっても行うことができます(民法第781条2項)。

婚外子がいたことが発覚すると、妻や子どもは精神的ショックを受けることがほとんどです。婚外子になるべく財産を渡すまいとして、妻子が財産隠しをしたり、あるいは妻子にとって有利な内容の遺言を書くよう説得されたり、さまざまなトラブルが発生するおそれもあります。

遺言認知をすることで、このような生前のトラブルの発生を抑制しつつ、婚外子に相続権を与えることが可能です。
「遺言認知」にはさまざまなメリットがありますが、いくつかのポイントをきちんと押さえておかないと思わぬトラブルを招く危険性もあります。「遺言認知」の手続きと注意点について、詳しく解説していきます。

2、残された家族にどんな影響が? 遺言認知のメリット・デメリット

  1. (1)婚外子が相続権を得る反面、婚内子(妻との子ども)の相続分が減る

    遺言認知をすると、認知された婚外子が相続権を得る反面、婚内子(結婚している妻との間に生まれた子ども、嫡出子とも言う)の法定相続分が減ることになります。

    民法では相続の順位・割合は、下記の順に優先されると明確に定められています。(第900条)

    1. ①配偶者:2分の1、子ども:2分の1
    2. ②配偶者:3分の2、直系尊属:3分の1
    3. ③配偶者:4分の3、兄弟姉妹:4分の1


    たとえばあなたに婚内子がひとりいる場合、婚外子ひとりを認知すると、全遺産の2分の1を子ども二人で分け合うことになります。

    かつての法律では、婚外子の相続分は婚内子の2分の1でした。しかし平成25年9月4日の最高裁判決で「自分で選べないことによって不利益を負わせるべきでない」として違憲判決が下され、以降は平等になっています。

    そして婚内子がひとりもいない場合には、遺言認知によって相続順位もガラリと変わってしまいます。この場合、相続順位の変動により配偶者の法定相続分も減ることになりますし、相続を期待していた直系尊属・兄弟姉妹は、婚外子の出現によって当てが外れることになります。

    このように、遺言認知は各遺族の法定相続分に大きな影響を及ぼします。相続トラブルを防ぐためにも、遺言を作成する際は必ず弁護士に相談しましょう。

  2. (2)婚外子の戸籍に父親として名前が記載される

    遺言認知をすると、戸籍にも変化が生じます。婚外子の戸籍の父の欄には認知者の氏名が、身分事項欄にも「認知者氏名」「認知者の戸籍」「認知日」が記載されることになります。

    婚外子を認知しても、それによって直ちに父の姓を名乗ったり、父の戸籍に入ったりということはありません。

    認知した子どもは父の戸籍には入りませんが、戸籍の身分事項欄に認知の事実が記載されることになります。

  3. (3)生前の家族間トラブルを防止できる

    遺言認知には、生前のさまざまな家族間トラブルを防止できるメリットもあります。遺言認知が明らかになった時点で、すでにあなたは亡くなっています。残された妻子から非難をあびることもありません。
    相続が開始すると、妻子による財産隠しも防げる可能性もあります。

    また生前に認知をした場合、婚外子に扶養義務(民法877条)を負わせることになります。法律上の親子関係が認められるようになると、もしものときに子どもが親の面倒を見ることになりえます。
    婚外子が成人するまで、親子としての交流が少なかったにもかかわらず、自分の面倒だけを見させることを申し訳ないと考える方も非常に多いです。

    このようなケースでは婚外子への「償い」の意味を込め、あえて遺言認知という形式で行うこともあります。

    後編では、遺言認知の手続きの流れと、遺言認知をする際の注意点についてご紹介します。>後編はこちら

ご注意ください

「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています