子どもの親権獲得には裁判が必要? 親権争いの判断基準や流れを弁護士が解説
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厚生労働省の平成28年人口動態統計によれば、離婚件数21万6798組のうち、未成年の子どもがいる離婚は12万5946組程となっており、全体の58.1%を占めるそうです。
仙台市においても平成29年で1763組もの離婚件数が報告されており、毎月150組前後が離婚している計算になります。
これだけ多くの離婚件数があれば、離婚の際に子どもの親権争いに発展するケースも多くあるでしょう。そこで今回は、親権の概要や親権争いに発展した場合の流れについて、仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、親権の概要とよくある疑問
まずは、そもそも親権とは何か、親権にまつわるよくある疑問とともに解説していきましょう。
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(1)親権とは
親権とは、親が未成年の子どもを監督、保護する責任や義務のことをいいます。婚姻中は夫婦の共同親権が原則ですが、離婚となればどちらか一方しか親権者になれません。未成年の子どもがいる場合、親権者を決めなければ離婚できませんので、離婚と親権の問題は切り離せないのです。
親権は法解釈上、大きく「身上監護権」「財産管理権」に分けられています。
身上監護権とは、生活全般に関する世話や教育する権利で、簡単に言えば「子どもを引き取って面倒を見る権利」です。
財産管理権とは、子どもの財産に関する権利で、財産の管理をしつつ、その法律行為について子どもの代理や同意する権利のことです。
ふたつの権利を異なる親が持つことは理論上可能ですが、あまり好ましくないとされています。一般的には、どちらかの親が両方の権利を持つことが多いでしょう。 -
(2)親権を分けることはできる?
子どもが複数人いた場合、個々の子どもの親権について協議します。たとえば兄の親権者が父親、妹の親権者は母親、といったことも可能です。子どもがそれぞれ別の親を希望した場合、子どもの意向が重視されるケースもあります。
一方、兄弟は分離すべきでないという「兄弟姉妹不分離の原則」も重視されています。兄弟姉妹が一緒に暮らすことで得られる経験は人格形成上非常に重要であり、仮に親権者が別々になったとしても、あくまで子どもに都合が良い環境を整えてあげることが大切だという考えです。 -
(3)父親が親権を獲得することはある?
一般的に「親権は母親がもつもの」とイメージされる方が多いかもしれません。それもそのはず、実際には母親が親権者になるケースが圧倒的に多いからです。
ひとつの参考資料として司法統計があります。
平成28年度の全家庭裁判所の審判事件のうち、父親が親権者になったケースはおよそ1942件、母親がおよそ1万9314件です。
およそ9割のケースで母親が親権を持っていることが分かります。
母親が親権を持ちやすい理由として、母親の方が子どもと一緒に過ごす時間が長い傾向にあり、子どもが愛情や安心感をもちやすいことなどが挙げられるでしょう。この傾向は、子どもの年齢が低いほど顕著になるとみられます。
もっとも、必ずしも母親が親権者になるわけではありません。 たとえば次のようなケースでは、父親に親権が認められる可能性も十分にあるといえます。- 父親が主に育児を担っていた(食事、健康管理、送迎、入浴、就寝など)
- 母親が子どもを虐待していた
- 母親が子どもを置きざりにして不貞相手と逢引しており,不貞相手と再婚の可能性が高い
- 子ども自身が父親を希望した(子どもがおおむね10歳~15歳以上の場合)
2、親権者を決める方法と流れ
それでは、親権者はどのように決定されるのでしょうか。その方法と流れを紹介していきます。
親権者を決める方法は、主に次のとおりです。
- 離婚協議
- 離婚調停
- 離婚裁判
それぞれの費用や期間、注意したいポイントを解説します。
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(1)離婚協議
離婚協議とは、離婚について夫婦が話し合いによる合意を目指す方法のことです。夫婦の話し合いなので費用はかかりませんし、結果における柔軟性がもっとも高いといえます。
離婚協議にかかる期間はケース・バイ・ケースで、すぐに合意にいたるケースから、数年を要するケースまであります。
話し合いがあまりに長引くと調停や裁判という選択肢に迫られることもあるため、一般的には短期間で決着がつくことも多いです。
離婚自体やその他の条件については夫婦が納得していても、親権だけは譲れないケースもあるでしょう。親権者は後から変更も可能ですが、よほどの事情がない限りはそう簡単に認められるものではありません。「とりあえず」といった考えで親権者を決めてしまうことだけは避けた方が良いと思います。 -
(2)離婚調停
話し合いで親権者が決まらなければ、次は調停での解決を目指します。裁判所と調停委員が夫婦の間に入って話し合いを進めますので、離婚協議と比べて冷静かつ迅速な解決になることもあります。
親権については、調停中に調査官によって、夫婦のどちらがふさわしいのかを判断されることが多いです。
手順としては、まず家庭裁判所に調停を申し立て、その後月1回程度のペースで調停をおこなわれるケースも多いです。合意にいたれば、一定の拘束力をもつ調停調書が作成されます。
調停に必要な費用としては、収入印紙代や郵便切手代、戸籍謄本代、交通費などが想定されます。また、申し立てに際し弁護士を代理人に立てるときは、別途弁護士費用がかかります。
なお、日本では「調停前置主義」といい、原則として、調停をしてからでなければ裁判を起こすことはできません。相手が行方不明などよほどの事情がなければ、調停は通常踏むべき手続きになると思っておきましょう。 -
(3)離婚裁判
調停で解決できなければ、裁判へと移ります。裁判にまで発展するのは話し合いが難航した結果ですから、提起から離婚成立まで1~2年ほどかかってしまうケースもあります。
離婚裁判は、家庭裁判所へ訴状と必要書類を提出することで手続きが開始されます。
裁判に必要な費用は、収入印紙代、郵便代、尋問調書のコピー代、証人の日当や旅費などが考えられます。また、裁判に至った場合は、基本的には弁護士に依頼することになるため、弁護士費用もかかると思っておきましょう。
3、親権者決定の判断基準
離婚裁判になった場合、家庭裁判所はどのように親権者を決定するのか、気になる方も多いでしょう。
裁判所が親権者を決定するにあたり、大前提となるのが子どもの成長です。
たとえば離婚理由が夫婦どちらかの不貞行為だったとしても、親権者決定においては基本的になかなか重視されません。それよりも「どちらの親が親権者になれば、子どもが幸せになれるのか」という観点から判断されます。
具体的には、次のような要素が基準の一部となります。
- 子どもへの愛情の大きさ 愛情の大きさを比べることは難しいですが、これまでの養育状況から見て客観的に判断されます。
- 子どもの生活環境が変化しないか 離婚によって、子どもが転校しなければならないなど、生活環境が変化することは好ましくないとされています。
- 父母以外に子どもの監護を補助してくれる人がいるか たとえば、祖父母がすぐ近くに住んでいて育児をサポートしてくれるような状態であれば、親権獲得に有利に働くこともあります。
- 子どもの教育に悪影響を及ぼす要素がないか 住居環境、親の飲酒やギャンブル癖、親の交友関係などが判断要素となります。
4、まとめ
今回は、親権についての概要や親権者獲得の方法、流れなどを解説しました。親にとって子どもは、何ものにも代えがたい大切な存在です。しかし、親権者決定においては、愛情の深さなどを客観的かつ具体的に主張する必要があり、ご自身の想いとは真逆の結果になってしまう可能性もあります。
ご自身が親権者となれる確率について知りたい方や、親権争いを有利に進めたいといった方は、離婚問題の経験がある弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士も尽力します。親権争いでお困りであれば一度ご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています