事後強盗罪とは? 万引きが強盗扱いになるときの要件と刑罰を解説
- 暴力事件
- 事後強盗
令和5年9月、宮城県石巻市内にあるパチンコ店で、70代男性が景品のジュースを盗んで逃走する際に店員に刃物を突き付け脅迫したとして、事後強盗の疑いで逮捕されました。
一般に「強盗」と聞くと、凶器を準備し、覆面をして店や銀行に押し入って金品などの財物を盗むイメージがあるでしょう。しかしこの逮捕事例のように、ささいなものでも盗んだ後の行為によって強盗罪に問われてしまうことがあります。
本コラムでは、事後強盗罪とは何か、また、犯罪の成立要件や刑罰、逮捕後の流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、事後強盗とは
事後強盗とは、盗んだものの取り返しを防ぎ、逮捕を逃れるため、あるいは証拠の隠滅などの目的で「人を暴行・脅迫」する犯罪のことです。刑法第238条に規定されています。
事後強盗として逮捕される可能性がある一例としては、万引きをして逃走する際に追いかけてきた店員を突き飛ばしてしまうケースです。この場合、万引き行為のみであれば窃盗罪に問われることになるはずですが、万引き後に暴行したことで強盗として扱われるわけです。
事後強盗罪と窃盗罪との大きな違いは、以下の通りです。
- 窃盗罪……暴行や脅迫を用いず、人のものを盗み取ること
- 事後強盗罪……人のものを盗み取った後、取り返されること等を防ぐために暴行や脅迫を加えること
事後強盗罪と強盗罪との違いについては、次のようになります。
- 強盗罪……暴行や脅迫を加えて人のものを奪うこと
- 事後強盗罪……人のものを奪った後で、捕まえようとする者から逃げるために暴行や脅迫を加えること
事後強盗罪の条文で規定されている「暴行や脅迫」の程度は、被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものとされています。
暴行や脅迫の程度が「被害者の犯行を抑圧するに足りない場合」には、窃盗罪と暴行罪、傷害罪または脅迫罪が成立するとされています。
窃盗罪と傷害罪であるとされた場合、刑罰の上限は懲役22年となります。
他方、窃盗犯人の暴行・脅迫が事後強盗の要件を満たし、それにより被害者がケガをすると、無期刑が上限となる強盗致傷罪、被害者が死亡すると、死刑が上限となる強盗致死罪に問われることとなります。
そのため、この「被害者の犯行を抑圧するに足る程度のもの」と暴行・脅迫がいえるかは、慎重な検討を要する事項といえます。
実際に暴行や脅迫があったか否かは、暴行や脅迫の態様加害者および被害者の体格や性別・年齢など、さまざまな要素をもとに総合的に判断されることになります。
この中でも一番重要視されるメルクマールが、暴行・脅迫の態様、つまり、何をしたのかという点です。
ナイフ等の凶器を使用している場合には、その殺傷能力の高さ、身体の枢要部(手足以外の頸部、顔面、頭部、腹部等)に向けられていたこと、凶器の使用時間は長いかなどをみて、「生命侵害の危険性」が強ければ、相当有力な+の事情となります。
凶器を使用せずに被害者に殴打等の暴行を加える場合は、身体の枢要部に向けられていたこと、殴打等の力の程度が強いこと、暴行の回数が多く暴行の時間が長いことが+の事情となります。
令和3年1月、いわき市内のスーパーで商品を盗んだ男が、車で逃走しようとした際に警備員を殴り、事後強盗の疑いで逮捕されたという事案がありました。このケースをもとに考えてみましょう。
まず、メルクマールとなる暴行の態様を見ていきます。
被疑者は、警察官の身体の枢要部といえる頭部を、一度ならず数回殴打しています。もっとも、警察官にケガはないこと、被疑者が61歳であることからすれば、素手での殴打による力の程度はそこまで強くなかったといえるかもしれません。そうすると、被害者である警察官の「生命侵害の危険性」はさほど強くなかったといえそうです。
次に、他の事情として、被疑者が61歳であり、被害者は警察官であるという体格差および年齢差に鑑みると、被害者に「犯行を抑圧する程度」の暴行が加えられたということは言い難いといえそうです。
