虚偽の通報は処罰される? 問われる可能性がある罰則について解説

2020年06月18日
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虚偽の通報は処罰される? 問われる可能性がある罰則について解説

令和元年5月、仙台市内に住む男性が、何者かにアイスピックで胸を刺されて怪我をする事件が発生しました。当初、警察は傷害事件として捜査をしていましたが、後日になって被害者の男性の自作自演だったことが判明し、軽犯罪法違反の容疑で仙台区検へ書類送検されたと報道されました。仕事の業績不振に悩んでいた末の、自作自演劇だったようです。

ストレス解消やイタズラ半分で虚偽の通報をすると、自分自身が罰を受ける立場になってしまうことがあります。仙台市の事件のように、犯罪者として送検されてしまうケースもあるので、厳に慎むべき行為です。

本コラムでは、虚偽通報をおこなった場合、どのような犯罪に該当して処罰を受けるのか、虚偽通報をしてしまった場合の対処法はあるのかなどを、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、虚偽の通報をした場合は「虚偽申告罪」になる?

警察などの公務員に虚偽の通報をした場合、犯罪行為となり罰せられることがあります。
これを一般的に「虚偽申告罪」と呼びますが、実は刑法には虚偽申告罪という犯罪は規定されていません。
虚偽申告は下記の通り、軽犯罪法第1条に規定されている行為のひとつです。

【軽犯罪法第1条16号】
虚構の犯罪または災害の事実を公務員に申し出た者



  1. (1)「虚偽申告」となる行為

    「虚構の犯罪」とは、事実がないにもかかわらず「何者かに刺された」「人を殺してしまった」などの通報をすることです。
    また「災害」、たとえば消防署に「火事が起きています」と119番通報することも、これに含まれるでしょう。

    「申し出る」とは、110番や119番など電話による通報のほか、直接、警察や消防署、海上保安庁などの施設に出向いて申告する行為が該当します。

    なお、軽犯罪法第1条に定められた処罰行為は「国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」とされています。
    警察官を相手に「○○さんは人を殺したことがあるらしい」などといった風評を伝えたり、定かではないが「煙が見えるので火事ではないか」という臆測めいた通報をしたりといったケースまでもが、ただちに処罰の対象になるわけではありません。

  2. (2)軽犯罪法違反に該当した場合の罰則

    虚偽申告が、軽犯罪法違反に該当した場合は「拘留または科料」という刑罰が科せられます。

    拘留とは30日未満の身柄拘束をおこなう自由刑、科料とは1万円未満の金銭刑を指すため、他の犯罪に対する刑罰と比べると軽微なものといえます。
    ただし、軽微といえども拘留や科料は刑罰ですから、確定すれば前科がつきます。
    決して軽んじるべきものではありません。

2、虚偽告訴罪とは?

虚偽通報が、軽犯罪法違反ではなく、刑法に規定されている「虚偽告訴罪」に問われた場合、軽犯罪法違反よりも重たい処罰を受けることになります。

  1. (1)虚偽告訴罪の要件

    虚偽告訴罪は、刑法第172条に規定されており、「人に刑事または懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者」が該当します。

    告訴とは、一般的には、被害者が捜査機関に対して特定の犯人の処罰を求める行為で告訴状の受理をもってなさると理解されています。

    ところが、虚偽告訴罪における告訴は、被害者ではない者が犯人の処罰を求める「告発」や、犯罪被害の発生を申告する「被害届」の提出も含みます。

    虚偽告訴罪が成立するには、単に犯罪の発生を申告するだけでなく「人に、刑事または懲戒の処分を受けさせる目的」が必要です。つまり、特定の人物を陥れる目的で、虚偽の申告をおこなった場合、虚偽告訴罪に問われます。

    一方で、真に相手が罪を犯したものと信じて告訴などをした場合には、人を陥れる故意も、虚偽である認識もなかったことになるため、虚偽告訴罪にはあたらないでしょう。

  2. (2)虚偽告訴罪の罰則

    虚偽告訴罪に問われた場合、「3か月以上10年以下の懲役刑」が科せられます。
    罰金刑の規定がないため、初犯でも実刑判決が下されて刑務所に収監されるおそれがあります。

    ただし、刑法第173条において「申告した事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分がおこなわれる前に自白したときは、減刑または免除することができる」と定められています。
    つまり、虚偽告訴にあたる行為によって相手が無実の罪で罰されてしまう前に「虚偽だった」と自白して反省・謝罪すれば、刑罰が減免されることがあると考えられます。

    もし虚偽告訴にあたる行為をして、実際に捜査が始まってしまったら、早めに虚偽であったことを自白することも選択肢のひとつです。

3、虚偽の通報が「偽計業務妨害罪」にあたるケース

虚偽通報の様態によっては、刑法233条に規定されている「偽計業務妨害罪」として処罰される可能性もあります。
実際に、令和元年8月には、兵庫県で1日に最高202回、5か月間で合計1600回ものイタズラの通報をした女性が、偽計業務妨害罪で逮捕されています。

偽計業務妨害罪の罰則は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
軽犯罪法違反の「拘留または科料」と比べるとかなり重たい刑罰になり、業務妨害の程度や事案の悪質性が高ければ実刑判決を受ける可能性も高くなります。

4、虚偽の通報をしてしまった場合は弁護士に相談を

虚偽の通報をした場合、軽犯罪法違反、刑法の虚偽告訴罪、偽計業務妨害罪などに該当すれば、処罰を受ける可能性が生じます。

ちょっとしたイタズラ心だった、ストレスを解消するためにやった、特定の相手に恨みがあり陥れるつもりだったなど、さまざまな理由があるはずですが、どのような動機であっても犯罪であることは間違いありません。

もし、虚偽の通報をしてしまった場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、虚偽通報の内容や程度によって、どの犯罪に該当するのかを過去の判例などに照らしながら判断してもらえます。
個人で過去のニュースなどを調べながら「私のケースはこの事例と似ている」と判断してしまうのは早計です。自分では処罰が軽い軽犯罪法違反だと思っていても、実際には処罰が重たい偽計業務妨害罪に該当する事案であれば、後日になって逮捕されるおそれがあります。

また、弁護士に相談して「反省し、素直に出頭しよう」と考えるのであれば、弁護士に付き添いを依頼して出頭することも可能です。

虚偽通報は、個人の権利を侵害するだけではなく、通報を受けた警察や消防署などの公務所などの利益も侵害しうるものです。慰謝料を提示して示談をするという対処法は、有効ではないこともあります。
虚偽通報を受けた警察がその後も捜査を継続していれば、早めに虚偽であったことを申告しなければ、無意味に人員が割かれ続ける結果となり、処罰が重たくなるおそれがあります。

弁護士の付き添いがあれば、不当な扱いを受けるおそれも減ることがあります。また、出頭する前に、取り調べに対するアドバイスをもらえるため、おちついて対処することができるのは、大きなメリットといえます。

5、まとめ

以前は、イタズラ通報に対して警察が厳しい対処をすることはまれでした。
しかし、ストレス解消やインターネットを使用した犯罪予告などによって「虚偽通報」そのものが多様化してしまったため、厳しい処罰が下されるケースも目立ってきています。
虚偽通報をしてしまったという方は、重きに処断すべきだ、という厳しい判断が下されてしまう前に、素直に虚偽だったことを伝えることも選択肢のひとつです。

虚偽通報をしてしまったことで逮捕されるのではと不安に感じている方や、出頭を考えている方は、ひとりで判断せず、まずはベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでご相談ください。
ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスには、刑事事件の解決実績を豊富に持つ弁護士が在籍しています。しっかりと状況を伺ったうえで、出頭のための準備、付き添いなど、全力でサポートします。

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