私生活での飲酒運転を理由に懲戒解雇やクビは認められる?

2024年05月16日
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私生活での飲酒運転を理由に懲戒解雇やクビは認められる?

飲酒運転に対しては、罰則の強化が進むだけではなく、社会全体の意識も高まっているものの、残念ながら毎年一定数の違反者や悲惨な事故が生じています。

交通違反や事故を起こすと行政処分として、いわゆる「切符」を切られるほか、事故の様態によっては刑罰に問われることもあります。では、プライベートで飲酒運転による取り締まりを受けたことを理由に、会社を懲戒解雇されることはあるのでしょうか。

本コラムでお伝えすることは、大きくは以下の3つです。
・プライベートで飲酒運転をしたことを理由に、懲戒解雇やクビは認められるのか
・懲戒処分の種類
・不当解雇の対処方法

飲酒運転で逮捕されて、会社から懲戒処分を受けるか不安な方へ向けて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。


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1、業務時間外の飲酒運転も懲戒解雇の対象?

  1. (1)プライベートは原則として懲戒処分の対象にはならない

    休日や業務時間外の行動は、労働者のプライベートな時間ですので、使用者が介入することができない領域です。そのため、労働者がプライベートにおいて、何らの違反行為(たとえば、交通事故や交通違反)があったとしても懲戒処分の対象にはならないのが原則です。

    しかし、労働者はプライベートであれば何をしてもよいというわけではありません。
    労働者は、信義則上、使用者の業務利益や信用・名誉を毀損しないという誠実義務を負います。プライベートにおける行動が誠実義務に違反して、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあるなど、企業秩序に影響を及ぼす場合には、懲戒処分の対象になることがあります

    特に、飲酒運転については、刑法上も危険運転致死傷罪が設けられるなど社会の目が厳しくなっていることもあるため、飲酒運転が発覚した場合には厳格に対応するという企業も増えてきていると考えられます。
    そのため、たとえプライベートだったとしても飲酒運転をしたことが会社に知られてしまった場合は懲戒処分を受ける可能性があり、悪質なケースでは懲戒解雇の対象になることもあるでしょう。

    なお、懲戒処分の該当性を判断するにあたっては、次のような点を総合的に考慮することになります。

    • 行為者の属性(職種、役職など)
    • 行為の状況・内容(飲酒の量、被害の有無、事故後の対応など)
    • 社会的影響の有無・程度、
    • 就業規則の規定の有無
      など
  2. (2)道路交通法における飲酒運転|酒酔い運転と酒気帯び運転

    ひとくちに飲酒運転といっても、状況はさまざまです。そのため、企業によっては道路交通法における「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」に分けて、懲戒処分の罰則を規定していることがあります。
    両者の違いは、次のとおりです。

    • 酒酔い運転
      アルコールの影響により、ろれつが回らない、まっすぐに歩行できないなど、客観的にみても酔っており、正常な運転ができない状態を指します。体内に保有するアルコール量は問われません。
    • 酒気帯び運転
      体内に保有するアルコールが、呼気1リットルにつき0.15mg以上の状態を指します。

2、懲戒処分の種類

会社によって名称の違いなどはあるものの、一般的な懲戒処分の種類について確認していきましょう。

  1. (1)戒告(かいこく)

    戒告とは、問題を起こした労働者に対して、口頭や書面において厳重注意する処分です。一般的に、戒告は労働者に対して実質的な不利益を課すものではないため、懲戒処分のなかでは、軽い処分とされています。
    ただし、昇給、昇格といった人事考課や査定において、不利益に考慮されることがあるほか、過去に複数回にわたり戒告処分を受けていた場合には、より重い懲戒処分が課されることもあります。

    なお、似た処分としてけん責(譴責)という処分があります。
    一般的には、戒告は口頭等での注意のみで始末書の提出は求められず、けん責は始末書の提出を求められることが多いとされます。
    ただし、これらは労働基準法で定められているわけではないため、すべての会社が同様の処分であるとは限りません。処分内容については、自社の就業規則を確認する必要があるでしょう。

  2. (2)減給

    減給とは、本来支払われるべき賃金額から、一定額を控除する処分のことをいいます。
    減給については、労働基準法第91条において上限額が規制されています。

    なお、遅刻や欠勤を理由に、その時間分の給料が支払われなかった場合、減給処分になったと考えるかもしれません。しかし、遅刻や欠勤によって労働をしていない場合には、そもそも賃金請求権が発生していません。そのため、このようなケースは減給処分にはあたらないでしょう。

  3. (3)出勤停止(自宅謹慎、懲戒休職)

    出勤停止とは、労働契約を存続させつつ、就労を一定期間禁止する処分のことをいいます。出勤停止期間中は賃金が支払われず、退職金算定にあたっては勤続年数に算入されないことが多いでしょう。
    なお、犯罪行為の嫌疑が発覚し、その処分決定までの調査期間中、懲戒処分ではなく業務命令として自宅待機が命じられることがあります。

  4. (4)降格・降職

    降格とは、制裁の目的で労働者の職能資格や等級を引き下げる処分のことをいい、降職とは、職位を引き下げる処分のことをいいます。
    降格や降職に伴って、役職手当や基本給の減額が生じることがあります。

  5. (5)諭旨(ゆし)解雇

    諭旨解雇とは、懲戒解雇相当の事由が認められる場合でも懲戒解雇とはせず、退職届を提出させ退職させる処分のことをいいます。
    形式上は辞職による退職になるため、退職金が支払われることもあるでしょう。

    退職届を提出するかどうかは労働者の意思に最終的に委ねられますが、一定期間内に退職届を提出しない場合には、懲戒解雇がなされることが多いです。

  6. (6)懲戒解雇

    懲戒解雇とは、重大な企業秩序違反があった場合に制裁としてなされる解雇であり、懲戒処分のうちでもっとも重い処分です。
    解雇予告や解雇予告手当の支払いもなく即時解雇とることがあり、退職金も減額または不支給となることが多いでしょう。

3、懲戒解雇の対象となり得るケース

次にあげるような職業に従事している場合は、プライベートで飲酒運転をしたことを理由に、懲戒解雇が認められる可能性があるため注意が必要です。

  1. (1)車の運転に携わる職業である場合

    バス運転手やタクシー運転手など、日頃から業務として車の運転に携わっている方がプライベートで飲酒運転をした場合には、懲戒処分の対象になるおそれがあります。

    このような職業に従事している方が飲酒運転をした場合には、テレビや新聞などのメディアに取り上げられることが高く、会社の信用や名誉などの社会的評価が毀損されるおそれがあり、顧客離れなどの具体的な不利益が生じる可能性があります
    そのため、飲酒運転によって人身事故など重大な結果を生じさせたケースでは、もっとも重い処分の懲戒解雇が認められることもあるでしょう。

    ただし、バス会社やタクシー会社に勤務していても運転業務とは関係ない部署におり、具体的な被害が生じていない、または物損事故にとどまるといったケースにおいて懲戒解雇された場合は、相当性を欠くとして懲戒解雇を争う余地があります。

  2. (2)公務員による飲酒運転であった場合

    民間企業に勤務する労働者と異なり、公務員は国民全体の奉仕者としての立場があります。そのため、公務員の方が飲酒運転をした場合には、従事する業務を問わず、厳しく責任を問われることになるでしょう。
    プライベートであったとしても、大量のアルコールを摂取したうえで車の運転を行い、重大な事故を引き起こしたなど悪質性の高いケースでは、懲戒免職(民間企業における懲戒解雇と同義)がなされることが大いにあり得ます。

4、不当解雇への対処法

飲酒運転によって懲戒解雇をされた場合には、その内容や経緯によっては処分の撤回を求めて争う余地があります。

  1. (1)解雇理由証明書の取得

    懲戒解雇を争うためには、まずは、どのような理由によって解雇されたかを明らかにする必要があります。まずは会社に対して、解雇理由証明書の発行を請求するようにしましょう。

    解雇理由証明書とは、会社が労働者を解雇した理由が記載された書面です。労働者から発行の請求があった場合には、使用者は遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法第22条2項)。
    労働者が請求しなければ発行されない場合がよくあるため、懲戒解雇の処分を受けた場合には、必ず請求するようにしましょう。

  2. (2)弁護士に相談

    懲戒解雇に納得ができない場合には、会社に対して懲戒解雇の撤回を求めていくことになります。しかし、処分を受けた労働者の側から、単に撤回を求めるように要求をしたとしても、会社側は応じないケースが多いでしょう。

    また、労働者が個人で会社と交渉することは、簡単なことではありません。ましてや、自身が飲酒運転をしてしまったという負い目があれば、なおさらでしょう。しかし、懲戒解雇によって職を失えば、生活に大きな影響を及ぼすことになってしまいます。

    懲戒解雇に納得がいかない場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。
    懲戒解雇は労働者にとって重大な不利益を課す処分であることから、その有効性については、厳格に判断されることになります。そのため、たとえ飲酒運転が事実であったとしても、懲戒解雇の無効を争う余地があるのか検討した方が良いでしょう。

    弁護士は、しっかりとヒアリングを行い、まずは懲戒解雇に妥当性があるかを判断します。そのうえで、代理人として会社と直接交渉し、懲戒解雇の撤回を求めるよう働きかけを行います。
    任意の交渉による解決が困難な場合は、労働審判や裁判などの法的手段を講じることによって、問題解決まで徹底的にサポートすることが可能です。

5、まとめ

プライベートで飲酒運転をしてしまい、それが会社の知ることになり、会社から受けた処分に納得がいかない場合には、まずは弁護士に相談をするとよいでしょう。

懲戒解雇などの労働問題でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでお気軽にご相談ください。
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