犯罪者の逃走を手助けしたら罪になる? 仙台オフィスの弁護士が解説
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昨今、罪を犯した疑いのある被疑者や、すでに判決を受けて刑に服していた受刑者が逃走する事件が多発しています。仙台市でも平成25年、傷害容疑の取り調べ中だった男が警察署から逃走した事件がありました。
逃走事件では、捜査によって逃走の過程が明らかにされると同時に、中には逃走を手助けした人物の存在が浮かび上がるケースがあります。このような場合、多くの方は「罪を犯した人間の逃走を手助けすることは悪いことだ」と考えるでしょう。
しかし、中には友人や親せきなど、大切な人であればたとえ犯人であってもかばいたいという感情が働く方がいます。逃走を手助けした程度であればそれほど重い罪にはならないだろうと軽く捉えている方もいるかもしれません。
しかし、実は罪を犯した者の逃走を手助けする行為も、れっきとした犯罪なのです。そこで今回は「逃走」にまつわる犯罪を整理して解説していきます。
1、犯人の逃走を手助けすると問われる罪とは
罪を犯した者の逃走を手助けすると、刑法第103条が定める犯人蔵匿罪や犯人隠避罪に問われます。
刑法第103条では「罰金以上の刑にあたる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する」と規定しています。
「罰金以上の罪」は定められている刑罰のうち、重い順から具体的に、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の罪を犯した場合をいいます。
「拘禁」は、法律の手続きにもとづき、国家機関から身体の自由を拘束されている状態のことをいいます。判決が確定して拘束されている者だけでなく、判決が確定せずに警察の留置施設にいる場合や、緊急逮捕されてしまい逮捕状が発せられる前の者なども対象となります。
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(1)犯人蔵匿罪
隠れる場所を提供したりする行為が犯人蔵匿罪にあたります。3年以下の懲役刑か30万円以下の罰金刑が定められています。
犯人は真犯人である必要はなく、犯罪の嫌疑を受けて捜査されている、または裁判を受けている者も含むとされています。つまり、あとに裁判で犯人ではないと分かったとしても罪になるということです。
これは、かくまった者が真犯人でなくても、かくまう行為自体が捜査を妨害する行為であり、刑事司法の迅速かつ確実な執行を保護するために設けられている規定だからです。 -
(2)犯人隠避罪
蔵匿以外の方法で逮捕を免れさせると犯人隠避罪にあたります。犯人隠避罪の刑罰は犯人蔵匿罪と同じですが、犯人蔵匿罪と比較し、幅広い行為が該当しえます。
隠避の方法には、例えば次のようなものが考えられます。- 逃走資金を援助する
- 移動手段を提供する
- 変装のための道具を渡す
- 他の者を犯人に仕立てるなど捜査機関にウソの供述をする
- 自らが身代わりになって自首する
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(3)被拘禁者奪取罪
拘禁された者を奪取した者は刑法第99条により3月以上5年以下の懲役が科されます。実力をもって拘禁されていた者を奪取し、自己、もしくは第三者の支配下におくことが該当します。
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(4)逃走援助罪
拘禁されている者の逃走に手を貸すと、刑法第100条の逃走援助罪として逃走器具、手段を与えた者は3年以下の懲役が、暴行脅迫を加えた者は3月以上5年以下の懲役が科されます。
この罪はあくまでも拘禁中の者の逃走を助けることを禁じたもので、すでに逃走に成功した者を事後的に助けると、逃走援助罪ではなく犯人蔵匿罪や犯人隠避罪になります。
2、こんなケースでも罪に問われる?
では、手助けするつもりはなかったのに、結果的に手助けしてしまった場合も罪に問われてしまうのでしょうか。
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(1)知らずに逃走を手助けした場合
犯人蔵匿罪や犯人隠避罪は故意犯ですので、逃走中の者が罪を犯したことや、拘禁中に逃走していることを知らなかった場合には犯罪が成立しないことがあります。たとえば、見ず知らずの者が路上で困っているのを見かねて善意で手助けし、あとで犯人だと知っても罪に問われないなどです。
なお、「罰金以上の刑」に該当するか否かの認識については、一般に、どの行為をすれば何の罪にあたり、法定刑がどうなるのかまで詳しく知っている方は少ないでしょう。したがって、「何らかの罪を犯した者」という程度の認識があったのなら、故意があったと認定される可能性があります。 -
(2)脅されて逃走を手助けさせられた場合
逃走中の犯人から脅されて結果的に手助けをしてしまった場合は、手助けするほかに選択肢がなかったのであれば罪に問われない可能性があります。罪にあたるとしても、起訴や量刑の判断に際し、考慮されるでしょう。
しかし、処罰を回避するために「脅された」といい逃れしたと認定されてしまう可能性が否定できないため、犯人との関係性、逃走時の状況なども踏まえ、本当に無理やり逃走を手助けさせられたのかは捜査されるでしょう。
3、逃走した本人は何の罪になる?
逃走した本人も、当然罪に問われます。逃走の状況に応じて罪名が変わりますので、順に見ていきましょう。
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(1)単純逃走罪
刑法第97条では「裁判の執行により拘禁された既決または未決の者が逃走したときは、1年以下の懲役に処する」と規定しています。
既決とは、判決が確定して刑務所に収監されている者を指します。未決とは、判決が出ていないために勾留中の者をいいます。 -
(2)加重逃走罪
刑法第98条では「前条に規定する者または勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は2人以上通謀して、逃走したときは、3月以上5年以下の懲役に処する」と規定しています。
こちらは勾留前の被疑者であっても、対象に含みます。「勾引状の執行を受けた者」は、逮捕状によって逮捕された者も含むと解され、また処罰も重いものになっています。
具体的には、拘束具や拘禁場所を破壊して逃げる、看守に対して暴力や脅迫を加えて逃げる、逃走のために2人以上で共謀したなどの行為が加重逃走罪になります。 -
(3)教唆犯
知人などに対して「かくまってほしい」「資金を援助してくれ」と逃走の手助けを頼んだ場合は、刑法第61条により、犯人蔵匿や隠避の教唆犯に問われる可能性もあります。
教唆とは他人をそそのかすという意味で、他人をそそのかして蔵匿や隠避をさせたこと自体が罪に問われるということです。教唆犯は正犯と同じ刑罰が科せられるため、手助けをした人物に犯人蔵匿罪や犯人隠避罪が成立する場合は、依頼した者も同様の罪に問われます。 -
(4)その他起こりうること
罪を犯して逃げたが、単純逃走罪や加重逃走罪には当てはまらない者については、状況に応じて次のようなことが起こります。
●罪を犯したが逮捕前に逃走した場合
罪を犯した者が逃走すると逮捕の必要性が生じます。その場で追跡されて捕まり、現行犯逮捕されるか、証拠をもとに逮捕状が発付され、通常逮捕されます。
●職務質問中に逃走した場合
罪を犯していなくても、職務質問を受けている際に協力せず、警察官を突き飛ばすなどして逃げると公務執行妨害罪が成立し、逮捕されます。やましいことがない場合は、協力するようにしましょう。
●保釈中の者が逃走した場合
保釈されている者は、逃走の罪にはあたりません。ただし、手続き上の制裁として保釈金が没収される、保釈が取り消されるといった可能性があります。
このほか、逃走生活を続けるには食料や現金、衣服などを盗む、雨風をしのぐために他人の家に侵入するなど、新たに別の罪を犯す可能性も高いと考えられます。
4、まとめ
今回は逃走にまつわる罪をテーマに解説しました。
逃走を手助けすることはれっきとした犯罪であり、捜査を妨害し、一般市民を恐怖に陥れ、新たな犯罪を引き起こしかねない行為です。知人だから、以前世話になったからと手助けをしたくなる気持ちは理解できます。しかし、逃走の相談をされてもかくまうことはせず、自主的に出頭することを進めることが最良の方法です。万が一、逃走を手助けしてしまったかもしれないと不安に感じている方がいるのなら、速やかに弁護士へ相談されることをおすすめします。
刑事事件に対応した経験が豊富な弁護士なら、ご自身がとった行為がどのような罪にあたるのかを法的に判断し、状況に応じた適切なアドバイスを行えます。ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスでも、相談をお受けします。まずはご連絡ください。
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