仕事中にケガをしたときの労災保険の手続きの流れ
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宮城県労働局が令和4年11月8日に公表した『令和4年労働災害発生状況』によると、令和4年1月~10月の期間中に、県内では3324人もの労働者の方が労災で死傷しています。
死亡に至らずケガでとどまった場合でも、仕事中に発生したケガであれば、労災保険からさまざまな給付を受けられる可能性があります。
では、実際の労災保険手続きはどのように進めればいいのでしょうか。また、労災事故で弁護士に相談すべきなのはどのようなケースなのでしょうか。ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、労災保険とは?
そもそも労災保険とは、どのような制度なのか理解しておきましょう。
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(1)労災保険の基本
労災保険制度は、労働者が、業務上、または、通勤途中にケガをしたり疾病等にかかったりした場合に必要な保険給付を行い、労働者の社会復帰促進等を行うための国の制度です。労災保険は、労働者災害補償保険法によって定められています。
労災保険は、原則として労働者を雇っているすべての事業所に適用されます。 業種や事業の規模は関係ありません。また、ここで言う労働者とは、厚生労働省によると『職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者』をさし、正社員だけではなく、契約社員、パートタイマー、アルバイト従業員も含まれます。 -
(2)労災給付の内容
労災保険が適用になった場合に得られる給付は、さまざまあります。
ただし、すべての損害が補償されるわけではないので注意が必要です。
- ① 療養(補償)給付
ケガや病気が治癒するまでの治療費や、治療にかかる実費相当額の費用が給付されます。
具体的には、病院で受けた診察の費用や、検査代、投薬費などが支払いの対象です。一定の条件を満たせば、通院にかかった交通費も支給対象となります。 - ② 障害(補償)給付
労災によるケガまたは疾病について、治療をしても障害が残った場合には障害補償給付が支給されます。障害補償給付には、障害補償年金と、傷害補償一時金の二種類があり、後遺障害の等級の重さに応じて、どちらの給付を受けられるかが決まります。 - ③ 休業(補償)給付
ケガや疾病の治療のため仕事を休み、その分の賃金が受け取れない場合に支給される給付です。休業の4日目から給付されます。 - ④ 傷病(補償)年金
労災によるケガや疾病が、治療の開始後1年6か月を経過しても治らない場合や、障害等級に該当する場合においては、障害の程度に応じて傷害補償年金が給付されます。 - ⑤ 介護(補償)給付
障害補償年金または傷病補償年金受給者のうち、障害等級が第1級の方、または第2級の精神・神経障害および胸腹部臓器障害の方が介護を受けている状況のときは、介護補償給付の対象です。 - ⑥ そのほかの給付
労働者の方が労災で亡くなった場合は、ご遺族は遺族(補償)給付を受けられます。また、葬儀等の費用として葬祭費も給付されます。
- ① 療養(補償)給付
2、労災保険が適用になるケガ、適用にならないケガ
労災保険の支給対象となるのは、「業務災害」または、「通勤災害」と認められた場合に限られますが、業務災害や通勤災害にあたるかどうかの判断は、労働者本人や会社ではなく、管轄の労働基準監督署が行います。
どのようなケースが、業務災害や通勤災害にあたるのか、判断基準とあわせて解説します。
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(1)業務災害
業務災害とは、業務上でのケガや疾病、または、これらにおける障害や死亡を言います。あくまで業務上で発生したことが条件となるので、たとえ業務時間内のケガであっても、業務とは関係のない私的な行為に起因するケガは業務災害とは認められません(業務遂行性)。
また、業務とケガや疾病、障害、死亡という結果に、合理的な因果関係が認められることも必要です(業務起因性)。
では、労働時間内、休憩中、出張中にわけて、具体的にどのようなケースが労災と認められるのかを確認していきましょう。
【労働時間内】- 工場での作業中に、ミキサーに手が挟まってケガをした
- 事務所の棚に積んであった機材が崩れてケガをした
いずれのケースも、業務遂行性、業務起因性ともにあると考えられるので、基本的には問題なく業務災害と認められるでしょう。
【休憩時間など業務の中断中】- 高速道路の工事に従事する労働者が、道路わきで休憩していた際に、前方不注意の車に衝突されてケガをした
休憩や作業を中断している際に起きた事故は、その事故が業務に起因する場合に限って業務災害と認められます。
なお、トイレ休憩など人間の生理的行為については、業務に付随するとみなされます。たとえば、トイレに行く途中に階段から落ちてケガをした、というケースは業務災害に含まれることがあります。
【出張中に起きた労災事故】- 出張命令を受けて訪問した得意先の階段で転倒した
- 出張先のホテル室内の浴室で、足を滑らせて骨折した
出張中も事業主の支配下にあることは変わりありません。そのため、出張中に生じた災害についても、積極的に私的行為をしたなどの事情がない限り業務災害として認められます。
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(2)業務災害にあたらないケース
業務時間中のケガであっても、次にあげるようなケースにおいては、業務災害とはみなされない可能性があります。
- 労働者が業務とは関係のない私的な行為によって労働災害が生じた場合
たとえば、業務時間中に業務を離れて個人的な買い物をしていた際、第三者とぶつかってケガをしたというケースです。この場合は、業務時間であっても、私的な行為によってケガをしたことになるため、業務災害とは言えません。
また、第三者とケンカになり暴行を受けたような場合も、私的な行為によるケガにあたるとして、業務災害とは認められない可能性が高いでしょう。 - 労働者が故意に労災事故を発生させた場合
「故意に」とは、「わざと」という意味です。業務上のケガであっても、労働者自身が、意図的に起こした事故によるケガについては、労災給付の対象にはなりません。 - 自然災害によって被災した場合
業務時間中の事故でも、その原因が地震や水害などの自然災害にある場合は、労災保険の対象となりません。ただし、事業場の立地や作業の内容が、自然災害による被害を受けやすい事情があるような場合などは、個別の判断に委ねられます。
- 労働者が業務とは関係のない私的な行為によって労働災害が生じた場合
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(3)通勤災害
通勤災害とは、労働者が業務に関して移動する際に被ったケガや病気、死亡などを指します。通勤災害に該当するケースは、次の3つです。
- ① 就業の場所と住居の間の移動中の事故
自宅からの会社に向かう、会社から自宅に帰るといった通勤時に発生した災害です。
自宅から自家用車で会社に出勤する途中に、交差点で対向車とぶつかってケガをしたといったケースが典型例でしょう。
なお、労働者が事前に会社に届け出ている通勤経路・方法と異なる経路上で被害に遭った場合でも、その経路や方法が合理的であれば、通勤災害として認められます。
また、営業先などへの直行直帰の場合でも、合理的なルートであれば、その途中での事故は通勤災害に該当します。 - ② 就業の場所から他の就業の場所へ移動する途中の事故
就業場所と自宅との移動だけでなく、就業先から就業先へと移動する際に起きた事故も、通勤災害として認められます。
たとえば、複数の支店を管轄する管理者が、ある支店の管理業務を終えた後に、次の支店に移動する途中で交通事故に遭ったような場合です。 - ③ 単身赴任者が赴任先住居と帰省先住居の間を移動中の事故
単身赴任の場合には、一定の条件を満たせば、赴任先から自宅への移動(帰省)する途中で起きた事故も通勤災害とみなされることがあります。
- ① 就業の場所と住居の間の移動中の事故
3、労災保険の手続きと流れ
では、労災事故でケガをした場合、どのような流れで手続きを行うのでしょうか。順を追って説明します。
なお、手続きは会社を通じて行うことも、個人で申請することもできます。
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(1)労働災害が発生したことを会社に届け出る
仕事中や通勤途中に事故が発生しケガをした場合は、速やかに会社へ届け出を行います。
【会社に届け出るべき事柄】- ケガをした労働者の氏名
- ケガをした日と時間
- ケガをした労働者以外に状況を把握している人の氏名
- 労働災害の発生状況
- ケガの部位と状況
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(2)ケガの状態に応じて速やかに治療を受ける
治療が必要なときは、指定労災病院で治療を受けましょう。労災の場合、健康保険証は使用できないので、病院窓口で労災であることを伝える必要があります。
なお、指定労災病院が見つからない場合や、急を要する場合は、何よりも治療を優先させてください。
「療養(補償)給付」については、指定医療機関で治療などを受けた場合は、その指定医療機関を通じて申請を行うことができます。
また、指定労災病院以外で治療を受けた場合は、治療費を一時的に負担する必要が生じますが、後日労働基準監督署へ申請することで、立て替えた治療費分の支給を受けることができます。 -
(3)労働基準監督署へ必要書類を提出する
労災の申請は、労働基準監督署に所定の書類を提出して行います。
前述したとおり、労災には業務災害と通勤災害の二種類があり、それぞれ提出する書類が異なるので注意しましょう。申請書類は、労働基準監督署に備え付けてありますが、労働基準監督署や厚生労働省のホームページからダウンロードして入手することもできます。 -
(4)手続きで迷ったときは労働基準監督署に相談を
労災保険の申請書類は複雑なので、どのように記入するべきか戸惑う欄があるかもしれません。また、勤務先や医療機関に書いてもらう欄がありますが、会社が協力してくれない場合もあります。
申請にあたり悩むことがでた際は、ためらうことなく労働基準監督署の労災担当窓口に相談されることをおすすめします。労働基準監督署であれば、申請書類の書き方や手続きの流れについて、被災者の立場でわかりやすく説明してくれるでしょう。
4、労災に関して弁護士に相談すべきケースとは?
労災の申請自体は、多くの場合は会社が行なってくれますが、会社が対応してくれない場合は、労働者自身で行うことができます。つまり、労災申請手続き自体は、原則として弁護士に相談しなくてもできることが多いです。
ただし、労災給付で得られる補償額は、損害の一部に過ぎません。労災給付では十分に得られなかった補償部分については、会社などに対して損害賠償を請求できる場合があります。
労災申請と異なり、損害賠償請求では法的な知識が必要不可欠です。また交渉から裁判などの法的手続きに移行するケースも少なくありません。
そのため、損害賠償請求を検討される場合は、弁護士に相談してサポートを得ながら対応を進めることをおすすめします。
5、まとめ
労災事故でケガをした場合、労災給付とは別に会社から損害賠償を受けられる可能性があります。弁護士に相談することで、損害賠償請求が認められる見込みや、請求に関する手続きなどについて、的確なアドバイスを受けることができます。
ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスでは、労災事件について経験豊富な弁護士が在籍しているので、おひとりおひとりの事情に沿ったアドバイスを提供することが可能です。
宮城県内だけではなく、近隣県(山形県、岩手県、秋田県、青森県、福島県)からのご相談も受け付けておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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