【前編】楽しいゴルフが一転……ボールが当たって大けが。損害賠償請求はできる?

2019年05月30日
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【前編】楽しいゴルフが一転……ボールが当たって大けが。損害賠償請求はできる?

仙台市内には泉区や太白区、青葉区などにゴルフ場があり、近いところならば市街地から車で20~30分ほど走ればゴルフコースに出ることができます。

しかし、楽しい時間は隣のコースから飛んできたボールによって崩れ去ってしまうかもしれません。もしも、他人の打ったゴルフボールによって怪我を負ったり、後遺症をもたらしたりしたならば、当然ながら相手に賠償金を請求したいと考えることでしょう。

ゴルフのプレー中に起きた事故の法的責任と損害賠償について、実際の裁判例とともに、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、民事責任と損害賠償

まずは、ゴルフの打球事故などスポーツにおける事故の法的責任について説明します。

法的責任には、刑事責任と民事責任があります。刑事責任とは、行為が犯罪に該当するとして、罰金を科せられたり、禁錮刑、懲役刑を受けたりすることです。ゴルフなどスポーツにおける事故は、ルールに従ってのプレー中であれば、原則として刑事責任は問われません。そのため、加害者は、基本的に逮捕されたり勾留されたりすることはありません。

ただし、事故の加害者に刑事責任はなくとも、民事責任が発生します。民事責任とは、事故によって発生した損害について金銭的に賠償する責任を負うことです。

これは、民法第709条に定められた「不法行為による損害賠償」を根拠としています。
民法第709条(不法行為による損害賠償)
故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

条文でいう「他人の権利または法律上保護される利益」とは、具体的には生命、身体、有形の財産をはじめ、所有権、担保物権、債権、知的所有権、人格権など多岐にわたります。ゴルフプレー中の打球による事故で負傷した場合、相手の過失により身体や財産を侵害されたとして、相手に損害賠償を請求することとなるでしょう。

  1. (1)損害賠償を請求するための要件

    一般的に、損害賠償請求をするには、以下の要件を満たさなければなりません。

    ●故意または過失があること
    損害を受けた行為が、「故意」つまりわざと行われたもの、または「過失」であることが必要です。

    「過失」とは予見可能な結果について、結果回避義務の違反があった場合をいいます。逆にいえば、損害の予見が不可能な場合や、予見が可能であっても結果の回避が不可能な場合には、過失が認められないことがあります。

    ●因果関係があること
    「ボールが当たったことによる怪我で1ヶ月間働けなくなった」など、行為と損害の間に因果関係があること。

    ●具体的な損害が生じたこと
    「治療費○○万円」「働けない期間の給与○○円」など、具体的な損害が生じたこと。

  2. (2)損害賠償で請求できる費用

    賠償を請求できる「損害」には、財産的損害と精神的損害があります。

    ●中でも財産的損害は、具体的には、治療費、通院のための交通費、休業損害などが計上できます。また後遺症や障害が残った場合、労働能力が減損したとして逸失利益を計算します。そして逸失利益の計算は、弁護士に相談してみましょう。

    精神的損害とは、被害者の精神的苦痛に対する慰謝料です。

2、ゴルフ打球事故の裁判例

ゴルフの打球事故においては、加害者の過失が認められるケースが多い傾向にあります。しかしながら、どのような注意をしていれば安全配慮義務、結果回避義務を尽くしたこととなり、どのような場合が違反となるのかは、参加者の力量、能力、施設や環境によっても異なるため、一概に説明することはできません。

そこで、具体的に裁判で争われたケースを紹介します。あくまで一例であるため、個々の事故や状況によって認められる損害賠償額は異なりますが、参考になるでしょう。

  1. (1)隣のコースからの打球で骨折した裁判例

    平成12年にゴルフ場で起きた打球事故に対する損害賠償訴訟の裁判例です。

    原告は、隣のホールから飛んできたボールにより肋骨骨折の怪我を負いました。被告はキャディーの合図の後に打ったことを主張し、争うことになりました。平成18年7月、東京地裁の判決によると、「自らの力量に応じた安全確認はできたはずが怠った」ものとして原告側の約440万円の賠償請求に対して、約197万円の支払いを命じました。この賠償金の内訳は治療費などで約27万円、原告の会社経営への影響やゴルフの楽しみを奪われた慰謝料として約150万円となっています。

    ゴルフのプレー中は安全確認を必ず行わなければなりません。たとえ、付き添いのキャディーが大丈夫と発言していたとしても、加害者には自分でも確認する責任があるとの判断です。

  2. (2)横にいたキャディーに打球が当たり失明。過失相殺の裁判例

    次は過失相殺(かしつそうさい)が行われた裁判例です。過失相殺とは、被害者側にも過失があったときに、これを考慮して損害賠償額を減額する制度のことをいいます。

    平成11年、原告がキャディーとして労働中、被告が深いバンカーからピンを目がけて打ったボールが左眼を直撃し、失明してしまった件について、合計約3000万円の損害賠償を請求しています。名古屋地裁は、被告の過失を認めた上で、「ボールから目を離していたこと」など原告の過失となりうる事項を指摘し、原告の過失割合を5割と認定した判決を下しました。結果、被告は労災保険給付金を除いたおよそ1000万円の支払いを命じられています。

    プレー中に打球から目を離すことは、過失となることを認定した裁判例のひとつです。

    後編では、ゴルフ中に起きた事故について損害賠償請求をする際、弁護士を依頼するメリットや、実際の損害賠償請求の流れについて解説します。
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