妻が亡くなった場合の相続人は? 相続税や手続きにおける注意点
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仙台国税局が公表している『令和2年分 相続税の申告事績の概要』によると、仙台国税局管内の被相続人の数(死亡者数)は、令和2年については11万4983人であり、納税対象となった相続人は1万1082人でした。
婚姻している夫婦では、一方の配偶者が死亡した場合、他方の配偶者が遺産を相続することができます。しかし、他にどのような相続人がいるかによって、配偶者が相続することができる法定相続分は異なってきます。また、子どもがいる場合には、二次相続も含めて遺産の分割方法を考えていく必要があるでしょう。
本コラムでは、妻が先に亡くなった場合の相続手続や相続税について、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。
1、妻が亡くなったときの法定相続人
妻が先に亡くなった場合には、誰が法定相続人になるのでしょうか。子どもがいるケース、子どもがいないケースで、法定相続人は変わるため、それぞれ分けて説明します。
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(1)子どもがいるケース
被相続人の配偶者は、常に相続人になります。 “常に相続人になる”とは、他に相続人がいたとしても、必ず相続人になることができるという意味です。
つまり、妻が亡くなった場合、子どもの有無にかかわらず夫は必ず相続人になります。
亡くなった妻との間に子どもがいる場合、子どもは相続人になります。子どもの相続順位は、配偶者を除くと第1順位になり、法定相続分は次のように定められています。
配偶者 法定相続分2分の1 子ども 法定相続分2分の1
子どもが複数いる場合には、子どもに割り振られた2分の1の法定相続分を子どもの人数に応じて案分することになります。たとえば、子どもが2人いる場合には、それぞれ4分の1ずつが法定相続分になります。
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(2)子どもがいないケース
前述したように、夫は常に相続人となります。しかし、亡くなった妻との間に子どもがいない場合であっても、夫がすべての財産を相続できるわけではありません。
民法では、財産を相続できる法定相続人として、配偶者と子ども以外に「父母」「兄弟姉妹」が規定されています。
① 妻の父母や祖父母が健在の場合
死亡した妻の父母が健在の場合、その父母は第2順位の法定相続人となります。
つまり、子どもがおらず、妻の父母が健在の場合、配偶者とともに相続人になるのは、妻の父母ということになります。
法定相続分は次のようになります。
配偶者 法定相続分3分の2 妻の父母 法定相続分3分の1
妻の父母が双方とも健在の場合には、父母に割り振られた3分の1の法定相続分を父母で案分することになるので、父母それぞれの法定相続分は6分の1ずつとなります。
なお、父母が他界しており、祖父母が存命の場合、祖父母がそれぞれ相続人となります。
② 妻の父母や祖父母が他界しており、妻に兄弟姉妹がいる場合
兄弟姉妹は、第3順位の法定相続人です。
そのため、子どもがおらず、妻の父母や祖父母が他界しており、妻に兄弟姉妹がいる場合には、配偶者とその兄弟姉妹が相続人となります。
法定相続分は次のようになります。
配偶者 法定相続分4分の3 兄弟姉妹 法定相続分4分の1
兄弟姉妹が複数いる場合には、兄弟姉妹に割り振られた4分の1の法定相続分を子どもの人数に応じて案分することになります。たとえば、兄弟姉妹が2人いる場合には、それぞれ8分の1ずつが法定相続分になります。
2、相続の対象になり得る財産
妻が死亡した場合に相続の対象になり得る財産(この財産を相続財産といいます)について、確認していきましょう。
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(1)現金(預貯金)、有価証券
妻名義の預貯金や有価証券がある場合には、相続財産として、遺産分割の対象になります。
なお、名義人である妻が死亡したことを金融機関が把握すると、その金融機関の口座は凍結されて使えなくなります。預貯金の払い戻しを受けるためには、遺産分割協議などによって相続人全員の合意があることが必要です。 -
(2)不動産
自宅が妻名義であった場合には、自宅も相続財産として遺産分割の対象になります。また、自宅が夫と妻の共有名義であった場合は、妻の共有持分が遺産分割の対象になります。
相続開始と同時に相続財産は、相続人全員の共有状態となります。共有状態の不動産は、不動産の売却などをする際に、すべての共有者の同意が必要になるなど利用・処分が非常に煩雑となります。
特に、妻の父母や兄弟姉妹と共有することになると、後々トラブルになる可能性もあります。そのため、夫と妻の共有不動産がある場合は、遺産分割協議によって夫が妻の持ち分を取得するのが望ましいでしょう。 -
(3)車、家財、宝石、貴金属
車、家財、宝石、貴金属などの動産についても相続財産として遺産分割の対象になります。
車については登録制度があるので、誰の名義であるかはわかりやすいですが、家財、宝石、貴金属などは妻の遺産であるのかが客観的に明らかとはいえません。
このような動産については、相続人全員で遺産に含まれるかどうかを確認しながら遺産分割協議を進めていくことになります。
なお、それほど高額ではないものについては「動産一式」として、特定の相続人が一括で取得するのが一般的です。 -
(4)負債
妻名義の負債がある場合には、それも相続財産として遺産分割の対象になります。負債の有無は、相続放棄をするかどうかを判断する上で非常に重要となりますので、十分な調査を行うようにしましょう。
3、夫が全財産を相続することは可能?
妻が死亡した場合に、妻の遺産を夫がすべて相続することは可能なのでしょうか。
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(1)遺言がある場合
遺言書がある場合には、遺産分割協議よりも遺言書が優先されるので、遺言書の内容に従って遺産を分けることになります。そのため、妻が生前に『すべての遺産を夫が相続する』という内容の遺言書を残していた場合には、夫が妻の遺産のすべてを相続することが可能です。
ただし、兄弟姉妹を除く相続人には、最低限の遺産を取得することが保障されています。これを「遺留分」といいます。
つまり、すべての遺産を夫が取得するという内容の遺言は、他の相続人の遺留分を侵害することになるため、遺留分を侵害された相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。請求を受けた場合、遺留分に相当する金銭等を支払わなければいけません。 -
(2)遺産分割協議で合意した場合
被相続人の遺言書がない場合、被相続人の遺産は相続人全員による遺産分割協議によって分割方法を決めることになります。その際には、法定相続分に従って遺産を分割するのが基本になります。
しかし、相続人全員の合意があれば、法定相続分に従わない遺産分割も可能です。そのため、配偶者がすべての遺産を取得するという分割方法に相続人全員が合意をすれば、夫が妻の遺産をすべて相続することができます。 -
(3)夫以外に相続人がいない場合
夫以外に相続人がいない場合には、夫が妻の遺産をすべて相続することになります。
当初から他の相続人が存在していない場合の他、相続放棄などによって相続人がいなくなった場合も含みます。
4、夫婦間の相続における相続税の考え方
夫婦間の相続は、残された側の生活に大きな影響を与えます。そのため、相続税法上、さまざまな制度が設けられています。
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(1)相続税の配偶者控除とは
相続税の配偶者控除とは、次のケースに該当する場合、相続税が発生しないという制度です。
【相続税が発生しないケース】
- 配偶者が相続等により取得した財産の額が1億6000万円までの場合
- 配偶者の法定相続分相当額を相続した場合
相続税の配偶者控除は、配偶者の老後の生活保障、財産形成に対する貢献への配慮、次の相続までの期間が短いなどの理由からこのような特別の軽減措置が認められています。
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(2)相続税の配偶者控除を利用するための要件
ただし、相続税の配偶者控除を利用するためには、次の要件を満たす必要があります。
① 戸籍上の配偶者であること
相続税の配偶者控除を利用するためには、被相続人との関係が戸籍上の配偶者であることが必要です。戸籍上の配偶者であればよく、婚姻期間は問われませんので、婚姻期間が1日であってもこの制度を利用することができます。
反対に、夫婦同然の生活をおくっていたとしても、婚姻届を提出しておらず内縁の関係だった場合、この制度は利用できません。
② 相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること
原則として、対象となるのは相続税の申告期限までに分割されている財産です。
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければいけないので、申告期限までに遺産分割が完了していることが必要です。
③ 相続税の申告書を提出すること
相続税の配偶者控除を受けるためには、相続税の申告書などを税務署に提出する必要があります。相続税の配偶者控除によって相続税額が0円になるという場合でも、必ず申告書を提出しなければなりませんので、忘れずに手続きを行うようにしましょう。
5、考えておきたい二次相続
妻が死亡して遺産を相続する場合には、二次相続についても考慮した遺産分割にすることが望ましいといえます。
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(1)二次相続とは
二次相続とは、一次相続の際に相続人だった人が亡くなったときに発生する、2回目の相続のことをいいます。
たとえば、妻、夫、子どもがいるケースで、妻が死亡した場合には、夫と子どもが相続人になります。これが一次相続です。その後、夫が死亡した場合に子どもが相続人になるのが、二次相続です。 -
(2)二次相続対策が必要な理由
一次相続の際に相続税の負担を抑える遺産分割をしたとしても、二次相続の際に相続税の負担が大きくなってしまうこともあります。そのため、一次相続の時点で次のような点も考慮することが大切です。
① 二次相続では相続税の配偶者控除が使えない
相続税の配偶者控除を利用することによって、相続税の負担を回避することができるので、一次相続では、大部分の遺産を配偶者に相続させてしまうことがあります。
しかし、二次相続では、一次相続によって配偶者が相続した遺産も含めたすべての財産を、子どもが相続することになります。子どもには、配偶者控除のような税額の軽減制度はないので、高額な相続税を納める必要が生じることも考えられるでしょう。
② 二次相続では基礎控除額が減少する
相続税の基礎控除は、次の計算式によって計算できます。
3000万円+600万円×相続人の数
一次相続と二次相続を比べると、二次相続の方が相続人の数は減るので、それに応じて基礎控除の金額も少なくなります。相続税は、基礎控除額を超える部分について課税されることになるので、基礎控除額が減少すれば、それに応じて相続税の金額も増えることになります。
③ 二次相続では1人あたりの相続財産が増えるため税額も多くなる
相続税は、取得する金額が多くなるほど税率があがる「累進課税制度」が採用されています。そのため、相続等により取得する相続人1人あたりの財産が増えれば、累進税率によって高い税率が適用されることになります。
6、まとめ
妻が死亡した場合には、夫の他に誰が相続人になるかによって、夫が相続できる財産割合は変わります。そのため、相続対策を考える場合には、相続関係をしっかりと押さえることが大切です。
また、子どもがいない夫婦の場合、妻が亡くなった際、妻の親族と遺産分割について話し合う必要が生じます。その点も考慮して、生前に相続対策を講じておくことが望ましいでしょう。
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