家族が介護事故に遭ったとき、損害賠償請求はどうする?

2019年10月21日
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家族が介護事故に遭ったとき、損害賠償請求はどうする?

介護現場で自身や家族が事故に巻き込まれてしまうことは、誰にでも起こりうる可能性があり、けっして他人事ではありません。仙台市のホームページには、介護サービスを提供する施設や事業所など向けに、報告が必要な事故の基準について掲載されています。

しかし、実際に事故の当事者となった本人や家族としては、施設や事業所からの誠意ある報告がなされていたとしても、何か隠された事実があるのでは……と疑心暗鬼になってしまうものでしょう。

介護事故の後遺症などに苦しむ事態であれば、事故の責任を追及して損害賠償を請求したいとお考えになる方もいるはずです。そこで、今回はご家族が介護事故に遭ってしまった方へ向けて、損害賠償請求の可否や請求の流れを中心に解説します。

1、介護事故の種類

介護の現場では、利用するサービスによって多様な事故が起こる可能性があります。個別にみていきましょう。

●入所サービス
入院するほどではないが、自宅に戻るためのリハビリが必要な方に向けた介護サービスです。

施設内の通路やホール、部屋を歩行中にバランスを崩す、転倒する、ベッドから転落するなどの事故によって、骨折、あざ、腫れなどが生じるケースが多くみられます。また、誤嚥(ごえん)や誤飲、むせこみなど、食事中の事故も少なくありません。さらに人身事故のみならず、介護利用者の財物を紛失する、破損させるなどの物損事故もあります。

●訪問サービス
被介護者の自宅をヘルパーなどが直接訪問し、食事や家事などの援助をするサービスです。

車いすを壁にぶつけた、浴室の蛇口を壊したなど、職員が訪問した先の建物や家財を破損させるなどの物損事故が多くみられます。入所サービスと同様に転倒や転落などによる人身事故も多数起きています。

●通所サービス
日帰りで、被介護者が食事や入浴などの生活支援を受けるサービスです。

転倒や転落などの事故が多数を占めますが、送迎中の交通事故など特徴的な事故も生じています。

2、施設や事業所の損害賠償責任が認められた事例

介護の現場では小さなミスから、大きな事件に発展する事故まで、さまざまなアクシデントが起こりえます。その中でも、施設や事業所側の責任が認められ、損害賠償金の支払いが命じられた裁判例を紹介します。

いずれも、事故が起きうる可能性を予測し、事故を防ぐための対策が取られていたかどうかが問われています。逆をいえば、予測できないようなアクシデントに関しては、施設に責任を問うことは難しいといえるでしょう。

  1. (1)職員が目を離した隙に転倒、骨折した事例

    痴ほう対応型共同生活施設に入居中の女性が、職員が目を離した隙にリビングで転倒、骨折し、2年後に死亡した事例です。(大阪高裁平成19年3月6日判決)

    女性の遺族らは施設が安全配慮義務を怠ったとして損害賠償を求め、原審では棄却されましたが、控訴審で認められました。

    認められた理由を簡単にまとめると次の通りです。

    • 女性に関し、ふらつきなどの不安定な歩行の危険が指摘されており、認知症の中核症状、周辺症状が出現していたことを鑑みても、予想外の行動に移ることが推測できた。
    • 上記の点を踏まえ、職員は女性が着座したまま落ち着いて待機指示を守れるか、仮に歩行を始めたとしてもひとりで歩かせて差し支えないのかなどの見通しを確認するべき注意義務があった。
  2. (2)パンを詰まらせて低酸素脳症になった事例

    ショートステイで入所していた男性が、朝食で出されたロールパンを誤嚥し、一度は心肺停止の状態に陥り、意識が戻らず、低酸素脳症になり重い障害が残った事例です。
    裁判所は誤嚥事故の発生について施設側に責任があるとして、損害賠償の支払いを命じました。

    認められた理由の要旨は次の通りです。

    • 男性の妻は介護支援専門員に対して、男性は噛み切る力や飲み込む力が弱っているので誤嚥のおそれがあることを伝えており、入所時のアセスメントシートや連絡票にも注意が必要な旨が記載されていたため、施設は誤嚥のリスクを認識していた。
    • パンはその性状から嚥下障害のある方にとって食べにくい食べ物であり、パンを原因とした窒息事故は各所で多発していることからも、施設には少なくともパンを小さくちぎったものを提供する必要があった。

3、介護事故が起きてから損害賠償を請求するまでの流れ

ここでは、ご家族が介護事故に遭ってしまったとき、どのような流れで損害賠償を請求するのか具体的に解説していきます。

  1. (1)過失および因果関係を調査

    前述したように、介護事故ではどのようなケースでも損害賠償が認められるわけではなく、次の要件を充たす必要があります。

    ●職員や施設、事業所側等に過失がある
    指示に違反した、事故防止対策を講じていなかった、必要な安全設備が設置されていなかったなど、事故が予測されるにもかかわらずそれを回避する義務を怠っていた場合です。

    ●事故と損害に因果関係がある
    たとえば、介護施設内で転倒して骨折した方がその後亡くなった場合でも、死亡の原因が持病によるものであれば事故と損害には因果関係がなく、損害賠償請求の対象にはならないと判断される可能性があります。

    これらの要件を確認するには、事故の状況をしっかりと調査し、介護記録やカルテ、救急活動記録などの資料も整理する必要があります。介護事故の場合は、ご家族が事故現場を直接見ているケースは考えにくく、したがって、ご家族が要件を立証することは難しいといえます。

    そのため、まずは弁護士に調査を依頼するとよいでしょう。弁護士は医師や介護専門職などの意見を聴きつつ調査を行い、見通しを立てたうえで、損害賠償請求の可否を検討します。

  2. (2)損害賠償を請求する3つの方法

    調査の結果、損害賠償が認められる余地があった場合、損害賠償を請求するには次のような3つの方法があります。

    ●任意の交渉
    当事者同士で話し合い、示談を成立させ、慰謝料などを含めた賠償金を支払ってもらう方法です。介護事故を起こした施設や事業所と、被害者本人やそのご家族などが話し合い、賠償額についての合意を目指します。

    相手方としては、施設経営の信用問題に関わる重要な話し合いであることから、弁護士を介入させてくることが考えられます。こちらも弁護士を立てて話し合い、示談が成立すれば、調停や裁判へ進むよりも早期の解決が見込めます。

    ●調停
    調停は、調停委員という中立的な立場の方を間に入れ、話し合いによる解決を目指す手続きです。調停委員が双方のいい分を整理し、解決案を提示し、双方がそれを受け入れた時点で調停が成立します。裁判と比較し、早期の解決が見込める、費用の負担が少ないなどのメリットがあります。

    調停も任意の交渉と同じく、あくまでも話し合いによる解決を目指す方法ですので、どちらかが納得しなければ不成立となります。

    ●裁判
    調停でも決着がつかない場合は裁判へと移行します。介護事故では医療や介護などの専門的な知識が必要になるため、調査や争点の整理に時間がかかり、数年単位の期間を要することがあります。

4、介護事故の損害賠償請求は弁護士へ相談を

介護事故は、事故の内容、事故に遭った方の年齢や要介護の度合い、施設の種類や設備の状況など、実に多くの要素が複雑に絡みあうため、何かの形にあてはめて一律に損害賠償の可否を検討することができません。被害者がもともと高齢による疾患を抱えているなど、事故と損害の因果関係について判断することが非常に難しいケースが多いと考えられます。

こうした事情から、事故の調査や損害賠償請求の対象となりうるのかを判断するには、高度な専門知識が必要となります。また、大切なご家族が事故に遭い心を痛めている中で、実際の交渉や調停、裁判を行うことは精神的な負担も大きいでしょう。

むやみに裁判を起こしても、時間や労力を消費するばかりで思うような結果にならないリスクがあります。介護事故で悩んでいる場合は、まずは弁護士へ相談されたほうがよいでしょう。

介護事故に関する知見が豊富で、交渉スキルも持ちあわせている弁護士であれば、ご家族のケースで損害賠償請求が可能なのか見通しを立てることができます。示談交渉などによってしっかりと損害を賠償してもらえることが期待できます。

5、まとめ

今回は介護事故に遭った場合の損害賠償請求について解説しました。

介護の現場では、深刻な人手不足などを理由に介護事故が生じやすいと指摘する声もあります。だからといって利用者を危険な目に遭わせていいはずはありません。仮に施設や事業所側の有責事故であるのなら、賠償責任を果たしてもらう必要があります。

しかし、もちろんどのような事故でも損害賠償が認められるわけではありません。まずは弁護士に相談し、しっかりと見通しを立ててもらうことから始めましょう。ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスでも、介護事故に対応した経験が豊富な弁護士がアドバイスします。大切なご家族が介護事故に遭ってしまいお困りの方は、一人で悩まずお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています