歩きスマホで怪我をさせてしまった! 刑事責任に問われる可能性は?

2020年01月17日
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歩きスマホで怪我をさせてしまった! 刑事責任に問われる可能性は?

仙台市のホームページでは、防犯・交通安全のコンテンツとして「歩きスマホはやめましょう」というページを公開しています。
自身が怪我をする、周囲の人や自転車に接触する、犯罪被害に遭うスキをつくってしまうなど、多くの問題を抱えている歩きスマホについて注意喚起していますが、依然として街頭では歩きスマホが横行しているのが現状です。

近年、スマホは急激に普及し、単なる携帯電話ではなくマルチツールとして手放せない存在となりました。一方で、スマホ使用のマナーが問題視されるようになり、歩きスマホによる事故もニュースなどで注目を集めています。

もし、歩きスマホで歩行者などにぶつかってしまい、相手に怪我をさせてしまった場合、どのような責任を負うことになるのでしょうか?
刑事・民事の両面から、歩きスマホによる事故を起こしてしまった場合の責任について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、歩きスマホの事故、発生件数が増加中

ニュースなどで注目される機会が増えた「歩きスマホ」。
電話やメールなどの使用だけでなく、ゲームや漫画、音楽など、スマホがエンターテインメントの重要なツールとなった現代では、何気なく街を歩く間もスマホが手放せなくなりました。
しかし、それが故に歩きスマホをする人が増え、トラブルや事故も発生しています。実際、歩きスマホが原因の事故は、どのくらい発生しているのでしょうか? ここでは、東京消防庁が公開しているデータをもとに歩きスマホの事故件数をみていきましょう。

  1. (1)5年間で199人が救急搬送

    東京消防庁の管内では、平成25~29年の5年間で、歩行中または自転車の運転中にスマホを扱って事故を起こし救急搬送に至った負傷者は、合計で199人にのぼります。
    最多となった平成28年には1年間で58人が救急搬送されており、救急搬送に至らないような負傷者も含めると、負傷者数はさらに増えると考えられます。

  2. (2)「ぶつかる」事故が最多

    歩きスマホによる事故の内訳は、次のとおりです。

    • ぶつかる…88人(44.2%)
    • ころぶ…62人(31.2%)
    • 落ちる…44人(22.1%)
    • その他…4人(2.0%)
    • 不明…1人(0.5%)

    もっとも多い事故は「ぶつかる」というケースで、ころぶ・落ちるという単独事故ではなく相手が存在する事故が最多という点は注目すべきでしょう。

  3. (3)負傷者の2%が重症・重篤

    歩きスマホ事故で負傷した人の程度は、次のとおりです。

    • 軽症…156人(78.4%)
    • 中等症…39人(19.6%)
    • 重症…3人(1.5%)
    • 重篤…1人(0.5%)

    ほとんどの事故が軽症または入院を要する程度の中等症ですが、全体の2%は生命の危険が生じる重症・重篤に陥っています。

2、歩きスマホは法律で禁止されている?

社会問題化している歩きスマホですが、歩きスマホそのものを取り締まる法律は存在するのでしょうか?

  1. (1)歩行中のスマホ操作を取り締まる法律はない

    前述したとおり、歩きスマホによって相手を死傷させた場合は刑法によって罰を受けることがあります。
    ところが「歩行中にスマホを操作してはいけない」「歩行中はスマホの画面を注視してはいけない」といった、歩きスマホそのものを取り締まる直接の法律はいまのところ存在しません。

    禁止されていないから問題ない、というわけではありません。安易な気持ちで歩きスマホをしたことで、人生を変えてしまうほどの事故につながる可能性もあるのです。歩きスマホは「禁止されている」のではなく「事故が起きたときに重大な結果を招く」と考えておくべきでしょう。

  2. (2)海外では条例が制定されている地域も

    日本では歩きスマホを禁止する法律はありませんが、海外ではすでに歩きスマホそのものを禁止する動きが活発化しています。

    たとえば、アメリカ合衆国ニュージャージー州フォートリーでは、2012年に歩きスマホを禁止する条例が制定され、違反者には罰金85ドル、日本円にして約9000円の罰金が科せられます。
    観光地として有名なハワイ州ホノルルでは、初犯で35ドル(約4000円)、1年間で3回以上の違反を繰り返した場合は最高で99ドル(約1万2000円)の罰金が科せられます。

    日本でも歩きスマホの禁止を求める声が高まっているため、条例などで禁止される日がくるのも、そう遠くないのかもしれません。

3、歩きスマホで相手を怪我させてしまった! 刑事責任に問われるのか?

歩きスマホという行為そのものは、法律で直接禁止されていませんが、歩きスマホをした結果、相手を怪我させてしまった場合は、刑事責任を負うことになりえます。では、どのような刑事責任に問われる可能性があるのかをみていきましょう。

  1. (1)過失傷害罪

    刑法第209条は「過失により人を傷害した者」は過失傷害罪になる旨を規定しています。
    歩きスマホが原因で人を負傷させてしまうケースは、ほとんどの場合で故意に怪我をさせるような悪意のあるものではないでしょう。しかし、うっかりとした不注意で相手を負傷させた場合でも、刑法の規定によって処罰を受けます。

    過失傷害罪の法廷刑は30万円以下の罰金または科料です。
    懲役刑は規定されていないため、刑務所に収監されることはありませんが、たとえ少額の科料で済まされたとしても前科がついてしまいます。

  2. (2)過失致死罪

    刑法第210条は「過失により人を死亡させた者」について過失致死罪になる旨を規定しています。つまり、歩きスマホが原因で相手を死亡させた場合、たとえ故意がなくても刑罰を受けることになります。

    過失致死罪の刑罰は50万円以下の罰金です。
    故意による殺人罪と比べると、罰金刑で済まされるため非常に軽い刑罰であるように感じられますが、罰金刑であったとしても前科はつきます。その点も踏まえ、軽んじるべきではありません。

  3. (3)重過失致死傷罪

    歩きスマホで、なんらかの事故を起こしてしまった場合に重大な刑罰が下されるとすれば、刑法第211条の重過失致死傷罪です。
    結果の予見が極めて容易である、人が当然に払うべき注意を著しく欠いた結果、相手が死亡してしまった場合は重過失が認められるおそれがあります。歩く、自転車を運転するなどの行動は、前方や周囲に気をつけて事故防止に努めるのが当然なのに、前も見ずスマホを操作しているのは、不注意では済まされない危険行為だと評価される可能性があります。

    重過失致死傷罪に問われた場合、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科せられます。

4、歩きスマホの事故は、不法行為で民事責任を負う可能性もある

歩きスマホによる事故で怖いのは、刑事責任だけではありません。民事上の「不法行為」による損害を賠償する責任を負うおそれがあります。

民法第709条は「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者」が損害を賠償する責任を負うことが規定されています。

歩きスマホによる事故は「過失」によって引き起こされることが多いと思いますが、これによって相手に怪我をさせた場合は「相手の利益を侵害した」とみなされ、損害を賠償する責任が生じえます。つまり、被害者から損害賠償請求を起こされる可能性があるのです。歩行中や自転車の運転中に、他の歩行者にぶつかって怪我をさせた、あるいは死亡させたといったケースでは、数千万円単位の賠償責任が認められた事例もあります。

5、歩きスマホで相手に怪我をさせてしまった! 弁護士に依頼するメリット

歩きスマホで相手に怪我をさせてしまった場合、まずは相手の救護が大切です。焦ってその場を立ち去ってしまったりすると、事故の状況によっては後々さらなる罪に問われる可能性もでてきます。相手の状況を把握するのはもちろん、重症に至らないようにするためにも、まずは救護措置を徹底しましょう。

次に考えるべきは相手への謝罪や賠償です。事故を解決するためには、弁護士への依頼を強くおすすめします。

歩きスマホの被害者となった相手は、怒り心頭になっているケースも多く、本人だけで謝罪をしても相手にしてもらえないおそれがあります。弁護士に依頼し、公平・中立な第三者として弁護士が同伴することで、謝罪を受け入れてもらえる可能性が高まります。

また、病院の診療費、損壊したものの弁済、怪我の治療中における休業補償、事故による精神的苦痛に対する慰謝料などを含めた賠償金を提示することで、示談の成立が期待できるでしょう。
しかし、個人で対応してしまうと事故を起こした負い目から、相手の言いなりになってしまい、高額な慰謝料請求を受けいれてしまうこともあります。弁護士がついていると、適切な範囲内の示談金で交渉が進めやすくなります。

示談が成立すれば、相手に怪我をさせてしまった場合でも刑法による処罰を回避できる可能性が期待できます。スムーズかつ適切な金額での示談成立と、刑罰の回避を目指すためには、早い段階で弁護士に依頼するほうが良いでしょう。

6、まとめ

歩きスマホは、もはや単なるマナー違反の域を越えて、不法行為としての処罰や重い民事責任が科せられる対象となっています。歩きスマホで相手に怪我をさせてしまえば刑罰が科せられるおそれがあるため、真摯(しんし)に謝罪し、示談によって解決するのが良策です。

ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスには、歩きスマホの事故をはじめとする過失によるトラブルの解決実績が豊富な弁護士が在籍しています。
歩きスマホが原因で相手が怪我してしまい、早期に相手との示談を成立させて刑罰を回避したい、多額の慰謝料を請求されているなどお悩みの方は、ぜひベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています