殺人予告で問われる罪とは? 発覚するまでの流れや逮捕後の刑事手続きを解説

2024年10月30日
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殺人予告で問われる罪とは? 発覚するまでの流れや逮捕後の刑事手続きを解説

インターネットを悪用した犯罪予告は後を絶ちません。

令和3年2月には、人気お笑いコンビに対する殺人予告を投稿した男が逮捕されて大々的に報道されました。また、宮城県内でも、令和2年10月に仙台市を含む9市の公共施設を爆破するとの予告メールが届き、小中学校が下校時間を繰り上げるなどの対策に追われた事例があります。

予告をした人にとってはストレスのはけ口や冗談のつもりで、実際には危害を加えるつもりがなかったとしても、殺人予告や犯罪予告をすれば罪となる可能性があります。

本コラムでは、殺人予告がどのような罪に問われるのか、いたずらや冗談のつもりで実際に犯行に至っていない場合も罪に問われるのかについて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。


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1、殺人予告を罰する犯罪

直接文書を送りつけたり電話をかけたりする方法に限らず、インターネット上での投稿などによる方法でも特定・不特定の人物の殺害をほのめかす殺人予告をすれば犯罪になります。
殺人予告を罰する代表的な犯罪と成立要件・罰則を解説します。

  1. (1)脅迫罪(刑法222条)

    脅迫罪は、生命・身体・自由・名誉・財産に対する害悪の告知した場合に成立する犯罪です。
    対象者本人だけでなく、対象者の親族に向けられた脅迫も罰せられるため、特定人物について殺害を予告した場合はもちろん、特定人物の配偶者や子どもについて殺害を予告した場合にも脅迫罪の対象となります。

    脅迫罪の法定刑は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。

  2. (2)偽計業務妨害罪(刑法233条)

    偽計業務妨害罪は、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の業務を妨害した場合に成立する犯罪です。
    殺人をするという虚偽の情報を不特定または多数の人に知れ渡るようにする行為は、「虚偽の風説を流布」すること、または「偽計を用いること」に該当し、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
    たとえば、虚偽の殺人予告によって、予告の相手方や警察および関係施設が警戒のために通常業務を妨害されたといったケースがこれにあたります。

    偽計業務妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

  3. (3)威力業務妨害罪(刑法234条)

    威力業務妨害罪は、威力を用いて人の業務を妨害した場合に成立します。
    殺人予告が罰せられる場合の多くに適用される犯罪が、威力業務妨害罪です

    ここでいう「威力」とは、相手の意思を制圧するに足りる勢力を示すことを指し、暴力等の有形的な方法に限られません。たとえば、殺人予告をすることで他人の業務を妨害したケースのほか、警戒のため警察・関係施設が警備強化などを強いられたケースで「威力」による業務妨害が認められます。

    威力業務妨害罪の法定刑は、偽計業務妨害罪と同じく3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

    偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪のどちらが適用されるかは、外見的にみて偽計によるものか、威力を用いたものかを判断するのが一般的とされています。ただし、どちらが適用された場合でも法定刑は同じであり、具体的に科せられる刑罰の軽重は適用される罪名ではなく行為の悪質性等によって決まるため、どちらの罪にあたるとしても厳しい刑罰が科せられる可能性があります。

  4. (4)損害賠償責任も発生する可能性がある

    また、他人に対して殺害予告をした場合には、民事責任として損害賠償を請求される可能性もあります。

    他人に対する殺害予告は、他人の生命・身体に対する害悪の告知であるため、民法上の不法行為責任を負う可能性があるのです。不法行為とは、「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した」場合に成立する被害者への損害賠償責任です(民法第709条)。
    そして、殺害予告の場合には、被害者に対して精神的な負担・苦痛を生じさせるため、これを補償するために慰謝料を請求されるおそれがあります。

    さらに、業務を妨害して企業の業務を妨害した場合には、本来得られたはずの営業利益との差額(営業損害)を損害として賠償請求されるリスクもあります。殺害予告によって、企業の運営を阻害した場合には、営業損害も高額に及ぶ可能性があります。

2、殺害予告の逮捕の判断基準

いたずらや冗談で殺害予告をしても逮捕されるのでしょうか。判断基準について解説します。

  1. (1)いたずら・冗談でも処罰の対象になる

    殺人予告をはじめとした犯罪予告は、ストレスを発散したい、注目を集めたいといったいたずら心や、対象者を怖がらせたい、驚かせてやりたいといった冗談のつもりで行うケースがほとんどでしょう。

    平成20年6月に発生した、通称「秋葉原通り魔事件」のように、インターネット掲示板で殺人予告をしたうえで実際に無差別殺人を行った事例はあるものの、このようなケースは多くありません。

    では、殺人予告をしても実行しなければ処罰を受けないのかといえば、そうではありません。
    殺人予告をしたこと自体が脅迫罪・偽計業務妨害罪・威力業務妨害罪に該当するため、その後に実際に殺人を実行したか否かは同罪の問題ではなく、殺人罪の問題となります。

    加えて、殺人予告をしたが、実際に対象となる業務に支障はなかった場合はどうでしょうか。業務妨害罪は一般に、妨害の結果を発生させるおそれのある行為について成立し、現実に業務遂行が妨害されたか否かは成立に関係がないと解されています
    たとえば、百貨店に爆弾を仕掛けたと予告した場合、この予告内容自体が百貨店の業務を妨害する「おそれ」のあるため、業務妨害罪が成立するでしょう。実際に百貨店の業務が妨害されたか否かは、量刑の問題となります。

  2. (2)殺害予告の具体性によって可能性は異なる

    殺害予告の具体性によって、逮捕される可能性は異なります。

    「どこかで誰かを殺す」という曖昧な殺害予告よりも、殺害の対象・日時・場所・方法などが具体的に特定されている方が、予告されている危険が実際に現実化する可能性が高いと考えられます。
    特に、殺害の対象者が名指しされていたり、場所や日時などが明示されたりする場合には、警察が出動して警戒にあたることがあるため、重大事件として被疑者の捜査が行われる可能性があります。

    他方、具体性に欠ける殺害予告であっても、場所や日時を明示した無差別殺人予告などの場合には、一般市民に与える不安が大きいため、警戒の必要性が高いと考えられます。また、爆発物や毒ガスなど多数人の犠牲が出るおそれがある凶器・兵器の利用を予告する場合にも、警察が動員されて警戒する必要性が高いとして、捜査機関をあげて被疑者の特定が行われる可能性があります。

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3、殺人予告が発覚する流れ

殺人予告が発覚するのは、主に3つのルートからです。

  1. (1)情報を発見した一般人からの通報

    インターネット掲示板やSNSによる殺人予告の多くは、情報を閲覧した一般のユーザーが警察に通報することによって発覚しています。
    警察は、殺人予告をはじめとした犯罪予告について「発見次第、直ちに通報を」と広報しており、一般的なネットユーザーには殺人予告を見逃さないというマナーが浸透しているといえるでしょう。

  2. (2)サイバーパトロールによる発覚

    各都道府県警察には、インターネット犯罪を捜査する部門が存在し、その部門がサイバーパトロールを行っています。
    インターネット掲示板やSNSの投稿はサイバーパトロールの対象となっているため、警察がいち早く察知し犯行が発覚する可能性もあるでしょう。

  3. (3)被害者からの相談による発覚

    特定の人物を名指しするなどした場合、本人などがその投稿に気づき警察に相談する可能性があります。事件性があると警察が判断した場合、解析によって発信元が特定され、犯行が発覚するケースも考えられます。

4、逮捕された場合の刑事手続きの流れ

先の秋葉原通り魔事件のように実際に犯罪が起きてしまった過去を踏まえ、警察が「ただの冗談だろう」「実行するはずがない」と軽視することなく、被疑者の捜索や逮捕に踏み切る可能性は高いといえます。

殺人予告を認知した警察は、被疑者を逮捕する必要性があると判断した場合には、被疑者の氏名や住所などの情報を特定したうえで、裁判官に対し、逮捕状を請求し、裁判官が発付した逮捕状に基づいて逮捕に踏み切ります。

逮捕されるかどうか、すなわち、裁判官の逮捕状が発布されるかどうかは、逮捕の理由と必要性があるかどうかによって判断されます
①逮捕の理由があるとは、逮捕される対象となっている被疑者がその犯罪を行ったと疑うに足りる相当の理由がある場合をいい(刑事訴訟法199条1項)、②逮捕の必要性があるとは、被疑者が逃亡し又は証拠を隠滅すると疑うに足りる相当の理由がある場合をいいます。

現在の実務上裁判官は、警察官から逮捕状の請求があった場合、残念ながらそのまま請求を認めて逮捕状を発布するケースが比較的多いように思われます。したがって、結果的に警察が逮捕状の請求に踏み切るかどうかが逮捕されるかどうかの分水嶺と言わざるを得ません。
警察が逮捕にまで踏み切るのは、被疑者が殺人予告を行った犯人であると特定できる根拠となる証拠がそろっているからこそ、被疑者に対する逮捕状の請求ができるわけですから、①の逮捕の理由があるかというよりかは、②の逮捕の必要性があるかどうかで逮捕するかどうかを決めていると思います。被疑者が警察の任意の取り調べに協力する様子がなかったり、被疑者が被害者に接触する(これは方法を問いません。)可能性が高い場合には、逃亡や証拠隠滅を疑うに足りる相当の理由があると判断されやすくなる傾向にあります。

では警察に逮捕された場合、その後はどのような刑事手続きを経ることになるのでしょうか。

  1. (1)逮捕による72時間の身柄拘束

    逮捕されると、その時点で直ちに身柄拘束を受けて自由な行動が大幅に制限されます。自宅へ帰ることも、会社や学校へと通うことも許されません。

    警察署に連行されると、まずは逮捕事実の認否を確認する弁解録取が行われたうえで、警察署にある留置場に身柄を置かれ、取り調べが実施されます。逮捕の段階において警察に与えられている時間は48時間に限られており、逮捕から48時間が経過するまでに被疑者の身柄は検察官へと引き渡されます。
    この手続きを「送致」といい、新聞やニュースなどでは「送検」とも呼ばれています。

    送致を受けた検察官は、さらに被疑者を取り調べたうえで24時間以内に勾留請求を行うか否かを判断します。

    勾留とは、引き続き被疑者の身柄を拘束したうえで捜査を継続することで、検察官は、勾留が必要だと判断した場合には裁判官に勾留を請求し、身柄拘束の延長を求めます。検察庁統計年報によると、令和4年における刑法犯全体の勾留請求率は93.9%です。非常に高い割合で勾留請求を受けるものと考えておくべきでしょう

  2. (2)勾留による最長20日間の身柄拘束

    裁判官が勾留を認めるかどうかについても、残念ながら逮捕の場合と同様に、勾留請求を受けた裁判官は、検察官の勾留請求をそのまま認める場合が多い傾向にあると言わざるを得ません。

    検察官による勾留請求が裁判官によって認められると、初回は10日間を上限とした身柄拘束を受けます。勾留を受けた被疑者の身柄は警察のもとへと戻され、警察署の留置場に身柄を置かれたうえで検察官による指揮のもと、捜査や取り調べが続きます。
    初回の勾留期限を迎えるまでに起訴、不起訴の判断がつかなかった場合は勾留延長請求によってさらに10日間まで勾留が延長されます。

    勾留の上限は10日間+10日間の20日間なので、逮捕による警察段階の48時間と検察官段階の24時間を合計すると、逮捕から最長23日間の身柄拘束を受ける可能性があります

  3. (3)起訴されると刑事裁判で審理される

    勾留が満期を迎える日までに、検察官は被疑者について「起訴」または「不起訴」を決定します。

    起訴されると、それまでは被疑者だった立場が被告人へと変わり、保釈されない限り、刑事裁判が終わるまで、そのまま身柄拘束が継続してしまいます。起訴されてから裁判が開かれるまでは、裁判所の事件数次第になりますが、おおよそ2~3か月程度かかることになります。起訴される前と比較すると、かなり長期間の身柄拘束が続くことになりますから、起訴されたら弁護人によって速やかに保釈請求を行うことが早期の身柄解放には欠かせません。

    その後開かれる刑事裁判によって犯罪事実の有無や量刑を審理されることになります。インターネット上での殺人予告については、殺人予告の投稿がインターネット上に残ってしまい、完全に消去しきることはほぼ不可能であるため、殺人予告をした事実が証拠から認められやすく、起訴された場合には有罪判決が下される可能性は高いでしょう

    他方で、検察官が不起訴と判断した場合は、刑事裁判は開かれず被疑者は釈放されます。刑事裁判による審理を受けないため、刑罰が下されることも、前科がつくこともありません。

5、まとめ

いたずらや冗談のつもりでも、殺人予告や犯罪予告をすれば、実際に殺人を実行するつもりがなくても犯罪が成立するため、逮捕・勾留による身柄拘束を受けたうえで刑罰が科せられます。

インターネットなどで殺人予告をしてしまった場合は、直ちに弁護士に相談しましょう。大規模な事件になってしまう前に弁護士のサポートを受けて対象者への謝罪や警察への自首といった対策を講じれば、逮捕の回避や検察官による不起訴処分の獲得が期待できます。

殺人予告をはじめとした刑事事件の解決は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスにお任せください。実績豊富な弁護士が、逮捕の回避や逮捕後の早期釈放、不起訴処分の獲得を目指して弁護活動に全力を尽くします。

殺人予告のように生命の危険がある事件では非常に速いスピードで捜査が進むため、相談に戸惑っている間に被疑者として特定され、逮捕されてしまうおそれがあります。刑事事件は、初動がその後の流れを左右するといっても過言ではありません。ぜひ、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスへご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています