夫源病(ふげんびょう)を理由にした離婚は認められる?

2023年04月25日
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夫源病(ふげんびょう)を理由にした離婚は認められる?

仙台市が公表する「仙台市統計書(令和4年版)」によると、令和3年における仙台市内の離婚件数は、1505件とのことです。
この数値が示すとおり、離婚問題は珍しいことではありません。

離婚の要因が数多くあるなか、昨今では「夫源病(ふげんびょう)」と呼ばれる症状が注目されています。

夫源病においては「夫が帰宅するだけで気分が悪くなる」「夫が出張で不在だと晴れやかな気持ちになる」といった症状が出るため、離婚を考えるほどに深刻な問題となるケースが少なくありません。
では、この夫源病を理由とした離婚は認められるものなのでしょうか。

本コラムでは、夫源病と離婚をテーマに、離婚の可否や夫が離婚に応じない場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、夫源病とは?

夫源病とは、夫の言動が原因で妻が不調を感じる症状の総称です。医学的に正式な病名ではありませんが、医師である石蔵文信氏により名づけられ、テレビやニュースなどでよく取り上げられるようになりました。

症状としては、頭痛、胃痛、めまい、ほてり、不眠などの身体的症状のほか、不安感を抱く、気分が落ち込みがちになるなど精神的な症状もあります。更年期症状と似た症状であることから、その原因に気づかず、我慢を続けてしまう方も多くいるでしょう。以前は中高年の妻に多いとされていましたが、近年では20代や30代の子育て世代の妻にもみられるようです。

原因は特定されていませんが、夫の存在や無神経な言動に対して妻がストレスを抱えていることが大きく関係しているとみられています。

原因となる夫側には、次のようなタイプが多いと言われています。

  • 亭主関白で、妻を自分より下にみている
  • 妻の行動や交友関係に口を出す
  • 妻が仕事で結果を出すのを認めたくない


自身の過度なプライドがモラハラにつながり、妻の不調を誘発してしまうようです。
一方、夫源病にかかりやすいのは、次のような女性が多いと言われています。

  • 真面目で我慢強い
  • 経済的自立度が低い


不調となる傾向としては、夫の帰宅時間や出張が終わる日、定年退職後など、夫が自分の近くにいる状況下においてよく発症するようです。

2、夫源病を理由にした離婚の可否

では、夫源病であることは離婚の理由として法的に認められるのでしょうか。

  1. (1)協議離婚に応じてもらえれば可能

    日本では多くの夫婦が協議によって離婚しています。つまり、夫婦が話し合って合意すればどのような理由でも離婚は可能だということです。

    慰謝料や財産分与、子どもの親権などの離婚条件を話し合い、離婚協議書を作成します。公正証書にしておくと、万が一約束が守られなかった場合、強制執行の根拠となります。

    しかし、夫が協議に応じないことも考えられます。夫源病を生じさせる夫は妻に依存していることが多いとの指摘もありますので、協議離婚が成立しないケースもあるでしょう。
    最終的に裁判へと発展した場合、法律上の離婚理由が必要となります。

  2. (2)法定離婚事由に該当するのか

    民法第770条では、法定離婚事由と呼ばれる次の5つのケースに限り、離婚の訴えを提起できると定めています。

    1. ①不貞行為
    2. ②悪意の遺棄
    3. ③3年以上の生死不明
    4. ④配偶者が回復の見込みのない強度の精神病
    5. ⑤その他、婚姻を継続し難い重大な事由


    ①ですが、夫源病となったそもそもの原因が夫の不貞行為にあれば、それを理由とした離婚を主張することができます。慰謝料請求も可能です。

    ②は夫婦の同居、協力、扶助などの義務を果たさないとき認められることがあります。正当な理由なく、夫が生活費を渡してくれないようなケースが典型例です。悪意の遺棄により夫源病が発症したのであれば、離婚が認められる可能性があります。

    ⑤は何らかの事情によって婚姻関係の破たんがあったと認められることです。たとえば長年の別居、夫のDV、モラハラ、性行為の強要などが挙げられます。これらも夫源病を発症させた原因として認められるケースがあるので、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。

    夫源病の場合、「夫と一緒の空間にいたくない」「夫の存在が嫌」など、漠然とした理由で離婚したいと感じることが多いでしょう。特定の事情がなければ法定離婚事由としての主張が難しいことも知っておいてください。

3、夫が離婚に応じない場合の対処法

夫が協議離婚に応じず、かつ法律上の離婚事由にも該当しない場合はどうすればよいのでしょうか。そのまま我慢し続けてしまうと、ストレスは増大する一方で他の病気も誘発しかねません。

  1. (1)別居で気持ちを整理する

    離婚するべきか迷っている段階であれば、まずは一時的でもよいので別居をし、ご自身の今後を考えてみてもよいでしょう。実家や兄弟姉妹の家を頼るなどの方法をとってみてください。身をよせる先にあらかじめ相談しておくとよいでしょう。

    夫から物理的な距離をとることでストレスが減り、結婚生活を続けられたという方もいます。夫側も、自身が妻に依存していた自覚が生じ、妻を大切にしようという気持ちになることも少なからずあります。

  2. (2)別居して自立した生活を送る

    離婚の決意がゆるぎないようであれば、本格的な別居に踏み切ってみてもいいでしょう。長期にわたり別居していたという事実があれば、裁判になった際に婚姻関係の破たんが認められやすくなるからです。

    自立する場合、住居を探すことはもちろん、夫から生活費をもらえないリスクも想定しなければなりません。ご自身で仕事を見つけるなど、経済的な自立を図るのが望ましいでしょう。これは実際に離婚する際にも重大なポイントとなります。

    なお、生活資金を確保するために、別居中、夫へ婚姻費用分担を請求することは可能です。

  3. (3)離婚調停を申し立てる

    協議が難しいのであれば、裁判所へ調停を申し立てます。調停とは、裁判官1名と調停委員2名が夫婦の間に入ってもらいながら、話し合いを進め、合意による紛争解決を目指す手続きです。調停で合意した内容は調停調書としてまとめられ、裁判の判決と同一の効果をもちます。公平、中立な立場の第三者が介入することで冷静な協議ができ、希望すれば、基本的には妻は夫と顔をあわせずに済みます。

    調停を申し立てられたともなれば、夫も妻を苦しめていたことや離婚への本気の度合いを察し、離婚に同意することもあります。調停でも成立しない場合は裁判となりますが、前述のとおり裁判で離婚が認められるには法定離婚事由が必要です。なければ別居から始めるなどして長期戦を視野に入れることになります。

4、夫源病で離婚したい妻が弁護士に依頼するべき理由

協議離婚をするといっても、夫源病の場合は夫とのコミュニケーションにより症状が悪化している状態と考えられるため、話し合いすら難しいでしょう。たとえふたりで話し合っても、夫の言い分に抑圧されてしまうおそれもあります。

そのため、協議の段階から弁護士を介入させることをおすすめします。離婚したい理由を的確に伝えることができ、離婚にともなう財産分与や別居中の婚姻費用、子どもがいる場合の養育費や親権の問題もあわせて話し合うことができるためです。法的根拠をもとに、妻にとって有利な条件の獲得にも期待できます。

また、不貞など特定の事実をもとに離婚したい場合には、証拠が必要となることがあります。証拠集めの方法や有効な証拠についても、弁護士からあらかじめアドバイスをもらっておいたほうがよいでしょう。

弁護士は、調停の際にも同席できますし、裁判では代理人になることもできます。法的な書面の作成や裁判における主張など、法律の面からあなたを守る心強い味方になるはずです。

5、まとめ

夫源病で苦しんでいる方へ向けて、離婚の可否や離婚に応じてもらえない場合の対処法を解説しました。

夫源病は、妻のストレスが積み重なり、心身の症状として表れてしまったものです。つらい症状でお困りの方も、大勢いらっしゃるでしょう。

夫源病が法定離婚事由に該当するか否かはご家庭の状況によって異なります。法的に整理してみると、結婚生活を継続し得ないような重大な理由が潜んでいることがありますので、まずは弁護士へ相談してください。

ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスでは、しっかりと状況をお伺いしたうえで、アドバイスを行っています。女性弁護士が在籍していますので、夫のことを男性には話しにくい……と感じる場合も安心です。

しっかりと寄り添い、最善を尽くしますので、離婚問題でお困りの際には、ぜひご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています