悪質なカスハラを訴えたい! 企業のカスハラ対策を弁護士が解説
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新型コロナウイルスの感染拡大により、スーパーマーケットやドラッグストアなどで働く従業員が、悪質なカスタマーハラスメント(カスハラ)にさらされているといった問題が新聞などで報道されています。なかには、商品の欠品や品薄に対して暴言を吐かれる、無言で消毒液をかけられるといったケースもあったそうです。
東北の中心でもある宮城県仙台市には多くの企業や店舗があるため、こうしたカスハラに悩む経営者や担当者の方も少なくないのではないでしょうか。
本コラムでは、悪質なカスハラに対して企業がとるべき対策についてベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説していきます。
1、「カスハラ」とは
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(1)カスハラとは
カスハラとは、カスタマーハラスメントの略称です。ハラスメントの一種といえますが、法律的な用語ではなく、一般的に顧客や取引先からの迷惑行為を意味する用語として使用されます。
企業はカスハラを行う顧客に対しては、企業としての利益を守るためにも話し合いを重ねる、それでも収まらない場合は訴えるなどの対応をとる必要があります。
そして同時に、カスハラを受けている労働者に対しても、適切な対応をしなければなりません。 -
(2)どのような行為がカスハラになる?
どのような行為がカスハラになるかは明確な基準があるわけではありません。
しかし、迷惑行為として考えれば、次のような行為はカスハラといえるでしょう。- 電話や来店を繰り返し理不尽なクレームをつける
- 従業員やその家族に危害を加えることをほのめかして脅す
- サービス等にクレームをつけて土下座を要求する
- インターネット上の口コミに事実無根の悪質な投稿を繰り返す
- 従業員が新型コロナウイルスに感染しているなどのデマを流布する
このような顧客によるカスハラがあれば、従業員や担当者の精神的なストレスが増大します。そのうえ、カスハラに対応するために他の仕事ができなくなる、カスハラによって企業の評判が低下するといった事態に陥ることも考えられます。
したがって、企業はカスハラをそのまま放置するのではなく、適切に対応していかなければなりません。
2、企業の顧客に対するカスハラ対策
では、企業はカスハラを行う顧客に対して、どのような対策をすべきでしょうか。
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(1)原因を究明しカスハラかどうか見極める
まず注意したいのが、すべてのクレームが「カスハラ」とは限らないという点です。このことを理解しておかなければ、適切な対応をとることはできません。
クレームの中には、企業や製品にとって必要な指摘であることも少なくないためです。通常のクレームであれば、適切な対応をとることによって、顧客との良好な関係を築くことができる可能性もあります。
まずは顧客の話をしっかりと聞いたうえで事実確認をし、改善すべきクレームなのか、カスハラなのかを見極める必要があります。 -
(2)カスハラには毅然(きぜん)とした態度で対応
たとえば顧客から「店で購入した製品に不具合があった。インターネットに悪評を書き込まないかわりに、製品の代金を返金しろ」などと、根拠のない不当な要求がなされたとします。
このような、脅しともとれる悪質なクレームには、毅然(きぜん)とした態度で対応し不当な要求は拒否することが大切です。このような不当な要求に一度応じてしまえば、今後も要求がエスカレートする可能性が高くなります。
ただし、このときのどのような対応をとるかは、非常に重要です。トラブルが大きくなりそうなことが予想されるときは、弁護士などに相談した上で対応を検討するのが得策でしょう。 -
(3)法的手段に訴えるときの証拠を確保しておく
カスハラを行う顧客に法的手段をとることを伝えることで、迷惑行為・嫌がらせが止まることも少なくありません。そのため、弁護士をたてるなどして、法的手段をとることを通知するのも一案でしょう。
ただし、実際に法的手段をとる場合は、カスハラがあったことを客観的に証明できる証拠をそろえておいた方がいいでしょう。
証拠になりうるものとしては、防犯カメラやスマホの映像や録音された音声、来店日時や回数、カスハラの内容を記録したメモなどがあります。
カスハラの証拠になりうるものはすべて記録、収集しておくことが重要です。 -
(4)緊急性が高いときには警察に相談
店の物を壊したり、店員を脅したりといった暴力的な行動が予見できる顧客がいるときには、警察に相談することも検討してください。事前に事情を伝えておくことで、実際に事件が起きたときにスムーズに話が伝わり、すぐ対応してもらえるなどのメリットがあります。
また、速やかに警察に連絡することで被害を最小限にとどめることが期待できます。状況によっては、加害者の刑事責任を追及できることもあるでしょう。 -
(5)弁護士に相談する
カスハラは、従業員の負担を重くするのはもちろんのこと、企業の経営にも影響を与える可能性があります。対策を講じることが難しい場合は、弁護士に相談することも選択肢のひとつとして有益です。
3、企業の従業員に対するカスハラ対策
企業はカスハラ被害を受けている従業員に対し、どのような対策を講じるべきなのでしょうか。
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(1)従業員へのカスハラ対策の必要性
企業は、カスハラを行う顧客に対しては、必然的に対策を講じざるを得ない状況になります。
一方、カスハラを受けている従業員への対策は、企業側の意識で大きな違いが生じうるものです。
しかし、令和2年6月からは、パワーハラスメント防止措置が事業主の義務になります(中小事業主は令和4年4月1日より、義務化されます。それまでの期間は努力義務です)。
パワーハラスメントというと、上司からの暴言などをイメージする方が多いかもしれません。しかし、パワーハラスメント防止措置では、カスハラについても言及しており、企業として取り組むことが望ましいとされています。
会社として、カスハラ対策を行うことは急務といえるかもしれません。 -
(2)企業は従業員に対して安全配慮義務を負っている
会社は、従業員が安全で健康に働くことができるように配慮する義務(安全配慮義務)を負います。そのため会社が安全配慮義務を果たさないときには、債務不履行違反として従業員から損害賠償を請求される可能性があります。
たとえば、顧客から従業員が危害を加えられそうになっていても看過する、カスハラの対応を特定の人にのみに押し付けるといったケースでは、安全配慮義務違反にあたる可能性があります。 -
(3)カスハラ防止策として望まれる取り組み
企業が従業員の心身の健康を守り損害賠償責任を負わないようにするためには、カスハラ対策として適正な措置を講じる必要があります。
厚生労働省によると、カスハラ対策として次のような取り組みを行うことが望ましいとされています。
●従業員の相談に応じ必要な体制を整備する
具体的には、次のような対策などが考えられます。- 従業員の相談窓口を設ける
- カウンセリングを行う
- 配置転換ができるような体制を整える
また企業が、従業員からの相談内容に適切に対応するために、弁護士や警察、行政機関などと連携できる体制を整備しておくことも必要とされるでしょう。
●被害者への配慮のための取り組み
カスハラの被害者となった従業員のメンタルヘルスケアを行う、カスハラを行う顧客に対してひとりで対応することのないように、業務の見直しを計るなどの取り組みが必要です。
●被害防止のための取り組み
社内でカスハラ対応のマニュアルを作成し従業員に広く周知するほか、研修を実施することも有効です。これらは、業種や業態などに応じた取り組みを行う必要があります。
4、弁護士に依頼するメリット
災害の発生や景気の後退など社会全体が不安定な状況に陥ると、不安や閉塞(へいそく)感が、カスハラという形で従業員に向かう可能性も少なくありません。
どのような状況においても従業員を守り、事案に応じてカスハラを行う顧客に適切な対応をとるためには、弁護士との連携が有益といえます。
弁護士は、企業が置かれている状況を分析し、どのような対策を講じるべきかをアドバイスします。
相手との交渉が必要な場合は、企業側の代理人として交渉を進めることも可能です。話し合いでの解決が見込めないときは、訴訟を提起するなど法的手段を検討します。
弁護士はカスハラ対策を検討するだけではなく、実際にカスハラが発生したときは企業の代理人として対応を進めることができるので、経営者の方や従業員の方の負担を軽減できるといったメリットもあります。
また顧問弁護士として、企業が安全配慮義務を果たすことのできる取り組みのアドバイスなどを行うことも可能です。ハラスメント防止のための取り組みをすることによって、企業価値が上がり従業員の定着を図ることも期待できるでしょう。
5、まとめ
本コラムでは、悪質なカスハラに対して、企業がとるべき対応策について解説しました。
経営する上で、顧客との関係性は非常に重要です。しかし、一線を越えてしまえばハラスメントとなり、逆に企業の経営を脅かす存在にもなりかねません。そして企業は、カスハラを行う顧客への対応だけではなく、従業員に対しても、適切なカスハラ対策をとることが重要です。
ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスには、カスハラ対策を始めとして、企業が抱えるあらゆる問題、トラブル、企業法務に関する知見が豊富な弁護士が在籍しています。
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- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています