労働者(社員)に解雇を通知するときの伝え方・言い方で注意するべき点とは?
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宮城労働局が公表している個別労働紛争解決制度の施行状況によると、令和3年度の個別労働紛争相談の内訳において、解雇に関する相談は、719件でした。このような統計資料から、労働者の側では解雇に関して不満を抱き、総合労働相談コーナー等に相談をしていることがわかります。
会社としては、解雇をめぐって労働者との間でトラブルが生じないようにするために、解雇の手続きや労働者への伝え方などについて十分に気を付けなければなりません。
今回は、解雇の伝え方や言い方で注意すべきポイントについて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、解雇の通知方法と伝えるときの注意点
まず、解雇をする場合の通知方法と労働者に解雇を伝える場合の注意点について説明します。
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(1)解雇の通知方法
解雇(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇)の伝え方については、法律上の決まりはありませんので、以下のような方法で労働者に解雇を伝えることができます。
- 口頭で解雇を通知する方法
- メールで解雇を通知する方法
- 書面によって解雇を通知する方法
もっとも、解雇は、労働者との労働契約を終了させるという重大な効果を生じさせるものであり、後日労働者との間でトラブルが生じやすいものといえます。そのため、トラブルを回避するためにはどのような方法で行うべきか、十分に検討をしなくてはなりません。
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(2)解雇の通知方法別の注意点
解雇の通知する方法としては、口頭、メール、書面が考えられます。通知する方法別に注意すべき点を確認しておきましょう。
① 口頭で通知する場合
口頭で解雇を伝える場合には、労働者との個別の面談を実施して、その際に伝えるようにします。他の労働者のいる前で解雇を伝えるということは避けるようにしましょう。
また、口頭で解雇を伝える場合には、労働者によって録音されている可能性があることを念頭に置いて対応する必要があります。パワハラや退職強要を疑われないようにするためにも、解雇を伝える際の言い方や態度に注意しましょう。
② メールで通知する場合
メールで解雇を伝える場合には、労働者が解雇の通知を確認することができなければ意味がありません。そのため、利用するメールアドレスは、労働者と確実に連絡が取れるものを使用します。そして、会社としても労働者がメールを受け取ったことを把握するためにも、メールを確認した旨の返信を求めるようにしましょう。
なお、メールで伝える場合には、メール本文で解雇を伝えるだけでなく、後述する解雇通知書や解雇予告通知書を添付して送信することも有効な方法です。
③ 書面で通知する場合
解雇の事実を確実に労働者に伝えるためには、書面での通知がもっともおすすめな方法です。書面で通知する際には、労働者との個別面談の際に、解雇の事実を伝えて、解雇通知書や解雇予告通知書を交付するとよいでしょう。
会社に出社しない労働者へ通知したい場合には、労働者の自宅宛てに配達証明付きの内容証明郵便を利用して送付することをおすすめします。これによって、いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の文書を送ったのかを後日証明することができます。
2、解雇を伝える前に確認しておきたい『解雇の条件』
解雇を伝える前には、法律上解雇が有効であることを確認しておくことが大切です。
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(1)法律上の解雇禁止に該当しないこと
労働機運法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法などの法律では、労働者を不当な解雇から守るために、以下のような解雇を法律で禁止しています。
- 国籍、信条、社会的身分を理由とした解雇(労働基準法3条、13条)
- 業務上の疾病による休業期間およびその後30日間の解雇(労働基準法19条)
- 産前産後休業期間およびその後30日間の解雇(労働基準法19条)
- 労働組合員であること、組合に加入、結成したことを理由とした解雇(労働組合法7条1号)
- 婚姻、妊娠、出産や産前産後休業の取得を理由とした解雇(男女雇用機会均等法9条2項、3項)
- 育児休業、介護休業の申し出、取得が理由の解雇(育児介護休業法10条、16条)
労働者を解雇する場合には、このような禁止事項に該当しないかチェックが必要です。
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(2)解雇に客観的に合理的な理由があること
解雇をするためには、労働者が解雇事由に該当する行為をしたことが必要になります。
通常は、会社の就業規則において、解雇事由が列挙されていますので、労働者の行為が就業規則に規定されている解雇事由に該当するかどうかをチェックしましょう。 -
(3)解雇が社会通念上相当であること
労働者に解雇事由に該当する行為があったとしても、解雇という手段を選択するのが相当であるかという観点からもチェックが必要になります。
解雇は、労働者にとって生活の基盤を失うほどの重大な処分です。そのため、解雇以外に取り得る手段がある場合には、解雇の相当性が否定される可能性もあります。
3、解雇を伝えるまでの流れ
労働者に解雇を伝える場合の流れについて、説明します。なお、労働者を解雇する場合には、解雇予告が必要になります。
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(1)解雇予告とは
会社が労働者を解雇する場合には、解雇日の30日前までに労働者に予告をしなければなりません。これを「解雇予告」といいます。
解雇による労働者の負担を緩和するための措置ですので、原則としてこれを省略することができず、解雇予告を怠った場合には、6か月以下の拘禁または30万円以下の罰金が科される可能性があるため注意が必要です。
ただし、解雇予告期間が30日に満たない場合には、不足する日数分の解雇予告手当を支払うことで解雇予告に代えることも認められています。そのため、30日分の解雇予告手当を支払うことによって、労働者を即日解雇することも可能です。 -
(2)労働者に解雇を伝えるまでの流れ
労働者に解雇を伝える場合の基本的な流れをみていきましょう。
① 解雇条件の確認
労働者を解雇したいと考えた場合には、まずは、有効に解雇することができるだけの条件があるかどうかを確認します。解雇条件を確認する際には、すでに説明したとおり、解雇禁止事項の該当性や解雇要件の具備などをチェックしましょう。
② 解雇予告通知書の作成
有効に解雇ができるケースであると確認できた場合には、解雇予告通知書を作成します。解雇予告通知書には、以下のような事項を記載するのが一般的です。- 解雇する労働者の氏名
- 会社名
- 解雇予告通知書の作成日
- 解雇する日付
- 解雇の意思表示
- 解雇の根拠となる就業規則の規定
③ 労働者との個別面談の実施
上記の準備が整ったら、労働者との個別面談を行いましょう。個別面談では、解雇の事実と解雇の理由を労働者に対して告げます。労働者が感情的になって反論してくることもあると思いますが、冷静に対応することが大切です。
また、解雇だと適切な手続きを踏んで行ったとしても、不満を抱いた労働者から解雇の有効性を争われるリスクもありますので、退職勧奨によって自主退職を促すことも検討するとよいでしょう。
4、解雇を伝えるときは手順を踏むことが大切
解雇は、労働者とのトラブルが生じやすい事項のひとつです。解雇をめぐるトラブルを回避するためには、きちんと手順を踏むことが大切です。
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(1)感情的な対応は避ける
たとえ労働者の言動を不快に思ったとしても、感情的になって「クビだ!」などと言ってはいけません。解雇をするためには、客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性が必要になりますので、感情的な理由での解雇は、不当解雇として無効になるリスクがあります。
労働者を解雇する場合には、社内で解雇の条件を満たすかどうかを検討したうえで行うようにしましょう。 -
(2)トラブルを回避するには弁護士に相談を
解雇条件の確認や所定の手続きなどを怠ってしまうと、不当解雇として解雇が無効になるリスクがあります。このようなリスクを回避するためには、事前に弁護士に相談をすることが有効です。
弁護士であれば、個別具体的な事案において、有効に解雇ができるケースであるかどうかを判断することができ、会社の対応で不足する部分があればアドバイスをすることもできます。 -
(3)顧問弁護士の利用も積極的に検討する
労働者との労働問題を回避および解決するためには、顧問弁護士の利用がおすすめです。顧問弁護士を利用していれば、いつでも気軽に相談ができますので、会社側の間違った理解で手続きを進めて解雇が無効になってしまうというリスクを回避することができます。
また、顧問弁護士は会社の実情を十分に把握していますので、トラブルが生じたとしても、すぐに解決に向けて動いてもらうことが可能です。
5、まとめ
解雇をする場合には、口頭で解雇を伝えることもできますが、後日のトラブルを回避するという観点からは、解雇通知書や解雇予告通知書といった書面で解雇を伝えるようにしましょう。また、解雇をする場合には、解雇予告などの必要な手続きもあるので、手順を追って対応することが大切です。
労働者に解雇をどのように伝えるか悩まれている場合や、解雇に関するトラブルを回避したいとお考えの企業の方は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています