【前編】一気飲みで死亡事故が発生するリスクも! 飲酒を強要したらどんな罪になる?

2019年03月01日
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【前編】一気飲みで死亡事故が発生するリスクも! 飲酒を強要したらどんな罪になる?

日本において、年末年始やお花見の季節などはお酒を飲む機会が増える時期です。しかし、そんな楽しい交流の場であるはずのお酒の席で、お酒の弱い方が一気飲みを強要されたり、アルコール依存症気味になっている方などが一気飲みしたりして死亡する事故がたびたび発生しています。

特に、大学生の一気飲みによる事件・事故が全国で相次いでいることから、宮城県内にある大学では「未成年者には、絶対にアルコールを飲ませない」「『イッキ飲み』、『飲酒の強要』などの危険な飲酒は絶対にしない」など飲酒に関する注意を呼び掛けています。本記事では、死亡事故にもつながりかねない一気飲みを強要するとどのような責任が問われるのかについて解説します。

1、一気飲みを強要したらどんな罪に問われる可能性がある?

一気飲みをすると血中のアルコール濃度が急上昇し、急性中毒症状を引き起こしやすくなります。摂取したアルコールの量が致死量に達すると死に至る危険もあります。そのため、軽い気持ちでやってしまったことが犯罪につながることもあるのです。ここではまず、一気飲みを強要した場合にどのような罪に問われる可能性があるのかについて解説します。

  1. (1)強要罪

    暴行や脅迫をして他人に無理やり一気飲みをさせた場合、強要罪が成立する可能性があります。たとえば上司や先輩が、部下や上司に対して「俺の注いだ酒が飲めないのか」「飲まないとクビだぞ」などと言って一気飲みをさせる行為が罪に問われる可能性があります。強要罪の法定刑は3年以下の懲役刑しかなく、罰金刑はありません。

  2. (2)傷害罪

    強要はせずとも、飲まなければならないような雰囲気を作り出して一気飲みをさせ、その結果急性アルコール中毒を起こさせた場合は、傷害罪が成立することがあります。傷害罪になれば、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

    また、このときに一気飲みを止めなかったまわりの方にも、共犯や幇助犯(ほうじょはん)としての罪が成立する可能性があります。

  3. (3)保護責任者遺棄致死罪

    泥酔者をそのまま放置して死亡させた場合は、保護責任者遺棄致死罪が成立することがあります。たとえば、酔いつぶれた人が出たときに救急車を呼ぶ、病院に連れていくなどの必要な措置を取らずに放置していて、まわりが気づいたときには息をしていなかった場合、「保護する責任のある者」として罪に問われる可能性がありえます。保護責任者遺棄致死罪に該当すれば、3年以上20年以下の懲役に処せられます。

  4. (4)傷害致死罪・過失致死罪

    一気飲みをさせられた方が急性アルコール中毒になり、その後死亡した場合、傷害致死罪もしくは過失致死罪が成立する可能性があります。たとえば、飲まなければならない雰囲気を作って一気飲みをさせた結果死亡させてしまった場合は傷害致死罪、結果を意図せずとも飲酒させた結果死亡させてしまった場合は過失致死罪に該当することがあります。傷害致死罪の場合は3年以上の有期懲役、過失致死罪の場合は50万円以下の罰金となります。

  5. (5)傷害現場助勢罪

    傷害事件が起こっている現場で、被害者を助けようとせず野次馬としてはやし立ててしまったときには、傷害現場助勢罪が成立する場合があります。たとえば、お酒の席でイッキコールをかけられている人に対して、同じように「イッキ、イッキ」とコールをかけたり、「もっと飲め!」とあおったりした場合がこれにあたることがあります。この罪が成立する場合は、1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料に処せられます。

2、一気飲みで不法行為責任や使用者責任が問われることも

一気飲みを強要すれば、強要した本人が民事上の不法行為責任に問われることがあります。また、一気飲みを強要する行為が会社の飲み会で行われた場合は、一気飲みをさせた本人のみならず会社自体も使用者として連帯責任を負うことがありますので注意が必要です。

  1. (1)職場などでの一気飲み強要

    会社の上司がお酒の弱い部下に飲酒を強要する、一気飲みをさせるなどの行為は、民事上の責任に問われる可能性もあります。特に、上司と部下、先輩と後輩など上下関係のあるところで起きることも多いので、部下や後輩の立場にあたる方はアルコールに弱い体質であることや飲めないことを事前に伝えておくことが必要です。上司や先輩の立場にあたる方も、飲めない部下や後輩に対して無理にお酒をすすめないよう自制することが必要です。

  2. (2)不法行為責任により損害賠償や慰謝料請求される可能性

    一気飲みをさせたことで相手が急性アルコール中毒になった場合、逮捕されて刑罰に処されるまではいかなくとも、民法上の不法行為責任が生じることがあります。たとえば、相手が急性アルコール中毒になって入院治療を受けなければならなくなった場合は、治療費や入院費用が発生します。加害者側にその費用を負担させるために、損害賠償請求をされる可能性があります。それだけでなく、急性アルコール中毒になって精神的・肉体的苦痛を受けたとして、慰謝料も同時に請求されるでしょう。

  3. (3)職場で一気飲みを強要した場合は使用者責任が生じることがある

    職場の飲み会で上司がお酒の弱い部下に無理やりお酒を飲ませようとした場合は、飲ませた本人だけでなく、会社側に使用者責任が生じたり安全配慮義務違反に問われたりすることがあります。上司の命令だからと言って、勤務時間外に部下がその命令に従う義務はありません。上司の指揮命令下にある取引先との接待の席であっても、お酒が飲めない方が無理に飲酒する必要はないでしょう。
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