遺産分割協議書は必要? 不要なケースもある? 相続の流れを解説

2022年02月28日
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遺産分割協議書は必要? 不要なケースもある? 相続の流れを解説

仙台国税局が公表している『令和2年分における相続税の申告事績の概要』によると、令和2年における被相続人の数(死亡者数)は11万4983人でした。そのうち、相続税の申告書の提出に関する被相続人の数は5117人でしたので、大部分の相続では相続税の申告書の提出が不要なケースであることがわかります。

被相続人が死亡して相続が開始した場合、相続人で話し合いをして被相続人の遺産を分割することになります。遺産分割協議が成立すると、遺産分割協議書を作成するのが一般的ですが、すべてのケースで遺産分割協議書が必要になるのでしょうか。また、遺産分割協議書はどのように作成すればよいのでしょうか。

今回は、遺産分割協議書が必要なケース・不要なケースと、遺産分割協議書の作成の流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスの弁護士が解説します。

1、遺産分割協議書が必要になるケース

まずは、遺産分割協議書が必要になるケースについて、確認していきましょう。

  1. (1)遺産に不動産が含まれている場合

    遺産に不動産が含まれている場合には、遺産分割協議によって誰が不動産を取得するのかを決めることになります。特定の相続人が遺産である不動産を取得することになった場合には、不動産の名義を被相続人から当該相続人に変更する必要があります。このような不動産の名義変更のことを「相続登記」といいます。

    相続登記をする際には、登記原因を証明する情報を提供することが求められるので、法定相続分とは異なる持分割合で不動産の相続登記を行う場合には、遺産分割協議書を提出しなければなりません

  2. (2)相続税の申告が必要になる場合

    遺産の総額が相続税の基礎控除額を上回る場合には、相続税の申告が必要となります。

    相続税の申告が必要なケースであっても、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」などの適用を受けることはできます。
    しかし、このような特例の適用を受けるためには、相続税の申告の際に遺産分割協議書の提出が必要となります。相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月とされていますので、期限までに遺産分割協議を成立させて、遺産分割協議書を作成することが必要です。

  3. (3)将来のトラブルを防止したい場合

    遺産分割協議自体は、口頭でも成立するので、遺産分割協議書の作成は必須というわけではありません。しかし、法定相続分以外の割合で遺産の分割をしたり、複雑な分割方法を選択したりした場合には、その内容をめぐって将来相続人同士でトラブルが生じる可能性があります。
    このようなトラブルを防止するために、遺産分割協議書の作成が有効な手段となります。前述したようなケース以外であっても、遺産分割の内容を客観的に残しておくために遺産分割協議書を作成することをおすすめします。

2、遺産分割協議書が不要なケース

前述したように、基本的には、遺産分割協議書は作成しておくことが望ましいですが、次のようなケースでは遺産分割協議書がなくてもよいとされています。

  1. (1)相続人が1人しかいない場合

    相続人が1人しかいない場合には、当該相続人がすべての遺産を取得することになるので、遺産分割協議書を作成する必要はありません。他の相続人が相続放棄をするなどして、相続人が1人となった場合も、同様に遺産分割協議書の作成は不要です。

  2. (2)遺言書が存在する場合

    被相続人が生前に遺言書を残していた場合には、基本的には相続人による遺産分割協議よりも遺言書が優先されるので、遺産分割協議書の作成は不要です。相続手続きを行う際には、遺言書を提出することによって、相続登記や預貯金の払い戻しを行うことができます。

    ただし、遺言書ですべての遺産を網羅しておらず、遺産に漏れがあるという場合には、漏れていた遺産を対象として遺産分割協議を行う必要があります。そのため、このような場合には遺産分割協議書の作成が必要となります。

  3. (3)不動産を法定相続分どおりに相続する場合

    遺産に不動産が含まれる場合には、相続登記の際に遺産分割協議書の提出が必要になるのは、前述したとおりです。ただし、不動産を法定相続分どおりに相続する場合には、例外的に遺産分割協議書の提出は不要となります。

    もっとも、不動産は物理的に分割することができないことがほとんどなので、法定相続分どおりに相続しようとすると、ひとつの不動産を複数人で共有することになります。不動産を共有状態にすることは将来トラブルになるリスクが高くなりますので、できる限り単独所有の形態にすることをおすすめします

  4. (4)遺産が現金・預貯金のみの場合

    遺産が現金・預貯金のみの場合には、遺産分割協議書がなくても相続手続きを進めることが可能なため、遺産分割協議書の作成は不要となります。
    たとえば、現金であれば、相続人同士で話し合った内容でそのまま分けることができ、預貯金の場合には、金融機関が指定する用紙に相続人全員が必要事項を記入することによって払い戻しを受けることができます。
    ただし、法定相続分とは異なる割合で現金や預貯金を分けた場合には、後日その配分で揉めることもありますので、遺産分割協議書を作成しておくことをおすすめします。

3、遺産分割協議書が必要な場合|作成の流れ

遺産分割協議書の作成が必要な場合、どのような流れで作成することになるのかを確認していきます。

  1. (1)遺言書の有無を調査

    遺言書がある場合には、遺産分割協議書の作成は不要になるのは前述したとおりです。そのため、まずは被相続人が遺言書を作成しているかを調査します。

    被相続人が自筆証書遺言を作成している場合には、ご自宅以外に法務局で保管していることがあるので、確認しておくとよいでしょう。また、被相続人が公正証書遺言を作成している場合には、公証役場で保管されているので、公証役場に問い合わせることになります。

  2. (2)相続人の調査

    遺言書がない場合には、遺産分割協議が必要になります。

    遺産分割協議を有効に成立させるためには、相続人全員が遺産分割に合意をしている必要があります。相続人のうち1人でも欠いていた場合には、遺産分割協議を成立させたとしても無効になってしまうので、まずは誰が相続人になるのかを確認するために、相続人調査を行います。
    相続人調査は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本を取得したうえで、民法の法定相続人の範囲および順位に従って、相続人を確定していきます。

  3. (3)相続財産調査

    遺産分割協議では、被相続人の遺産を対象として、その分割方法を決めることになります。そのため、遺産分割の前提として、どのような遺産が存在するかを調査する必要があります。相続財産には、現金・預貯金、不動産、有価証券といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。
    相続財産調査に漏れがあった場合には、再度、遺産分割協議を行わなければならない場合もあるので、しっかりと調査するようにしましょう。

  4. (4)遺産分割協議

    相続人と相続財産が確定した段階で、遺産分割協議を行います。
    遺産分割協議は、相続人全員が一堂に会して話し合いをする必要はなく、最終的な遺産分割協議の内容に相続人全員が合意をすれば足ります。そのため、相続人が遠方に居住している場合や、高齢であるなどの理由で相続人全員が一堂に会して話し合いをすることが難しいという事情がある場合には、電話や書面で遺産分割内容を決めたうえで、遺産分割協議書を郵送し、順番に署名押印するという方法でも作成することができます

    なお、遺産分割協議書に押印する印鑑については、法律上の決まりはありませんが、預貯金の払い戻しなどの相続手続きの場面では、実印と印鑑証明書が要求されますので、遺産分割協議書にも実印で押印しておくとよいでしょう。

4、遺産分割協議でトラブルになった場合の対処法

遺産分割協議でトラブルになった場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)弁護士が遺産分割協議に参加して話し合いをまとめてくれる

    当事者同士の話し合いでは、お互いに有利な条件で遺産分割協議を成立させようとするあまり、感情的な対立が生じてしまうことも少なくありません。また、遺産分割に関する知識がない方だと、他の相続人から提示された遺産分割案が有利なものか不利なものか判断することができずに、不利な条件で合意してしまう可能性もあります。

    その点、弁護士であれば、相続人の代理人として遺産分割協議に参加し、適切な遺産分割方法を提案するなど、スムーズに話し合いがまとまるように調整することができます。もちろん、他の相続人から提示された遺産分割案が適切なものであるかを判断することもできるので、不利な条件で合意をしてしまうというリスクを回避することができます。

  2. (2)将来のトラブルを防止するための遺産分割協議書の作成が可能

    遺産分割協議が成立した場合には、ほとんどのケースで遺産分割協議書の作成を行います。しかし、単に遺産分割協議書という書面を作成すればよいというわけでなく、その内容については十分な配慮が必要となります。
    弁護士であれば、将来予想されるトラブルについても対応できるような内容で遺産分割協議書を作成することができるので安心です。

5、まとめ

相続人が1人しかいないというケースや遺言書が存在するというケースを除いては、基本的には遺産分割協議書を作成することをおすすめします。遺産分割協議書を作成することによって、相続手続きがスムーズに進むのはもちろんのこと、将来のトラブルを防止することができます。
遺産分割協議書の作成にあたっては、遺言書の調査、相続人調査、相続財産調査など煩雑な手続きを踏む必要がありますので、不慣れな方や手続きに不安がある方は弁護士に相談をすることをご検討ください。

遺産分割に関するご相談や相続に関するお悩みを抱えている場合は、ベリーベスト法律事務所 仙台オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています