医者(医師)が離婚をするときの注意点と離婚の進め方
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仙台市が公表している「仙台市統計書(令和2年版)」によると、令和元年における仙台市内の離婚件数は、1813件でした。年齢別でみると、男性は35歳から39歳、女性は30歳から34歳の離婚がもっとも多くなっており、男性・女性ともに、30代で離婚に至るケースが多いことがわかります。
医師の方は、一般的な会社員に比べて高収入であることが多いため、離婚をする場合は財産などをめぐってトラブルが生じる可能性があります。そのため、医師が離婚をする際に起きやすい問題を正しく把握し、あらかじめ十分な対策を講じておくことが大切です。
今回は、医師が離婚をするときの注意点と離婚の進め方について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、医師特有の離婚にまつわる注意点
一般的な家庭の離婚とは異なり、医師が離婚をする場合には、特に注意するべき事柄があります。まずは、その点について押さえておきましょう。
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(1)高収入であるため財産をめぐる争いが生じる可能性が高い
一般的に医師の収入は、通常の会社員と比較して高額になると考えられます。そのため、婚姻期間が長い場合には、離婚時の財産分与の対象になる財産も多く形成されることになります。
また、養育費や婚姻費用については、基本的には夫婦の収入に応じて算定することになるので、収入が多い場合には、高額な養育費や婚姻費用を請求される可能性もあります。
このように、医師が離婚をする場合は、離婚時の財産分与、養育費、婚姻費用といった財産に関する争いが生じる可能性が高く、解決までに長期化することも珍しくありません。 -
(2)配偶者の両親と養子縁組をしている場合には離縁も必要
配偶者の両親が医師で病院を経営しているような場合には、将来、病院を継ぐことを前提として、婚姻時に配偶者の両親と養子縁組をしていることがあります。
離婚自体は、夫婦の話し合いで行うことができますが、離婚をしたからといって自動的に養子縁組が解消されるというわけではありません。養子縁組を解消するためには、養子と養親との間で話し合いをして、離縁の手続きを行う必要があるのです。
話し合いでの離縁ができない場合には、家庭裁判所に離縁の調停または審判を申し立てることになります。
このように養子縁組をしているケースでは、離婚の手続きだけでなく離縁の手続きも必要になるので、一般的な離婚に比べて複雑な手続きとなります。 -
(3)開業医で配偶者がスタッフの場合には離婚後の処遇も検討
勤務医ではなく開業医として病院や医療法人を経営している場合には、さらに問題が複雑になるおそれがあります。
たとえば、配偶者が経営する病院のスタッフとして勤務している場合には、離婚後もそのまま残ってもらうのか、もしくは退職するのかについて話し合いが必要になります。離婚理由によっては、離婚後も同じ職場で働くことに抵抗を感じることもあるでしょう。
しかし、離婚という家庭内の問題と職場の問題は切り離して考えなければなりません。仮に、離婚を理由に配偶者を解雇してしまうと、不当解雇を理由に訴えられる可能性もありますので、適切に対応する必要があります。
また、病院の開業にあたって配偶者の両親から援助金を受け取っているような場合には、援助金の返還を求められる可能性もありますので、その点についても考慮しておく必要があるでしょう。
2、離婚に際し注意したい「財産問題」
前述したように、医師の離婚の場合には、「財産問題」についてトラブルが生じる可能性が高くなります。特に、離婚において問題になりやすい、財産分与、養育費、婚姻費用について、どのような点に注意するべきか、確認していきましょう。
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(1)財産分与
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して維持・形成してきた財産を離婚時に清算する制度のことをいいます。
財産分与の対象となる財産は、あくまでも婚姻期間中に維持形成した財産に限られますので、独身時代にためた預貯金や相続で得た財産については対象外です。しかし、医師の場合には、高額な収入を得ているので、婚姻期間がそれほど長くない場合であっても一般的な家庭に比べて高額な資産を築く可能性があります。そのため、財産分与の対象となる財産が大きくなることも少なくありません。
また、余剰資金をそのまま預貯金として残しておくのではなく、不動産や株式投資などによって資産運用を行っている場合には、財産分与の話し合いがより複雑化する傾向にあります。
財産分与の割合については、一般的には2分の1とされていますが、これは財産形成に対する夫婦の貢献度が等しいと考えられているからです。しかし、医師のように専門性の高い特殊な職業に就いている方の場合には、個人的な努力や能力によって高額な資産を築いたといえる面もあるため、財産分与の割合の変更が認められることもあります。
ただし、財産形成に対する寄与度を具体的に主張、立証することが必要です。 -
(2)養育費
夫婦に子どもがいる場合には、養育費の金額や支払い方法などを決める必要があります。
養育費の金額をいくらにするかについては、法律上の決まりはありませんので、夫婦の話し合いによって自由に決めることができます。一般的には、夫婦双方の収入に応じて養育費の金額を決めることになりますが、その際に利用されるのは裁判所が公表している「養育費算定表」です。
ただし、養育費算定表は、年収2000万円以下を想定して作成されたものですので、年収2000万円を超える収入を得ている場合には、養育費算定表を利用して養育費相場を算定することができません。
そのため、適正な養育費の金額をめぐって夫婦間で争いになることがあります。
また、子どもを後継ぎに考えているような場合には、親権について争いが生じることもあるでしょう。親権は、子どもの福祉や将来を第一に考えながら検討することになりますが、双方が親権を譲らなければ話し合いでは解決できず、調停や裁判に発展することもあり得ます。 -
