仕事を理由に離婚したいと言われたら……離婚の進め方とポイント

2023年05月25日
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仕事を理由に離婚したいと言われたら……離婚の進め方とポイント

宮城県公式WEBサイトで公表されている「令和3年 人口動態統計(確定数)の概況(宮城県版)」によると、宮城県内での令和3年の離婚件数は3228組で、前年よりも325組減少しました。人口1000人あたりの離婚率は1.42で、この数値は全国で34位です(離婚率の全国平均は1.50)。

離婚に至る理由はさまざまですが、仕事を理由に夫婦仲が悪くなってしまうケースは少なくありません。もし、「あなたの仕事のせいで離婚したいと思っている」と告げられたら、どうすれば良いのでしょうか。

本コラムでは、仕事を理由に離婚を切り出されたときの対応法などについて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、「仕事」が理由で離婚は成立するのか

  1. (1)離婚が成立する要件

    夫婦で話し合い、お互いが離婚に合意すれば、仕事が理由であっても離婚することが可能です。このような離婚方法を、協議離婚といいます。

    パートナーから離婚の話を切り出されたとき、「仕事のせいで離婚だと言われるのは納得できない」と拒否する方もいるでしょう。そのような場合、離婚を求める側としては、原則として調停を申し立てた後に、審判や訴訟といった裁判手続きで離婚を目指すことになります。

    裁判で離婚が認められるためには、法律上、次のような理由が必要です。

    <離婚法定事由>
    • ① 配偶者の不貞(不倫)行為
    • ② 配偶者による悪意の遺棄
    • ③ 配偶者の生死が3年以上明らかでない
    • ④ 配偶者が強度の精神病にかかり回復見込みがない
    • ⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由がある


    「夫の仕事が多忙である」という理由は、①~④に該当しません。裁判では、⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるかどうかという点がポイントとなります。

  2. (2)単に「仕事が忙しい」だけでは離婚は難しい

    婚姻を継続し難い重大な事由について、具体的なケースを見ていきましょう。

    <婚姻を継続し難い重大な事由の例>
    • 性格の不一致
    • 労働意欲の欠如
    • 親族との不和
    • 性の不一致、性的不調
    • アルコールや薬物の中毒
    • 犯罪行為
    • 過度な宗教活動


    過去の裁判例に照らすと、単に「仕事が忙しい」との理由だけでは婚姻を継続し難い重大な事由に該当せず、離婚原因として認められる可能性は低いといえます。

    しかし、仕事が忙しいことによって、長期間(3年前後)の別居が続いていたり、継続的な性的不調(セックスレス)に発展していたりするような場合もあるでしょう。このようなケースでは、夫婦関係が破綻していると評価され、裁判で離婚が認められる場合があると考えられます。

    また、仕事が忙しいと言いながら実は不倫をしているという場合には、不貞行為として離婚原因が認められます。

    仕事を理由に離婚を切り出され、話し合いでの解決が困難である場合には、夫婦関係やご自身の行動を客観的に分析し、裁判になったときの見通しを考えることが重要です。

2、離婚を告げられたときの対処法

  1. (1)パートナーの本心を把握する

    離婚を切り出されたとき、突然のことに驚いて混乱してしまうのも無理はありません。
    しかし、今後の対応を検討するためにも、まずはパートナーの話をじっくりと聞くことが重要です。

    <離婚を告げるに至ったと考えられる背景>
    • 家事と育児のワンオペに不満があり、改善してほしい
    • 不安や寂しさに耐えられない
    • 仕事ばかりで夫婦の時間がなく、気持ちが冷めてしまった


    話を聞くなかで、「離婚の決意が固く気持ちは変わらない」「弁護士に相談済みで、以前から離婚の準備を進めていた」といった話が出てくる可能性も考えられます。

  2. (2)自分自身がどうしたいのかを整理する

    パートナーの本心を把握したあとは、自分がどうしたいのかを整理していきましょう。

    早く帰る努力や工夫をしてパートナーの不満を解消することで夫婦関係を続けていく、納得できない点はあるけれども協議離婚で早期に結論を出す、裁判で争うなど、複数の方針が考えられます。

    自分自身がどうしたいのかを整理することができれば、次のステップとして、そこで決めた方針に従って、準備を進めていくことになります。

3、離婚の進め方と押さえておきたいポイント

  1. (1)離婚までの流れ

    離婚をすると決めた場合、次のような流れで手続きが進みます。

    ① 離婚の話し合い
    夫婦間の話し合いで離婚の合意に至れば、協議離婚が成立します。話し合いでは、離婚条件などのすり合わせが必要です。

    ② 調停
    協議離婚が成立しない場合、家庭裁判所で調停を行います。
    調停は、男女ひとりずつの調停委員と裁判官が仲介し、夫婦での話し合いによる解決を目指す手続きです。うまく調停の場で自分の気持ちを表現できるか自信がない場合や、離婚条件について法的な妥当性が知りたい場合には、代理人として弁護士を選任するのが良いでしょう。

    調停手続きにおいて、離婚をすることや離婚条件(親権、面会交流、財産分与、養育費、慰謝料など)について話し合いで合意すれば、調停離婚が成立します。

    ③ 裁判
    調停でも話し合いが成立しない場合には、裁判手続きで判決による離婚を請求することになります。判決で離婚が認められれば、裁判離婚が成立します。
  2. (2)離婚で押さえておきたいポイント

    離婚をするにあたって、離婚条件の取り決めは後悔しないためにも慎重に行うべきことです。財産分与と養育費について、押さえるべきポイントを見ていきましょう。

    ① 財産分与
    離婚をする際には、婚姻生活中に協力して得た財産を、夫婦それぞれに分配しなければなりません。これを財産分与といいます。

    毎日夜遅くまで頑張って働いた収入について、「専業主婦のパートナーに分配するのは納得できない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
    しかし、パートナーの家事や育児のおかげで、仕事に専念することができたと考えられるため、財産分与の割合は1:1が一般的です。

    もっとも、パートナーの寄与に関係なく、自らの特殊な能力のみによって形成されたと認められる財産がある場合には、その財産については財産分与の対象から外す、分与割合を修正する、といったこともあり得ます。

    そのため、離婚を決めたからといって、安易に財産分与についても合意してしまうことは、適切とはいえません。

    本来は分与する必要のない財産を分配してしまうおそれがありますし、後になって、分与すべき財産に漏れがあった、分与の計算が間違っていたなど、トラブルが蒸し返されるリスクが考えられます。

    夫婦の事情に応じた適正な財産分与を行うためには、弁護士に相談し、財産分与に関する取り決めを記載した書面を作成することが適切です。

    ② 養育費
    離婚に伴って子どもの親権者をパートナーとする場合、親権者とならない側は、離婚後も、自分自身と同水準以上の生活を子どもが送ることができるように養育費を支払うことが必要です。原則として、子どもが18歳になるまで養育費の支払い義務は続きます。

    養育費の具体的な金額は、義務者(養育費を支払う側)と権利者(支払われる側)の収入を基礎として、それぞれに必要な生活費や義務者の負担能力などを考慮し、子どもに充てられるべき生活費を認定したうえで算出されます。

    離婚の際には、財産分与と同じく、養育費についても取り決めをしておくのが一般的です。しかし、適正な養育費の額がいくらであるかについては、上記のように複雑な計算が必要で、個人で対応するのは困難であるといえます。

    仮に、パートナーが「養育費はいらない」と言い、養育費の取り決めをせずに離婚した場合でも、事情の変更があったなどとして、後になって請求を受けることもあり得ます。また、子ども自身からの請求を受けるケースも考えられます。

    養育費についても、弁護士に相談して、適正な金額や支払い方法などを取り決めて書面を作成しておくことが適切です。

4、慰謝料の支払いが発生するケースとは

このほかにも、不倫・DV・モラハラなど、パートナーに対して精神的苦痛を与える行為をしていた場合には、慰謝料を支払わなければならない可能性があります。慰謝料は、それ独自に支払うこともありますし、財産分与に含めて清算することもあります。

<慰謝料が発生する可能性のある行為の例>
  • 不倫(不貞行為)
  • DV、暴力
  • モラハラ、嫌がらせ
  • 悪意の遺棄


たとえば、仕事が忙しいことを理由に、家庭を顧みずに全く家に帰らず同居しなかったような場合には、「夫婦の同居義務違反による悪意の遺棄があった」と判断される可能性があります。

慰謝料発生について不安がある方や実際に慰謝料請求を受けている方は、弁護士への相談をおすすめします。財産分与などの離婚条件と併せて、清算・解決する方法が見つかるでしょう。

5、まとめ

離婚するとなれば、それに伴って、財産分与、養育費、慰謝料、親権、面会交流など、離婚に関する多くの条件を取り決める必要があります。

離婚条件を適切に取り決めていなければ、事後にトラブルが蒸し返されたり、相場に比べて不利な条件で合意してしまったりするなどのリスクが考えられます。
また、調停手続きは、話し合いでの解決を目指すものではありますが、専門的な知識が求められますし、取り決めた調停条項を記載する調停調書は判決と同様の効力を持ちますので、慎重にその内容を検討しなければなりません。

そのため、離婚をすると決めたときには、早期に弁護士に相談することが望ましいといえます。

ベリーベスト法律事務所では、離婚問題に関する初回相談は60分無料で承っております(相談内容によっては一部有料)。離婚を切り出されて対応に悩んでいる、どのようにして準備や手続きを進めていけば良いのかお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでご相談ください。

お気持ちに寄り添いながら、ひとつひとつ、解決のためにサポートしてまいります。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています