【前編】離婚の慰謝料は減額できる? 支払わなくていいケースや減額交渉する方法について
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仙台市の保険統計年報によりますと、平成28年の仙台市における離婚件数は1752件であり、1日あたり4.8件、5時間に1組が離婚しています。
離婚の場面では子どもの親権、養育費、財産分与など相手方と争うさまざまな要因と解決すべき問題に直面します。そして、慰謝料も大きな問題のひとつです。離婚原因すなわち慰謝料を請求される理由が、いわれのないものであれば堂々とその旨を主張することになります。
しかし、事実と相違せず離婚原因を作った側は、それが不当に高額なものであったとしても負い目もあり減額の交渉は難しいと感じてしまうのではないでしょうか。もしそうであっても、相手方の要求に屈して不当に高い金額の慰謝料を支払う必要はありません。離婚における慰謝料には支払わなくても良いケースや相場水準があり、そしてこれらを踏まえた減額交渉も可能なのです。
1、まず確認しておきたい慰謝料を支払わなくて良いケースについて
「慰謝料」の定義を確認するために、民法第710条をみてみましょう。
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条(不法行為による損害賠償)の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
この条文に定められている「財産以外の損害」とは、基本的には精神的に受けた損害であり、賠償行為を慰謝料の支払いと解釈することが一般的です。つまり、私たちがよく使う慰謝料という単語の意味は、「相手方の不法行為による精神的苦痛に対する損害賠償金」なのであり、離婚の場面では「離婚の原因となる不法行為をした人が支払うもの」と考えられています。
裁判においては、相手方が慰謝料の支払いを主張してきたとしても、相手方が不法行為の事実を立証できない限りは、基本的には当該主張が認められません。
しかし、離婚の場面ではこれまで積み重ねた感情的なしこりや、今後の生活費などに対する思惑などが作用し、相手方から慰謝料を支払う条件に基本的には該当しない場合でも不毛な主張が行われることがよくあります。たとえば、家族計画や子育て方針に合意を得られない、姑舅との折り合いが悪い、宗教の違い、会話が弾まない、趣味が合わないなどという理由は単なる価値観の相違や性格の不一致とされ、相手方がどのように捉えていようと精神的な損害を受けたとは法的に認められにくいものです。
2、慰謝料を支払う可能性が高くなるケースについて
民法第752条に定められている「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」の言葉は、夫婦間のいわゆる同居義務・協力義務・扶助義務について定めたものです。このほか、民法第770条では、裁判で離婚の訴えを提起することができる条件について「配偶者に不貞な行為があったとき」、「配偶者から悪意で遺棄されたとき」および「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」などを定義しています。
これらの規定に過去の実例を併せて勘案すると、自身に以下のような行為がありそれを相手方が立証した場合は、裁判で慰謝料請求が認められることがありえます。
- 浮気や不倫などの不貞行為
- ドメスティック・バイオレンス
- モラル・ハラスメント
- 収入があるのに生活費を渡さない
- 正当な理由なく同居を拒否
- 正当な理由なく家を追い出した
- 家庭を破たんさせるほどの一方的な浪費
- 行き過ぎた宗教活動
- 性交渉の拒否
3、離婚慰謝料をおさえることができると考えられるケース
事案の軽重や支払う側の資力など個別事情にもよりますが、離婚における慰謝料は、事案の軽重や支払う側の資力など個別事情にもよりますが、数百万に及ぶこともあります。もし請求を受ける側となってしまった場合は、少しでも多く減額してもらいたいところです。
以下では、過去の実例を踏まえ夫婦当事者間の話し合いや裁判などの結果次第では、慰謝料の金額が伸びなかったり、減額が認められる可能性があるケースを紹介します。
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(1)夫婦の双方に離婚の責任がある場合
慰謝料を請求してきた相手方がいわゆるドメスティック・バイオレンス(DV)を行っていたり、浮気をしていたりしたなどの事実が判明しているケースです。
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(2)以前から夫婦仲が悪い場合
家庭内別居やセックスレス、会話が全くないなど、もともと夫婦仲が冷え切っていたと判断されるケースです。請求された側に不貞行為などがあったとしても、すでに婚姻関係は破たんしていたと認められれば、被る精神的苦痛は低いと考えられます。したがって、慰謝料減額の要因になるでしょう。
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(3)婚姻期間が短い
結婚期間が短いほど受けた精神的苦痛が小さいと考えられることがあります。婚姻期間が長いほど慰謝料額が大きいものと考えられることがあります。
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(4)不法行為の頻度が低い
ドメスティック・バイオレンスや不貞行為が1回きりなど、継続した不法行為ではなかったときは、慰謝料の金額が伸びない可能性があります。
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(5)証拠がない
裁判などに至った場合、慰謝料を請求する側はその請求の根拠となる証拠を示し、裁判所の判断を仰ぐことになります。不貞行為など事実の有無に関係なく、もし請求する側が主張する慰謝料の金額に足る証拠を出すことができない場合は、慰謝料請求の主張そのものが認められないことも考えられます。
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(6)時効による慰謝料請求権の消滅
民法第724条では、「不法行為による損害賠償の請求権」は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないとき」は、「時効によって消滅する」と規定されています。したがって、3年間経過すると、相手方が慰謝料を請求してきたとしても時効となり支払う義務はなくなる場合があります。
もっとも、慰謝料請求についての時効完成前に相手方が内容証明で慰謝料の支払いを請求し、その6ヶ月以内に訴訟を提起してきた場合は、時効は中断してしまいます。
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