【後編】内縁の妻に相続権はあるのか? 相続でもめないためにやるべきこととは

2019年04月23日
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【後編】内縁の妻に相続権はあるのか? 相続でもめないためにやるべきこととは

前編で述べたとおり、民法上では内縁という言葉は登場しません。しかし、過去の判例を顧みると、婚姻に関する諸規定の多くが内縁関係でも適用されることになります。実際に仙台市のホームページを確認すると、各種手当や市営住宅の入居募集などで、内縁関係であっても実際に婚姻届を提出した夫婦と同様の支援を得られるケースが多いようです。しかし、相続の場においてはこの限りではありません。

そこで前編では、「内縁の妻」が相続にあたって受けられる権利を中心に解説しました。後半は、引き続き仙台オフィスの弁護士が、内縁の妻が遺産や遺族年金を受けられる条件や手続きなどについて解説します。

3、内縁の妻が遺産を受け取るための方策

内縁の妻は、法定相続人に該当しませんが、下記の方法で条件がそろったときには遺産の一部を受け取れる可能性があります。

  1. (1)婚姻届を提出する

    財産の相続を可能にさせるもっとも確実な方法は、婚姻届を提出して配偶者となることです。ただし、内縁の夫がすでに死亡しているときなどは婚姻の手続きはできません。

  2. (2)遺言書に記載する

    内縁の妻が、内縁の夫の遺産を相続するには、内縁の夫が遺言書で内縁の妻を受遺者として指定しておくという方法があります。
    公証人や弁護士などによって正しく作成された遺言書であれば、法定相続人以外の第三者でも受遺者として財産の相続が可能となることがあります。
    ただし、遺言書で記載する金額については、兄弟姉妹以外の法定相続人に対して一定の額を認める「遺留分」(民法第1028条)には注意しましょう。
    遺言書の形式には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」などがありますが、書式に厳密な規定があります。そのため、確実な相続のためには、弁護士などに依頼して作成するとよいでしょう。

    なお法定相続人は、民法において以下のように定められています。

    • 配偶者……常に相続する(民法第890条)
    • 第1順位……子および代襲相続人(孫・ひ孫)(民法第887条)
    • 第2順位……両親などの直系尊属(民法第889条)
    • 第3順位……兄弟姉妹および代襲相続人(姪・甥)(民法第889条)
  3. (3)特別縁故者の申し立てをする

    内縁の夫が死亡して法定相続人がいないときには、遺産は国庫に入ることになります。しかし、内縁の妻が「特別縁故者(とくべつえんこしゃ)」であると認められた場合は、遺産を受け取ることができます。

    特別縁故者は、以下のような人物が該当します。(民法第958条の3)。

    • 生計を共にしてきた人(内縁の妻、内縁の夫、事実上の養子)
    • 仕事以外で介護や看護などにあたった人
    • 信頼関係が強く、特別な縁故があった人


    ただし、特別縁故者の申し立ては、一定の期間内に、特別縁故者自身が家庭裁判所にて手続きを行う必要があります。また特別縁故者となって遺産相続を受けたときには相続税の支払義務が生じるなどの注意点があります。

  4. (4)生前に財産を譲渡する

    相続ではないものの、生前に贈与で、生きている間に財産を内縁の妻に譲れば、財産を渡すことができます。原則として年間110万円以内の金額に収まる財産の贈与であれば贈与税は課税されません。

  5. (5)死因贈与で財産を譲渡する

    内縁の夫が死亡した際、死因贈与(民法第554条)で内縁の妻に財産を譲渡する方法もあります。法的に定められた形式はありません。ただし、税金面は注意が必要です。

    また、死因贈与は贈与者と受贈者の契約です。書面でなされている場合、原則的に放棄することができません。税金面も含め、受贈者側も十分納得した上で契約を結ぶ必要があります。契約の取りやめやなどをしたい場合は、生前であれば、原則的に贈与者によって撤回することができます。ただし、一定の負担と引き換えに財産を譲る負担付死因贈与の場合は、撤回ができない段階に至っていると判断されるケースがあるので注意が必要です。

    また、生前贈与、死因贈与ともに、不動産など高額の財産を贈与する際は、本来の法定相続人が受け取れる分も、内縁の妻に渡ってしまう可能性があります。その場合は、後に法定相続人から「遺留分減殺請求」として内縁の妻に請求される可能性があります(民法第1031条)。

4、内縁の妻が遺族年金を受け取るためには

財産の他、条件がそろえば内縁の妻が、厚生年金または国民年金からの遺族年金を受け取れる可能性もあります。最後に、遺族年金と内縁の妻による受け取りについて説明します。

  1. (1)厚生年金法および国民年金法では、内縁の妻も受給対象者になりうる

    厚生年金保険法および国民年金法において、受給者として、婚姻の届け出をしていなくても事実上の婚姻関係と同様の事情にある者も要件を満たせば含むとされています。

  2. (2)遺族年金を受け取る流れ

    厚生年金法や国民年金法は、遺族年金を受け取れる者として、被保険者によって生計を維持したことを求めており、婚姻届を出していない内縁の妻でも、このような条件などを満たせば、遺族年金を受け取れる可能性があります。

    内縁の妻が遺族年金を受け取るためには、年金手帳や戸籍謄本など各種書類の他、内縁の関係であることを証明する資料などを提出する必要があります。
    内縁の関係を証明するものとして、健康保険被保険者証や給与明細のコピーなどをそろえ、年金事務所などに提出して手続きを行います。

5、まとめ

内縁の関係でも、事実上の配偶者と認められるケースがあり、条件によっては遺産や遺族年金を受け取ることができる可能性があります。

自分や親族に内縁の妻がいる場合は、相続でのトラブルを避けるために、相応の準備をする必要があるでしょう。近年は家族関係が多様化しており、介護負担なども含めると、内縁関係が長期であればあるほど、法律上で認められる権利と、ここまで共に担ってきた生活上の負担がかけ離れ、納得のいかない事態となってしまうかもしれません。

お金が関わる問題は感情的にこじれてしまうと、当事者同士では解決が非常に難しくなるケースもあります。相続や年金の手続き、遺言書作成には、弁護士の知見が助けになります。ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士にご相談ください。納得できる相続となるよう、尽力します。
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ご注意ください

「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。

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