この事案は、事後強盗罪で逮捕されているが、弁護人の適切な弁護活動により、最終的に窃盗罪・傷害罪に落ちる可能性のある事案だといえます。
2、事後強盗罪が成立するための「窃盗の機会」とは
事後強盗罪は、暴行・脅迫によって財物を奪取するという典型的な強盗罪とは異なります。
それにもかかわらず、窃盗後の暴行・脅迫を強盗罪として扱えるのは、窃盗後の暴行・脅迫が、典型的な強盗罪における、暴行・脅迫を加えてものを奪うことと同視できるからです。
そのため、事後強盗罪では、窃盗後、「窃盗の機会」において暴行や脅迫があったことが必要です。極端な例をあげると、窃盗が終わってから3日後に犯行現場から300キロ離れた場所で被害者に対して暴行を加えても、その暴行は「窃盗の機会」になされたということはできないのです。
窃盗の機会とは、暴行・脅迫と窃盗行為との間が、時間的・場所的に近く密接な関連性が認められる場合、時間的・場所的に近くなくても、被害者側による継続追跡を受けている場合のことをいいます。たとえば次のようなケースです。
● 窃盗の機会が認められるケース
- 被害者に追跡されている途中で暴行を加えた(広島高裁 昭和28年5月27日判決)
- 留守中の被害者宅に侵入し、窃盗を犯した後、被害者宅の天井裏に身を潜めていたが、約3時間経過後にかけつけた警察官に見つかり、逮捕を免れる目的で、暴行を加えて逃げようとした(最高裁 平成14年2月14日判決)
この判決は、窃盗後約3時間が経過していたので時間的近接性はないが、犯行現場にとどまり続けているため、いわば被害者による継続追跡を受けている場合と同様に考え、窃盗の機会の暴行であると認定しています。
一方、次のケースでは、暴行や脅迫と窃盗行為との間には時間的・物理的な隔たりがあるため、窃盗の機会とは認められない可能性があります。
● 窃盗の機会が認めらないケース
- 窃盗ののち逃走中にたまたま巡回中の警察官に呼び止められ職務質問をされたため、警官に対して暴行を加えた(東京高裁 昭和27年6月26日判決)
この判例は、警察官から職務質問を受けているため、被害者側から継続追跡を受けている場合と同様のものに一見みえます。
しかし事件とは無関係に「たまたま巡回中」の警察官に、不審者として職務質問をされたとしても、それは、窃盗事件の被害者側の人間による追跡とはいえないため、この警察官に暴行を加えても、「窃盗の機会」での暴行とはいえません。
3、誰に暴行や脅迫を加えると事後強盗罪になるのか
事後強盗罪で被害者となり得るのは、物理的にものを盗まれた被害者だけではなく、警察官や店員、警備員、目撃者などが挙げられます。
もっとも、事後強盗罪が成立するには、「財物を得て、これを取り返されることを防ぐ目的」、「逮捕を免れる目的」または「罪跡を隠滅する目的」のいずれかひとつが必要です。
たとえば、万引きを現認して追いかけてきた警備員に暴行した場合には、「財物を得て、これを取り返されることを防ぐ目的」が認められ、事後強盗罪が成立します。一方、逃走中にたまたま近くを歩いていて、ぶつかってしまった人の場合には、いずれの目的もなく、万引きとは無関係のため事後強盗罪は成立しません。
もっとも、相手が無関係な人であっても、別の犯罪が成立する余地はあります。たとえば、逃走中にぶつかった人が転んで大ケガを負えば、傷害罪が成立します。
4、事後強盗罪の刑罰
事後強盗罪は条文に「強盗罪として論ずる」とあるように、強盗罪と同様に扱われます。したがって、有罪になれば「5年以上20年以下の懲役」が科せられます。
窃盗罪の罰則は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」ですから、比較しても非常に重い罪です。法定刑が5年以上であるため、減刑されない限りは執行猶予がつきません。初犯であっても実刑判決のおそれはあるでしょう。
なお、事後強盗罪によって相手にケガを負わせてしまった場合には強盗致傷罪、死なせてしまった場合には強盗致死罪が成立します。ケガを負わせた場合は「無期または6年以上の懲役」が、死なせてしまった場合は「死刑または無期懲役」が科されます。
5、事後強盗罪で逮捕された後の流れ
事後強盗罪で逮捕されると、次の流れで刑事事件の手続きを受けることになります。
● 逮捕から48時間以内
警察官から取り調べを受けた後、48時間以内に検察官へ送致されます。
● 検察官送致から24時間以内
引き続き検察官から取り調べを受け、送致後24時間以内に、勾留請求の有無が判断されます。さらなる捜査と身柄拘束が必要な場合は勾留請求が行われ、勾留請求がなされなかった場合は、身柄は釈放されますが、在宅事件の扱いとなり捜査は継続されます。
● 勾留
勾留請求が認められると、最長で20日間、身柄を拘束され取り調べを受けることになります。
● 起訴・不起訴の判断
勾留期間が満了するまでの間、勾留を受けていないときは取り調べが終わり次第、検察官が起訴・不起訴処分の判断を行います。
● 刑事裁判
起訴処分が下された場合は刑事裁判へと移行します。事後強盗罪によって人を死傷させてしまった場合は裁判員裁判により、刑事裁判が行われます。
なお、不起訴処分となれば身柄を解放されます。
6、事後強盗罪の示談は難しいのか?
事後強盗罪は窃盗を犯したのみならず、暴行や脅迫を加えて人を死傷させる危険性がある重罪です。検察官による勾留請求も高い確率で認められてしまいます。
ただし、不起訴処分となれば裁判になることはありませんし、仮に起訴されても、情状酌量の余地があれば減刑されたうえで執行猶予がつく可能性も残されています。
そのために重要なのは被害者との示談です。
示談の成立は、検察官による起訴・不起訴処分の決定や、裁判官の量刑判断に一定の影響をおよぼしますので、早急に示談交渉に臨む必要があります。
ただし、事後強盗罪の被害者は、暴行や脅迫を受けたことで相当の恐怖心を抱いたことでしょう。そのため、処罰感情も強くなると予想され、示談の成立には極めて高いハードルが存在します。また、警察が加害者に直接、被害者の個人情報を伝えることはありません。
したがって、たとえ加害者が示談交渉を希望したとしても、そもそも被害者の連絡先を知ることができないため、示談交渉ができません。被害者が知り合いであり連絡が取れる状態であっても、拒否されるおそれは高く、連絡を取ること自体がさらなる恐怖心を抱かせてしまうなど、事態の悪化につながる可能性が高いと考えられます。
これを避けるためには、刑事事件の経験が豊富な弁護士へ委ねることが最善の方法です。弁護士であれば、被害者の連絡先を入手できる可能性があるだけではなく、被害者心情に配慮しながら適切に示談を進めることが可能です。
また、そもそも暴行・脅迫をしていないとして、単独の窃盗罪を主張する、犯行を抑圧するに足りる暴行・脅迫を加えていないとして、窃盗罪と傷害罪の併合罪などを主張できる可能性がある場合は、警察や検察への働きかけや、裁判での主張など、適切な弁護活動を行うことにより、事後強盗罪として重い罪を問われることを回避できる可能性があります。
いずれの場合も弁護士の力が必要不可欠です。速やかに相談することが望ましいでしょう。
7、まとめ
今回は事後強盗罪について、犯罪の成立要件や刑罰などを中心に解説しました。
窃盗したのち、逃走の際に動揺し、暴行を加えてしまうケースは珍しくありません。事後強盗罪と認められれば、厳しい罰を受けることになるでしょう。もし窃盗後に暴行してしまったら、速やかに弁護士へ相談し、しかるべき対応を依頼することをおすすめします。
ご家族が事後強盗罪の容疑で逮捕されてしまった方はもちろん、ご自身の行為が事後強盗罪にあたるのではないかと不安に感じている方は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスへ早急にご連絡ください。重すぎる罪に問われないよう、弁護士が力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています