【前編】つい魔が差して置き引きをしてしまった! 逮捕されたらどんな罪になるのか弁護士が解説
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参議院事務局職員が、さいたま市内にあるJR京浜東北線の駅で電車の停止中に、網棚にあった乗客のかばんを置き引きしたとして逮捕されました。その後不起訴処分が確定していますが、置き引きをしてしまって逮捕された場合、どのような罪になる可能性があるのでしょうか。逮捕されたときの流れや弁護士に相談するメリットと併せて解説します。
1、置き引きとは
カフェやレストランで席取りのために置いてあるかばんを盗んだり、誰かが置き忘れたものをそのまま自分のものにしてしまったりする行為は、「置き引き」になります。置き引きをすると、刑法上の犯罪が成立し、処罰を受ける可能性もゼロではありません。ここでは、置き引きでよくある手口や全国の置き引きの発生状況などについて解説します。
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(1)置き引きの手口とは
置き引きは、トイレの個室や銀行のATMなどのように、人気の少ないところで起きやすいと考えがちです。しかし、スーパーやカフェなどのお店やお祭り・イベント会場、観光地など、人が集まる場所や警戒心のゆるみやすい場所でも発生します。
たとえば、カフェで席を取るためにかばんをテーブルの上に置いたが席に戻ったらかばんがなくなっている、銀行のATMでお金を引き出してATMに置いたままその場を離れてしまい、戻ったらお金がなくなっているなどがあります。 -
(2)置き引きの発生状況
平成29年度に法務省が発表した犯罪白書によれば、置き引きは平成14年の7万6170件をピークに年々右肩下がりになっており、平成28年度は3万3754件とピーク時の44%まで減少しています。
(参考:法務省「平成29年版 犯罪白書」)
年々減少傾向にあるのは、飲食店やスーパーなどでは、「置き引きに注意しましょう」とポスターで客に呼びかけるなど、啓発活動が継続しているからだと推測されます。しかし、置き引きは依然としてまだまだ全国的に非常に多く発生していることが、このデータから読み取れると言えるでしょう。 -
(3)「うっかり持ち帰ってしまった」と言う場合も置き引きになる
他人が置いているものを意図的にだまって持っていくことは、もちろん置き引きになります。しかし、他人の忘れ物をあとでお店の人や警察に届けようとしていたのに、そのことを忘れて持ち帰ってしまった場合も、置き引きになる可能性があります。その場合、警察から任意で事情を聴かれることも考えられますので、他人のものを拾得してもうっかり持ち帰ってしまわないよう注意が必要です。
2、置き引きで問われるのは窃盗罪?横領罪?
刑法には、「置き引き罪」という罪はありません。置き引きは「人の物を盗む行為」として窃盗罪が適用されることもあります。そのほかにも、「他人のものを自分のものであるように利用したり処分したりする」とみなして横領罪が成立することもあります。
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(1)窃盗罪
置き引きをすると、窃盗罪が成立することがあります。窃盗とは、他人の物を取ることであり、置き引き以外にも、スリやひったくり、車上荒らしなどもこれに該当します。窃盗罪と認められると、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。しかし、過去10年間に3回以上、窃盗罪または窃盗未遂罪で6ヶ月以上の懲役刑を受けたことのある場合は「常習累犯窃盗罪」で3年以上の有期懲役となり、通常の窃盗罪より重い刑罰が課される可能性があります。
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(2)遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)
遺失物横領罪とは、他人の占有を離れたものを不法に領得する行為のことを指します。つまり、他人が置き忘れていった物や落とし物をだまって自分のものであるかのように使ったり処分したりすることを言います。遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)が成立すると、1年以下の懲役または10万円以下の罰金に処せられると考えられます。
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(3)窃盗罪と遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)の違いとは
窃盗罪と遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)は、「他人の物を自分のものにする」という点では共通しています。しかし、刑罰の重さは全く異なるため、被疑者にとってどちらの罪にあてはまるのかは、非常に重要な問題と言えるでしょう。
窃盗罪と遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)の違いは、簡単に言うと、その「物」を他者が事実上管理・支配しているかどうかという点にあります。「物」を他者が管理・支配していると言える場合は窃盗罪、言えない場合は遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)にあたる可能性があります。
たとえば、カフェにいる客がちょっとトイレに立つときにテーブルに置いた財布を持ち去った場合、この財布に対するその客の管理・支配は依然として及んでいる状態として、窃盗罪と言われる場合があるでしょう。一方、銀行のATMで引き出したお金を置き忘れてその場を離れてしまい、10分後に気づいて戻ったが誰かに持ち去られたあとだった、という場合は、管理・支配が及んでいないとして遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)が成立することがあるでしょう。 -
(4)窃盗罪と遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)の違いとは
<窃盗罪が成立した事例>
バスを待つ行列に並んでいた被害者が、行列が異動した際に近くの台の上にカメラを置いていたことを忘れてその場を離れ、引き返すまでの間にカメラが被疑者に持ち去られた事件がありました。裁判所は、カメラを置いた場所と被害者が気づいて引き返そうとした地点がおよそ19.58メートルにすぎないこと、行列の移動開始時から被害者がカメラを置いた場所に引き返すまでの時間が約5分だったことから、カメラが被害者の支配下にあったと判断。窃盗罪の成立を認めることとなりました。
(最二小判昭和32年11月8日刑集11巻12号3061頁)
<占有離脱物横領罪が成立した事例>
被害者が大型スーパーの6階のベンチに財布を置き忘れて地下1階に行ってしまい、約10分後に引き返したものの、財布が被疑者により不法に持ち去られた事件があります。この事件で裁判所は、公衆が自由に出入りできる場所で起こったこと、財布を忘れたことに気づかず6階から地下1階に異動したこと、約10分も財布が放置された状態であったことなどから、「(財布は)被害者の占有下にあったものとは認め難」いと判断。本件で問題となった財布は遺失物にあたるとして、占有離脱物横領罪が成立するとの判決が言い渡されました。
(東京高判平成3年4月1日判時1400号28頁)>後編はこちら
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