(3)婚姻費用
婚姻費用の分担とは、婚姻関係にある夫婦が住居費、光熱費、食費、医療費、教育費などの生活費を分担することをいいます。一般的に婚姻費用が問題となるのは、夫婦が別居した場合です。別居した時点から離婚するまでの期間、収入の多い方が少ない方に対して生活費として支払うことが多いです。
婚姻費用についても、裁判所が公表している算定表を利用して算定するのが一般的です。
しかし、前述した養育費同様に、算定表は年収2000万円以下を想定して作成されているため、高額な収入を得ている場合には相場を把握することができません。
相手が求める金額が妥当かを判断できないまま、高額な婚姻費用の支払いに応じてしまうことも少なくないため、注意が必要です。
3、慰謝料を支払う必要があるケース
離婚をする場合は、必ず慰謝料の支払いが発生すると思われている方もいますが、慰謝料と離婚は必ずしもイコールではありません。では、慰謝料が発生するのは、どのようなケースなのでしょうか。
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(1)離婚をしただけでは慰謝料は発生しない
離婚をしたからといって、必ず慰謝料の支払い義務が生じるわけではありません。慰謝料は、違法な行為によって精神的苦痛を被った場合に支払われるお金です。離婚時に慰謝料請求が認められるのは、婚姻関係の破綻に至る原因を作るなど、有責な行為があった場合に限られます。
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(2)慰謝料が発生する具体的なケース
離婚する際に、慰謝料が発生する具体的なケースとしては、次のような場合があげられます。
① 不貞行為があった場合
不貞行為とは、配偶者以外の人との間で自由な意思のもと、肉体関係を持つことをいいます。
一般的には、不倫や浮気と言われる行為が該当しますが、基本的には肉体関係が認められなければ、不貞行為とはみなされません。
② 正当な理由なく同居に応じない場合
医師は、その仕事の性質上、帰宅時間が不規則になることや、多忙を極めて自宅に帰らない日が続くということもあるかもしれません。
そのような場合に、職場の近くにマンションを借りて住むというケースもあり得るでしょう。しかし、配偶者に説明をしていない場合や、配偶者から同居を求められているにもかかわらず、自宅には帰らず別居状態になっている場合は、同居義務違反として慰謝料を請求されることもあるので注意が必要です。
③ DVやモラハラ
配偶者と口論になった際、感情的になって手をあげてしまうことや、暴言や人格を否定するなどの、いわゆるDVやモラハラ行為があった場合は、慰謝料を請求されるおそれがあります。被害が長期間にわたる場合や、健康被害を生じているなど深刻なケースでは、慰謝料が高額になることもありうるでしょう。
4、医師が離婚する際は協議の段階から弁護士に依頼するべき
医師の離婚は、一般的な離婚に比べてトラブルになる要因が多い傾向があるため、離婚を考えた場合には、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)適切な条件で離婚を成立することが期待できる
高収入を得ている医師は、一般的な離婚と比べ、注意しなければいけない点が多いことは前述したとおりです。
弁護士であれば、法的観点から適切な主張を行い、大切な財産を最大限守ることができるようサポートすることが可能です。
また、開業医なのか勤務医なのか、配偶者の親から援助を受けていたのかなど、置かれている状況によって取るべき対応は異なりえます。弁護士は、個々の状況をしっかりと精査したうえで最善の対策を講じることができるので、結果として離婚成立までスムーズに進むことが期待できます。 -
(2)離婚に関する交渉をすべて任せることができる
医師の方は、日々の業務に追われて離婚に関する話し合いをする時間的、精神的な余裕がないこともあるでしょう。しかし、多忙であることを理由に離婚に関する話し合いを後回しにしていると、配偶者から離婚調停や離婚裁判を起こされてしまい、余計に時間もお金もかかる事態になりかねません。
また、病院を経営している医師の場合には、配偶者との離婚で揉めているという事情が外部に漏れてしまうと、経営に悪影響を及ぼすおそれもあります。特に、地域に密着して経営している医院や、配偶者がスタッフとして勤務しているようなケースでは、慎重に対応するべきといえます。
無用なトラブルを避けるためにも、離婚を考えた場合は協議の段階から弁護士に相談し、その後の対応を依頼することをおすすめします。
弁護士は代理人となれるので、配偶者との交渉の一切を任せることが可能です。当事者同士で直接話し合う必要がなくなるので、感情的にならずスムーズに話し合いが進むことが期待できるほか、精神的・時間的な負担も軽減することができるでしょう。
5、まとめ
医師の方が離婚をする場合は、一般的な離婚に比べて問題が複雑化してしまうことも少なくありません。特に、高収入を得ている場合や高額な資産を有している場合には、適切な対応が取れるかによって、最終的に手元に残すことができるお金は大きく変わってきます。
また、養子縁組をしている場合や、後継ぎの問題がある場合は、状況がさらに複雑化しやすいと言えます。
そのため、当事者のみで話し合いを進めようとはせず、弁護士に依頼し、適切な助言を受けつつ離婚成立を目指すことをおすすめします。
離婚をお考えの医師の方や、配偶者から離婚を求められている医師の方は、お早めにベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでご相談ください。仙台オフィスでは、多忙な医師の方でもご相談いただけるよう、土日の相談や、オンライン・電話による相談 にも応じております。受付時に、ご要望をお聞かせいただければ、可能な限りご希望に添えるよう対応します。まずは、お気軽にご相談ください。
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