預貯金を遺産相続するときの正しい流れと手続き方法

2022年10月04日
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預貯金を遺産相続するときの正しい流れと手続き方法

仙台国税局が公表している、『令和2年 相続税の申告事績の概要』によると、相続税の申告書が提出された事案のうち、相続財産に全体に占める現金・預貯金等の金額は2369億円であり、全体の約38%を占める割合でした。

ほとんどの方が、金融機関に預貯金口座を開設していると思います。相続が開始したときに相続人が複数いる場合、亡くなった方(被相続人)の預貯金は、原則として相続人の共有財産となるため、遺産分割手続が必要になります。自らが相続人だからといって、被相続人の預貯金を勝手に引き出すと、他の相続人との間でトラブルになるおそれがあるので、預貯金を相続するときの正しい手続き方法を知っておくことが大切です。

今回は、預貯金を遺産相続するときの正しい流れと手続き方法について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、亡くなった方名義の預貯金はどうなる?

預貯金口座の名義人が亡くなった場合、当該預貯金口座はどのようになるのでしょうか。

  1. (1)預貯金口座が凍結される

    預貯金口座の名義人が亡くなった場合、当該預貯金口座は金融機関によって凍結されてしまいます。
    預貯金口座が凍結されるタイミングは、金融機関が預貯金口座の名義人の死亡を知ったタイミングになるので、被相続人が死亡したからといって直ちに預貯金口座が凍結されることはありません
    金融機関が新聞などで口座名義人の死亡を知って、口座を凍結するということもありますが、一般的には相続人が金融機関に被相続人の死亡を伝えた時点で口座の凍結がなされます。

  2. (2)口座凍結により入出金ができなくなる

    預貯金口座が凍結されると、当該預貯金口座からは入金や出金といった取引ができなくなります。また、口座からの引き落としもできなくなるので、電気・ガス・水道といった公共料金を口座引き落としにしている方は、相続開始後に変更手続きが必要になります。

2、預貯金を勝手に引き出すのはNG?

預貯金口座が凍結される前であれば、預貯金を引き出しても良いのでしょうか。

  1. (1)預貯金を勝手に引き出すのはNG

    預貯金口座が凍結される前であれば、預貯金の引き出しをすることは可能です。しかし、トラブルを避けるためには、被相続人死亡後の預貯金の引き出しは避けるべきだといえるでしょう。

    ① 相続人同士でトラブルが生じるリスクがある
    被相続人名義の預貯金は、相続財産に含まれるので、基本的には相続人全員による遺産分割協議によって、誰がどの程度の預貯金を相続するのかを決める必要があります。
    遺産分割協議が成立する前に相続財産である預貯金を引き出してしまうと、事情を知らない他の相続人からは、相続財産の使い込みを疑われてしまうおそれがあります。

    葬儀費用などで預貯金を引き出す必要があるという場合には、後述する預貯金の仮払制度などを利用すると良いでしょう。

    ② 相続放棄などの手続きができなくなるリスクがある
    被相続人に多額の借金があることが判明した場合には、相続放棄や限定承認といった手続きを検討することになります。

    しかし、被相続人の預貯金を勝手に引き出してそれを使ってしまうと、法定単純承認事由である『相続財産の全部、または一部の処分』(民法921条1号)にあたるので、相続放棄や限定承認をすることができなくなってしまいます。
    多額の借金を背負わなければならないリスクが生じるので、勝手に預貯金を引き出すのは避けるべきでしょう。

  2. (2)相続開始後に預貯金を引き出す方法

    相続開始後に預貯金を引き出すには、いくつかの方法があります。

    ① 遺産分割協議
    被相続人の遺産である預貯金は、相続人の遺産分割協議によって分けることができます。遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書を作成し、その他必要書類とともに金融機関の窓口に提出して手続きを行うことで、預金の払戻しを受けることができます。

    なお、遺言書がある場合は、基本的には遺産分割協議を行う必要はありません。遺言書と必要書類を用意したうえで手続きを行えば、払戻しを受けることができます。

    ② 預貯金の仮払制度(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
    預貯金の仮払制度とは、遺産分割協議が成立する前であっても、一定額については法定相続人が単独で預貯金の引き出しをすることができるという制度です。次にご説明する『③預貯金債権の仮分割の仮処分』と異なり、引き出した金銭の使途は問われません。

    預貯金の仮払制度では、引き出すことができる金額に上限が設けられており、次の金額のうち、いずれか低い方の金額が上限となります。

    • 死亡時の預貯金残高×払戻しを求める相続人の法定相続分×1/3
    • 150万円


    ③ 預貯金債権の仮分割の仮処分
    預貯金の仮払制度では、預貯金口座から引き出すことができる金額に上限が設けられているので、使途によっては金額が足りないということもあります。そのような場合は、「預貯金債権の仮分割の仮処分」を利用することを検討できます。

    「預貯金債権の仮分割の仮処分」は、家庭裁判所の審判によって遺産分割前に預貯金を引き出す制度です。預貯金の仮払制度とは異なり、引き出し金額の上限は設けられていませんが、預貯金を行使する必要性が要求されるとともに、裁判所が関与するために実際に引き出せるまで一定の時間がかかります。

3、預貯金を相続する流れと手順

預貯金を引き出す方法がわかったところで、相続するための具体的な流れ・手順を確認していきます。

  1. (1)相続人調査

    被相続人が亡くなった時点で、誰が相続人にあたるのかを把握するために、相続人調査を実施します。

    相続人調査は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、改製原戸籍謄本、除籍謄本を取得して行います。また、誰が相続人になることができるのかについては、民法において次のように規定されています(民法887条1項、889条1項、890条)。

    配偶者については、常に相続人になることができ、配偶者以外は次の順番で相続人になります。

    第1順位|子ども
    第2順位|父、母
    第3順位|兄弟姉妹


    子どもや兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合には、代襲相続によって、被相続人の孫やおい・めいが相続人になります(民法887条2項3項、889条2項)。

  2. (2)相続財産調査

    次に、遺産分割の対象となる相続財産の調査を行います。

    被相続人の預貯金については、各金融機関の窓口で残高証明書を取得することによって、相続開始時の預貯金残高を把握することができます
    複数の口座に分散して預金しているケースや、家族が知らない口座がある可能性もあるため、通帳やキャッシュカードがないかをしっかりと確認することが大切です。特に、近年はネットバンキングも増えているので、故人のパソコンなども確認したほうが良いでしょう。

  3. (3)遺産分割協議

    被相続人が遺言書を作成することなく亡くなった場合、被相続人の遺産は、相続人全員の協議で相続分を決める「遺産分割協議」によって、財産を分けることになります。相続人には、法定相続分がありますので、基本的には法定相続分に従って遺産を分けていくことになりますが、相続人全員の同意があれば、それとは異なる遺産分割も可能です。

    遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書を作成し、各相続人の印鑑証明書を添付します。

  4. (4)預貯金の払戻手続き

    遺産分割協議成立後、金融機関の窓口に行き、被相続人名義の預貯金口座の払戻手続きを行います。手続きにあたっては、次の書類の提出を求められるのが一般的です。

    • 預貯金名義変更依頼書
    • 遺産分割協議書
    • 相続人全員の印鑑証明書
    • 通帳、キャッシュカード
    • 被相続人の戸籍謄本、改製原戸籍謄本、除籍謄本
    • 相続人全員の戸籍謄本
    など


    金融機関によっては、別の書類提出を求められることもあるため、必ず、該当の金融機関に確認したうえで、手続きを行うようにしてください

4、遺産分割協議でもめた場合の対処法

関係性が良好な間柄であっても、相続がきっかけとなりトラブルになることは残念ながらあり得ます。特に、遺言書がなく相続人で遺産分割協議を行う場合は、トラブルに発展しやすいでしょう。では、もめてしまった場合、どのように対処するべきなのでしょうか。

  1. (1)遺産分割協議でもめるケース

    遺産分割協議でもめるケースはさまざまですが、相続人同士の利害が対立することによってトラブルに発展することが多いでしょう。

    ① 相続人の数が多い
    相続人の数が多くなればなるほど、利害の対立が生じやすくなるので、遺産分割協議でもめる可能性も高くなります。
    特に、疎遠になっている親族がいる、愛人や隠し子がいたなど、感情的なわだかまりが生じやすいケースでは、もめるおそれが高くなります。

    ② 相続財産に不動産が含まれている
    相続財産が預貯金だけであれば、法定相続分で分ければ良いので、そこまでもめることはないかもしれません。しかし、相続財産に不動産が含まれている場合には、物理的に分割することができないため、相続方法をめぐってトラブルになるケースが見受けられます。

    ③ 特別受益や寄与分がある
    被相続人から生前贈与を受けていた相続人がいた場合や、被相続人の財産の維持・増加について特別な貢献をした相続人がいた場合などには、「特別受益の持戻し」や「寄与分」を考慮して、各相続人の具体的相続分の修正を行う必要があります。

    特別受益・寄与分の内容や程度について、相続人同士の合意が得られない場合には、遺産分割協議では解決することができず、調停や審判にまで発展することもあります。

    参考|法定相続人ではない嫁は寄与分の権利者になれる? 仙台オフィスの弁護士が解説
    参考|相続分と特別受益・寄与分について

  2. (2)弁護士に依頼するメリット

    当事者同士にわだかまりがあると、感情的になってしまうこともあるでしょう。身内だからこそ、こじれてしまうと修復が難しく、話し合うことすらできなくなることも少なくありません。

    遺産分割協議でもめてしまった場合は、弁護士に相続手続きを依頼することをおすすめします。
    弁護士は、代理人として遺産分割協議に参加することが可能です。法律の専門家としての立場から、冷静に話し合いを進めることができます。また、法的観点から適切な解決方法を提案することによって、当事者同士では解決することが難しい問題でも、解決の糸口をみつけやすくなるでしょう。

    遺産分割協議だけではなく、相続手続きの一切を任せることができるので、遺産相続に関するストレスや負担を大幅に軽減できるも、大きなメリットといえます。

5、まとめ

預貯金は遺産分割の対象となるので、勝手に引き出すのは避けるべきでしょう。どうしても遺産分割前に預貯金を引き出さなさなければならないという事情がある場合には、預貯金の仮払制度などを利用することによって、預貯金の引き出しことを検討してください。

また、相続財産の内容・種類によっては、遺産分割協議でもめてしまい、解決まで長期化するおそれもあります。スムーズに相続を終わらせるためには、早い段階で弁護士に相談をすることをおすすめします。

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